東京バレエ団 斎藤友佳理芸術監督に聞く、新制作『くるみ割り人形』と3組のペアの魅力
斎藤友佳理 東京バレエ団 芸術監督 (photo:Nobuhiko Hikiji)
2019年12月13日(金)から15日(日)の3日間、東京バレエ団が新制作『くるみ割り人形』を上演する。
東京バレエ団の前身であるチャイコフスキー記念東京バレエ学校(1960年開校)の、初めての上演作品である『くるみ割り人形』は、1964年に設立された東京バレエ団に引き継がれ、1972年に初演される。以来バレエ団の主要な演目として上演され続けてきた。1982年には美術改訂がなされ、バレエ団設立55周年の2019年、斎藤友佳理芸術監督の手により、37年振りに新制作版として刷新されることとなった。この新制作における話を、斎藤芸術監督に話を聞いた。(文章中敬称略)
■製作期間はわずか10カ月。工房を分散して衣裳製作に当たる
――この新制作『くるみ割り人形』は、去る10月に上演された東京バレエ団×勅使川原三郎『雲のなごり』とともに、バレエ団設立55周年記念の2本柱の一つと伺いました。いよいよ公演を間近に控えての現在の状況はいかがですか。
本当に大変でした。制作発表から本番の公演まで10カ月ほどしかない中で、どうしようかと思いました。今回この新制作に至った理由の一つには、東京バレエ団の前身となる、東京バレエ学校時代から受け継がれてきた『くるみ割り人形』(以下「くるみ」)を、「チャイコフスキー記念」という冠を頂く東京バレエ団にふさわしいプロダクションにしなければならないという思いがありました。
つまり、これまでの「くるみ」も素敵なプロダクションでしたが、バレエ団設立当時は著作権の規定がゆるやかな時代だったので、「レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネン版」をうたいながらも、その実はかけ離れたものに変わっていったという経緯があります。今回の私の振付改訂には、その著作権の問題を、後世に引きずらないように整理整頓するという目的がありました。「レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネン版に基づく」としたうえで、かつこれまで東京バレエ団が踊ってきた「くるみ」の良いところを残しつつ、新しい東京バレエ団の「くるみ」として作り変える、そういう作業だったわけです。正直ゼロから作る方がよほど楽だったと思います。
――東京バレエ団らしい新しい演出の一つはどういったところでしょう。
マーシャとくるみの王子の旅は、クリスマスツリーの中を辿っていくものとしているところです。新制作にあたり、東京バレエ団ならではの新しいものを付け加えたい、でもどうしたらいいんだろうと思っていたとき、夫が「クリスマスツリーの中に頭を突っ込んでみれば?」と言うのでそうしてみたら(笑)、世界がとても素敵に、キラキラ輝いて見えたんです。「ああ、これだ!」と思いました。マーシャたちはツリーの下から徐々に上に登っていきながらお菓子の国のお城を目指し、ツリーに飾ってあるお菓子の人形たちが踊りを見せてくれる。そして最後のグラン・パ・ド・ドゥはクリスマスツリーの頂での場面となります。
――とても夢のある世界ですね。これまで背景はプロジェクションマッピングも使ってきましたが今回はそうしたテクノロジーなどは取り入れるのでしょうか。
今回はプロジェクションマッピングを使わず、オーソドックスに、ロシアの工房で製作していただいた舞台セットを使います。クリスマスツリーの中に入る場面などは、演出を工夫しながら表していくことになるかと思います。
衣裳についても、先にもお話しした通り、非常にタイトなスケジュールでしたので、1カ所で制作していては間に合わないため、モスクワやサンクトペテルブルクの計6つの工房で、分散させて作りました。
■主演はベテランからフレッシャーズまで、独特の魅力を醸す3組のペア
――主演のマーシャとくるみ割り王子には川島麻実子&柄本弾、沖香菜子&秋元康臣の、東京バレエ団の主演を何度も踊っているダンサーに、秋山瑛&宮川新大というフレッシュなペアが組まれています。それぞれの組の魅力を教えてください。
川島&柄本はベテランで、でも「くるみ」で組むのは今回が初めてとなります。川島はマーシャを踊るうえでは年齢的にもずいぶん大人ですから、7歳から14歳の少女を踊ることは、彼女にとってはチャレンジだと思いますが、きっと素晴らしい舞台を創ってくれると信じています。
沖&秋元は、これまでも何回も様々な演目でペアを組んできました。この2人の醸すロマンティックで独特な雰囲気に注目してください。
秋山瑛は今年の夏に「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」でキトリを踊り、本舞台の主演は今回が初めてとなります。宮川は2018年に『白鳥の湖』で初めて王子役を踊り、王子としてもスキルアップしてきました。フレッシュなペアの、若々しさが魅力です。
リハーサルでの川島麻実子と柄本弾 photo:Shoko Matsuhashi
――三者三様の魅力ですね。斎藤芸術監督は在任中にチャイコフスキーの三大バレエの刷新を目標とされていると伺いましたが、この「くるみ」の次に、『眠れる森の美女』に取り掛かる予定はあるのでしょうか。
もし今度やるとなるなら、一般的な製作期間といわれる2年間はほしいですね(笑)。
――ありがとうございました。
取材・文=西原朋未
公演情報
■会場:東京文化会館
■音楽:ピョートル・チャイコフスキー
■台本:マリウス・プティパ(E.T.Aホフマンの童話に基づく)
■改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
■舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ
■装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ
■キャスト:
〇12月13日(金)19:00
川島麻実子(マーシャ)/柄本 弾(くるみ割り王子)
〇12月14日(土)14:00
沖 香菜子(マーシャ)/秋元康臣(くるみ割り王子)
〇12月15日(日)14:00
秋山 瑛(マーシャ)/宮川新大(くるみ割り王子)
■公式サイト:https://www.nbs.or.jp/stages/2019/nuts/index.html