城田優が演出&主演の難関に挑む ミュージカル『ファントム』もうひとつのゲネプロレポート
ミュージカル『ファントム』ゲネプロより
城田優が演出と主演の両方を務めることで話題のミュージカル『ファントム』が、2019年11月9日(土)から東京・TBS赤坂ACTシアターにて絶賛上演中だ。初日から2日経った11月11日(月)に、城田優(ファントム(エリック))、木下晴香(クリスティーヌ・ダーエ)、木村達成(フィリップ・シャンドン伯爵)の組み合わせで本公演2度目のゲネプロが開催された。その模様を写真と共にお送りする(作品概要は加藤和樹がファントム(エリック)を務めた前回のゲネプロレポートを参照)。
上演時間は1幕1時間25分、休憩20分、2幕1時間15分の計3時間。だが、『ファントム』の世界は劇場へ足を踏み入れた瞬間から始まっている。メインエントランスをくぐり抜けると、劇場スタッフが作品仕様の特別コスチュームに身を包み、ロビーではオルゴールが鳴り響き、1階ホワイエに繋がる階段には劇場の舞台セットを模した7色の街灯が立ち並ぶ。開演時間が近づけば、客席やロビーのそこかしこでキャストによるパフォーマンスが繰り広げられる。
これらは全て城田のアイディアが元になっている。劇場に入ってから出るまでの間、作品の世界をできる限り楽しんでもらいたいという、彼の想いが詰まったこだわりの空間演出だ。ぜひ余裕を持って劇場へ向かい、この世界観を楽しんでほしい。
前置きが長くなったが、以下、本編をレポートする。初日前日の囲み取材で、本作で一番大事なテーマは“愛”だと語った城田。その言葉通り、『ファントム』は様々な愛が交錯する刹那的な作品となった。
生まれたときからオペラ座の地下に潜むファントムことエリックは、芸術、特に音楽を愛していた。闇が広がる閉ざされた地下の世界において、彼にとって唯一の希望であり心の拠り所が音楽だったのだ。そんな彼に、もう一つの希望が現れる。クリスティーヌだ。エリックの追い求める理想通りの美しい声を持つクリスティーヌに、彼は出会った瞬間から心を奪われる。
2014年公演では、初のミュージカル単独主演としてタイトルロールを演じきった城田。今回2度目の出演で、演出と主演を兼ねるというさらなる難関に挑んだ彼だが、舞台の上に立つのは間違いなくファントム(エリック)そのものだった。音楽に陶酔し、残酷なほど純粋で、仮面の下にはあどけなさと狂気を同時にはらんだ瞳が覗く。公演はまだまだ続くが、演出と主演としてここまで完成度の高い作品を作り上げた城田に、心からの拍手を送りたい。
エリックと同じくクリスティーヌに想いを寄せるのは、オペラ座のパトロン・シャンドン伯爵。女性陣に取り囲まれても常にクールかつスマートに接するのだが、木村演じるシャンドン伯爵はクリスティーヌのこととなると我を忘れて必死になったり、思わず笑みが溢れたり……。彼がクリスティーヌに夢中であることは誰の目にも明らかだ。木村はWキャストの廣瀬とはまた一味違った、純粋で一途な好青年という伯爵で客席を魅了した。
エリックとシャンドン伯爵の二人の間で揺れるクリスティーヌを演じるのは、オーディションを勝ち抜き見事ヒロインの座を射止めた木下。クリスティーヌというと儚げで夢見がちな少女のイメージを持つ人もいるかもしれないが、彼女が演じるクリスティーヌは凛とした美しさを放っている。夢に向かってひたむきで、芯を感じさせる歌と演技で魅せる木下だが、弱冠20歳というから驚きだ。今後の活躍への期待が益々高まる。
ここで、実力派揃いのシングルキャストの面々も紹介したい。
とにかくパワフルな歌声で作品を大いに盛り上げてくれたのは、オペラ座のプリマドンナ・カルロッタ役のエリアンナ。持ち味のソウルフルな歌声に加え、オペラ的な歌唱方法も巧みに取り入れていた。皮肉たっぷりな表情や言い回しからも、自己中心的なカルロッタらしさが溢れている。
カルロッタの夫であり、オペラ座の新支配人でもあるアラン・ショレ役を務めるのはエハラマサヒロ。エハラの本業はお笑い芸人なのだが、これまでにもミュージカル出演経験がある多才な人物だ。カルロッタとの漫才コンビ……ではなく、夫婦コンビはシリアスな作品の中で、クスッとした笑いを随所に織り込んでくれる。たとえセリフがないシーンでも、細かい演技(ネタ?)に抜かりがない。
本作が初のミュージカル出演というキャストもいる。佐藤玲と神尾佑だ。佐藤は映像を中心に活躍しており、神尾はつかこうへいの舞台作品を中心に数多くの舞台経験がある。タイプは違えど、どちらも演技派俳優だ。
佐藤演じるジャン・クロードは、まるで小動物のような愛らしいルックスだが、実は頼りがいのあるしっかり者。オペラ座の舞台進行係として、キビキビと舞台裏を駆け回る姿が印象的だ。
神尾はパリ警察のルドゥ警部として、部下を携えファントム逮捕のために尽力する。渋みのある深い声を活かし、劇場アナウンスも担当しているので注目してほしい。
そして、幅広いジャンルで活躍を続ける岡田浩暉は、物語のキーマンとなるオペラ座の元支配人ゲラール・キャリエールを熱演。キャリエールは岡田の実年齢より上であろう役だが、違和感なく受け入れられたのは彼の持つ確かな演技力故だろう。2幕で苦悩するキャリエールの姿には、涙を誘われる人も少なくないはずだ。
純愛、友愛、自己愛、家族愛……様々な愛を繊細で耽美的な音楽が紡ぐ儚い物語、ミュージカル『ファントム』。東京公演はTBS赤坂ACTシアターで12月1日(日)まで、続く大阪公演は12月7日(土)~16日(月)まで梅田芸術劇場にて上演予定だ。美しさと狂気に満ちたオペラ座が、今か今かとあなたを待っている。
取材・文・写真 = 松村蘭(らんねえ)