1月の歌舞伎座は三部制6演目! 『壽 初春大歌舞伎』レポート

レポート
舞台
2021.1.13
『壽 初春大歌舞伎』

『壽 初春大歌舞伎』

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2021年1月2日(土)、東京・歌舞伎座で『壽(ことぶき)初春大歌舞伎』が開幕した。昨年8月より1日四部制で上演していたが、今月より1日三部制の興行となった。各部2演目ずつ上演され、幕間は15分。全三部の6演目をレポートする。

<1月8日より施行される緊急事態宣言を受けて>
緊急事態宣言の発出に伴う行政からの協力依頼を受け、1月8日、松竹
より開演時間の変更が発表されました。

【第一部、第二部】
・変更なし
【第三部】
・1月10日まで、18時45分開演(20時24分終演)
・1月11日以降、18時20分開演(19時59分終演)


なお歌舞伎座では、新型コロナ感染症対策として、座席は収容人数に対し50%以下を使用。前後左右が空席(一部エリアでは 、ご家族・お連れ様にオススメの2席並び有 )となり、場内での私語、食事、フェイスシールドやマウスシールドのみでの入場はNGとなる。各部ごとに、観客だけでなく、舞台を支える出演者やスタッフも入れ替えながら、その都度、客席の消毒作業が行われる。

■にぎやかに初春を寿ぐ第一部

『壽浅草柱建(ことほぎて はながたつどう はしらだて)』

第一部『壽浅草柱建』(左より)喜瀬川亀鶴=中村鶴松、小林妹舞鶴=坂東新悟、曽我十郎祐成=中村隼人、小林朝比奈=坂東巳之助、曽我五郎時致=尾上松也、工藤左衛門祐経=中村歌昇、大磯の虎=中村米吉、茶道珍斎= 中村種之助、化粧坂少将=中村莟玉 /(C)松竹

第一部『壽浅草柱建』(左より)喜瀬川亀鶴=中村鶴松、小林妹舞鶴=坂東新悟、曽我十郎祐成=中村隼人、小林朝比奈=坂東巳之助、曽我五郎時致=尾上松也、工藤左衛門祐経=中村歌昇、大磯の虎=中村米吉、茶道珍斎= 中村種之助、化粧坂少将=中村莟玉 /(C)松竹

タイトルは、「浅草」と書いて「はながた つどう」と読む。何事もなければ、今月は浅草の町で歌舞伎に出演していたであろう花形俳優9名が共演する。「柱建」は、神社仏閣を建てるときの最初の柱を建てる大切な儀式。工藤祐経(中村歌昇)は、大規模な巻狩りのために、仮屋を建てるよう頼朝公から命を受ける。その柱建に、工藤に父親を殺された曽我五郎(松也)、曽我十郎(隼人)、そして小林朝比奈(坂東巳之助)、その妹の舞鶴(坂東新悟)ら『曽我物語』に由来するキャラクターが集合する。松や紅白の梅、富士山を背景に、浅草歌舞伎のメンバーたちがエネルギッシュに明るく踊り、台詞をつなぐ。

年齢の近い9名が一度にずらりと並ぶので、役の魅力も役者の個性も際立って感じられる。時世を踏まえ、工藤が「世界平(たいら)かなるを、皆々で祈念いたそうぞ」と呼びかけると、8名が同意し、観客も拍手でそれに続いた。新年のはじめにふさわしい、心華やぐ序幕だった。

なお1月6日より11日まで、中村莟玉(化粧坂少将役)は体調不良により休演、12日の公演休演日を経て、13日より舞台に復帰。莟玉が不在の間も代役を立てるのではなく、8名のメンバーで莟玉のパートを皆で補い、助け合う形で上演をつづけた。

猿翁十種の内『悪太郎』

第一部『悪太郎』(左より)修行者智蓮坊=中村福之助、悪太郎=市川猿之助 /(C)松竹

第一部『悪太郎』(左より)修行者智蓮坊=中村福之助、悪太郎=市川猿之助 /(C)松竹

猿之助が披露するのは、澤瀉屋の家の芸「猿翁十種」のひとつ『悪太郎』。狂言の『悪太郎』が題材であり、松羽目の舞台から始まる。安木松之丞(市川猿弥)と太郎冠者(中村鷹之資)が、松之丞の甥っ子・悪太郎の話をしている。酒癖の悪さに手を焼いているようだが、ふたりの語り口は大らかで陽気。噂の悪太郎(猿之助)が、ご機嫌な千鳥足で花道より登場する。猿之助の、お酒の匂いをたっぷりまとったような、嗅覚にさえ訴えかける身のこなしに拍手が起こる。悪太郎に絡まれ、無理やり御供されることになるのは、まじめな修行者・智蓮坊(中村福之助)。会話のちぐはぐさがいちいちおかしい。悪太郎は薙刀を携えているので、無下には断れない。薙刀は、振り回せばスリルとのギャップによる笑いを作る。杖にすれば、不安定な間合いでトン…トン……と床をつく音が静かな会場に響き、シュールな笑いを生んでいた。

