BiSHのアユニ・D のプロジェクト、PEDROの最新アルバム表題曲「浪漫」から紐解く「音楽との出会いは、いかにして、人を変えるのか」【SPICE×SONAR TRAXコラム vol.17】

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2020.9.25
PEDRO

PEDRO

退屈で何もない日々を送っていた一人の少女が、人気グループのメンバーとしての華やかなスポットライトを浴びる日々を経て、なぜ、どのようにして、音楽を作り、奏でること自体の喜びや情熱と出会ったのか。BiSHのアユニ・Dによるソロ・バンド・プロジェクトPEDROの作品や活動は、そのドキュメントだ。「NO MUSIC, NO LIFE」と言葉にするのは簡単だけど、その「ゼロ→イチ」をこんな形で目撃できることは数少ない。

何より大きかったのはギターの田渕ひさ子の存在だろう。最初は一度限りのサポートメンバーとして、その後にツアーを重ねていくなかでドラムの毛利匠太も加えた3ピースバンドの一員として。切れ味鋭い音色に衝動を託すそのプレイは、大きくアユニ・Dを触発したはずだ。筆者がインタビューで話を聞く中で、何度も「音楽との出会い、尊敬する人との出会いが自分を変えた」と語っていた。

「浪漫」は、そんなPEDROによる2ndアルバム『浪漫』の表題曲。最大のポイントはアユニ・D自身が作詞作曲を手掛けていることだろう。これまでPEDROの楽曲は全てBiSHのサウンドプロデュースも手掛ける松隈ケンタが作曲を担当してきたが、アルバム収録曲では、アユニ・Dがこの「浪漫」とラスト「へなちょこ」の2曲を書き下ろしている。バンドを始め、田渕ひさ子をきっかけにNUMBER GIRLやbloodthirsty butchers、さらにそのルーツとなったオルタナティヴ・ロックを掘り下げて聴いていくうちに、音楽的な引き出しと表現欲求が高まってきたのだろう。

そしてもうひとつのポイントは、曲調にも歌詞の言葉にも“肯定”や“解放”のトーンが高らかに表れているということ。1stアルバムまでのPEDROの楽曲は3ピースのヒリヒリとしたバンドサウンド、エッジの立ったパンキッシュな曲調が大きな特徴になってきた。歌われる内容も、刹那的で、閉塞感に満ちた、ときに自暴自棄なエモーションが中心になってきた。

それが、少しずつ変わり始めた。2020年4月にリリースしたEP『衝動人間倶楽部』収録でアユニ・Dが歌詞を書いた「生活革命」は初の恋愛ソングだったが、この「浪漫」もその延長線上にあるようなモチーフ。<お風呂あがりアイス分けあう夜>というフレーズから、生活感ある描写と共に愛に包まれて暮らす幸せな日々を綴っていく。

リズムやアンサンブルも印象的だ。畳み掛けるような8ビートではなく、タメを作った16ビート。グルーヴの中でギターフレーズが歌に寄り添っている。アルバムのリリース前には全曲分のスタジオライブ映像がYouTubeに1曲ずつ公開されていたが、おそらく楽曲の制作も、田渕ひさ子と毛利匠太がアイディアを出し合いアレンジを決めていく“バンドのやり方”で進められたのだろう。

曲名、そしてアルバムタイトルとなった「浪漫」も、アユニ・D自身が体感した「音楽が好きになったことで見える世界が、人生が変わった」というとてもロマンティックな体験を象徴する言葉なのだと思う。

一つのメロディと言葉の向こう側に、いろんな物語が見える。そんなことにも思い至るような1曲だ。

文=柴那典

PEDRO「浪漫」

 

 

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リリース情報

PEDRO『浪漫』
発売中
PEDRO『浪漫』

PEDRO『浪漫』

収録曲
01. 来ないでワールドエンド
02. pistol in my hand
03. 浪漫
04. 後ろ指さす奴に中指立てる
05. 空っぽ人間
06. さよならだけが人生だ
07. 乾杯
08. 愛してるベイベー
09. WORLD IS PAIN
10. 感傷謳歌
11. へなちょこ

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