全国小劇場ネットワークによるクラウドファンディング残り1カ月!「小劇場があることの意義や価値をより認識してもらえたことに感謝」
全国小劇場ネットワークによるクラウドファンディング
全国には民間の小劇場が数多く存在する。それらの小劇場は地域の演劇を支え、劇団を育み、またそれぞれに独自の取り組みを行うことを通じて地域にはなくてはならない文化の拠点となっている。そんな全国の小劇場によって2017年12月に発足した「全国小劇場ネットワーク」(2020年5月現在、19都道府県36劇場が参加)が、新型コロナウイルスの影響を受けた小劇場の、次なる活動に向けた支援を掲げたクラウドファンディング(以下、CF)を実施している。その意図や思いを、横浜市・若葉町ウォーフの山田カイルさん、京都市・THEATRE E9 KYOTOの蔭山陽太さん、那覇市・アトリエ銘苅ベースの当山彰一さんに聞いた。
蔭山 全国小劇場ネットワークは、それまで全国に数ある小劇場が情報交換、状況共有する動きが少なく、「ぜひそういう場を」という制作者の野村政之さん(全国小劇場ネットワーク現代表)のお声がけで始まりました。E9は開館に向けてちょうど資金集めをしている最中でした。
当山 2017年にアトリエ銘苅(めかる)ベースで第1回目の会議をやらせていただきました。アトリエ銘苅ベースを開く2年前から、当時(公財)沖縄県文化振興会で私たちの支援を担当してくださっていた野村さんの紹介で、全国の小劇場を視察させていただいて。開場の折に、感謝を伝えたいと思い、皆さんを沖縄にお呼びできないか野村さんに相談したところ「全国小劇場ネットワーク会議」を提案してくださいました。
山田 2回目の会議は若葉町ウォーフでした。
蔭山 3回目がE9で、「全国の民間小劇場で新しいマーケットをつくろう」というプロジェクトを始めることになりました。これまで多くの演劇やダンス作品は公的な助成を得てツアーを行ってきましたが、そうしたものに頼らなくても恒常的にツアーができる仕組みを考えようと動き始めたところでコロナ問題が起こったんです。このネットワークの将来に向けたプロジェクトを実現させるために、CFを立ち上げようと。これが大まかな流れです。
蔭山陽太さん
THEATRE E9 KYOTO
■支援に込められた思いを、さらに力に変えていく
――演劇界でもいろんなCFが行われていますよね。
蔭山 われわれの中でもやるべきかどうか、さまざまな意見がありました。CFがこれだけたくさん立ち上がっているのは、日本では芸術に対する公的支援が少なく、その厳しい状況が映し出されている結果だと思います。われわれとしてもできるだけ公的助成に頼らないという考え方がありましたので、CFはそういう意味で自然な流れではありました。緊急支援が必要な状況はどこの小劇場も一緒ですが、再開した先に向き合っている劇場への支援をお願いしています。
当山 ネットワークはその名の通り全国の小劇場が集まっており、状況を共有しやすいのと同時に、僕らもとても刺激を受けています。
山田 現実的に公的助成がある場合も、そこで成立している企画は首都圏に集中していますよね。人もお金も東京に集中していて拡散しないという問題が普段からあって、それがコロナ禍でますますはっきり見えてきたように思います。
――CFの手応えについては、どう感じていらっしゃいますか?
