それぞれにひたむきに役を生きる、4人の主役の魅力を紹介! ミュージカル『ビリー・エリオット』観劇レポート

レポート
舞台
2020.10.3
左から)川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿  (撮影:山本れお)

左から)川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿  (撮影:山本れお)

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1980年代のサッチャー政権下、合理化計画に対抗してのストライキに揺れるイギリスの炭鉱町を舞台に、バレエに生きる道を見出す少年を主人公に描くミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』。エルトン・ジョンの音楽を得て、映画版からミュージカル版へと展開されたこの作品の3年ぶりの再演が、現在TBS赤坂ACTシアターにて上演中だ。主人公ビリー・エリオットを演じるのは、応募総数1511名の中から約1年間にわたるオーディションの末に選ばれた、川口調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿の4人。個性あふれる4人のビリー、それぞれの生き様が、舞台に生き生きと描き出されている。


テレビ、舞台で活躍し、バトントワリングで全日本選手権大会での優勝経験もあるという川口調のビリーは、児童期と思春期とを揺れ動く様が魅力的。おばあちゃんに宝物を隠している箱を見られてしまい、「秘密」と言ってからすぐさま「何でもない」とあわてて重ねるところや、「父ちゃんのバカヤロー」と言ってしまい、…しまった…という表情を見せるところなど、言うつもりではなかった本心をうっかり明かしてしまったことへの恥ずかしさを感じさせる。だから、亡き母からの手紙をウィルキンソン先生に読ませるシーンでは、…そんなビリー少年でも、この人には本心を明かしていいと思っているんだ、それだけ、先生には心を開いていいと思えたんだ…と思えて、ドキッとすると同時に安堵する。ウィルキンソン先生のレッスンでも、女子の間に男は僕一人…という意識がうかがえ、黒一点感が濃厚。「Angry Dance(怒りのダンス)」でうわあ~~~っと感情をほとばしらせてタップを踏んだとき、一瞬、ゾクっとするほどかっこいい。そして、一緒に演奏するかのように、ロックサウンドと自身のタップの音とを共鳴させる。このナンバーのラストで「ちくしょー」と言わんばかりの仕草をするところも、荒ぶった感じに大人っぽさを感じさせ、成長した姿に思いを馳せたくなるものがある。器械体操が得意で、カーテンコールでも決めてくれた(9月21日12時の部)。

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:川口調(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:川口調(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:川口調、右:永野亮比己(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:川口調、右:永野亮比己(撮影:田中亜紀)

バレエコンクールでの入賞経験多数という利田太一は、手足が長く、動きがしなやか。バック転といったアクロバティックな技を披露する際もエレガンスを感じさせる。12歳にして、共演者との芝居のやりとりも楽しんでおり、舞台が進むにつれ演技がどんどんパワーアップ。劇場空間とは「観る/観られる」関係で成立する場であることを身をもって体感しているのではないだろうか。観客に「見せる」ということをよくわかった上で踊っているから、観ていて実に楽しい。ビリー少年が踊りの才能のきらめきを初めて発揮し、師となるウィルキンソン先生を驚かせるシーンも、客席にあってはっと心動かされるものがあった。一幕ラストを飾る「Angry Dance(怒りのダンス)」のナンバーにおいても、心情の爆発を踊りで表現するのがうまい。踊っているときどんな気持ちか…と問われて答えるセリフ、「うまく言えません」が自身のありのままの心を示しており、その言葉で始まる「Electricity(電気のように)」のナンバーでは、踊ることに対する自分の感情を歌詞に率直に乗せて歌い、無我の境地で踊りに没入していたのが非常に印象的だった(9月14日17時半の部観劇)。

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:阿知波悟美、右:利田太一(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:阿知波悟美、右:利田太一(撮影:田中亜紀)


『ビリー・エリオット』舞台写真。左:利田太一、右:安蘭けい(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:利田太一、右:安蘭けい(撮影:田中亜紀)

ボーイソプラノユニットのメンバーとしても活躍する中村海琉は、芝居が巧い。11歳にして、…これ、アドリブなんじゃあ…と思わせる余裕があり、相手の反応も十二分に楽しんでいる。人のセリフに反応して返すセリフが、ときにドキッとするほど新鮮。幕開きの姿もどことなく哀愁がただよい、幼くして母を失ったビリー少年のさみしさをしっかり表現していく。演技に確かな芯が通っており、習った通りに演じるのではなく、自分はこう演じたいという強い意思を感じさせる。タップも得意で、一幕ラストの「Angry Dance(怒りのダンス)」では、思い爆発、魂の咆哮! このシーンにおいて、作中、ストライキをする炭鉱夫たちの怒りが頂点に達するのだが、その象徴としてビリー少年が怒りをほとばしらせて踊るという、作品全体における意味合いがダンスで感じられるのがいい。身も心も、ビリーと共に踊り出したくなる! 「Electricity(電気のように)」の歌唱では、歌声に説得力がある。彼もまた、客席から観られれば観られるほどめきめき伸びるタイプで、この若さにしてパフォーマーとしての業すら感じさせた(9月17日12時の部観劇)。

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:中村海琉、右:河井慈杏(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:中村海琉、右:河井慈杏(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:中村海琉、左:河井慈杏(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央:中村海琉、左:河井慈杏(撮影:田中亜紀)

