福岡を拠点に活動する〈PUYEY〉が東海地区に初登場~三重・四天王寺スクエアで9月上演

インタビュー
舞台
2020.8.26
 PUYEY 4th season『UP』の上演より(左端:五島真澄、中央:高野桂子)

PUYEY 4th season『UP』の上演より(左端:五島真澄、中央:高野桂子)

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作・演出を手掛ける高野桂子と、美術・音楽を担当する五島真澄が2016年に結成した演劇的パフォーマンスユニット〈PUYEY〉(ぷいえい)。福岡を拠点に活動する彼らは、“観たらちょっぴり生きやすくなる演劇的作品”をコンセプトに、聴覚や視覚的な表現を多用した、大人の絵本のような作品を生み出している。

“ぷいえい”という不思議な響きのユニット名は、タイ語で「わたげ」を意味するPUYに、その綿毛を勢いよくエイッ!と飛ばす、という意味合いを加えた造語だ。「綿毛みたいにフットワーク軽くいろんな地域に行って、たまたま落ちた場所、ご縁のあるところで作品という名の花を咲かせる」(高野)というコンセプトのもと、2019年の秋には諫早(長崎)、福岡(福岡)、久留米(福岡)、北九州(福岡)、三股(宮崎)の5カ所を巡るなど、年に一回のペースでツアーを敢行。

4回目のツアーとなる今回は初めて東海エリアを訪れ、2020年9月12日(土)・13日(日)に三重県津市の「四天王寺スクエア」で公演を行う。当初は4月半ばの上演を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となり、5ヶ月の時を経てようやく公演が行われることとなった。〈PUYEY〉の成り立ちや活動形態、初めて客演を迎えたという今作『UP』について、作・演出の高野桂子に話を聞いた(インタビューは2月末に実施)。

作・演出を手掛け、出演もする高野桂子

作・演出を手掛け、出演もする高野桂子


── 〈PUYEY〉は、そもそもどういった思いのもとに結成されたのでしょうか。

私は大分県の日田市出身なんですが、以前、日田で演劇祭を企画して第5回までやったんですね。その時に県外の劇団を幾つか呼んだり、市民参加企画などを上演したりしたんですけど、日田市というのは人口7万人を切ってるぐらいの小さな規模の街で、小劇場の演劇文化というのはほぼ無いような状態だったんです。演劇祭自体も、新しい公共ホールが建ったので、せっかくだから活用しようと思って自分で企画して。その時にいろんなアーティストさんが来てくれたんですけど、小劇場のお芝居と出会う地域の人たち…子ども達もいればおじいちゃん、おばあちゃんとかもいて、その方達の反応がすごく新鮮だったのと、来てくれたアーティストの人たちもきっちり良い作品を持ってきてくれて、多様な客席というのを楽しんでもらえたし、双方にすごく良い関係が生まれたのを目の当たりにして、もし自分が創り手に立つ場合は、こういう場を自分も作りたいなぁと思ったんです。なので、自分がユニットを結成する、となった時に、「いろんな地域に行って、作品をその地域の人に向けてお見せしたい」という気持ちで〈PUYEY〉を作りました。

── 演劇祭がきっかけとなって、ご自身のユニットを立ち上げられたんですね。

ほぼきっかけですね。2015年まで演劇祭をやって、〈PUYEY〉の立ち上げが2016年なので。〈PUYEY〉を結成するから演劇祭をやめたわけではなくて別の理由だったんですけど、演劇祭は地域のために、みんなのために、みたいな気持ちがあったので、じゃあ今度は自分がやりたいことを自分のために一回やってみよう、と思ったんです。

── “演劇的パフォーマンスユニット”という表現形態にしたことや、お二人という人数で始められたのは?

いろんな地域に行くことが前提なので、最小単位がいいだろうっていうことと、表現形態にはそこまでこだわりはなくて、その時自分が興味のあることに一番合った形を見つけてやっています。私は元々役者だったり、その前にダンスをやっていたこともあって、戯曲を書くみたいなことは一番最後に始めた感じなんです。なので作品を創る時は、ホンからというよりは、身体から入っていくというか、ダンス作品だったりインスタレーションみたいな感じから作品を立ち上げて最終的に戯曲にする、という形になっています。ほぼ台本がない時もたまにありますし、段取りだけが決まっているとか。

── 五島さんは、美術と音楽という役割で。

はい。出演もしていますね。

── 客演の方をお呼びする場合もあるんですか?

今回初めて一人呼んで、三人芝居にしました。

── 今回上演される『UP』は、どんな作品ですか。

5月ぐらいの設定なんですけど、高校生が「少年自然の家」みたいなところで合宿をしていて、そのプログラムの一環で「森林ウォークラリー」というのをやっているんです。二人一組になって、ハイキングじゃないですけどルートを回らなきゃいけない。みんな仲良し同士でペアを組むんですけど、この物語に登場する二人はちょっと浮いた存在で、誰ともペアを組めなくて、余り物の男女二人がペアを組むことになってしまうんです。でも、あまり仲も良くないし「森林ウォークラリー」に対してもネガティブなんですけど、しなくちゃいけないから一応やっていて、男子の方がUFOを信じていて、勝手に行動するんですね。それで喧嘩したりして、二人がはぐれる。女の子の方が「あいつどこいった?」とその男子を探してる時に、ゆるキャラYoutuberと出会うんですけど、彼は10年くらい前のゆるキャラブームの時に一旦少し人気が出て、でも今はブームが去ってみんなから忘れられてしまった存在で細々とYoutubeを配信している、というキャラクターなんです。

