大貫勇輔&永野亮比己が語る、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』の魅力
大貫勇輔(左)と永野亮比己
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が2020年、新たなキャストを迎えて東京・大阪で再演される。本来7月に初日を迎える予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言が出されたため、7・8月の全60公演を中止。万全の予防策を講じた上で、9月11日(金)に初日を予定している。
本作品は『リトル・ダンサー』の邦題で上映された映画(原題『Billy Elliot』)をミュージカル化した舞台。2005年にロンドンで開幕し、翌年ローレンス・オリヴィエ賞で4部門を受賞。08年にはブロードウェイに進出し、翌年のトニー賞で最優秀ミュージカル脚本賞・最優秀ミュージカル演出賞など10部門を制覇。日本では2017年夏に初演がおこなわれ、東京と大阪で17万人を動員し、読売演劇賞審査員特別賞、菊田一夫演劇大賞を受賞した。今回は3年ぶりの再演となる。
物語の舞台は、1980年代の英国北部の炭鉱町。サッチャー政権下で進められた炭鉱閉鎖計画に対して大規模ストライキが起こる中、主人公の少年・ビリーがバレエに魅せられ、英国ロイヤルバレエ団のダンサーになる夢に向かっていく様子を描いている。
今回は、主人公のビリーの未来像で作品中重要な役割を果たす「オールダー・ビリー」役を演じる大貫勇輔と永野亮比己(Wキャスト)に、お互いの印象や稽古場の雰囲気などを語ってもらった。
海外スタッフとは「リモート稽古」
大貫勇輔(左)と永野亮比己
――お稽古はいまどんな感じなんですか。
永野:僕らの「Dream Ballet」(※二幕の後半で、ビリーとオールダー・ビリーが一緒に踊るシーン)に関しては、劇場での稽古も含め、一通り終えました。今はそれ以外のシーンのお芝居や歌、ダンスを随時同時並行している感じです。
――順調ということですね。
大貫:順調だと思います、はい。
――いま、海外のクリエイティブスタッフの方はどうされているんですか?
永野:リモートです。
――カメラが稽古場に置いてあって、見合うわけですか?
大貫:そう。カメラが3台ほど稽古場にあって、その映像を彼らが見て、ダメ出しをする。時々画像が乱れることはありますけど、全く問題なくできています。
――こと、踊りに関しては伝えづらい部分もあるのかなと思うのですが、大丈夫ですか?
大貫:意外と大丈夫で驚いています。前回の初演を経験しているスタッフがいる安心感がそう思わせるのかもしれません。
――本来ならば7月12日(日)が初日でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響等で公演が中止・延期となり、9月の開幕となりました。その点に関しては率直にどうお考えなのでしょう。
大貫:……しょうがないかなというのが一番ですね。もちろん悔しいとか悲しいとかそういう思いもありますけど、この世の中の状況をみると……。むしろ、「それでもやろう」という方向に動けている今に感謝して、全力で取り組もうという思いが今一番強いです。
永野:うん、本当に勇輔と同じですね。「絶対にできる」という期待がもてない状況の中でやっているじゃないですか。多分、どこのカンパニーもそうだと思うんですけど。なので、自分たちでできる限り、徹底して感染対策を行う。キャスト・スタッフ全員でカンパニーとして行う。あとはもう祈りというか。「絶対できるんだ」という祈りをもって日々稽古に向き合うこと。それだけですね。
――稽古場全体として、もちろん感染予防は徹底されていると思うんですけど、雰囲気的には悲壮感が漂うわけではなく、前向きな雰囲気なんですね。
永野:明るいですよ、みんな。子どもたちも大人のキャストの先輩方もみんな明るいし、すごくいいカンパニーだなと思います。
大貫:ただ、マスクをして、フェイスシールドもしているから、音がこもって、声が聞こえづらいんですよ(笑)。自分の声が伝わらなかったり、聞き返すことが結構あって(笑)。みんな元気なんですけど、「んん?」ってなる(笑)。
2代目ビリーたちの仕上がりは...?
