ディズニーのアカペラ・グループ、ディカペラにインタビュー～新作『オール・イアーズ』は新境地を示す意欲作

2018年に結成されたディカペラは、ディズニーの名曲をアカペラで歌うことを使命とする7人組。ディズニーには膨大な数の名曲があるけれど、それを自由に選曲、アレンジして歌うことが彼らに与えられた特権でもある。そのなかで今回も大ヒットした主題歌から、今だからこそ聴きたい劇中歌まで最高の13曲を選んで、2ndアルバム『オール・イアーズ』を完成させた。2020年夏に予定されていた彼らの再来日公演は新型コロナの影響により残念ながら延期となったが、このほどディカペラのメンバーにリモートでインタビューすることが叶った。

――まず、どんな作品を作りたいと思われましたか。

カレン・ケリー　私達にとって、選曲がすごく重要。デビュー作の経験を踏まえて、やりたいことが出てきたし、ツアーを重ねることで歌いたい曲もどんどん増えている。そのなかで、ひとつひとつの楽曲の素晴らしさだけではなく、曲を並べた時の曲同士の相性の良さも大切だと十分にわかっているので、プロデューサーのディーク・シャロンをはじめ、ディレクターや振付師などのスタッフも加わり、最初の頃は何回もミーティングをしたのよ。

アントニオ・フェルナンデス　ディズニーは、マジで無制限、と思うほど膨大な音楽のライブラリーを誇るので、活動するなかで僕達が歌いたいと思う曲が増えていっている。そのなかで気を付けなくてはいけないことは、カレンが言うように曲の相性、いいショウの流れを作るための曲選びをすることだった。歌いたいからといって選曲しても、その曲だけがライヴのセットリストの中で浮いてしまうこともあるからね。

――そのなかでも、みんなの意見が一致した曲、ぜひ歌いたいと希望したのは、どの曲ですか。

カレン　私がRJ（・ウェスナー）とオーランド（・ディクソン）が一緒に歌うと、絶対にいいと提案したのが『アイ・トゥ・アイ』、『グーフィー・ムービー/ホリデーは最高!!』というアニメーション映画の劇中歌よ。それからアントニオがディカペラ結成の日からずっと歌いたいと思い続けてきた『ゴー・ザ・ディスタンス』も私達が提案した曲のひとつだった。

アントニオ　『ゴー・ザ・ディスタンス』は、アニメーション映画『ヘラクレス』からの歌で、僕以外のメンバーも賛成してくれたし、何よりも日本のファンの投票で一番リクエストが多かったと聞いて、すごく嬉しかった。

――第一印象として、前作もそうでしたが、有名な主題歌に偏らず、「この曲もいい曲だった～」と映画自体を思い出させてくれるような劇中歌も選曲していますよね。

カレン　映画の名前を耳にして、すぐに思いつく音楽は、きっと主題歌よね。たとえば、『ライオン・キング』だったら『サークル・オブ・ライフ』と。そういう曲ももちろん選んでいるわ。『サークル・オブ・ライフ』は、『ヒー・リブス・イン・ユー』とのマッシュアップで歌っているし、みんなが大好きな『アナと雪の女王２』から『イントゥ・ジ・アンノウン』も選んでいる。一方で、『アイ・トゥ・アイ』といった知る人ぞ知る劇中歌もあるし、両方のバランスが大切だと私達は思っているの。

――そのなかで個人的にインパクトを受けたというか、この曲を選び、さらに1曲目にしたのね、と思ったのが実写版映画『アラジン』からの『スピーチレス～心の声』です。原作の時代ではありえない、女性が自立の思いを歌うメッセージ性の高い曲ですよね。

カレン　『スピーチレス～心の声』は、みんなが大好きな曲で、レーベルから提案された時、歓声があがったくらいだった。ご存じの方も多いと思うけれど、劇中でジャスミンがソロで歌う美しくて、力強いバラードよね。この曲って、世界に自分の声が届いていない、自分はちっぽけな存在と思い込んでしまっている人のためのアンセムだと思うの。ディカペラは、“声を届ける”ことを大切にしているグループ。そういう意味では私達の本質を象徴している曲、存在意義を代弁してくれているような曲だと思っている。だから、1曲目にしたの。この曲には「誰か阻む人がいても、声を上げたり、自己表現することを止めてはダメよ」という私達からのメッセージが込められているわ。