初演は1924(大13)年。劇作家で「身替座禅」や「棒しばり」を手掛けた岡村柿紅、作曲に西洋の音楽にも通じていた長唄三味線方の四世杵屋佐吉、振付に二世花柳壽輔を迎え、当代の曾祖父にあたる二世猿之助(初世猿翁)のために創作された。ラストは、悪太郎、智蓮坊の念仏踊りに、松之丞、太郎冠者も加わり、鐘の音、足音、音楽が盛り上がりをみせ、舞台も客席も、一体感と多幸感に包まれた。

■しっとりと艶やかな第二部

坂田藤十郎を偲んで『夕霧名残の正月 由縁の月』

第二部『夕霧名残の正月』(左より)藤屋伊左衛門=中村鴈治郎、扇屋夕霧=中村扇雀 /(C)松竹

第二部『夕霧名残の正月』(左より)藤屋伊左衛門=中村鴈治郎、扇屋夕霧=中村扇雀 /(C)松竹

昨年11月12日に天寿をまっとうした坂田藤十郎の追善狂言として『夕霧名残の正月』が上演されている。遊女夕霧の四十九日を迎えた、大阪新町の置屋「扇屋」が舞台。夕霧のお気に入りだった藤模様の打掛を飾り、皆で偲んでいたところへ、恋人だった伊左衛門(中村鴈治郎)がやってくる。死に目にも会えなかった伊左衛門が、座敷でひとり悲しみにくれていると、幻のように夕霧(中村扇雀)が現れる。夜桜を背景に夕霧がそっと寄り添い、舞を披露する。

劇中では夕霧を、客席では藤十郎を偲ぶ演目だ。しかし少しも重い空気とはならなかった。幇間持ちの品の良い明るさ、仲居の軽妙なやりとり、扇屋の主人や女房の穏やかな佇まいに、常磐津が語るふたりが過ごした季節、伊左衛門と夕霧の艶やかな踊り。スッポンに消えた扇雀の向こうに女方の、1人残された鴈治郎の向こうに和事の藤十郎が重なり、藤十郎の残り香さえ感じられそうな一幕だった。幕間に余裕のある方は、3階の下手側通路にある「想い出の歌舞伎俳優」コーナーへ、観劇前後にお時間のある方は4階「歌舞伎座 ギャラリー回廊」へ足をのばしてみてはいかがだろうか。

『仮名手本忠臣蔵 一力茶屋の場』

第二部『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』(左より)遊女おかる=中村雀右衛門、大星由良之助=中村吉右衛門 /(C)松竹

第二部『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』(左より)遊女おかる=中村雀右衛門、大星由良之助=中村吉右衛門 /(C)松竹

第二部2幕目は、『仮名手本忠臣蔵 一力茶屋の場』、通称『七段目』。本公演では、由良之助が宴席で無理やりタコを食べさせられたり、息子の力弥から密書を受け取るなどした後の場面から上演されている。刀はすっかり錆びつかせ、敵討ちそっちのけで遊興に耽る(ふりをする)吉右衛門の由良之助だが、へべれけでも、しなやかで品がある。後半の格好良さは、客席の溜息を誘った。雀右衛門の柔らかな愛嬌に色気も香る遊女おかる、梅玉のまっすぐな平右衛門、そして嵐橘三郎の九大夫が脇を固め、物語の輪郭をクリアにする。

吉右衛門にとって、「七段目」の由良之助は2016(平28)年の国立劇場以来、5年ぶり10回目。緻密な芝居で一つの台詞に、いくつもの由良之助の顔や感情を表出させ、今回カットされた場面だけでなく、由良之助の人となり、ここに至るまでのドラマをも想像させる。初めての方にも、何度もご覧になったという方にも、記憶に残してほしい。

■エンターテインメント性溢れる第三部

『菅原伝授手習鑑 車引』

第三部『菅原伝授手習鑑 車引』(左より)桜丸=市川染五郎、松王丸=松本白鸚、梅王丸=松本幸四郎 /(C)松竹

第三部『菅原伝授手習鑑 車引』(左より)桜丸=市川染五郎、松王丸=松本白鸚、梅王丸=松本幸四郎 /(C)松竹

幸四郎が、11月に行われた会見で「歌舞伎をやっている感が、一番ある役。観る方も、歌舞伎を観たことのない方のイメージでも、歌舞伎ってこうだよねと感じていただける、ど真ん中の役」と紹介した『車引』。白鸚の松王丸、幸四郎の梅王丸、染五郎の桜丸という配役で上演される。筋書に掲載される昭和21年以降の上演記録を見る限り、松王丸、梅王丸、桜丸の三つ子を親子孫で演じたケースはない。