――2代目のビリーたち4人の仕上がりは、お二人からご覧になってどうですか?
大貫:前回同様、一人ひとり個性が違うので面白いです。7月から舞台に立っていたはずだったのに公演が中止・延期になった分、「やりたかった!」というエネルギーや熱量をより強く感じるような気がします。
永野:一人ひとり個性も性格も違うし、それぞれが得意とする分野が違います。だからこそ「四者四様」というんですかね。それぞれの見所があります。人としてもとてもいい子たちですよ。
大貫:そうだね。
永野:僕も一緒にやっていて、いろいろなことを彼らから学びます。早く観たいですね。Wキャストなので、自分がお客さんとして、彼らのビリーを観てみたいなという思いがすごくあります。
――お稽古の中で、ビリー に聞かれて印象的だったことや、ビリーたちとのエピソードなどあれば教えてください。
大貫:「Solidarity」というシーンは、ビリーがはじめてバレエを習ってから、ちょっとずつ時間が経過をしていき、最後にウィルキンソン先生がビリー の可能性を感じて終わるシーンなんですね。だけど、みんな、1発目から可能性が出過ぎていて(笑)。
永野:そうそう、もっと“汚くして”、みたいなね(笑)
大貫:逆に言えば、みんながある意味苦しむのは、出来すぎてしまうこと。これは成長物語なので、成長の過程を見せていく必要があるので。
永野:ミュージカルだからね。僕もずっとダンス畑で来ていて、劇団四季ではミュージカルをやってきたんですけど、いち役者としてそこに存在しなくてはいけないんですよ。ダンスなど一つの分野がずば抜けていても、ミュージカルなので、歌・ダンス・芝居の三種の神器がバランスよくできないといけない。そのなかで、それぞれの特性が生かせるシーンで、思い切りやればいいと思うんですけど、得意分野だけになってしまうといけない。ミュージカル俳優であるためには、3つの分野をきちんと同じ水準まで持っていかなくてはいけない。それが、僕らの仕事なのかなと思っています。
――もしお二人が今10歳ぐらいの少年だったら、『ビリー・エリオット』に出演したいと思いますか?
大貫:今の自分が10歳だったら出たいなと思いますね。だけど、過去の10歳の自分だったら絶対出ていないと思います。僕はダンスが一番好きだったので、小さい頃は、突然、歌い出たり、喋り出したりするミュージカルが理解できなかったんですよね。小さい頃はというか、僕は23歳までそういう感じだったんですけど(笑)。だけど、今だったらぜひオーディションを受けたいと思いますね。こんな素晴らしいビッグチャレンジ、ビッグチャンスはないと思うので、一度はチャレンジしてみたい作品ですね。
永野:僕は12歳の頃にジャズダンスを始めました。その頃は柔道や水泳をやっていて。テレビやショーを観て、ふざけて踊っていることはあったんですが、きちんとお稽古やレッスンをしていたわけではなかったので、受けなかったかなぁ。
僕の家も堅い仕事をしている家系でもあったので、最初は芸事に対する理解というのがあまりなかったのですが、母だけはずっと応援をしてくれていましたね。そして、僕がある程度仕事をして結果が目に見えるようになっていくと、具体的にこういうことをやっているんだよと言えるようになりました。今では家族全員が全面的に応援してくれています。
互いの印象は「まっすぐに進んでいく人(大貫)」「刺激をくれる良き仲間(永野)」
大貫勇輔(左)と永野亮比己
――オールダー・ビリーはまさにビリーの未来像です。お役についてはどうですか。どういう心構えで演じられているのですか。特に大貫さんは初演から出演されていますね。
大貫:僕は初演の時と少し変わって、作品全体のことを考えられるようになったと思います。初演の時は自分のやることで精一杯だったんですよね。その頃に比べれば、今はだいぶ余裕が出た感じがして、ビリーのあり方、オールダー・ビリーのあり方や、この時の目線はどの方向を向いていればより美しく見えるかなど、いろいろと考えています。
