青年団『眠れない夜なんてない』主宰の平田オリザが会見~「個人と日本、個人と天皇制との関係がハッキリと見える作品になりました」

レポート
舞台
2021.1.12
「青年団」主宰で、『眠れない夜なんてない』作・演出の平田オリザ [撮影]吉永美和子(人物すべて)

「青年団」主宰で、『眠れない夜なんてない』作・演出の平田オリザ [撮影]吉永美和子(人物すべて)

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昨年(2020年)3月にオープンした[江原河畔劇場]を拠点に、新しい本拠地となる兵庫県豊岡市での活動を、本格的に始動した「青年団」。新型コロナウイルスの影響で、大都市での公演が次々と中止・延期になったものの、豊岡市のある但馬エリアに足を根ざすことで、劇団活動を継続できているという。劇団主宰で作家・演出家の平田オリザは「東京にいたままだったら、潰れていたと思う」と振り返る。

その豊岡で開催された「豊岡演劇祭2020」で、12年ぶりに再演した『眠れない夜なんてない』が、4都市を巡演することに。定年後の日本人が多数暮らす、マレーシアの保養地のラウンジで交わされる会話を見せていく群像劇だ。今回の再演に際しては、舞台の時代設定を、昭和が終えんを迎えようとする時代に変更し、昨今の芸術活動の「自粛」問題と、太平洋戦争にまつわる市井の人々の思いも浮かび上がらせる作品となった。1月に大阪市内で行われた、平田の会見の模様をレポートする。

青年団『眠れない夜なんてない』(2020年再演) ©igaki photo studio

青年団『眠れない夜なんてない』(2020年再演) ©igaki photo studio

この作品が生まれたきっかけは、平田が2003年にマレーシアの大学で講師を務めた時、現地の日本大使館員から「山の方に、定年移住の日本人たちが住む村があり、そこの住民が死去した場合、車が入らない所なので棺を担いでいかないといけない」という話を聞いたことだった。そこから5年をかけて取材・執筆を行い、2008年に初演。2010年には韓国人演出家による韓国語バージョンも上演され「大韓民国演劇大賞」の作品賞を受賞している。

私の作品は一幕物なので、いろんな事情を抱えた個人が集まる場所が決まれば、だいたい戯曲を書く時には勝ったも同然なので、この話を聞いた瞬間“これは絶対芝居の舞台になる”と思いました。個人と日本との関係は、私の継続したテーマですが、特にそれがハッキリしている作品。定年移住はいろんな理由がありますが、ぶっちゃけ本当に日本で幸せなら、移住しないだろうと。単なる経済だけでなく、それぞれの人物が抱えてきた戦後や、昭和への思い入れも見えてくると思います」。

平田オリザ

平田オリザ

今回このタイミングでの再演は「単に(レパートリーの中で)この作品の順番が回ってきたから」と平田は言うが、10年以上のタイムラグのために、登場人物と俳優たちの年齢の整合性が取れなくなってしまったそう。そこで改訂を加える際、思い切って時代設定を、昭和天皇重篤期の1988年末に設定し直した所、偶然にも令和の現在とマッチする点や、より作品のテーマを明確にする効果が生まれたという。

(天皇陛下に気を使って)いろんなことが自粛されている状況が台詞の中に出てくるし、自粛でヒマだからマレーシアに遊びに来たという人物も出ます。自粛というのが初めて演劇界において起こったのが、この当時のこと。あの頃はどちらかというと、イデオロギーと表現の自由の問題として扱われていたけど、その後は震災やコロナなど、災害時における芸術活動の問題となり、常に私たち舞台芸術の人間に問われているものです。本当に偶然なんですけど、非常にタイムリーな上演となります。

僕の中では珍しく、戦争体験が多く描かれている作品ですが、昭和の最後の時代にすることで、より天皇と(個人)の距離の問題や、年令によって戦中戦後の思いにちょっとずつズレがある、ということを明確にできたと思います。若い人にも、何か興味を持ってもらえる素材になったのでは」。

平田オリザ

平田オリザ

豊岡に住まいを移して1年以上が経ち「三が日は雪かきに追われました」と笑って話すなど、すでに豊岡に溶け込んだ感のある平田。昨年9月に開催された「豊岡演劇祭2020」と、10月にようやく認可が降りた、平田が学長を務める公立大学「芸術文化観光専門職大学」にも話が及んだ。

豊岡演劇祭は、コロナの厳しい状況の中でも5,000人近い観客が集まり、豊岡市民と関西の人と他の地域の人が、だいたい三分の一ずつといったところ。全部で5,000泊近い宿泊があり、(観光オフシーズンの)9月の宿泊率を10%ぐらい押し上げたそうで、幸先のいいスタートが切れました。観光業の人たちにも期待されていますし、何よりもこの時期に表現の場を守れたというのが大きかった。来年は規模を拡大したいと思っていますが、国際的なものを呼べるかどうかが懸案です。

大学は先日推薦入試とAO入試があり、推薦は5倍、AOは11倍という大変な倍率でした。しかもほぼ全国から応募があり、特に進学校の演劇部の生徒のニーズにマッチしたのではと思います。今の高校生は僕たちと違って東京志向がなくて、アートと観光で自分の住んでいる街を元気にしたいという人が多い。演劇と観光は、コロナでもっとも打撃を受けた業界ですけど、4年後にはその復興の人材となるような、したたかでしなやかな、自分で道を切り開いていけるような演劇人を育てたいと思っています。

今回のコロナでは、文化の東京一極集中のツケが回ってきたと思います。海外の場合、各県にオーケストラや劇団やバレエ団などがあり、それで(文化活動を)回せますし、実際に但馬では、今もうちの劇団が全域で上演を続けています。僕は“文化のバックアップ機能”と呼んでいますが、東京がダメだったら一斉に止まるのではなく、但馬のように市中感染の可能性が低い所は、再開や継続をすることが大事。豊岡での活動は、そういったバックアップ機能も果たせていると思います」。

青年団『眠れない夜なんてない』(2020年再演) ©igaki photo studio

青年団『眠れない夜なんてない』(2020年再演) ©igaki photo studio

あえて日本の外に出ることで、逆に現在の日本の生きづらさや、人生あるいは一つの時代の終えんをどこで迎えるか……などの問題が、さりげない会話から浮き彫りになる、まさに青年団らしいと言える作品。その会話の妙を楽しみつつも、エンターテインメント自粛の問題を自分なりに考察したり、有る種の戦争状態とも言える現在を、別の角度からとらえ直すことができる観劇体験となるはずだ。

取材・文=吉永美和子

公演情報

青年団第84回公演『眠れない夜なんてない』
 
■作・演出:平田オリザ
■出演:猪股俊明(客演)、羽場睦子(客演)、山内健司、松田弘子、永井秀樹、たむらみずほ、小林智、島田曜蔵、能島瑞穂、井上三奈子、堀夏子、村田牧子、井上みなみ、岩井由紀子、吉田庸
 
■日時・会場:
東京公演 2021年1月15日(金)~2月1日(月) 吉祥寺シアター
兵庫公演 2021年2月5日(金)~8日(月) アイホール(伊丹市立演劇ホール)
三重公演 2021年2月13日(土)・14日(日) 三重県文化会館 小ホール
香川公演 2021年2月18日(木)~20日(土) 四国学院大学ノトススタジオ
■公式サイト:
http://www.seinendan.org/play/2020/03/7425(東京公演)
http://www.seinendan.org/play/2020/02/7438(ツアー公演)
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