古舘佑太郎が語るーー新しくなっていく時代の中でオンラインライブをやりたかった理由とは

インタビュー
音楽
2020.6.11
古舘佑太郎

古舘佑太郎

画像を全て表示(3件)

ここ最近はZOOMでインタビューするのが当たり前になった。そして、コロナ以前に進められていた活動について聞くのではなく、遂にコロナ後の活動について聞く事に。この古舘佑太郎のインタビューはコロナによって全てのライブが飛び、何をすれば良いか悩みもがいた先で、『#オンラインライブハウス_仮』という新しいプロジェクトに出会い、小さな一歩を歩むようになったという内容。その上、彼の音楽に対する誠実で真摯な姿勢についても充分に掘り下げられた。常に人と違う新しい挑戦に飛び込みたいという向こう見ずなカウンター精神が表れたインタビューだと思う。完全に元通りの状態でのライブが復活するのは、いつの日になるか誰にもわからないし、例えライブが完全復活したとしても、いつ第2波が来るかもわからない。だからこそ、『#オンラインライブハウス_仮』という選択肢が出来た事は誠に心強い。まずは、6月17日(水)・19日(金)に生配信される古舘の弾き語りオンラインライブ『A Live vol.2』を是非とも体感して欲しい。

 ーーまずは、このコロナにおける期間、どのように過ごされていたかを教えて下さい。

 時系列で言うと、2月にちょっとずつコロナの波、噂のニュースがちらほら出始めて。2月22日に2のワンマンがあって、あれがギリギリの時期でした。今から思えば、ライブ出来たのはラッキーでしたし、滑り込みで出来て良かったなと。で、2月29日、30日の京都でのソロワンマンライブも出来ると思っていたら、2月26日からライブが止まり始めて。でも、その頃は正直全く危機感が無かったですね。大規模じゃないから、ライブが出来ると思ってましたし。わざわざ夜行バスで来られる方もいたので申し訳なかったですけど……。そうやって2本ライブが飛んでも、すぐどっかで戻れると思っていました。で、パッと気付いたら3月後半のバンドとソロのライブが飛んでしまって、そのまま4月まで引きこもってしまった状態で、気持ちとしては決して良い状態では無かったです。先日のオンラインライブでも言いましたが、4月序盤までは何もやる気が起きなくて。こういう時だからこそ、「何かやらないと」という気にはならず、みんな色々やる中、真逆に振り切って、ずっと家にいて何もしない日々でした。5月、6月は延期した振替ライブがあって、それはやれると思っていたら、それも飛んで……。いつか戻ると思っていただけに、流石にヤバいなと……。でも、インスタライブなどのいつでも誰もが観れて、いつでも誰もが去れるもので、歌うことに意味を見出せなくて。​

 ーーそんななか、『#オンラインライブハウス_仮』に出会ったと。

 4月後半か5月頭にオンラインライブに誘ってもらったんですけど、最初は内容の意味がわからなくて。でも何度も説明の文章を読んでいるうちに、「わからないからこそ、やりたいな」と思えましたね。今まで見てきた配信とかは何となくわかっていたものだったから、飛び込めなかったんですよ。どうせ、やるならば、わからないくらいの挑戦がしたくて。『#オンラインライブハウス_仮』は、他のと違う感じがしたし、おもしろくて興味を示せそうだったんです。だから「お話が聞きたいです」とお願いして、やってみようと。そこからギターを練習し始めるんですけど、最初は楽しくなくて。歌う事も楽しくなくて、自己顕示欲も無くなったんだなと思っていました。でも、ZOOMでの音響作りをするのは楽しかったし、むちゃくちゃ本番は楽しかったんです。1時間あっという間だった。それとお世話になっているライブハウスと何かやれるのは良いなと思いましたね。

ーー5月24日のオンラインライブは、心斎橋JANUSと組んで開催されましたよね。実際の古舘君は東京の違う場所からライブを行いますが、最初に心斎橋JANUSの店長が、JANUSから古舘君との関係性や今回の趣旨などをしっかりと説明するのは、とても良かったですよね。ライブハウスとのタッグでやっているということを感じました。

力になれる事はちっちゃいんですけど、オンラインライブハウスの詳細がわからないと言って何もしないよりは、ちっちゃくても一歩になれたらなと。あと、ライブハウスと組んでやることで、改めてお客さんがを買って見てくれるのは、よっぽどの事だしありがたいんだという事に気づきました。僕は、1年100本くらいライブをやってる時もありましたし、ライブに来てくださるお客さんには感謝をしていますけど、お金を出してくださるという事に対して、どこか当たり前になってたと思うんです。だから、今回その大事な部分に気づけましたし、ライブが出来るのは当たり前じゃないなと実感できたのは大きかったです。

