“12歳の少女”に性的なまなざしを向ける男たちの正体 『SNS-少女たちの10日間-』 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第八十二回
(C)2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
現在公開中の、『SNS-少女たちの10日間-』は、「幼い顔立ちの大人の役者たちが12歳の少女としてSNSを使い続けるとどんなことが起きるのか?」という実験を映像に収めたドキュメンタリー映画だ。スタジオ内に作られた子ども部屋で、「こちらから挑発しない」、「性的な指示は断る」など、いくつかのルールに則りながら、役者たちはアカウントを運用するのだが、開始早々に数々の男性から誘いの連絡が届く。自分が気に入った作品を「面白いから観てくれ!」と薦めるのが常のこのコーナーだが、今回はちょっとわけが違う。
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本作は、数あるドキュメンタリーの中でもハードな部類に入るだろう。日本版ビジュアルには、「衝撃のリアリティショー」というキャッチコピーが掲げられているが、本編にはショーというのも憚られる“事実”が映し出される。性被害に遭ったことのある方や、それにまつわる事柄でストレスを感じたことのある方は特に注意してほしい。つらいと感じたら劇場を出ることも視野に入れた上で、鑑賞に臨んでほしいと思う。
長く心に残る、性被害の傷跡
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少女(役者)がSkypeでビデオ通話を繋ぐと、男性たちはすぐさま自慰をしながら性器を見せてきたり、「服を脱いで見せて」と要求してきたりと、下劣な行動のオンパレードだ。男性たちの顔や性器にはボカシが掛けられているものの、目と口ははっきりと見えるため、彼らがニヤニヤと笑みを浮かべているのがよくわかる。送られてきた大量の卑猥な写真がメッセージ欄に並んでいるのも、かなりショッキングな絵面だった。物理的な被害はなくとも、性器の写真を見せられることや、卑猥な言葉を投げかけられることが性暴力になり得るということを、改めて痛感する映像が羅列される。これほどの数の欲望が自分一人に向けられていたとしたら、どれほど恐怖を感じるだろう。覚悟決めて参加しているはずの役者たちが憔悴していく様子が見てとれるので、とてつもなくしんどい。
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実際の12歳の子どもがこんな目に遭ったらどうなるのだろうか。自己形成に影響が出て、大人になっても引きずることもあるだろう。恋愛できているから、結婚できたんだから治ったね、では済まないこともある。そう言い切れるのは、形は違えど、私自身も幼少期に性被害に遭ったことがあるからだ。やはり大人になっても引きずっているし、作中で科学者が語っているように、死を考えたこともある。今でこそポジティブに生きているが、それでも植え付けられたトラウマは不意に蘇るし、随分と私を生きにくくさせている。私がそんな経験をしたことのない、平凡な女の子だったらどれほどよかっただろう、と今でもずっと考える。覚悟してこの映画を観たものの、のべつ幕なしに向けられる恐ろしい言葉や写真に、途中から寒気と震えが止まらなかった。案の定、鑑賞してから数日は、影響を受けた悪夢も見た。性被害というものは、何十年経とうが関係なく、人ひとりの人生を壊しうるのだ。
小児性愛者だけではない、子どもを狙う大人たち
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何より恐ろしいのは、子どもに性暴力を振るうのは小児性愛者に限らないということだ。幼い子どもは、大人の言うことを素直に聞いたり、褒められることを望んでいたりするので、操りやすいのではないか。ある程度自立した年齢になれば、自分で断ることもできるだろうが、子どもはその判断を下す力がまだ十分に備わっていない。だから、彼らは精神的にコントロールをしやすい子どもを狙うのだろう。
役者に連絡を取ってきた男性たちの中には、なんと撮影スタッフの知人もいた。彼は、子どもたちも参加するキャンプや旅行ツアーに関わる仕事に就いているという。本作スタッフの直撃を受け、その男性が「しつけが出来ていない親が悪い」と言ってのける場面がある。本作の公開を報じるツイートにも、「SNSをやる子どもだって悪い」、「こんなの釣りじゃないか」というニュアンスのリプライが付いていたのを目にしたが、私はどれも論点のすり替えに過ぎないと思う。そもそも子どもを性の対象とする大人がいなければ、被害は生まれないのだから。しかし、そういった性的搾取を根絶することは、悲しいが現状では難しい。だからこそ、こうして問題を提起し、事実を伝えるドキュメンタリーが製作されたことは素晴らしいと思うのだ。
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このドキュメンタリーを、あなたはどう受け止めるだろうか? この映画で描かれたようなケースは氷山の一角で、SNSに関わらずとも、子どもへの性加害は後を絶たない。だから、知って、考えてみてほしい。どうか子どもを、ひとりにしないでほしい。親や周囲の大人に相談できない環境に置かれた子どもたちは、性被害に遭った際に自分を責め、取り返しにつかないことになる場合もある。だから、どうかあなたが、コミュニケーションの取れる親や大人であってほしいと願う。
『SNS-少女たちの10日間-』は公開中。
※緊急事態宣言下のため、劇場によっては上映スケジュール変更の場合あり。映画公式サイト、または各劇場ホームページを参照のこと。