両親共にバレエダンサーで、コンクールでの入賞経験も多数という渡部出日寿は、さすがの踊りの上手さで見せる。気持ちが乗っていて、動きがエレガントで軽やか。ピルエットした際、伸ばした脚が遠心力でびゅいーんと引っ張られてさらに長く見えるような醍醐味があり、美しい。器械体操を見せてもエレガントで、オールダー・ビリーとパ・ド・ドゥを踊る「ドリームバレエ」のシーンでも、手先、足先とも常にピンと伸びているのが綺麗。あどけない魅力があり、それでいて、食ってかかるときのセリフの言い方がちょっと生意気な感じなのもキュート。一人で立ち尽くしていたりする姿が心をしめつけるようなビリーである(9月16日12時の部観劇)。

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央左:柚希礼音、中央右:渡部出日寿(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。中央左:柚希礼音、中央右:渡部出日寿(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:渡部出日寿、右:根岸季衣(撮影:田中亜紀)

『ビリー・エリオット』舞台写真。左:渡部出日寿、右:根岸季衣(撮影:田中亜紀)

それぞれが力と個性を存分に発揮し、ひたむきに生きるビリー少年の物語。一人の少年が、周囲の環境やそれゆえの困難に負けず、自身の夢を叶えようと懸命に前に向かって進む姿に心打たれる。4人のビリーの舞台人としての今後に大いに期待したい。

(左から)川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿

(左から)川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』

 
■出演:
川口 調 利田太一 中村海琉 渡部出日寿/益岡 徹 橋本さとし/柚希礼音 安蘭けい
根岸季衣 阿知波悟美/中河内雅貴 中井智彦/星 智也/大貫勇輔 永野亮比己
 
森山大輔 家塚敦子 板垣辰治 大竹 尚 大塚たかし 加賀谷真聡 齋藤桐人 佐々木誠 高橋卓士 辰巳智秋 茶谷健太 照井裕隆 丸山泰右 倉澤雅美 小島亜莉沙 竹内晶美 藤咲みどり 井坂泉月 井上花菜 出口稚子
 
河井慈杏 菊田歩夢 佐野航太郎 日暮誠志朗 小林 桜 森田瑞姫 森田 恵
北村 栞 下司ゆな 咲名美佑 佐藤凛奈 髙畠美野 並木月渚 新里藍那 古矢茉那 増田心春 柳きよら
石井瑠音 高橋琉晟 大熊大貴 豊本燦汰 西山遥都
 
<ロンドンオリジナルスタッフ>
■脚本・歌詞:リー・ホール
■演出:スティーヴン・ダルドリー
■音楽:エルトン・ジョン
■振付:ピーター・ダーリング
■美術:イアン・マックニール
■演出助手:ジュリアン・ウェバー
■衣裳:ニッキー・ジリブランド
■照明:リック・フィッシャー
■音響:ポール・アルディッティ
■オーケストレーション:マーティン・コック
■公演期間・会場:
【オープニング公演】2020年9月11日(金)~14日(月)TBS赤坂ACTシアター
【東京公演】9月16日(水)~10月17日(土)TBS赤坂ACTシアター
※イープラス貸切公演=10月3日(土)17:00【SOLD OUT】、10月8日(木)12:00
【大阪公演】10月30日(金)~11月14日(土)梅田芸術劇場 メインホール
※イープラス貸切公演=11月3日(火祝)17:30
 
■イープラス特設サイト:https://eplus.jp/billyjapan
■公式サイト:https://www.billyjapan.com/
 
【あらすじ】
1984年、炭鉱労働者たちのストライキに揺れるイングランド北部の炭鉱町イージントン。主人公ビリーは、炭鉱労働者の父と兄、祖母の4人暮らし。幼い頃に母親は他界してしまい、父と兄はより良い労働条件を勝ち得ようとストライキに参加しているため、収入がなく生活は厳しい。父はビリーに逞しく育って欲しいと、乏しい家計からお金を工面し、ビリーにボクシングを習わせるが、ある日、バレエ教室のレッスンを偶然目にし、戸惑いながらも、少女達と共にレッスンに参加するようになる。ボクシングの月謝で家族に内緒でバレエ教室に通っていたが、その事を父親が知り大激怒。バレエを辞めさせられてしまう。しかし、踊っているときだけは辛いことも忘れて夢中になれるビリーは、バレエをあきらめることができない。そんなビリーの才能を見出したウィルキンソン夫人は、無料でバレエの特訓をし、イギリスの名門「ロイヤル・バレエスクール」の受験を一緒に目指す。一方、男手一つで息子を育ててきた父は、男は逞しく育つべきだとバレエに強く反対していたが、ある晩ビリーが一人踊っている姿を見る。それは今まで見たことの無い息子の姿だった。ビリーの溢れる情熱と才能、そして“バレエダンサーになる”という強い思いを知り、父として何とか夢を叶えてやりたい、自分とは違う世界を見せてやりたい、と決心する。11歳の少年が夢に向かって突き進む姿、家族との軋轢、亡き母親への想い、祖母の温かい応援。度重なる苦難を乗り越えながら、ビリーの夢は家族全員の夢となり、やがて街全体の夢となっていく……。
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