ーー無料で見られる生配信も増えているなかで、制のライブをやる意図を実感できたということですね。

ワンクリックで無料で聴けるのではなく、自分の意思でお金を払って参加するのは緊張感が違うと思うんです。僕も3ヶ月ライブをやってなかったので、緊張感がありました。お客さんも自分の意志でライブを選んで、お金を払ってライブを観る事を久しくしてないからこそ、フリー配信にちょっと飽きているのもあるんじゃないかなと思ってましたね。例えばですけど、人から借りたCDより自分で買ったCDの方が必ず聴きますし、人からもらった服より自分で買った服の方が必ず着るのと一緒なのかなと。そうやって、ちゃんとお金で動く場を作りたかったんです。そういう意識を持てたのが『#オンラインライブハウス_仮』でした。ある種、世間と逆行しているカウンターですよね。今まで僕は間口を広げていたんですけど、今はちゃんと閉鎖した場所を逆に作ろうと。まぁ、普段のライブハウスだって、ちゃんと壁があって、を作って買ってもらっているわけで、駅前の広場で誰でもタダで観れるものではないですから。自分の音楽を聴いて欲しいから、間口や輪を広げる事を意識してやってきた10年間だったんですけど、今は広げる作業をやりながら、輪の中心にいるコアなファンとこもる作業をしたいとも思っています。そういう事は、今までやった事が無かったですから。僕は広める事も狭める事も、どっちもやりたいし、どっちもやれるのが理想的です。

ーー僕は古舘君が狭める事をやっているとは思っていないんです。確実にコアなファンの人に聴いてもらえる環境作りをしているだけで、後は絶対に広げまくりたいと思っているじゃないですか、この10年ずっと。ライブハウスで5人、10人の前で何となく楽しくやり続ける事を別に否定はしないですけど、古舘君の場合は絶対にそういうタイプの人ではないですから。

そうですね。広めるのは諦めきれないです。ミュージシャンなんで。意地になっている感じではないですけれど、やっぱり広めていきたいですよ。無人島でもやれるミュージシャンの人もいて、それはそれで素敵だけど、僕は出来ない。どんだけ好きな音楽を鳴らしても、そこには意味を見いだせないんですよ。人に僕の気持ちをわかって欲しいし、僕も人の気持ちをわかりたいし。だから、コロナ期間中は何にもピンと来なくて、楽しくなくて、先が見えなくて。まぁ、それは今もですが。

ーー自粛期間中は誰にも会えないですし、フリーで観てもらう事以外の発信方法を見つけられなかったら、そうなりますよね……。だからこそ、こないだのオンラインライブの1曲目の歌い出しに爆発した感情が溢れ返っていてグッときたんです。

その感覚は確かにありました。目の前にお客さんはいなくて、観ている人の人数と、その人たちからのコメントしか見えないオンラインライブなのに、歌い始めてからの高揚感が凄くあって、喜びも大きかったですね。音響だって普段のライブハウスと比べると決して良くないし、本番始まる前はかなりヤバくて、ライブ3ヶ月もしてないのに声が出るかなとか、歌えるかなとか、色々思いましたけど、駄目元の気持ちでやっちゃうしかないですから。それと実際のライブより、時にはお客さんのリアクションが見えやすいんですよ。生のライブでは、例えワンマンでもシャイなお客さんはいて、楽しんでいる感じを見せない人もいるんです。別にみんな手を挙げて観るのが正しいわけじゃないですけど、やっぱり、その人の心がダイレクトに見えない事があるんです。でも、オンラインライブだとシャイな人もメッセージをコメントで届けてくれる。僕が歌っている時にもメッセージが送れるわけだし、僕も歌っている時でも、そのメッセージが見れるんです。それは面白かったですし、実際のライブよりリアルな気持ちが伝わりましたね。例えるならば、ライブハウスだと、僕が歌っている時にお客さんたちの上にメッセージがバーっと流れて見える漫画みたいな感じ(笑)。そこは本当に新鮮で面白かったです。

ーー1曲目がThe SALOVERS時代の「仏教ソング」という約8年前の楽曲だったというのも、爆発した感情が伝わってきた、ひとつのポイントかなと思うのですが。

「仏教ソング」は意図的に選んだ感じですね。この期間と歌詞が被るものがあったんです。自分で選びましたけど、意外だなとは思いますし、久しぶりに歌いましたね。「仏教ソング」ってサブスクで聴けないので、それならせっかくなのでやりたいなというのもあったんですよ。

ーー昔の曲って、昔と今じゃ聴こえ方が変わったりするものですか?