本作は、藤原時平と対立関係にある主人にそれぞれ仕える梅王丸と桜丸が、時平に仕える松王丸と出会い、火花を散らす場面を描く。幕が開くと、もったいぶることなく花道から梅王丸が、舞台上手から桜丸が登場する。大きな拍手が、あっという間に歌舞伎座を温めた。そして、第一声からスケールの違う大きさを見せつけ登場する松王丸。「あーりゃー、こーりゃー」と、荒事でおなじみの化粧声が高揚感を掻き立てる。三人が見得をすると、松王丸の圧倒的な存在感、梅王丸の華とパワー、桜丸の瑞々しさは、いまや日常的となった心のざわつきを薙ぎ払う。芝居の力が、現実を忘れさせる。

眠駱駝物語『らくだ』

第三部『らくだ』(左より)紙屑買久六=片岡愛之助、駱駝の馬太郎=中村松江、手斧目半次=中村芝翫 /(C)松竹

第三部『らくだ』(左より)紙屑買久六=片岡愛之助、駱駝の馬太郎=中村松江、手斧目半次=中村芝翫 /(C)松竹

『壽 初春大歌舞伎』を締めくくるのは、中村芝翫と片岡愛之助による『らくだ』。落語をもとに創作され、台詞も分かりやすく、今月の演目の中で、もっとも現代の感覚で楽しめるお芝居だ。らくだの兄貴分、手斧目(ちょうなめ)の半次を芝翫、上方から流れてきた紙屑買の久六を愛之助が演じる。久六が上方弁、それ以外が江戸の言葉という組み合わせは、大阪出身の愛之助が演じる今回ならではの試みだ。芝翫の半次は、ホトケをおもちゃにする荒くれ者でありつつ、佇まいからは、らくだを弟分にしていたのも納得の、懐の深さを感じさせる。その胸を借りて愛之助は、少し弱気な久六を、抜け目のなさと愛嬌たっぷりの笑顔で立ち上げ、時には観客も巻き込んで楽しませる。

タイトルロールでありながら、ホトケとして登場するらくだ(中村松江)は、人形振りともゾンビともつかないおかしみのある動き。カンカンノウを踊るエピソードは、落語で聞き想像されるものよりも、可愛らしい絵になっているのではないだろうか。一幕前の『車引』で、ラスボス的な藤原時平をつとめた坂東彌十郎が長屋の大家の女房おいくを、左團次が大家さんを大らかに演じ、喜劇のスピードを落とすことなく、味わいを深めていた。不謹慎でばかばかしい話だ。しかしいま舞台で観たいのは、このくらいふり切った大らかさかもしれない。心をほぐしてくれる時間となった。


東京・歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』は、2021年1月2日(土)~27日(水)までの上演。なお、松竹では昨年8月より動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」にて、舞台映像の配信も行っている。過去の作品だけでなく、最新作が翌月に配信されることもあるので、生の舞台での鑑賞がむずかしい方は、オンラインの舞台も視野に、歌舞伎でしか味わえない華やかさで、新たな年の始まりを感じてほしい。

公演情報

『壽 初春大歌舞伎』​
 
■日程:2021年1月2日(土)~27日(水) ※休演日 12日(火)、19日(火)
■会場:歌舞伎座
※1月11日(月・祝)より、第三部は午後6時20分開演となります。
 
■第一部 午前11時~
 
一、壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)
 
曽我五郎時致:尾上松也
曽我十郎祐成:中村隼人
小林朝比奈:坂東巳之助
大磯の虎:中村米吉
化粧坂少将:中村莟玉
喜瀬川亀鶴:中村鶴松
茶道珍斎:中村種之助
小林妹舞鶴:坂東新悟
工藤左衛門祐経:中村歌昇
 
岡村柿紅 作
二、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)
 
悪太郎:市川猿之助
修行者智蓮坊:中村福之助
太郎冠者:中村鷹之資
伯父安木松之丞:市川猿弥
 
■第ニ部 午後2時45分~
 
坂田藤十郎を偲んで
今井豊茂 脚本
一、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
 
藤屋伊左衛門:中村鴈治郎
扇屋夕霧:中村扇雀
太鼓持鶴七:中村亀鶴
同    亀吾:中村虎之介
同      竹三:中村玉太郎
同      梅八:中村歌之助
扇屋番頭藤兵衛:中村寿治郎
扇屋女房おふさ:上村吉弥
扇屋三郎兵衛:中村又五郎
 
二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)

 
祇園一力茶屋の場
 
大星由良之助:中村吉右衛門
遊女おかる:中村雀右衛門
鷺坂伴内:中村吉之丞
斧九太夫:嵐橘三郎
寺岡平右衛門:中村梅玉
 
■第三部 午後6時45分~ ※1月11日より午後6時20分開演

一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)車引

松王丸:松本白鸚
梅王丸:松本幸四郎
桜丸:市川染五郎
杉王丸:大谷廣太郎
金棒引藤内:松本錦吾
藤原時平:坂東彌十郎
 
岡 鬼太郎 作

眠駱駝物語
二、らくだ

 
手斧目半次:中村芝翫
紙屑買久六:片岡愛之助
駱駝の馬太郎:中村松江
半次妹おやす:市川男寅
糊売婆おぎん:中村梅花
家主女房おいく:坂東彌十郎
家主佐兵衛:市川左團次
 
公式サイト:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/698/
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