窪田正孝&三池崇史監督が海外展開、肉体づくり、新型コロナウイルスから“配信”の意義まで語る 映画『初恋』外国特派員協会会見
左から、窪田正孝、三池崇史監督
2月25日(火)、外国特派員協会で行われた映画『初恋』上映会後に、主演の窪田正孝と三池崇史監督が記者会見に登壇した。
『初恋』は、三池崇史監督、窪田正孝が主演をつとめる映画。原作のないオリジナル作品で、希有な才能を持つプロボクサー葛城レオ(窪田正孝)が、負けるはずのない相手との試合でKO負けを喫したことから、人生の歯車を狂わせていく物語。新宿・歌舞伎町で巻き起こる濃密な一晩を描いた作品だ。主演の窪田のほか、大森南朋、染谷将太 小西桜子、ベッキー、内野聖陽らが出演。カンヌ国際映画祭の監督週間やトロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門などですでに上映されており、全米では先行公開も行われている。
記者会見では、司会のキャレン・セバンズ氏より、テレビドラマ『ケータイ捜査官7』以来、約10年ぶりに窪田と三池監督がタッグを組んだことについて質問が及んだ。三池監督は「10年経ちましたが、常に何かの映画を作る現場にいる人間からすると止まる間もなく動き続けている。たしかに鏡を見ると10年経って歳をとったなと感じますが、窪田君はずいぶん出世したな、と。神様って冷たいなと思います(笑)」とコメント。窪田は「当時19歳で、右も左もわからない状態でカメラの前でひたすらに芝居をして、監督に届けという思いで演じていました。10年経って三池さんと会ってみると、サングラスも丸みを帯びたもので柔らかくなっていて(笑)。昔のピリッとした鋭利なものが丸くなっていて、緊張も解けたのか話しやすくなったことが一番10年の変化を感じました。錚々たる役者さんが、三池監督とやりたいと思う魅力が三池さんの現場にはあって、そんなワクワクする環境を右も左もわからない状態の一番初めに与えてもらったことは大きかったです」と回答。その後、協会員である記者たちからの質疑応答に応えている。
左から、窪田正孝、三池崇史監督
――撮影中の印象的なエピソードを教えてください。
窪田:アクションシーンを一番覚えています。日にも当たらず、夜行性のように夜だけ働いていました。車の中の撮影では監督もカメラに映らない場所にちゃんと乗っていて、カーアクションの方がアクセルを全開に踏んで運転する中で何度もガラスに頭をぶつけそうになりながら、体で体験して巻き込まれていくことってすごく大変だけど、後になって良い思い出になりました。
――今回はインターナショナルのプロデューサー(ジェレミー・トーマス氏)が付いているということで、海外の方と組むとどういった違いがありますか?
窪田:色々な映画祭に行って“世界の三池監督”だと思ったし、この映画を撮っているときは、海外のマーケティングを意識したことはなかったけど、実際に現場で汗水たらして作った役が三池監督の手によって編集されたものが海を渡って、カンヌやマカオにも行かせてもらって、今日もそうですが、三池監督に連れてきてもらったという感覚でしかなくて。一役者としてこの作品に携われて、監督と主役として出来たこの喜びが全てであり、感謝です。
三池監督:ハリウッドのプロデューサーと組むということは明確に違います。ジェレミー・トーマスというプロデューサーは日本の映画をとてもよく理解してくれているし、日本人が撮るに相応しい撮り方で映画に取り組んでいくことを後押ししてくれて、それで出来上がった作品を世界に持って出ていこうという基本姿勢で、かなり特殊なプロデューサーだと思います。そういう方と出会えて、一緒に映画を作れることは自分にとっては幸せで、ありがたい仲間という感じです。だからいつもと同じ環境で作れるし、いつも以上に自由を与えてくれる。意見も、あぁなるほど!という提案をいつも出してくれるけど、最後に判断するのはあなただからねと委ねてくれました。
――車が飛ぶシーンをアニメのシークエンスにした理由を教えてください。
三池監督:正直に言いますと、クリエイティブな行為というと少し語弊があります。日本映画は皆さんご存じのようにソフトで、毒にも薬にもならない、みんなが安心して見られるものが多い。そして、最も海外と違うのは撮影時の危険なリスクを避ける。いまの日本は若い子がスタントマンに憧れるような環境ではなくなってしまっているので、日本のスタントマンはとても高齢になってしまいました。ベテランばかりで、腕のいい人たちは60歳を超えてしまっているので、あの高さから落ちたら腰にかなり負担が来る(笑)。だからといって、脚本はチャレンジしなくてはならない。ひとつの方法として、アニメーションを使いました。危険なことを脚本から削ろうという行為に対する反抗でもあります。
――窪田さんのアクションシーンはほとんど素手でしたが、他の方が刀や銃を使うのは羨ましくなかったですか?