山田 本当にありがたいです。目標額の90パーセント近くまで来ていますし(6月半ば)、ゴールの先の話ができる幸せな状況です。
当山 寄付してくださる方が誰もいないという日がない、そういう状況がずっと続いていることをとてもありがたく感じています。地域の小劇場を心配してくださっている方がたくさんいらっしゃることがうれしいですね。
当山彰一さん
アトリエ銘苅ベース
蔭山 普段から劇場に来てくれるお客さんだけでなく、まちの方々が劇場の存在を意識して支援をしてくださっている。今回のことで地域とのつながりを改めて感じます。ライブハウス、ミニシアター、小劇場と「場」が注目されたことで、われわれが存在する意義や価値をより認識してもらえたというか。本当にありがたいですし、その関係をこれからもっと力にして活動していかなければと身が引き締まります。
山田 いろんな方に支援をお願いしましたが、多くの方々が「民間のアート活動がこのままでは失くなってしまう」と危機感を共有してくださっていました。普段は劇場やライブハウスに通ったりしていなくても、文化的なことがあったほうがいいし、人生を豊かにするものだと思ってくれている。新型コロナウイルスによる影響は僕らには荒療治ですけど、そういう皆さんの思いが見えるきっかけになりました。
――緊急事態宣言中、あるいはその後、劇場として行ってきたことがあったら教えてください。
山田 若葉町ウォーフでは、黄金町エリアマネジメントセンターとのつながりもあり、そちらを拠点に活動するアーティストさんにお願いして、コロナの記憶を留めようと劇場の壁に絵を描いてもらっているんです。今後もそれを残したまま上演空間として使っていきます。それから代表の佐藤信が制作スタッフと毎週火曜の夜にYouTube配信をしています。地域という意味では、近隣に映画館などの文化施設が多く、アーティストやデザイナーもたくさんおり、そういう方々が集まって近況を共有するミューティングをやっています。いろんな課題を出し合って地域ぐるみで考えようという場です。
山田カイルさん
若葉町ウォーフ
当山 沖縄では沖芸連(沖縄県芸能関連協議会)がアンケートをとって行政に要望を出したりしていたんですが、フリーの俳優とダンサーの回答がわずかしかなかったんです。沖縄は伝統芸能が強いので、フリーの人たちは自分たちが対象だとは思っていなかったんです。とにかく彼らにも声を上げてほしくて改めてお願いしたところ、沖芸連が270の回答を得ていたところ、僕らは221を回収しました。それを添えて那覇市長宛に公共ホールの減免措置に関する要望書を提出しました。そうすると宜野湾市の市議さんから芸術を絶やしてはいけない、宜野湾市にも要望を出してほしいという声がかかりました。そうやって地元でもつながりが広がったことはうれしいですね。
蔭山 E9は、サポーターズクラブ会員やメルマガ登録していただいている劇場のお客様、広報宣伝にかかわるリスト、E9のYouTubeチャンネルなども活用した仮想劇場「THEATRE E9 Air」を立ち上げ、映像配信に限らず、「劇場を使わない企画」を募集してプロジェクトを実施しています。オンライン=デジタルというイメージができ、国や行政の助成も舞台映像のデジタル配信という枠組みに重点が置かれています。それもいいんですが、アーティストが必ずしもデジタルで表現しなければいけないということではありません。こうしたアナログな活動がリアルな劇場につながってほしいと感じています。またE9の技術スタッフやアーティストたちが劇場再開に向けた企画を考えてくれて、お客さんが一人の公演、二人の公演、5人、10人、20人と増やし段階的に劇場を使うプログラムを6月から始めています。
■改めて社会とのコンセンサスを得る活動こそが重要
――再開に対するイメージをそれぞれどう考えていらっしゃいますか?
蔭山 そこはネットワーク会議でも常に議論になります。何を基準にすればいいか、いつも悩むところです。コロナのリスクはどんなに頑張ってもゼロにはならない。もし感染者が発生したとき、社会との関係の中でどうコンセンサスを得るかが大事だと考えます。対策をしっかりやっていたのだから仕方がないとなるのか、無理してやったから出たじゃないかとなるのとでは、その後の地域での劇場のあり方が変わってくる。2メートル離すとか、千鳥格子にするとか、座席の取り方もさまざまな科学的根拠をもとに話されていますが、とりわけ小劇場は、地域社会とのコンセンサスを丁寧に踏んでいくことこそが大事なんです。
先日ネットワーク会議で韓国の劇場の人たちから、劇場自ら感染防止の取り組みをとても丁寧に、積極的に発信していることを聞きました。対策の内容はわれわれとさほど変わらないけれど、発信し続けることで地域や市民との信頼関係をつくっている。それはとても参考になりました。そのためには時間がかかりますから、問題は経営的に耐えられるか。そういう意味で、今回のCFは経営を支えるのに使わせていただきたいと考えているんです。
