RADWIMPS×きのこ帝国 ひとりひとりと向き合い鳴らされた音と表された決意
RADWIMPS
『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』 2015.11.5 Zepp Tokyo
メジャーデビュー10周年を記念した『RADWIMPSの胎盤』ツアー、その緒戦であるZepp Tokyo2デイズの2日目は、きのこ帝国を迎えて開催された。当日は、2階のスタンディングゾーンまで開放しての超満員。RADWIMPSにとって初となる対バンであり、アニヴァーサリーなツアーとあって、を手にする幸運に恵まれたオーディエンスも、開演を今か今かと待ちわびていた。
熱気が充満するフロアに、きのこ帝国が姿を現したのは定刻通りの19時。1曲目は、11月11日にリリースされたばかりのメジャー1stアルバム、そのタイトルチューンである「猫とアレルギー」だ。鍵盤の優しげなメロディに乗せて、佐藤千亜妃(Vo/G)の歌声が響き渡ると、それまでざわつき、メンバーの名をコールしていたオーディエンスたちが静まり返る。ほんの一瞬で、空気を自分たちの温度と色彩に塗り変えてしまった。「こんばんは。きのこ帝国です」と短く挨拶し、続けざまに「海と花束」を披露。あーちゃん(G)が奏でるシューゲイジングなサウンドに、谷口滋昭(B)と西村“コン”(Dr)のタイトなリズムセクションが寄り添い、めくるめくアンサンブルを構築していく。
きのこ帝国
そのまま「クロノスタシス」や「風化する教室」など、1曲ごとに丁寧に、色とりどりの風景を描き出しながらライブは進む。「Zeppは初めての場所です。今回はRADWIMPSさんにお呼びいただいて感謝しています」と、短いMCを挟んでの「東京」では、ノイジーなギターを軸にしたザラついた轟音が、胸を掻き毟る焦燥的感傷を鮮やかに増幅させる。圧巻のパフォーマンスだ。
佐藤がギターを置き、マイクスタンドを前に凛と歌った「スピカ」、そしてその情景に聞き入るオーディエンスの姿を見て、「きのこ帝国のライブは、どこまでも“1対1”だ」と強く感じた。客席との一体感、連帯感を武器にし、ダンスさせるような種類のロックとはどこか違う。一人ひとりが、ステージ上の4人と真っ直ぐに向き合っているのだ。そういう吸引力を持ち、しかもそれで真っ向勝負できるバンドは、決して多くはない。
「RADWIMPSにはちょっと複雑な思いでありまして……昔、お付き合いしていた方がRADWIMPSを好きでよく聴いていたので、ちょっとだけ苦い思い出なんです(笑)」という佐藤のゆるいMCに、客席から笑いが起きる。「意味深な言い方だなと思ったら本当に意味深な話だった(笑)」とあーちゃんに突っ込まれつつなだれ込んだラストの曲は「明日にはすべてが終わるとして」。ミラーボールが星屑のような光をフロアに散りばめる中、どこまでも伸びやかに音楽を届け、1時間弱のステージは幕を下ろしたのだった。
きのこ帝国
転換を挟んでは、いよいよRADWIMPSの登場だ。
宣戦布告の1曲目は「DADA」! ステージを縦横無尽に駆けながらオーディエンスをアジテートする野田洋次郎(Vo/G)のステージングに、オープニングからいきなりクライマックスのような熱狂がフロアを支配する。アクセルを踏み込んでから最高速に到達するまでのウェイトタイムがまったくない。続く「ギミギミック」ではジャンクかつファンキーなサウンドで攻め立て、「DARMA GRAND PRIX」では、乱舞するイエローのライトの中、サポートとして参加した刄田綴色(Dr)と森瑞希(Dr)がトライバルなドラミングでオーディエンスを揺らしに揺らす。シンプルに、とにかく爽快だ。