一応、三人は合流するんですけど、それぞれに足りない部分というか満たされない部分がある。それでもいろんな利害が一致して、「三人でとりあえずUFOを探してみよう」ということになります。Youtuber的にも、「もしもUFOが撮れたらバズるぞ」という思いがあって山を登っていくんですけど、途中で喧嘩したり、ちょっと協力しなきゃいけないこととかがあって、三人は少しずつ交流を深めていきます。最初の方は、それぞれが描いている“あるべき姿”というものに固執しているんですけども、三者三様に固執しているものが違って、「もしかして自分はこれがあたり前だと思ってたけど、そうじゃないかもしれない」という風に少し視野が広まるような変化が起きて、最終的にUFOが現れるかどうかはわからないんですけど(笑)、その過程を見せる作品になっています。

PUYEY『UP』チラシ表

PUYEY『UP』チラシ表

── このお話はどのように思いついたんでしょう?

〈PUYEY〉は、観たらちょっぴり生きやすくなる作品を創ろう、ということでやっているんですけど、どうやったら生きやすくなる? 逆に生き辛く感じさせるものは何かな? と思った時に、「こうありたい」みたいなことを自分で決めてしまっていることで自分の首を絞めていることが、特に私はよくあるんです。「こうじゃないといけない」「あぁ、また失敗した」みたいになるから、自分に言い聞かせるようにこういう物語を(笑)。でも、誰でもどこかしらちょっとそういう時期だったり、そういう部分ってあると思うんですよね。だから自分のパーソナルな思いとか悩みでもあるけど、他の人が観ても共感できる部分があるんじゃないかな、と思ってこういう作品にしました。あと実際、高校生の時に友達がいない時期があったので、それもちょっと掘り起こしてみました。

── 作品をご覧になった方からは、どんなご意見がありましたか?

「本当はUFOなんていないとわかってるけど、でも信じ続ける自分でありたいんだなぁ」とか、「観てて痛々しくて、自分に刺さった」「過去の栄光を追い続けているYoutuberが、ずっと元気いっぱいなのにすごく悲しかった」とか、それぞれのキャラクターに共感する方がいました。誰が主役とかではなく三人並列で描いているので、たぶん観ている人によって視点や感情移入する対象が違って、もしくは俯瞰で見ても面白いとは思うんですけど、いろんな視点で見てもらっている感じがしますね。

── 演出面で、何か気をつけたことなどはありますか?

山の中の設定なので、自然の中だということを舞台上に作り上げて、お客さんにそれをどう感じてもらうか、ということを。

── 舞台写真を拝見すると、具体美術ではなく抽象的な感じですね。

そうなんですよ。抽象的な、布が垂れ下がっているだけの美術なので。

── コンパクトにしてツアーで回りやすいように、ということですね。

はい。なので役者の身体で表現したり、布の変化…そんなには変化しないんですけど(笑)。そこは演出的に工夫したところかな、とは思います。

── 各地の小学生なども参加されているとか。

毎回ゲストは出てもらっているんですけど、地域によって小学生がワーッと出てきたりします。男子の小学生の頃の回想シーンでちょっといじめられるんですけど、そのいじめっ子役で出てもらうとか。今回も三重のどなたかにゲストで出ていただく予定です。

── 三重に出かけるのは今回が初めてとのことですが、実際に来られてどんな印象ですか?

「四天王寺スクエア」と「津あけぼの座」と、「三重県文化会館」を見せてもらって、演劇に関わっているアーティストというよりは、制作だったり小屋の人たちの熱量がすごいと感じました。ガチンコで地域の人たちと向き合って、自分たちも楽しんだ上で、「どう地域で演劇を根ざしていくか」ということを真剣に考えて、その上で行動までしている。それが官も民も両方で協力してやっているというのが、恐らく国内では稀に見ることなんだろうな、と思いました。

自分も演劇祭をやっていた時、ホールと協力したかったんですけど、なかなか上手くいかなかった部分があったんです。それがこんな形で奇跡的に上手くいって、そして、いろんな劇団が三重で上演したがっていたり、集まってくるっていうことの裏付けを見たというか、なるほど、これは三重にみんな行きたがるねって。私も宮崎の劇団の〈こふく劇場〉の永山智行さんから「三重いいよ」と勧められて、「そうなんですか」って来たんですけど、「永山さん、こういうことですか」と合点がいきました。ほんと奇跡の街だなって(笑)。

取材・文=望月勝美

公演情報

みえのみんなの演劇祭
PUYEY 4th season『UP』


■作・演出:高野桂子
■美術・音楽:五島真澄
■振付:乗松薫(太めパフォーマンス)
■出演:高野桂子、五島真澄(以上、PUYEY)、松永檀

■日時:2020年9月12日(土)19:00、13日(日)11:00
■会場:四天王寺スクエア(三重県津市栄町1-888 四天王会館3F)
■料金:一般2,000円 U22 1,000円 小学生500円
■アクセス:近鉄・JR・伊勢鉄道「津」駅東口下車、徒歩10分
■問い合わせ:
津あけぼの座事務局 059-222-1101 info@akebonoza.net

PUYEY puyey.info@gmail.com
■公式サイト:
津あけぼの座 http://akebonoza.net
PUYEY https://puyeyinfo.wixsite.com/puyey
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