蔭山陽太さん
山田 僕らは7月中には自分たちの事業から始めていこうと思っています。アーティストに続いて、地域の子どもたちにも絵を描きにきてもらう機会をつくり、そこにパフォーマンスを絡めた企画を考えているところです。レンタルはもう少し先になるでしょう。若葉町ウォーフはゲストハウスもやっているので、それも含めて詰めていきます。蔭山さんがおっしゃった発信についてはまさにその通りで、オンラインだけではなく、細かく言語化していくことが大事だと思います。緊急事態宣言が解除されたときに、僕は社会のギアが急速に進んだのを実感しました。ちょっと待てよと。そういう状況に対して言語化する作業はアーティストがやらなければいけないんじゃないかと思います。
当山 7月の第1週に僕の劇団(劇艶おとな団)の公演で再開します。3週目に貸し館がありましたが、そこからスタートするのは怖いので、あえて自分の劇団で幕開けをすることにしたんです。沖縄は1カ月半、感染者・入院患者ゼロです。万が一、感染者が出たらインパクトは大きいですし、きっと大打撃になるでしょう。対策はやりすぎることはありません。
蔭山 E9は年間プログラムを発表しています。もし感染者、感染疑いが出た場合には劇場を一時的に締めなければならないかもしれません。そのときに「自分たちはちゃんとやっているのに、その前に劇場を使った劇団が対策不足だったせいで公演ができなくなってしまった」という話になってしまうと劇場が立ち行かなくなってしまいます。ですから、コロナ感染の責任は個人や団体にはない、お客様も含め全体でリスクを共有しましょうという劇場としての基本的な考え方を個々の団体に伝えているところです。再開を考えると本当にいろんな課題が出てきます。
――最後にいろんな気づき、期待感、不安など話しておきたいことなどをお願いします。
当山彰一さん
当山 先日フェイスブックで劇艶おとな団の公演情報、予約フォーマット、観劇のための注意を合わせて発表したところ、初日で10人、3日で40人というこれまでにないの動きがありました。お名前を見ても初めての方もいらっしゃる。皆さんが待っていてくださったんだという期待を感じます。だからこそ感染防止対策は本当にしっかりやっていきます。
蔭山 よく、「これから世の中がどう変わるか」と話されますよね。東日本大震災、原発事故のときもそうした期待感はありましたが、結局は変わらず、むしろ悪くなった。「どう変わるか」と言っているうちは社会は変わらないと思います。それを劇場に寄せたとき、コロナ以前からあったさまざまな問題、課題をはっきりさせて、確実に解決していく、「これから変えていく」という意思とアクションが大事だと思います。良くも悪くも文化芸術がこれだけニュースになることは今までありませんでした。社会との関係性が見えてきたわけですから、再開に向けたプログラム、日常の活動に具体的に活かしていきたいですね。
山田 本当に僕ら自身が自覚的に変えていかないといけない。今回のことが震災と違うとすれば、徒歩圏内での生活に目を向けなければいけなくなったことが等しく皆さんに降りかかったことだと思います。僕はコロナがきっかけで家の周りにある施設やお店にすごく詳しくなりました。ここにこんな場所があったのかとわかったことで生活が少し変わる。逆に言えば劇場も生活の場になっていくチャンスかもしれません。僕が全国小劇場ネットワークが重要だと思っているのも、徒歩圏内という単位からアート、文化を考えられる可能性を感じるからなんです。
山田カイルさん
■CFは全国小劇場ネットワーク参加劇場の継続と、次なる起爆剤のために
改めて、全国小劇場ネットワークによるCFについて紹介しておく。これはネットワークに参加する劇場が、「今後運営再開となった折、必要となる資金」について支援を募るというもの。「客席数減」「全館の消毒・検温などガイドライン遵守」などさまざまな規制・ガイドラインのもとでの「段階的な再開」では、同じ公演事業でもこれまで通りの収入は得られず、むしろより出費がかさむことになってしまう。また「アフター / ウィズコロナ時代に即した新しい活動の資金需要」も必要になっていくためだ。
CFを通して支援いただいた資金は、一括してネットワークで管理し、早急に支援を必要とする劇場から再開にかかる用途と金額を申請してもらい、それぞれの劇場の申請内容をもとに、ネットワークの合議によって支援可否・金額を決定していくことになっている。さらには、このCFを「一つ目のドミノ」として、新たな活動が伝播していくことを目指して連携していくとのことだ。
寄附募集は7月31日(金)午後11:00まで。