「Dream Ballet」は突然夢を見させるシーンなんです。現実が続いている中で、幻想の世界の中に入り込む。あのシーンがきっかけでお父さんが変わっていく。一人の堅い心の男の心が変わっていくという重要なシーンで、あの瞬間は、リアルに夢を見せなくてはいけない。そのためにはどうしたらいいのか。そこを一番に考えてパフォーマンスや稽古をしています。
永野:「Dream Ballet」に関しては、まだまだ必死ですけど、最初に稽古をした時よりは作品のシーンに対する理解は深まってきました。なおかつ他のシーンも稽古しているので、より「Dream Ballet」の重要性が分かってきました。
――お互いの印象を教えてください。
大貫:実は、今回が初めてではなくて3回目の共演なんですよ。およそ10年前に初めて会ったんですけど、その時から変わらないなと思います。もちろん、小さな変化はあるにしろ、生きるベースや姿勢は変わっていない。まっすぐで、情熱的で、ひたすらまっすぐに進んでいくタイプです。
永野:僕も変わらないと思う。もともと彼をダンサーとして見ていたのですが、最近は声優などにも挑戦しているし、いろいろな可能性を自分の中で見つけ出している。役者・大貫勇輔としての面白い一面が僕の中では見えてきたかな。ダンスができるのは分かっているから、役者としてこれからどう変わっていくか楽しみですし、僕も同じ畑で働いているので、すごく刺激されると言いますか、自分も頑張らなくてはいけないなと思えるいい仲間であり、刺激をくれる良き仲間です。大好きです!
大貫:締めが「大好きです」って(笑)
永野:いやいや、そういう風に思える人って、生きていく上で絶対にいた方がいいと思いませんか。その人を通じて、自分に足りないもの、もしくは、自分の強みなどが分かることもあると思うし。僕は勇輔から学ぶこともたくさんありますし、家庭環境だったり、出身地だったり、ほかにもいろいろな部分で似ているところもあって。だからこそ共感できることがあるし、悩んでいることも分かるんです。
――では、お互いのオールダー・ビリーをどうみていらっしゃるんですか?
永野:勇輔は前回やっていたからこそ、全体の作品の中でのシーンの理解が深い。だから、このシーンの前のビリーはどうだったかな、この後はどうなるのかな、と情景が浮かんでくる。僕は完全に初めてなので、とにかく盗めるところは盗んでいこうと思っています。勇輔も躊躇わずアドバイスをしてくれるので、すごく面白いし、ありがたいです。
大貫:「Dream Ballet」の稽古初日に、すぐに椅子のシーン(※椅子を片手で回しながら踊るシーンがある)ができるようになったんですよ。本当に衝撃でした! 自分では大変だと言っているんですけど、ものすごいスピードでできるようになっていて。
初演の時、僕がどれだけ苦しんだことか!(笑)その苦しみを知っているからこそ、上達の速さにビビりましたね。この作品をよくしたいという思いもあるし、自分が初演で苦しんだからこそ、こう言ってほしかったというアドバイスは伝えたりしましたね。
きっと人生を変えるミュージカル
大貫勇輔(左)と永野亮比己
――作品全体で好きな場面や曲などはありますか?
永野・大貫:「Grandma's Song」!
大貫:2人とも同じなんですよ。雰囲気も音楽も振付もすごく好きなんですよね。なんていうのかな、ノスタルジックで夢見心地で……。
永野:ロマンティックだよね。ロマンティックで、センチメンタルで、どこか哀愁もあって。ちょっとどこかシュールな部分もあって。
大貫:あとは「Dream Ballet」から、ビリーのお父さんが心変わりしていく流れがすごく好きですね。いつ観ても泣いちゃう。
――最後に、初日を迎えるにあたって、お客様に一言、お願いします!
