20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチ、空間と彫刻が一体化した体験型展示『イサム・ノグチ 発見の道』記者発表会レポート

2021.3.1
レポート
アート

「イサム・ノグチ 発見の道」展示イメージ(模型) (オフィシャル提供)

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20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチ。光の彫刻「あかり」を含む、およそ90件の作品からノグチの創造の軌跡をたどる展覧会『イサム・ノグチ 発見の道』が、2021年4月24日から8月29日まで、東京都美術館にて開催される。

本展は、3つの展示空間を回遊することによって、ノグチ芸術のエッセンスを体感できるもの。大小さまざまな「あかり」を用いた大型のインスタレーションから、日本の伝統や文化にヒントを得た金属彫刻、ノグチが晩年にアトリエを構えた牟礼町(香川県高松市)で制作した石彫まで。彫刻と空間は一体であるというノグチの考えに沿った体験型展示を通して、ノグチ作品をじっくり味わえる機会になりそうだ。さらに、ノグチの大ファンだというロックバンド・サカナクションのボーカリスト・山口一郎とのコラボレーション企画も見逃せない。

開幕に先立ち、2月16日に行われたオンライン記者会見より本展の見どころをレポートしよう。

3つの庭をめぐり、ノグチ芸術の精髄に触れる

イサム・ノグチの創作活動は、彫刻だけでなく舞台美術やプロダクトデザイン、公園や庭園のデザインなど多岐にわたる。東京都美術館館長の真室佳武氏は、本展に寄せる期待を以下のように語った。

東京都美術館館長 真室佳武氏 (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

「本展では、石・金属・紙のさまざまな素材の作品をたどり、ノグチの心と夢の世界をたくさんの人に楽しんでいただきたい。多くの葛藤の末に生まれたノグチの作品は、コロナ禍の今を生きる私たちに、明日への希望を示唆してくれると確信しています」

展覧会のタイトルは、晩年の作品《発見の道》に由来している。さまざまな人やモノ、歴史との出合いのなかから創作の糧を見つけていったノグチの「彫刻家としてのエッセンシャルなところを濃縮したような展覧会にしたいと思った」と語るのは、本展を企画した中原淳行氏(東京都美術館学芸員)。作品点数が絞られる本展では、回顧展というよりも「彫刻家として一番大事だったところを追える構成にしたい」という。なかでも、本展覧会を特徴づけるのは「庭」というキーワード。

東京都美術館学芸員 中原淳行氏 (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

「庭は、ノグチの彫刻芸術を知る上で重要な言葉で、森羅万象を感じることのできる世界、いわば小宇宙と言って良いと思います。ノグチは生涯を通じて、彫刻の領域をいかに拡張できるかを考えたアーティストでした。彼にとって庭とは、ランドスケープやオブジェではなく、そこに入っていった人が散策して気づきを得るなかで体験したことや、そこで過ごした時間そのものを彫刻と呼びたいと考えていた人です」

本展は「彫刻の宇宙」「かろみの世界」「石の庭」と題された3章立ての展示空間を3つの庭に見立てて、「ノグチの残したかったもの、あるいは残し得たものを体験してもらいたい」とのこと。会場では、ノグチ空間を散策するような気分で自由に歩き回ってほしい。

写真撮影もOK! 心安らぐ「あかり」のインスタレーション

記者会見では、展示模型を使ったオンラインギャラリーツアーが行われた。第1章「彫刻の宇宙」では、大小さまざまな「あかり」を150灯ほど用いた大型インスタレーションを会場の中心に据えて、その周りを囲むように、各年代のノグチの作品が配される。

展示模型を使って解説する中原学芸員 (オフィシャル提供)

「あかり」は、1951年にノグチが岐阜で出会った提灯を元にして制作した和紙の照明器具で、彼のライフワークとなったシリーズ。本作が太陽と月の光に見立てた照明であることから、会場では点灯された状態で展示されるという。中原氏は「あかり」について以下のように説明した。

「イサム・ノグチ 発見の道」展示イメージ(模型) (オフィシャル提供)

「ノグチは、和紙を通した柔らかい光の、あたたかな質感にこだわりました。そのこともあって、本シリーズは “光の彫刻” とも呼ばれています。ゆっくり点いたりゆっくり消えたり、深呼吸するような加減で明滅させることで、心が穏やかになり、うっとりするような展示空間を作りたいと考えています」

「あかり」の吊るされた空間の下はプロナムード風になっていて、来場者が歩いて楽しめるそうだ。本エリアでは写真撮影も可能とのこと。ノグチ作品との思い出を写真に残せる絶好の機会だ。

第1章展示イメージ (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

さらに第1章では、ノグチの記念碑的作品《黒い太陽》の習作も出品される。ノグチは59歳の時に牟礼町で石匠の和泉正敏氏に出会い、その後、本作を共同で制作した。以後、和泉氏はノグチの良きパートナーとなり、この出会いをきっかけに牟礼の野外アトリエが誕生する。本章ではこの《黒い太陽》をはじめ、1940年代から80年代までの多様なノグチ作品を、心ゆくまで体感したい。

