羊屋白玉に聞く~SAPPORO DANCE COLLECTIVEが、コロナ禍のアーティストの声をダンスで届ける

インタビュー
舞台
2020.8.28
羊屋白玉

羊屋白玉

画像を全て表示(15件)


生活支援型文化施設コンカリーニョを拠点に、ダンスを通じてさまざまな背景を持つ市民やアーティストが有機的につながり、活動するSAPPORO DANCE COLLECTIVE。「ダンスの作家を育てたい」「振付家を札幌から輩出したい」というNPO法人コンカリーニョ理事長・斎藤ちずの呼びかけで、2018年、指輪ホテル羊屋白玉と札幌在住の6名のダンサーによる小さな試演会とディスカッションからスタートした。そんな彼らが、札幌で活動するアーティストなどの、コロナ禍で発せられた切実な声を題材にしたダンス作品を2020年8月29日・30日にライブ配信で上演する。もう半年も都内の自宅を空け、故郷・札幌に滞在している羊屋白玉に話を聞いた。

SAPPORO DANCE COLLECTIVEのメンバー

SAPPORO DANCE COLLECTIVEのメンバー

――羊屋さんのfacebookを拝見していると、東京から札幌に拠点を移したかのような勢いで活躍されているのが伝わってきます。

羊屋 2月末に札幌でSAPPORO DANCE COLLECTIVE(以下SDC)の公演をやってから、『いちはらアート×ミックス』の打ち合わせのために一度戻りましたけど、その後は帰るタイミングを逸してしまった感じです。予定されていた作品はすべて延期か中止になってしまいましたし。

――北海道の状況はいかがですか? 東京と並んでコロナの感染拡大が早かったですね。

羊屋 はい、時期的に2月の「さっぽろ雪まつり」からと言われていますね。2月後半に北海道に緊急事態宣言が出た直後、SDCのダンス公演が予定されていました。ですからみんなで悩んで、話し合って、公演を中止するのか延期するのかを話し合ったんです。メンバーはダンサーだけで食べている人はほとんどいなくて、ほかの仕事を持っています。学校の先生や大きな企業に勤めている人は特に職場のことも考えなければいけない。みんなバックグラウンドが違うから、それを一つにまとめるのは無理だと思って、「出たい人は出る、出られない人は出ないとするのはどうか」とみんなに聞いたんですよね。公演1週間前、作品は8割がたできているんですよ。でもそんなこと気にしないでいいから自分で決めて、と投げかけたら半分くらいやらないことになったんですね。とりあえず公演はやれたんですが、そのあと道内の感染者が急増してライブハウス、劇場、ギャラリーも補償なき自粛に入りました。

 SDCでは、アーティストの権利と労働環境に関する勉強会も行っていて(Hokkaido Artists Union Studies=HAUS)、3月中ごろ、これは大変だとなったときに、コロナ禍でどれだけのアーティストやスタッフが仕事を失ったか調査したんです。アンケートはおよそ1週間で、札幌だけで5000人を超えました。それまでHAUSの活動は少しずつ進めていこうと思っていたんですけど、アンケートを公表したらいろいろ問い合わせがあったり、意見を求められたり、役所にも提言したり。どちらにしても公演は難しいので、そっちを頑張っていこうかなと思い始めたんですね。札幌や北海道の文化芸術に対してのロビイストとしての活動です。

HAUSのキャラクター、プリニョン

HAUSのキャラクター、プリニョン

――東京だとジャンルごと専門性の高い人同士でコミュニティができ、関係性が深まったりするところがありますが、地域だと違った出会いもありますよね。

羊屋 そうなんです。逆に言えば東京のころは“アート村社会”にいたんだと実感します。そういう意味では地域の方が開けているし、羊屋白玉のことなんか誰も知らないし、すごくいろんなことをやっています。実はそんな流れで、札幌市のホームレス支援センターからスカウトされて、ソーシャルワーカーとして働いています。労災もあります。

