開幕間近、パショナリーアパショナーリア『6姉妹はサイコーエブリデイ』稽古場レポート&町田マリーインタビュー
左から柿丸美智恵、高野ゆらこ、町田マリー、中込佐知子、延増静美、高田郁恵
2019年11月24日(日)と11月25日(月)の2日間、パショナリーアパショナーリアの第3回目公演『6姉妹はサイコーエブリデイ』が、京橋ララサロンにて上演される。パショナリーアパショナーリア(通称パショパショ)は、女優の町田マリーと中込佐知子が立ち上げたユニット。テーマに掲げているのは、「家庭と演劇の両立」だ。第2回公演『40才でもキラキラ!』は、土足厳禁・赤ちゃんから入場OKの会場(京橋ララサロン)で上演。本番前の楽屋を舞台に、「母」と「女優」の間で揺れる等身大の女性の姿を時にリアルに、時にコミカルに切り取った。登場人物と同じく子育てに奔走する大人の観客の心を抱きしめながらも、同伴の子どもが飽きないように仕掛けられる工夫の数々も見どころだ。昨年に引き続き、フラットで温かな会場で上演される新作についてレポートする。
■パワーアップしたメンバーで送る、唯一無二の姉妹劇
出演者全員が集まったところで、まず取り掛かるのは、プラレールの組み立て。
「これ、どことつなげたらいいの?」「すごい難しい。これをあっという間に作る子どもってすごいね」
大人たちが集まって、ああでもないこうでもないとプラレールづくりに苦戦する姿は、そのまま物語の序章にリンクする。パショパショの2人のほか、今回の出演者は、延増静美、高野ゆらこ、柿丸美智恵、高田郁恵の6人。このあまりに個性豊かなキャスト陣が6姉妹として登場するというのだから、それだけで今から起こる化学反応にワクワクしてしまう。
風邪をひいた子どもの看病をする三女のねーね(延増静美)の家に、妹で五女のちび助(高野ゆらこ)がやってくるところから物語は始まる。なかなか組み立てられないプラレールを前に、「もう今日は、プラレールおやすみしない?」とちび助。イヤイヤする甥っ子、それをなだめる母。こういう一面、見たことある!
姉妹みんなで三女の子育てを助けようと、ぞろぞろと他の姉妹も集まってくる。長女のおおおおねーね(柿丸美智恵)、次女のおおねーね(中込佐知子)、少し遅れて、四女のちび太(町田マリー)と六女のちび三郎(高田郁恵)が到着し、キャスト全員が一堂に会す。
「立ち位置が難しいね」6人がどう立てば、物語がスムーズに伝わりやすいか。その試行錯誤の様子も印象的だった。
柿丸美智惠
「あんたたちはみんな私に育てられたんだよ」と豪語する長女・おおおおねーねを演じるのは、柿丸美智恵。思わず、「待ってました!」と手を叩きたくなってしまうキャスティングに胸が踊る。
今年2月に上演されたオフィスコットーネ『夜が掴む』での町田との共演も記憶に新しい。多くの作品に出演しながら、圧倒的な表現力でそれぞれに爪痕を残す柿丸が演じるのは、6姉妹のリーダーでありながら、突拍子もないことを始める風変わりな長女だ。最初の登場シーンから、その場の温度がぐぐっと上がっていくのが伝わる。柿丸との共演を機に6姉妹ものを思いついたという町田の言葉に納得する。
6姉妹ともなれば、そこそこのジェネレーションギャップも生じる。次女のおおねーね(中込佐知子)とのやりとりでは、思わず笑ってしまうような小ネタが満載。自由に飄々とチャーミングに。パショパショの演劇の底抜けな明るさの核、ポジティヴなパワーのエンジンを担っているのはやっぱりこの人。中込佐知子だと思う。
中込佐知子
「ゴメさん、自由すぎる〜!」彼女を中心に巻き起こる爆笑のたびに、座組のパワーがアップしている気がする。
「観に来てくれた人に楽しい気持ちになってほしい。だから、私たちも思い切り楽しみたい」彼女の存在はいつも、そんなパショパショのモットーを感じさせる。
高田郁恵
さらに今回は、前回はスタッフとして携わっていた高田郁恵も出演する。町田があて書きをするほどに出て欲しかったという高田は、末っ子のちび三郎役。末っ子感溢れるとびきりキュートな表情から一転、舞台では、時に頼りなく時に険しく、くるくる躍動する表情から目が離せない。
■ぐっと観客に寄り添いながら、自分も思い切り楽しんで
左から町田マリー、延増静美
もはやパショパショ馴染みの顔と言っていいだろう。残る2人についても改めて紹介したい。前作同様、育児に奔走する母を演じるのは、延増静美。初めての育児に奮闘しながら今の日々に思い悩む三女の姿は、子育て中の親としては、まさに自分とそのまま重なる存在だ。
彼女の豊かな表情とその裏に潜む親として、妻として、そして女性としてのジレンマが観客を一気に引き込む。町田が生々しく描く葛藤を、ありありと表現する姿には胸が熱くなってしまう。
高野ゆらこ
同じく引き続きの参加となる高野ゆらこは、五女のちび助役。姉妹の下の方に行けば行くほど奔放になる、姉妹あるあるを見事に体現している。前回公演後「パショパショは、自分たちが重ねた年輪を惜しみなく出せる場所だった」と語った。