昔の曲は時を経て、今より俯瞰で聴けるようになりましたね。当時は主観しか無かったです。まぁ、こっ恥ずかしいと思ったり、「何やってるの?」と思ったり、「めっちゃいいな!」と思ったり、「こんなの推し曲にしてたの?」とか色々思って、全部の曲に対して面白くて笑っちゃいます。こういう感覚は、曲を作っている人間の特権なんでしょうけど。

ーー僕も、ただ単に懐かしいから良かったというわけでは無くて、当時にも現在にもある古舘君の悶々鬱屈とした怒りや悲しみというか、そういう感情が込められた楽曲のひとつが「仏教ソング」というのもあって興奮したんだと思うんです。

最近はどちらかと言うと、怒りというより虚無感の方があって。そこは歌いたい内容が昔から変わってきていますね。でも、怒りも滲み出ているのかな……。そんなに怒りは意識した事ないですけど、基本的に感情をひとつだけ切り取るのはつまんなくて。楽しそうだけど悲しいとか、怒っているけど優しいとか、2個セットで感情を混ぜるのが好きなんですね。今はお客さんと繋がっている優しい時間というのと、後はライブをしたいという気持ちの融合です。その中間地点が『#オンラインライブハウス_仮』でのライブに集まっている感じですね。

ーーまた、6月17日(水)と19日(金)に短期間で2回、『#オンラインライブハウス_仮』でライブがありますよね。

具体的に先々のスケジュールって、今わからないじゃないですか。急転直下で状況が色々と変わっていくので、そこは考えながら、次のスケジュールをどんどん組んでいこうと思っています。実際、Vol.1のときは、まだ全国各地が完全なる緊急事態宣言真っ最中でしたが、今、解かれている。かといって、来月再来月となると、また変わる事もあるでしょうし、臨機応変にしていかないといけないですよね。もちろん早く実際のライブハウス会場でしたいですし、家でライブを観れる事に今後どこまで価値を見いだしていけるかも、まだ見えてないですから。心置きなくライブハウスで楽しめる時が完全なる復帰の時ですから。

ーーライブハウスでの楽しみ方も変わらざるを得ない状況ですもんね。

そうですね。メンバー間にアクリル板があるとか、お客さんとの間に距離があったりというのは試みとしては大切ですけど、心が普段の生活から解放される場所がライブハウスなのに、その場が一番の不安を与えないようにしないとなと思います。今後どう乗り切っていくかですし、今日から完全にライブハウスでライブをやれるとなったとして、もし第2波が来た時に、この『#オンラインライブハウス_仮』が存在してくれているというのは心強いですね。しかも、これを割と早いタイミングで出来たのは良かったと思います。気付いたら歳を取っていくなか、新しいことが出来ないおじさんになるのが嫌だったので、まだ新しい挑戦が出来るのは嬉しいです。普通のライブなら、自分がやる前にも他の人のライブを観た事があったので、イメージが出来ましたが、オンラインライブハウスは他の配信を観た事が無かったので、どんなものか全くわからなかった。そこを怖がって飛び込めないよりは、飛び込めて本当に良かったです。リスキーではありましたけど、リスクを冒さない為に生きているわけじゃないですからね。

ーー昔から、そういう古舘君の向こう見ずな感じが好きだったんです。決して守りに入らないというか。

昔から破壊と再生好きの人間なんです。4月で29歳になったんですけど、年々ルーティンにはまっていってしまう感じはあったんですよ。古臭いロックンロールはむちゃくちゃ苦手だし、そこに陥るのは好きじゃないんです。ロックに縛られて生きていく事って、どんどんロックからかけ離れていくんですよ。そこに対する恐怖感は常にありました。でも、オンラインライブって、「ロックっていうのは、この目で生で観れるもんだろ?!」みたいな感覚とは真逆ですよね。だからこそ、新しくなっていく時代の中で、オンラインライブをやりたかったんですよ。みんなが早いペースで色々な事をやるなかで、僕は行動が遅かったですが、決して闇雲にやれなかったし、考える時間が必要だったんです。やはり簡単にワンクリックやスイッチオンするだけで観れるフリーライブをやる事は出来なかったですね。

ーー昔から古舘君は古き良きロックンロールをしっかりとルーツに持っているイメージが僕にはあって。だけど、もちろん、そこに今の新しい時代の良さを加えていってるし、ちゃんとオリジナルのロックンロールを鳴らしているのが本当にカッコ良いんです。