窪田:羨ましかったですね。ただ、キャストの中で一番準備したのが僕なのは間違いないです(笑)。
――ボクサー役を演じる為の準備はどんなことをしましたか?
窪田:一か月ちょっと前からほぼ毎日ジムに通い、二時間くらいひたすら打ち込みをし、縄跳びを飛び、沢山お肉を食べて見た目を良くしました。
――最近は、児童向けの特撮テレビドラマ『ガールズ×戦士シリーズ』などを手掛けたりしていましたが、今回は本筋へ戻ってきたのか、あるいは関係性があるのか。「さらば、バイオレンス!」というようなこともおっしゃっていましたが、こういったテーマとの関連性があるのでしょうか?
三池監督:まず、『初恋』というタイトルと「さらば、バイオレンス!」というコメントを表面に出すと、勘違いしたお客さんが見に来てくれると思いました。(笑)最近は、現在も放送している女の子向けのテレビ番組を作っているのですが、それは暴力ではなくて人を愛する力で力強く生きていこう、というのを描いている。そういう一面も自分の中にはあって、決して嘘ではない。ただ、この映画に出ているアウトローたちの、馬鹿げているけど一瞬どこかで光るような、愚かに見える生き方に憧れるというのも事実。映画監督というのは得意なジャンルがひとつあって、自分の普遍的なテーマと格闘していくのが多くの映画監督の姿だと思うんですが、自分はホラーをやったりもするけど、それはホラーが好きというわけではなくて、色々な人たちとの出会いがあって撮っています。色々なものを撮って、色々な登場人物を作り上げて、その人の気持ちを台本の中から探っていくのですが、どの登場人物たちもさして変わらないことに苦悩して、さして変わらないことに幸せを求めている。基本的な部分というのは、ジャンルを超えて皆同じだということを改めて感じます。
――コロナウィルスが蔓延しているなかで、中国では映画産業にストップのかかった状態になっていますが、お金と時間をかけて劇場用に映画を作るよりもストリーミング用に映画を作ったほうがいいのではないかという意見も散見されます。劇場用映画とストリーミング用映画について意見はありますか?
三池監督:未知なるウィルスについては非常にデリケートな問題だし、ビジネスを超えて対応していかなければいけない。それは、いずれ何らかの方法で人間は克服していかなければならないと思います。それと、劇場という興業の形を変えて、他人と関わらず安全に、自分の家でプライベートで楽しめるネット作品も否定はしないし、そういう楽しみ方もあると思う。ただ、我々はやっぱり映画館で色々な登場人物を観て、時には満員のなかみんなと同じ場所で笑ったり泣いたりしながら、時には、自分とあと何人しかいないガラガラな環境で観た映画など、その環境そのものと、劇場で観た匂いそのものが映画とプラスになっているんですね。ですから、自分にとって劇場は必要な空間です。でも、自分もネット配信される作品で観るべきものはもちろん観ているし、ネットの世界でパーソナルに配信された自分の作品を観たときの感触というのも、今までDVDで観るのとまた違った感触もある。僕らが考えるネットとか以上に、これからどんどん映画は変化していくと思うけど、そのなかのひとつとして、劇場で観るというのはいつまでも残っていてほしいと思っています。
――小西桜子さんについて、今回抜擢に至った理由と、共演してみていかがでしたか?
三池監督:新人の方はオーディションで選んでいます。オーディションでは演技をしてもらって可能性を見たり、本人のやる気を聞いたりするのですが、自分にとってオーディションの場所というのは、受ける人がドアから入って来たときに僕らが探していたこの役を演じる人が「あ、いた。」と思うかが大切。自分が役に近づくのではなくて、その役を演じる為に生まれたんじゃないかと思えるようなエネルギーを感じるかどうかを一番大事にしています。今も自信を持って言えるのは10年前オーディションで窪田君がドアから入って来たときに「この番組の主人公いたよ」とホッとしたんです。小西さんは、技術的にはまだまだこれからなんでしょうけど、自分とこの作品にとっては、彼女はすでにこの企画が始まる前から、この為に存在していたというように思えるエネルギーがある人です。出会えて良かったです。
窪田:10年やってきて、まだまだ未熟なのですが、知らない間になんとなく芝居の答えを技術で見つけてしまう癖が身についてしまっていたんだなというのを感じ、彼女を見ていて心が洗われる感覚になりました。芝居をしたことがないからこそ答えが無限にあって、監督の演出に純粋に答えていける柔軟さを痛感して、10年前のことを思い出したし、彼女が10年経ったときに僕は越されないように頑張ろうと思いました。
映画『初恋』は2月28日(金)全国公開。