――そうでしたか! たしか東京でもホームレスへの行政の対応には目を向けてましたね。

羊屋 作品のリサーチで山谷にも行ったし、アートプロジェクトのために池袋の公園や上野の公園からホームレスが排除されることに文句も言ってきましたけど、それは点だったんですよね。ソーシャリー・エンゲージドな作品をつくっている人たちもいるし、ホームレスの人や障害のある人とのプロジェクトもいっぱいあるけれど、普段から本当に活動している人たちと接すると、それは表層的だったなって。一方で、私の場合はホームレスの人を見ていても、演劇をつくる人の目になっていて、でも職場の先輩たちはそれを面白がってくれる。困窮者支援法なんかも勉強中で、支援として生活保護や家探しも手伝うんですけど、何か問題を解決していくために足りない情報や知恵、やりくりの方法を増やしていくのは演劇も変わらない。今はホームレスとアーティストの人権について考えています。

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

コロナ禍でのアーティストの回答が泣けてくるものばかり

――SDCの作品の話をしましょう。

羊屋 「さっぽろアートライブ」という札幌市文化芸術公演配信補助金に採択されて、無観客で上演して、オンライン配信するんです。北海道には文化情報発信事業「北のアーティスト」スペシャルプログラムという映像配信に対する支援がありました。それに対して5月末に告知された「さっぽろアートライブ」は上演を前提にした補助金で、演劇、ダンス、音楽、伝統芸能など2週間で200件の申請がありました。ところが最初、採択がたった20件で「え〜」となったんです。それで補助金が追加され、採択も100件になり、私たちも通りました。

 でも支援なのに半分も落ちてしまう状況が何なんだろうと思うんです。誰が選んだのか、どうして選ばれたのかもわからない。文化芸術を応援してくれる議員さんが、役所の人たちと情報交換をする会を設定してくれたので、そこでいろいろ話してこようと思っています。札幌市の文化部には円卓会議をやってきた歴史があるのだから、もっとそれを活用すればいいのに。裏でやっている札幌に特化したロビー活動が逆に作品みたいです、すごくサイト・スペシフィック(笑)

――いろいろ思うところがありそうですね。今度のダンスは、札幌を拠点とするアーティストの、コロナ禍で発せられた切実な声を使うそうですね。

羊屋 5月にもアーティストの実態調査をやったんですけど、アンケートの返答は1000人を超えたんですよ。福岡や京都と連携して、北海道教育大学岩見沢校で文化政策を研究している先生によるアンケートづくりにアーティストも協力して。その自由回答が泣けるんです。そして同時に、改めて相談窓口も重要だなって思いました。HAUSにも芸術系の大学生から「施設が使えない、どうしたら良いだろう。何かしたいけど」という相談もあって調査に入ったんですが、なんとか続けてきてよかったと思います。

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

――改めてSDCのことも教えていただけますか(笑)。

羊屋 私は2018年にゲストディレクターになりました。もはや一人の天才振付家がいて、その下にダンサーがいるカンパニーの時代じゃないでしょ?  トップダウンではなくてネットワーク型、水平の人間関係でみんながアイデアを出し合ってつくっていくというようなことができないかと提案してコレクティブになったんです。とは言え、なかなか最初はコンセプトは私が出さなければいけなかったりしました。2018年は移民というテーマを予定していたんですけど、北海道地震で43時間の大停電があり、その経験をもとに作品を制作することになりました。今年の2月末の公演はお話しした通りですが、このときに自分で決めていいというようなことも含めて、みんなの中で、コレクティブという意味合いが納得できたようなんですよね。今回もコンセプトを投げかけた上で集まりたい人は集まろうというやり方でした。申請書を出す関係で私が考えたコンセプトが、5月に集めたアンケートの声、それを舞台に登場させたいなということでした。

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

――作品として記録しておくことにすごく共感します。

羊屋 札幌には昭和52年から平成14年までかけてつくられた「さっぽろ文庫」が100巻あるんです。タイトルは札幌の山、札幌の植物、札幌の自然、札幌のすすきの、札幌の演劇もある。1巻の中に、専門家の文章も小学生の作文もいっしょくたになって掲載されているんです。その「さっぽろ文庫」にインスパイアされて、2020年、101巻目として、現在の「声」をダンスとして上演しようと。アーティストへのアンケート、身近な人たちへのインタビューや対話の中から「声」を収集して、ダンサー、俳優、ミュージシャンが膨らませたイメージを劇場で再構築したわけです。アンケートを提出してくれたアーティストには罹患された方もいました。その人は舞台での使用許可をくださって、今は陰性になったんだけど、それまで書きためた手記を送ってくれたんですよね。「早く舞台に立ちたい」というシンプルな声もあるんだけど、それは回答してくれたその人だけじゃなく、多くの人の声だと思うんです。言葉はほぼほぼ出そろってきて、今それを磨いているところです。