実際に触れて座れるノグチ作品も

日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれたノグチは、ハーフの出自に関する葛藤があったという。特に父親との関係は複雑だったのだが「父親の祖国である日本の文化や伝統は、ノグチの創造の重要なキーポイントになっている」と、中原氏は言う。

第2章「かろみの世界」では “軽さ” をテーマに、日本の折り紙や切り紙を創造のヒントにして作られた金属彫刻が展示される。また、第1章で登場する「あかり」のスタンド型のタイプや、ペンダント型のものが20灯ほど出品予定だ。

第2章展示イメージ(模型) (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

ほかにも、1930年代から遊園地の構想を持っていたノグチがデザインした遊具《プレイスカルプチュア》も、本展のために新たに製作して出品される。さらに、ノグチがデザインしたフリーフォームソファとオットマンは、実際に座って触れることができるよう展示するという。ぜひ、会場にて座り心地を体験してみてほしい。

第2章展示イメージ (オフィシャル提供)

晩年の石彫が東京に集結

ノグチは晩年、香川県の牟礼町にアトリエを構え、そこで制作活動を行なっていた。現在はイサム・ノグチ庭園美術館となっているこの “聖地” から、石彫を借りて展示を行うのが第3章「石の庭」。本章の見どころについて、中原氏は以下のように解説した。

「ノグチは時間とともに変化する、時間を味方にできるような作品を望んでいた。そのためには、自然との調和や、自然とどう一体化していくかということが、彼の大きなテーマでした。牟礼の庭園美術館は、ノグチが生涯追求した主題の到達点と言える場所。ノグチ芸術を知る上で欠かすことのできない聖地のエッセンスを、本章ではご覧いただきたい」

晩年の石彫作品が、牟礼の美術館以外でまとめて紹介されるのは、1999年のイサム・ノグチ庭園美術館開館以来、今回が初の試みになるという。現在、牟礼から砂利を拝借して石彫の下に敷き詰めることも検討中とのこと。ノグチが過ごした牟礼のアトリエの雰囲気を味わえる空間が期待できそうだ。

第3章展示イメージ (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

「ノグチ先生の石は生きている」

記者会見の中盤には、牟礼の地でノグチと生活を共にしながら作品制作を一緒に行ってきた和泉正敏氏(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団理事長)のインタビューも公開された。

公益財団法人イサム・ノグチ日本財団理事長 和泉正敏氏 (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

イサム・ノグチとは? という質問には、「絶対に人のまねをしない、自分で新しいものを発見する。みんなで働いていても、従来の姿が出てくるとちょっと嫌がって、また新しい形を取り入れる。新しいものを見つけようとしていた」と回答。ともに仕事をしてきた楽しさを語りつつ、ノグチの印象的な言葉を問われると「生きるという言葉が好きだった」とコメント。

「ノグチ先生の場合は石が生きている、というのが僕は好きですね。ノグチ先生の石はすべてに命を宿しているような、生きてるっていうのを感じます」

公益財団法人イサム・ノグチ日本財団理事長 和泉正敏氏 (『イサム・ノグチ 発見の道』オンライン記者会見より)

最後に「何千年もいろんな所で、石の仕事はたくさんあるが、僕は石を割ったユニークさをノグチ先生と一緒に追求できた」と言葉を結んだ。

サカナクション・山口一郎のインタビュー動画も公開予定!

日本や世界を舞台に活動したノグチは、数多くのアーティストや建築家、デザイナーからリスペクトされている。記者会見の最後には、ノグチの大ファンだというロックバンド・サカナクションのボーカリスト山口一郎から、本展に向けたメッセージ動画が公開された。

サカナクション・山口一郎 (オフィシャル提供)

「ノグチの魅力は “体験” だと思う。ノグチの作品に触れることが、すごく大事だと思っているなかで、本展のコンセプトが “体験する” ということだったので、非常に楽しみにしております。イサム・ノグチの一ファンとして、展覧会に何度も遊びに行こうと思っています」

展覧会公式サイトでは、山口一郎のインタビューシリーズ動画を3月下旬から順次公開予定。ノグチ作品との出会いや展覧会の楽しみ方、自身の創作活動に与えた影響などを語る、充実の内容になっている。さらに、本展とのコラボ企画も現在進行中とのこと。今後の展開は、ぜひ公式ホームページをチェックしてみてほしい。

『イサム・ノグチ 発見の道』は、2021年4月24日より開幕。ノグチ芸術に触れて体験できる貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。


文=田中未来、写真=オフィシャル提供(一部)

展覧会情報

展覧会名 イサム・ノグチ 発見の道
Isamu Noguchi: Ways of Discovery
会期:2021年4月24日(土)-8月29日(日)
開室時間:未定(※決まり次第お知らせします。)
休室日:未定(※決まり次第お知らせします。)
会場:東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
協賛:DNP大日本印刷、三菱商事
特別協力:イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)、公益財団法人イサム・ノグチ日本財団、イサム・ノグチ庭園美術館
協力:茨城放送、日本航空
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
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