サカナクションが提示する配信ライブのカタチ ものの見方が変わった世界に音楽はどんな力を持てるのか?

レポート
音楽
2020.8.19
サカナクション

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SAKANAQUARIUM光
2020.8.16(SUN)関東近郊 某所

常に新しいライブ様式を提案し続けてきたサカナクションが、配信ライブという現在のトレンドにどのように挑むのか。2020年8月16日、サカナクション初のライブストリーミング公演『SAKANAQUARIUM 光』。事前情報では、日本のオンラインライブでは初となるドイツのクラング・テクノロジーズ社による3Dサウンドの導入という、オーディオにこだわる彼らならではの試みがあるらしい。延期になったツアーからおよそ半年、ものの見方がすっかり変わってしまった世界に対して音楽はどんな力を持てるのか。午後7時10分、期待に満ちた幕が開く。

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オープニングから、凝っている。夜の路上に一人たたずむ山口一郎。どこからか音楽が聴こえてくる。ゆっくりと歩きだし、イヤーモニターを装着、倉庫のような扉を開けた瞬間に音と光が一気にあふれ出す。すでに演奏を始めたバンドに加わり、おもむろに歌いだす――曲は「グッドバイ」。白ずくめの衣装とオレンジの光の鮮やかなコントラスト、噂通りのハイファイな音の良さに思わずニヤリ。胸高鳴るスタートだ。

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「マッチとピーナッツ」はリキッドライティングという手法を駆使したサイケデリックな画像処理で刺激たっぷりに、「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」はカーテンのように広がり揺れるレーザービームの下で幻想的に、「ユリイカ」はモノクロームの都会の風景を背後に映してスタイリッシュに。曲ごとに変わる演出が秀逸で、音、光、映像の完璧なシンクロに目と耳を奪われる。音の良さと精密な演奏のせいでライブ演奏に聴こえないほど、すべての面でクオリティが高い。

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序盤は軽やかなシティポップやクールなダンスミュージック調の楽曲が続くが、「ユリイカ」の終盤から徐々にテンションが上昇し、「ネイティブダンサー」では山口が手を左右に大きく振り、見えないオーディエンスを煽りはじめた。「ワンダーランド」はさらに熱量を上げ、通常のライブ映像ではありえない、めちゃくちゃにバグった画像処理で視神経がぐらぐら揺れる。一転して「流線」はシンプルな灯り一つ、静と動とが劇的に入れ替わるサウンドの中で、岩寺基晴が最高にエモいギターソロを決め、江島啓一が鬼気迫る形相でスネアを引っぱたく。ライブ会場の熱気が、PCの画面を突き抜けてこちら側をぐんぐん浸食してくる。

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「茶柱」に合わせる照明は、はんなりとした和風のフロアスタンド。岡崎英美の凛としたピアノの音色と、草刈愛美がアップライトベースを弓で弾く、太く柔らかい音色がとてもいい。星空と雨のしずくとかわいらしい女の子の映像が、たおやかな浮遊感覚あふれる「ナイロンの糸」のサウンドによく似合う。「ボイル」は江島の知的で精密なドラミングが心地よいなと思って聴いているうち、突如背後の壁が割れてすさまじい量の光とスモークがあふれ出す――。

サカナクション

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「家族と見ている方、友達と見ている方、恋人と見ている方、一人で見ている方。今日は一緒に踊りましょう。夏フェスはなくなっちゃったけど、今日ぐらいいろいろ忘れて一緒に楽しみましょう。踊り倒して、一緒に夜を乗り越えましょう」

この日初めての山口のMCは、簡潔に誠実に。さあ次は……と思った途端に画面が急転、ここはどこだ? 瞬間移動で山口が現れたのは、なんとも昭和の匂いのするカラオケスナック。客とホステスと共に歌い踊る、いなたいディスコチューンは「陽炎」だ。バンドはテレビの画面の中で演奏している。どこのロックバンドがこんな妙な演出を考えるだろう。かっこいいけど笑わずにはいられない、実にサカナクションらしいシュールな展開が楽しい。壁際にさりげなく飾られた、「スナックひかりさんへ」という色紙がおかしい。とあるバンドマンの名前もあったりして、芸が細かい。