稽古場では、積極的に観客サイドに立ち返って「どうしたら見やすいか」を追求する姿も。今回もそんな彼女の信条が光る、フラットで優しい目線と話し出すと忽ち熱い芝居が存在感十分に放たれている。
こうして全員が舞台にそろうと、そのオールスター感を前にどうしても思い出さずにはいられない。熱く鮮烈な演劇、毛皮族。そうでありながら、時を経て、より強くより柔軟に。役の中で眩しく生きる彼女たちに、女優として、女性としての生き様を見る。そして、“今”だからこそ観られた演劇を目の当たりにしていことを痛感する。
町田マリー
今回も演出は、パショパショ流。「町田マリー&楽しい会」だ。町田がセリフの足し引きや演出を伝えながら、それぞれが意見を言ったり、アドリブを入れてみたりしながら、姉妹の会話、ひいては関係性が作られていく。
「このあたりで、ものまねみたいなの入れようかな」
「子どもって、変な顔とか、大きな動き好きだもんね」
「このくらい大きい声ってびっくりしちゃう?」
「今回来てくれる子達の年齢的に大丈夫な気がする」
「2人3人連れてきてくれるお母さんもいるから、抱っこされてる子もちらほらいると思うんだ」
子どもの年齢や人数を見ながら演出のさじ加減を探る作業は、どのシーンを返す時も丁寧に重ねられた。
他ではなかなか観られない、観客の個々の状況に寄り添った演出。生身の表現がいつだって、最終的には1人から1人に届くダイレクトなものだという演劇そのものの本質的な魅力にも改めて気づかされる。
子育て中の親を激励する演劇は、同時にそれは同伴の子どもが楽しめないと成り立たない。そこに立ち返りながら演出を熟考する町田の姿には、パショパショの哲学が色濃く滲んでいた。今回町田が演じるのは、3人の子持ちでありながら、女としても決してあきらめない四女・ちび太。アグレッシブなその姿は、間違い無く観客を元気づけるだろう。
女が6人も集うと、何かが起こる。物語は、大きなうねりを見せ始めた。
「子どもが生まれてから今まで、私はパーフェクトウーマンになりたいと思って生きてきた。カッコいいお母さんでいたい・・・」
母の秘めたる本音が、雪崩のように溢れ出す。
フラットなステージに後押しされるように、生活と舞台の境目が取っ払われて、座っている自分の前に、ふと手が伸びてくる。心の話だ。そして、ぎゅっとこの手を握ってくれた気がした。気づけば、これは自分の話だったように思う。さらけ出されたその分だけ、差し伸べられたその手の温かさだけ。
親だって人間だ。自分のことさえ分からない、今で精一杯の人間なのだ。やりたいのに、できない。こうありたいのに、届かない。いつだって、いろんな顔を持って、自分と自分の挟み撃ちに遭いながら、私たちは今を生きている。もっと言えば、子どもがいても、いなくても。結婚していても、していなくても。男でも女でも。そんな葛藤をもろとも抱きしめてくれるのが、パショパショの演劇だと思う。
舞台に立っている側も、観ている側も楽しい演劇。大人も子どもも巻き込むこの演劇の力で、楽しい気持ちが少しでも大きく波及したらいいなと願う。
ゴールデンメンバーで届けられる、パショナリーアパショナーリアの『6姉妹はサイコーエブリデイ』。サイコーなエブリディは、“今しかない今”への喝采と謳歌から始まる。
<町田マリー 稽古場インタビュー>
■時を経て、ずっとやりたかったことができている喜び
── 昨年も11月の公演でしたね。1年ぶりの新作ですが、どんな風に始動したのでしょうか?
まず、上演の時期なんですけど、お子さんのいる方が観にいらしてくれることを前提にしているので、過ごしやすい季節がいいというのがあって…。冬だと寒すぎる、夏だとお休みでお出かけしてる人が多いかなとか、色々考えて11月を目指したんです。前回公演終わってから浮かんだことや、ずっと書きたかったことを時間をかけて形にしました。
── 上演の時期も子育て上の経験を踏まえられたのですね。今回は姉妹劇ですね。物語の構想はどんなところから?
6姉妹の物語は、柿丸美智恵さんと7年ぶりに共演した時に思いついたんです。柿丸さんにこの役をやってほしいなと思って、脚本の方向性が定まりました。今回は、他に夫婦の会話も出てくるんですけど、最初は「ここは男性に出てもらった方がいいのかな」っていう迷いもありました。女性がやることで、どこか愚痴っぽく、説教くさくなるのは避けたいなって思ったりして…。
── なるほど。
でも、家庭において困っていることや、こういう悩みあるだろうなということは書きたい。楽しく変換して描けたらいいなっていうのがあったので、全員が女でもこのメンバーならいけるんじゃないかって。
── 柿丸さんと同じく今回初登場の末っ子役の高田郁恵さんもどういう風に物語に関わるのか、楽しみです!
