VRメガネなしで体感する、電“能”空間 VR能『攻殻機動隊』は伝統芸能×最新技術の融合

レポート
舞台
アニメ/ゲーム
2020.3.27

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VR能『攻殻機動隊』が2020年8月22日(土)・23日(日)に世田谷パブリックシアターで上演される。ここでは、3月26日(木)に開催されたプレ上演舞台挨拶のレポートをお届けする。

ステージに映し出されたVR能『攻殻機動隊』のタイトル

ステージに映し出されたVR能『攻殻機動隊』のタイトル

“VR能”とは、様々な最先端技術を駆使して仮想現実空間を再現し上演する能舞台のこと。その題材として、日本が世界に誇るSF漫画の金字塔『攻殻機動隊』が舞台化される。VR能で古典ではないオリジナルの演目が上演されるのは今回が初。伝統芸能と最新技術の融合により、観客は新たなイマジネーション感覚を体験することができるという。

出演は、実力・知名度ともに現在の能のシーンを牽引する観世流シテ方能楽師の坂口貴信、川口晃平、谷本健吾、そして喜多流シテ方能楽師の大島輝久ほか。演出は、映画監督・奥秀太郎(舞台『ペルソナ』シリーズ、舞台版『攻殻機動隊ARISE』、AKB版『仁義なき戦い』など)。脚本は藤咲淳一(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や『BLOOD』シリーズなど)。映像技術は、舞台版『攻殻機動隊ARISE』や3D能シリーズなどで、日本初となる舞台での3D映像を開発してきた福地健太郎氏(明治大学教授)。VR技術は、国内のVR研究での第一人者・稲見昌彦氏(東京大学教授)が担当。各分野の第一人者が集結し、世界初・本邦初の様々な技術と日本の伝統芸能の先鋒とが融合した舞台がくり広げられる。

舞台化に際し、草薙素子とバトーの能面を制作。能楽師の研ぎ澄まされた動きと、光学迷彩など世界初の様々なモーションセンサー・エフェクトで、『攻殻機動隊』ならではの電脳世界を表現する。

現実とヴァーチャルが融合する電“能”空間

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。電“脳”空間を体験することに

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。電“脳”空間を体験することに

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。背後浮かぶエフェクト。能と映像の融合が目を引く

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。背後浮かぶエフェクト。能と映像の融合が目を引く

プレ上演では、川口晃平が約5分間にわたり舞を実演した。真っ暗な舞台に置かれた屏風の前に、その姿が浮かび上がる。美しくも無機質な能面は、まさに『攻殻機動隊』に登場するサイボーグだ。ひとたび能面と視線が重なれば、意識から周りの景色が消えてしまう。会場に鳴り響く雨のような風のようなノイズが、さらに没入感を誘う。ふと気づくと、背後のスクリーンには無数の白いエフェクトが。舞にあわせて流れを変えるエフェクトが、動きをよりダイナミックに魅せるのが印象的だった。

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。扇ごしの能面に引き込まれた

VR能『攻殻機動隊』プレ上演。扇ごしの能面に引き込まれた

「イマジネーション」で楽しんで

左から大島輝久、坂口貴信、川口晃平、谷本健吾

左から大島輝久、坂口貴信、川口晃平、谷本健吾

挑戦的な創作能について坂口は、「若い人たちが、700年続く能に触れるきっかけになれば」と期待。実際のパフォーマンスを見た谷本も、「一見意味のない動きが、映像と合わさることで途端に意味を成していることに驚いた」と語る。また、能の世界では珍しいオリジナルの演目について大島は、「伝統的な様式の制約がないなかで、新しいものを作り出していくことは大きなチャレンジ」と意気込みを語った。

「能はイマジネーションが必要な芸能」と語るのは、プレ上演でパフォーマンスを務めた川口。だからこそ、「ひとりひとりの脳の中で描かれる世界を、VR技術により観客全員で共有できる斬新な舞台」なのだそう。

奥秀太郎

奥秀太郎

VR能と『攻殻機動隊』が融合するきっかけは、奥の「原作の世界観をもっとも表現できるものが、能なのでは?」という閃きから始まったそう。過去に奥が手掛けてきた“3D能”プロジェクトは、シーンをわかりやすくするための特殊な演出があったが、今回はそれをヴァージョンアップ。「説明するのではなく、観た方が想像力をふくらませることのできる全く新しい映像の使い方」に挑戦したという。

左から稲見昌彦氏、福地健太郎氏

左から稲見昌彦氏、福地健太郎氏

「3DメガネをかけないVR能」という奥の無理難題に答えたのは、3D・VR技術を研究するふたりの研究者だ。福地がこだわったのは、能に映像をつけ足すのではなく、引き算による演出にすること。それにより「現実と仮想空間が混然一体となった世界観」を目指したという。一方稲見は、『攻殻機動隊』ファン。「現実世界と電脳世界、能が表現するあの世やイマジネーションの世界、複数の世界を繋いでいく糸」であるテクノロジーを「ゴーストグラム」と名付けた。“ゴースト”は、もちろん英語タイトル『GHOST IN THE SHELL』にかけたもの。

能楽師たちにとっても挑戦であり実験だという本舞台。
「幅広い世代の方々にご覧いただいて、たくさんのご意見をいただければありがたい」(大島)、「映像の良さ、能の良さを感じていただければ」(谷本)、「能・『攻殻機動隊』・VR技術という垣根を超える舞台を楽しんで」(川口)、「この演目はVR能でしか上演できません。能楽堂で上演することは絶対にございませんので、この機会を見逃さないで」(坂口)と、力強くアピールした。

左から稲見昌彦氏、福地健太郎氏、大島輝久、坂口貴信、川口晃平、谷本健吾、奥秀太郎

左から稲見昌彦氏、福地健太郎氏、大島輝久、坂口貴信、川口晃平、谷本健吾、奥秀太郎

『攻殻機動隊』は、近未来の電脳化社会を舞台に架空の公安組織の活躍を描いた士郎正宗原作のマンガ。押井守監督が手がけた劇場版アニメ『GHOST IN THE SHELL/ 攻殻機動隊』、『イノセンス』のほか、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)』シリーズ、『攻殻機動隊 ARISE』シリーズなどが制作されてきた。スカーレット・ヨハンソン主演で実写化したハリウッド映画版も話題に。 最新作として、2020年4月より『攻殻機動隊 SAC_2045』が配信される。

取材・文・撮影:実川瑞穂

公演情報

VR能『攻殻機動隊』
 
■日程:2020年8月22日(金)~23日(日)
■会場:世田谷パブリックシアター
 
■出演:坂口貴信(シテ方観世流能楽師)
    川口晃平(シテ方観世流能楽師)
    大島輝久(シテ方喜多流能楽師)
    谷本健吾(シテ方観世流能楽師)ほか
 
 
■スタッフ
原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社KC デラックス刊)
演出:奥秀太郎
脚本:藤咲淳一

3D技術:福地健太郎(明治大学教授)
VR技術:稲見昌彦(東京大学教授)
プロデューサー:神保由香、盛裕花
製作:VR能攻殻機動隊製作委員会
 
(C)士郎正宗・講談社/VR能 攻殻機動隊製作委員会
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