大貫:今のこの時代にあった作品で、小さい子どもからおじいちゃん・おばあちゃんまで、世代を超えて楽しめる作品です。家族の愛の話だったり、仲間の話だったり、子どもの夢、成長の物語ですし、本当に幅広い人たちに観てもらえるミュージカル。僕はこのミュージカルで人生を変えてもらったので、観に来てくれた人たちの人生が何か少しでも変わるきっかけになってくれたらなと思っています。本当にたくさんの方にみていただきたいです。
永野:この作品を観て、全く新しいことを始めたり、新しい考え方を持つようになったりする人もいるかもしれません。コロナ禍のなかで、「ぜひ観に来てください」と言えることが果たしていいのかどうなのか、いろいろな部分で迷ってしまうところもあったんですけど……この作品に関しては、なんとしてでも、絶対に観てほしい。胸を張って言えますね。ぜひ一人でも多くの方に観てほしいです。
取材・文・撮影=五月女菜穂
公演情報
ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』
川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿/益岡 徹 橋本さとし/柚希礼音 安蘭けい
根岸季衣 阿知波悟美/中河内雅貴 中井智彦/星 智也/大貫勇輔 永野亮比己
森山大輔 家塚敦子 板垣辰治 大竹 尚 大塚たかし 加賀谷真聡 齋藤桐人 佐々木誠 高橋卓士 辰巳智秋 茶谷健太 照井裕隆 丸山泰右 倉澤雅美 小島亜莉沙 竹内晶美 藤咲みどり 井坂泉月 井上花菜 出口稚子
河井慈杏 菊田歩夢 佐野航太郎 日暮誠志朗 小林 桜 森田瑞姫 森田 恵
北村 栞 下司ゆな 咲名美佑 佐藤凛奈 髙畠美野 並木月渚 新里藍那 古矢茉那 増田心春 柳きよら
石井瑠音 高橋琉晟 大熊大貴 豊本燦汰 西山遥都
<ロンドンオリジナルスタッフ>
■脚本・歌詞:リー・ホール
■演出:スティーヴン・ダルドリー
■音楽:エルトン・ジョン
■振付:ピーター・ダーリング
■美術:イアン・マックニール
■演出助手:ジュリアン・ウェバー
■衣裳:ニッキー・ジリブランド
■照明:リック・フィッシャー
■音響:ポール・アルディッティ
■オーケストレーション:マーティン・コック
■公演期間・会場:
【東京公演】9月16日(水)~10月17日(土)TBS赤坂ACTシアター
【大阪公演】10月30日(金)~11月14日(土)梅田芸術劇場 メインホール
※イープラス貸切公演=11月3日(火祝)17:30
〇大阪公演:9月12日(土)
■公式サイト:https://www.billyjapan.com/
1984年、炭鉱労働者たちのストライキに揺れるイングランド北部の炭鉱町イージントン。主人公ビリーは、炭鉱労働者の父と兄、祖母の4人暮らし。幼い頃に母親は他界してしまい、父と兄はより良い労働条件を勝ち得ようとストライキに参加しているため、収入がなく生活は厳しい。父はビリーに逞しく育って欲しいと、乏しい家計からお金を工面し、ビリーにボクシングを習わせるが、ある日、バレエ教室のレッスンを偶然目にし、戸惑いながらも、少女達と共にレッスンに参加するようになる。ボクシングの月謝で家族に内緒でバレエ教室に通っていたが、その事を父親が知り大激怒。バレエを辞めさせられてしまう。しかし、踊っているときだけは辛いことも忘れて夢中になれるビリーは、バレエをあきらめることができない。そんなビリーの才能を見出したウィルキンソン夫人は、無料でバレエの特訓をし、イギリスの名門「ロイヤル・バレエスクール」の受験を一緒に目指す。一方、男手一つで息子を育ててきた父は、男は逞しく育つべきだとバレエに強く反対していたが、ある晩ビリーが一人踊っている姿を見る。それは今まで見たことの無い息子の姿だった。ビリーの溢れる情熱と才能、そして“バレエダンサーになる”という強い思いを知り、父として何とか夢を叶えてやりたい、自分とは違う世界を見せてやりたい、と決心する。11歳の少年が夢に向かって突き進む姿、家族との軋轢、亡き母親への想い、祖母の温かい応援。度重なる苦難を乗り越えながら、ビリーの夢は家族全員の夢となり、やがて街全体の夢となっていく……。