どこかで、そういう時代の、いわゆる昔の音楽は好きだからこそ、抗いたいというのがあるんです。そりゃあ、性根で言うと、最先端のものより古き良きものの方が好きですよ。だからこそ、真似せずに否定していきたいんです。

ーー以前、90年代カルチャーの豪快さについて話してくれた事があったんですけど、そこの良さを感じてくれているのも嬉しかったんですよ。

この自粛期間でYouTubeやZoomとかが活発になって、90年代とかにテレビやラジオでバァ~っとやっていたカルチャーが、ネットでリバイバルするような気もするんです。

ーーそうなると、当時のカルチャーの良さを感じている古舘君は、より爆発力を発揮して、新しいカルチャーを生み出して、多くの人に広げていくと思います。

(ムーブメントは)20年周期とか言いますけど、その回転は常に見ていますし、自分の番が必ず回ってくるとは思っているんです。というか辞めていない人はみんな、そう思っているんじゃないですかね。もちろん待っているだけじゃ駄目ですけど、必ず出番は来ると思うので。

ーー古舘君の場合は待っているだけではないですからね。ライブをしていない時期はあっても、ずっと誠実に今後の事について、悩みもがいているわけですから。でも、その期間、表現としての発散を全くしないのは大変じゃなかったですか?

文章を書く事だけはやっていたんです、小説的なものですけど。それだけですね、やっていたのは。結構長いのを書きたかったので、コロナ期間中の発表は考えていなかったですけど。みんながいろんなことをダイレクトに、早くやるのであれば、僕はじっくりと1年後、2年後に作品を発表したいと思っていて。でも小説を書くのも2ヶ月が限度で、その頃にちょうど誘ってもらったオンラインライブハウスにようやくしっくりきた感じでした。

ーーその小説は、まだ完成はしてないという事ですか? 連載的にこまめに発表する事は考えなかったですか?

完成もしていないし、単純にあれなんですよ、こまめに出すと読んだ人のリアクションが来るじゃないですか? それで嫌になっちゃうんですよ。多分それだと3ヶ月か4ヶ月しか続かないから、それならリアクションをこまめに求めるんじゃなくて、最後まで書ききった方が良いなと。

ーーさっき向こう見ずと言いましたけど、やっぱり、そういう誠実に自分を追い込んで、表現について真摯に考えていくところが、とても信用信頼できるんですよ。

誰かに頼まれてやっているわけではないですからね。自分で選んでやっていますから。誰かにお願いされてやっていたらつらいですけど、自分で選んでやっているので、ある意味、自業自得なんですよ。

ーーでもね、かなりの茨の道を選ぶタイプだと思うんですよ。

結構、僕矛盾だらけで、めちゃくちゃ合理的でせっかちに考えるくせに、逆にややこしく遠回りしたりするんです。楽な道と茨の道があったら、茨の道を選ぶんですけど、合理的だから茨の道に対して苛つきもするんですよね。

ーー何なんでしょうね、その悪戦苦闘な感じは。

悪戦苦闘、今はみんなしているんでしょうし、僕なんかより正面からパンチを食らった人もたくさんいるでしょうし、こっからという世代の人は中々キツイなと思います。前にメジャーにいた20歳とかのタイミングに、こんな事が起きていたら、完全に精神が病んでいましたよ。この10年で色々と身につけたからこそ、不死身になれたというか。だから、もろにパンチを食らわず、立ち上がれるんです。それに一番デカいのは人との出会い、繋がりですし、そこには恵まれているので、とても助けられています。ひとりだと何もやらなかったですから。だから、今、僕は乗り切れる気満々ですよ。あと、ドMなんで燃えてきていますし(笑)。今は楽しみしかないです。

ーー今日は本当にインタビューが出来て良かったです。ありがとうございました。

僕も、いつぶりかというくらいのインタビューだったので、自分の中で整理がつきました。それに結局、人に伝えたい事って、自分に言い聞かせている事なんですよね。

古舘佑太郎

古舘佑太郎

取材・文=鈴木淳史    

配信情報

古舘佑太郎 弾き語りONLINE LIVE “A Live vol.2”
オンライン_心斎橋JANUS
6月17日(水)開場:19:30  開演:20:00 終演:21:30予定
前売り3500円(税込)70名限定
 
オンライン_下北沢SHELTER
6月19日(金) 開場:19:30  開演:20:00 終演:21:30予定
前売り3500円(税込)70名限定
 
シェア / 保存先を選択