――さて、7人のヴォーカル・ワークにも変化を感じます。笑い声が聴こえるなど、即興性が発揮された歌もありますよね。前作では7人別々にブースに入って歌ったと言っていましたが、今回はどうでしたか？

アントニオ　そうなんだ。前回とレコーディング方法がちょっと変わったよ。複数の人が同じブースに入って、同時に歌うこともあったし、時には1本のマイクで全員一緒に歌うこともあった。そのなかで良かったのはお互いに刺激し合いながら歌えたこと。具体的に例を出すと、僕は歌いたいと熱望した曲なのに、『ゴー・ザ・ディスタンス』をひとりで歌った時、なかなか思い通りに歌えなくて苦戦していた。それを察知したオーランドが「僕に何かできることはないか。どういう思いを込めて歌いたいと思っているの？」って声を掛けてくれたんだ。彼の言葉に僕は、この曲にどんな思いを込めて歌いたいのか、あらためて自分の内面を見つめ直し、僕にとってこの曲がどんな意味を持ち、それをどう伝えるべきか、自問自答することが出来たんだ。もちろんその後はうまくいったよ。

――「みんなネコになりたいのさ」のレコーディングはどうでしたか？ コール＆レスポンスがすごく楽しそうだけれど……。

アントニオ　あのレコーディングは、本当に楽しかった。はじめに“コール”の部分を始めて、RJのヴォーカル・パーカッション、ジョーのベース、そして僕のソロ・パートを録音し終わったところで、7人全員で同じブースに入り、“レスポンス”のパートを録音したんだけれど、めちゃくちゃ盛り上がったんだ。通常は、１人で歌う狭いブースに7人がぎゅうぎゅう詰めになって、1本のマイクで歌った。前作の時は、メンバー発表があった直後からレコーディングを始めて、7人それぞれが別録りする方法で制作したので、全員でレコーディングするのが本当に楽しかったんだよね、今回は。

――RJは、今回ヴォーカル・パーカッションに挑戦したんですよね。いかがでしたか？

RJ・ウェスナー　めちゃくちゃ楽しかったのと同時に、アントニオのすごさをあらためて感じた。たとえば、スネアの音ひとつとっても、ブスッ！なのか、カチッ！なのか、いろいろな音がある。だから、どの音にしたらいいのか、よくアントニオに相談していた。ちょっと聞いて、どう思う？って。彼の知識と経験を拝借したというわけ（笑）。今回3曲でヴォーカル・パーカッションをやらせてもらえたのは光栄だった。『俺のおかげさ』ではアントニオと一緒にやったよね。

アントニオ　そうだった。僕達2人がパーカッションの話に熱中しているのを傍で聞くと、何語で話しているの？と思うだろうね（笑）。

――ところで、『オール・イアーズ』というタイトルについて、どんな意味が込められているのか、教えてください。

ケリー・デニス・テイラー　いろいろな解釈が出来るだから、私達みんながすごく気に入っているタイトルなの。まずは、音楽的な意味合いでの”All Ears（オール・イアーズ）“。どういうことかと言うと、私達がうまく歌えるのは互いの声にしっかり耳を傾けて、注意をはらい、連携をとっているからで、それを意識してレコーディングに臨んだの。それから今回新たに挑んだアルバム収録曲への手応え、思い入れもこの言葉に込められている。さらに“Ears（耳）”と言えば、ミッキーマウスでしょ。ミッキーへの敬愛もたっぷり込めているわ。

――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

カレン　SPICEをご覧の皆さん！いつもディカペラを応援してくれてありがとう。みなさんの前でパフォーマンス出来る日を心待ちにしています。またお会いしましょう!!

取材・文＝服部のり子