高田さんも前回手伝ってくれたり、一緒にいる時間が結構あったんですよね。同じ舞台で長くお芝居をやっていて魅力をよく知っているし、彼女の素敵なところを私が描いてみたいなと思って、書き始めました。
── 前回に引き続き、みなさんのことをよく知っているということが強みになって、作品を濃厚なものにしているんだと改めて感じました。
この人にこういう役をやってもらったら、絶対に面白くなるだろうなっていうのは、誰に対しても確信としてあるんです。そういう意味では、全員あて書きなのかも(笑)。書き上がってからみんなに1回本読みやってもらって、それで足りないことに気がついて書き直しして…。稽古が始まってからもたくさん意見をもらっています。すごく信頼していますね。6姉妹は、このメンバーだから成り立つのかなって思います。ずっとやってみたかったことをやれてるなって思います。
── 一緒の舞台に立つことがなくなってからも、長く持ち続けていたビジョンだったんですね。
そうですね。一緒に毛皮族でやってきた中で、「このメンバーでまだまだやりたい」っていう心残りみたいなものがありました。気の置けない仲間だからこそできることってまだあるんじゃないかなって思っていたところで、一緒にできなくなったから。そういうことの続きを、今やってるのかなって。年齢を重ねて、結婚したり、子どもができたり。それぞれとの関係も変わって、共感できることも増えて。前回、高野さん延増さんに出てもらった時に、「ああこれだ!」ってみんなで共鳴したものがやっぱりあったんですよね。
── 当時もものすごく鮮烈でしたが、その時だったら生まれてない年輪というか、また違ったグルーヴ感がありますよね。
それぞれが生活を確立しているし、人として大人になりました。40過ぎて、おばさんになっていく中での面白さってあるなあって思いますね。そういうお芝居をしてみたいと思っていたので、自ずと年輪を踏まえた作品になってるのかなって。
── 稽古でもそういう話は出たりしますか?
ちょうどこの間、稽古の時に「このキャラでやったら、○○(別のキャスト)とかぶらない?」って、キャスト同士のキャラクターのかぶりを懸念する一幕がありました。同じ劇団でやっていたということで不安になる部分があったのかもしれない。でも、「全く違う人だから、大丈夫!」って伝えました。それぞれの個がこれまで生きてきたものが舞台上にあるから、やっぱりみんな全然違うんですよね。
── 興味深いエピソードですね。
ふと吐いて出た言葉を聞いて、自分でも驚きました。「私、そんな風に客観的にこの人たちのこと見てたんだ!」って気付いて…。それも時間が経たないとできないことだったのかなって思いますね。
── 今回は、物語としても、より「家庭」の深いところが描かれていますよね。全員が同じ家庭の中で育った姉妹=家族という構図もあって…。
最初に本を読んだ時に中込さんが、「家族愛の話だね」って言ってくれて。私は「家庭」の話を書いているんだと思っていたんですけど、中込さんの言葉でそういう風に描いていたんだって気付きました。自分の母の話が入っていたり、夫婦の描写も出てくるから、いろんな角度から「家族」が見られるかもしれません。ラストは本当にいろんなことが起こります。稽古でも常々、そこをどう工夫するか話し合って進めています。
── 本番まであと1週間。ラストスパートには、どんな展望がありますか?
とにかく、出ている人たちが楽しんで欲しい。そのことで、観ている人が楽しめたら1番いいなって。タイトルもそうなんですけど、明るくハッピーな作品に仕上げたいと思って作っています。予約をいただく時に、家族4人とか、親戚も含めて6人でとか大所帯で入れてくださる方もいて…。演劇って1人で行くことが多いけど、「みんなで楽しめる」と思って来て下さってるんだなっていうのがすごく嬉しい。だからこそ、明るい顔で帰って欲しいですね。
── さらに今回は、前回より1公演増やしての上演ですね。最後に意気込みを!
前回公演後のアンケートなどを踏まえて、平日の昼公演を追加しました。お子さんが幼稚園や小学校に行っている間に身軽に来たいというお客さんも大歓迎なので、ぜひ!ワンオペって言葉を最近よく耳にしますが、子育て中の母って精神的にもすごく孤独な瞬間があります。そんな時に誰かが「私がいるよ」って言ってくれるだけで、だいぶ気持ちが晴れる。パショパショがそんな存在になれたらと思っています。
女優の町田マリーと中込佐知子が「家庭と演劇の両立」をテーマに立ち上げたユニット。2017年10月の旗上げ公演「絢爛とか爛漫とかーモダンガール版ー」では、公演の託児費用と小中高生の料金の無料化をクラウドファウンディングによって成功させた。稽古時間から、本番の上演時間・場所の設定に至るまで、ユニットの掲げるテーマを踏襲して活動。2018年11月には、第2回目公演『40才でもキラキラ!』を上演。
取材・文/丘田ミイ子
写真/近郷美穂
公演情報
11月25日(月) 11時30分開演
■主催:パショナリーアパショナーリア