「今日はお前らの体力を根こそぎ全部奪って帰るからな!」と桑原彰(G)が宣言し、ハンドクラップが軽快に鳴り響いた「05410-(ん)」、そこから一転して叙情的なエモーションを突き刺した「遠恋」、ステージ前方で野田がキーボード操りながらの「アイアンバイブル」と、緩急の効いたライブ運びも見事。
RADWIMPS
中盤では、野田が「きのこ帝国も本当にありがとうございます。大好きなバンドです」と、対バンへの感謝と愛を語り、彼らの「東京」の一節を歌うという場面も。リスペクトあふれるMCに大きな拍手が送られる中、流れるように「ふたりごと」が始まるドラマティックな展開も心憎い。優しい空気はそのまま「夢見月に何想ふ」へと引き継がれ、涼やかな口笛と美しいファルセットボイスが、しっとりとした空気を紡いでいく。
そんな中盤ブロックを挟み、「懐かしい曲とかもいくつかやっていきたいんですけど。ついてこれっかね!?」と野田が煽り、桑原の変幻自在なギタープレイが冴え渡った「セツナレンサ」で後半はスタート。ポストパンク的なつんのめり感と、武田祐介(B)のファンキーなベースラインが絶妙に絡む「おしゃかしゃま」、そして「ます。」とアゲにアゲて、さらには新曲「‘I’ Novel」も披露された。次々と繰り出されるキラーチューンたちに、息つく間も、瞬きする間もないほどだ。
コールアンドレスポンスで会場をひとつにした「いいんですか?」や、パンキッシュなアプローチでの「君と青と羊」と、右肩上がりにテンションを上げた本編のラストは、待ってましたの「会心の一撃」! フロアいっぱいに掲げられた拳が、まさに会心の勝ち名乗りを上げているようだった。
アンコールでは、野田がきのこ帝国の佐藤を呼び込み、SUPER BUTTER DOGの名曲「サヨナラCOLOR」を2人で弾き語るサプライズが。会場を満たしたあたたかい音色に大歓声が上がる。そして、ワンマンばりのボリュームで畳み掛けたライブの真のラストは「有心論」だ。<左心房に君がいるなら問題はない ない ないよね>というフレーズの合唱は、まるでRADWIMPSとリスナーの関係性をそのまま表しているようで、胸が熱くなった。
「今日、初めて来てくれた人を含めて、みなさんのおかげで、デビューして10年間、好きな音楽を好きなように鳴らすことができました。本当にありがとうございます。当たり前のことを当たり前にするのは実は難しいらしくて、音楽を好きで始めたはずなのに、いつの間にか苦しみになっていったりとか……俺はあなたたちを前にするとそんなことはとてもできなくて。消えていくなら消えていくでもいいし……ただ、胸を張って、100パーセントあなたたちの目を見て、作りたいものを作っていますって言えるこれからの10年にしたいなと思います」
これは、ライブの終盤で野田が語った言葉の一部だ。この言葉通り、ゲストを迎えて新たな刺激を受けた“胎盤”から、彼らはまた新しい音楽を生み出してくれるに違いない。そう心から思えた。
撮影=植本一子(RADWIMPS)、上飯坂一(きのこ帝国) 文=矢野裕也
RADWIMPS
きのこ帝国
1.猫とアレルギー
2.海と花束
3.クロノスタシス
4.風化する教室
5.ラストデイ
6.東京
7.桜が咲く前に
8.スピカ
9.明日にはすべてが終わるとして
RADWIMPS
1.DADA
2.ギミギミック
3.DARMA GRAND PRIX
4.05410-(ん)
5.遠恋
6.ヒキコモリロリン
7.アイアンバイブル
8.ふたりごと
9.夢見月に何想ふ
10.セツナレンサ
11.おしゃかしゃま
12.ます。
13.‘I’ Novel
14.いいんですか?
15. 25コ目の染色体
16.君と羊と青
17.会心の一撃
[ENCORE]
18.サヨナラCOLOR(カヴァー)(野田洋次郎×佐藤千亜妃)
19.有心論