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再び瞬間移動で、まあ種明かしをすれば「スナックひかり」のすぐ隣のステージへ戻ると、ここからはアリーナ級のパフォーマンスへと一気にパワーアップ。レーザービームがひっきりなしに飛び交う爆音ロック「モス」から、和装の踊り子と共にあでやかに歌い舞う「夜の踊り子」へ。みんな大好き「アイデンティティ」は強力なパーカッションのトラックと共にぐんぐん盛り上げ、間髪入れず「多分、風。」の、EDMとロックとのめくるめくミクスチャーへ。サカナクションの楽曲構造は、ロック、EDM、複雑なコーラスなどが重層的に重なり合う、対位法のように緻密に計算された、体にも頭にも心地よく刺激的なものだ。「ルーキー」では、岩寺と草刈がスネアドラムをパーカッションのように叩きまくるパフォーマンスで盛り上げる。オーディエンスがいれば大歓声でかき消されるところだが、どこまでもクリアに響くオーディオテクノロジーが素晴らしい。

サカナクション

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またもシーンは一転、サングラスにヘッドホン、PC台を前に置き5人が横一線に並ぶクラフトワークスタイルで演奏された「ミュージック」の、CGによる微粒子が飛び交う画像エフェクトがかっこいい。「新宝島」は白と黄のポンポンを持った可愛すぎるチアリーダーがステージを占拠し、山口もノリノリで振付け踊る。リードギターを弾く岩寺がポンポンの中でもみくちゃにされて笑っている。クレーンを使ったダイナミックな映像が、前後左右、上空からもバンドを狙う。これは確かに生のライブだが、計算されたカメラワークとの見事な連携で、生でありながら作りこんだライブ映像作品としてのハイクオリティを併せ持つ。確かなエンタテインメントとアートの思想が、全編通して貫かれている。

「まだまだ普通にライブがおこなわれる状態ではありませんが、わくわくすることがないと面白くないですからね。チームサカナクション一丸となって、これからもチャレンジしていきます。今夜が忘れられない夜になったことを祈っています」

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あふれだす白いスモーク、降り注ぐ青い光、舞い落ちる銀の紙吹雪がキラキラきれいだ。ずっと控えめに微笑んでいた草刈が初めて前に出て思いのこもったソロを弾いた。柔らかいぬくもりあるポップチューン「忘れられないの」は、興奮で沸き立った体温と感情を鎮めるのにぴったりのラストチューンだ。「どうもありがとう、サカナクションでした」――山口が最後の挨拶をする。しかし音は止まらない。テロップを使ったメンバー紹介、そして出演キャスト、スタッフ紹介――エンドロールに流れる「さよならはエモーション」を、なんと生演奏でやってみせるのが、この日この時間にライブを目撃したすべての人へのアンコールの気持ちだったんだろう。

バンドがステージを去り、最後に画面に残したメッセージは「Thank you for all viewers」。およそ2時間で20曲、サカナクションによる新しいライブ様式の提案は、どれだけの人に元気と刺激を与えただろうか。チャレンジし続けるバンド、サカナクションのアイデンティティを配信ライブというフォーマットにしっかりと刻んだ、それは忘れられない真夏の夜の事だった。

取材・文=宮本英夫 撮影=横山マサト

セットリスト

SAKANAQUARIUM光(読み:サカナクアリウム ヒカリ)
2020.8.16(SUN)関東近郊 某所

1、グッドバイ 
2、マッチとピーナッツ 
3、「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」 
4、ユリイカ 
5、ネイティブダンサー
6、ワンダーランド 
7、流線 
8、茶柱 
9、ナイロンの糸 
10、ボイル 
11、陽炎 
12、モス 
13、夜の踊り子 
14、アイデンティティ 
15、多分、風。 
16、ルーキー 
17、ミュージック 
18、新宝島 
19、忘れられないの
20、さよならはエモーション 

配信情報

SAKANAQUARIUM 光
アーカイブ配信 
2020.08.16(日)22:00 ~ 08.23(日)23:59
視聴券 4,500円(税込)
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