シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第七十二沼 『四次元家沼!』
「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第七十二沼 『魔の四次元家沼!』
大切なものほど、よく失くしてしまうという人は少なくないのではないか。
私はADHD気味(いや、完全に多動)なので、誰かと電話しながら、体が勝手に何かを手にし、それを思わぬ場所に無意識のうちに置いてしまうというやっかいな癖ががるのだ。
自分は無意識のうちにどこかへ置くわけだから、電話を切ったあと、探しても探しても見つからない。
それどころか、失くした事すら気がつかず、ある日掃除をしているときに脚立にのったら、タンスや本棚、冷蔵庫の上など、ことごとく高いところから様々なモノたちが発見され、まるで宝箱を見つけたかのように喜んだ。
いや、喜んでいる場合ではない。
メガネを頭にかけたまま「メガネ!メガネ!」と探すのが上級だとしたら、私の場合はプロフェッショナルと言っても過言ではない。
なにしろ、手にスマホを持っているのにも関わらず、10分もスマホが見つからず、妻に電話してもらった時、自分の手から着信音と振動がきた時には狐につままれたような気分になった。「病気かもしれない」
たちの悪い事に、私はなかなかその事を認めない。つまり、自分がうっかり八兵衛のように思われたくないため、モノが亡くなるのを『家』のせいにするのだ。
たとえば、何かを無くす度に「この家は、本当にモノがよくなる」といった具合だ。
妻も同じだ。
これには解決策があるがろうと家族会議の結果、「もともと、モノを減らそう」という断捨離計画を実施した。
ずいぶんモノを減らした。「こんなにモノにかこまれてたんだな〜」と思うほど、いらないモノだらけだった。
さらにヤバいのは、すぐに失くすからまた同じものを買う、そして後日発見される。すると同じものがどんどん増え続ける。
しかも、失くしたと思いまた買うのでは無く、無意識のうちに同じ物を買ってしまうという怪現象を起こす。
同じレコードを6枚買った時に「さすがにコレは異常だ」と無理やり自覚した。
そして洋服。これは、かのお洒落で名高いフランス国民も言っているほどだが、最高でも七着ほどの服をもっていれば十分だという。5年着ない服は一生着ないというのだ。まさにタンスの肥しといったところだろうか。
そこで、洋服を捨てまくった。
しかし、妻も私もある特定のブランドの服を好む傾向にある。
今のように服が安くない時代のものがたくさん出てくる度に捨てるのをいちいち躊躇しながら思い出に浸ったりして、全く作業が捗らない。
しかし断腸の思いで、それらの服を処分した。
次に、私たちの稼業である音楽系のものを捨て始めた。
使わない楽器は人にあげたり、売ったりした。
しかし、電源とコード類のケースには膨大な量のシールド(ケーブルや電源)が入っている(自社比:地球3周分)。
これは近所の廃材業者にもっていくと、とんでもない引取賃を取られるという事で、役所に相談したところ、燃えないゴミの日に小分けに出すといいというアドバイスをいただいた。
ただ、この作業は現在でも続いている。なにしろ地球3周分の長さの線をカットしながら捨てていくわけだからな。
しかし、本当に大切な物だけを所持する事に決め断捨離を行ったが、「モノが無くなる現象」は全く改善されない。
それどころか、断捨離して大切なものだけを残した事により、大切にしているからこそ、無くした事に直ぐ気づくという苦渋が待っていた。
「本当にこの家にモノ食い魔物でも住んでいるのではないか」
「家の中のどこかに、四次元スポットでもあるのではないか」
と家族全員が疑い始めた。
そこで名探偵 齋藤久師は、その「四次元ポケット怪現象」を科学的に解明するために一大プロジェクトを立ち上げた(メンバー1人)
まず真っ先に疑ったのが齋藤家紛失ギネス優勝者の自分だ。
徹底的に自分の行動を分析してみると、ある特定の動きや環境下におかれている事がわかった。
私が特に失くす物
NO.1 メガネ(未発見。レイバンウェイファーラー、3個紛失)
NO.2 ジェットライター(数百個目)
NO.3 携帯電話(幸い、コールと位置情報で回収率良し)
注目して欲しいのがNO.1のメガネとNO.2のライターだ。
じっくりと自分の行動を振り返ってみると、だいたいスタジオのモジュラーシンセの前に居る私は、そのスパゲティーのようなパッチケーブルの中にメガネとライターを無意識に置いてしまう(老眼なので脱着を頻繁に行う)。
しかし、これはパッチを差し替える時に発見されるに至る。
では、その次に私がいつも長居する場所を考えてみた。
するとリビングテーブルの右端に座っている事が発覚。
これは喫煙者のため、換気扇の1番近い席という理由からだ。
そこで、驚愕の事実があきらかになった。
リビングテーブルの右端(私の居場所)には、いつもメガネとタバコとライターがセットになって置いてあるのだ。
そして、それはテーブルギリギリに置いてある。。。。。
そこでテーブルの下を見ると。。。。。。。
出た〜〜〜〜〜〜!ゴミ箱!!!!!!!!!!!!!!
これでメガネ、ライター大量紛失事件は解決した。
その日からゴミ箱の位置を変えた途端、メガネもライターも全く紛失する事なく安心した生活を送るのであった。
まさか、こんなロジカルな紛失構造が知らず知らずのうちに構築されていたとは。
ちなみに、このゴミ箱は私が20代の頃からデザインが好き使っているお気に入りのモノ。その数は大小合わせて7個!自らトラップを仕掛けているようなものだ。気を付けろ自分!
しかし魔物でも四次元ポケットでも無く、ゴミ箱沼だったとはな。
こちらの号でもさらに特集されているので是非是非↓
https://spice.eplus.jp/articles/261270