 この時期に、SDCの中で釣りや畑が流行して、その活動の様子、私が参加するホームレスの夜回りの様子の映像も交えながらライブでオンライン配信します。ライブと言っても結局映像になるんですよね。だから録画したものもどんどん混ぜているし、断念はしたんですけど夜回りは生中継も考えていたんです。もう実験です。よその配信を見ていると劇場中継のタイプが多いんですけど、そうではなく映画みたいにしてしまおうと。ライブではシーンとシーンの転換が絶対にうまくいかないから、そこはそのドタバタも含めて見てください(笑)。オンライン配信は2日間ですけど、そのあと編集し直して1月まで見られるようにします。

SDC畑部の様子

SDC畑部の様子

SDC畑部の様子

SDC畑部の様子

――コロナ禍を契機に、アーティストや役所とのつながりが、今後の札幌の文化芸術に新たな刺激になるといいですね。

羊屋 そうなるといいですね。やっぱり舞台芸術の人って声が大きいじゃないですか。でもこの機会に声が小さめのダンサーとか美術家の人たちも話をしてくれるようになったので、すごく、いいなあって思っています。「こんなにわあわあ言っていいんですね」と画家の人に言われました。演劇って過去に労働運動や左翼運動の経験があるからかな。これからもわあわあ言います。静かな人たちには悪影響だったかもしれないけど(苦笑)。

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

SDC公演より  (Photo by yixtape)

SDC公演より (Photo by yixtape)

取材・文:いまいこういち

公演情報

Sapporo Dance Collective 2020
さっぽろ文庫101巻 『声』
Sapporobunko Library Vol.101 "Voice Up"
 
■公演配信日時・URL
2020年8月29日(土)18:30開演/ https://youtu.be/BqkOcTBNxtM
2020年8月30日(日)18:00開演/ https://youtu.be/_3SdyF1CXgo

■コンセプト:羊屋白玉 
■ドラマツルグ:渡辺たけし 
■照明・テクニカルアドバイザー:高橋正和
■音響:安達玄
■舞台美術:小林大賀、深澤孝史、森迫暁夫 
■衣裳:佐々木青 
■音楽:亀川朗、KIM YOOI、佐藤夕香、新藤理 
■映像:箱崎慈華(Room水晶体) 
■舞台監督:江本宗広   
■SUKIMA:naoming、ナガオサヤカ、平中まみ子、やない晶子(つくっぺこうさく)、わたなべ ひよひよ ひろみ
■ダンサー:牛島有佳子(昭和レディ) 河野千晶(micelle) 坂見和子 櫻井ヒロ(micelle) 高瀬育子(新琴似バレエスタジオ主宰) 中西優佳 長谷川史織(昭和レディ) 羊屋白玉(指輪ホテル) 平尾拓也 本谷裕子(DanceRing-zone)
■俳優:大川敬介 かとうしゅうや 藤田冴子  
■HAUS Hokkaido Artists Union Studies:櫻井ヒロ(micelle) 渡辺たけし 羊屋白玉
■札幌の声:『新型コロナウイルス感染長期化に対峙する札幌の文化芸術関係者活動再開への道を探るアンケート調査 第1章 影響と損失』(調査主体:北海道教育大学岩見沢校 芸術文化政策研究室 准教授 閔鎭京、アーティスト・イン・レジデンス事業設計・さっぽろ天神山アートスタジオ AIRディレクター 小田井真美)に回答くださった札幌の方々、そしてその他、ご協力くださった方々
■スペシャルサンクス:馬追百瀬農園 新琴似バレエスタジオ 北海道の労働と福祉を考える会 指輪ホテルキャンディーズ参加メンバー   
■協力 NPO法人コンカリーニョ
シェア / 保存先を選択