ゆずが1年越しに創出・体現した『YUZUTOWN』の世界 2日間の配信ライブを振り返る
ゆず
YUZU ONLINE LIVE 2021 YUZUTOWN / ALWAYS YUZUTOWN Supported by 日本生命 2021.5.29/6.5
ゆずのオンラインライブ『YUZU ONLINE LIVE 2021 YUZUTOWN / ALWAYS YUZUTOWN Supported by 日本生命』が5月29日(土)、6月5日(土)の2日間に渡って配信された。
2020年3月から最新アルバム『YUZUTOWN』を引っ提げたアリーナツアーを開催するはずだったゆず。新型コロナウイルスの影響により全公演が中止になったが、『YUZUTOWN』の世界をぜひ体感してほしいというメンバーの思いにより、今回のオンラインライブが実現した。今回の公演でゆずは、アルバム『YUZUTOWN』の楽曲を軸にしながら、最新のテクノロジーと遊び心に溢れた演出、そして、“今こそ、ゆずの歌をファンに届けたい”という強い感情に貫かれたステージを見せてくれた。
■初日公演「DAY1 YUZUTOWN」
開演時間の21時になると、『YUZUTOWN』のCDジャケットをモチーフにした、8ビット風のアニメーションが映し出される。「SEIMEI」のメロディを奏でるインストとともに現われたのは、「YUZUTOWN」仕様に彩られた神奈川・ぴあアリーナMM。北川悠仁のアカペラから、オープニングナンバーの「夢の地図」(シングル「桜木町/シュミのハバ/夢の地図」収録/2004年)へ。モータウン風のバンドサウンド、パフォーマーを交えた華やかなステージング、「1年お待たせしました! 今日は思い切り、僕達の街でお楽しみください!」(北川)という挨拶によって、ついに『YUZUTOWN』のライブがはじまった!という高揚感で胸がいっぱいになる。
1曲目を演奏し終わると、北川は「集まってくれて、本当にありがとう。去年はツアーができませんでしたが、僕達の1年間の思いの詰まった“YUZUTOWN”をやれること、嬉しく思っています。どうか最後まで楽しんでください」と改めて挨拶。配信のコメントには、感謝の声が数多く並んだ。
今回のライブは“YUZUTOWN”のいろんな場所を巡るように進行。まずは彼らの地元への思いを反映した「桜木町」(シングル「桜木町/シュミのハバ/夢の地図」収録/2004年)。歌詞に出てくる“大きな観覧車”を背景に、二人の声が気持ちよく重なり、早くも大きな感動へとつながる。ラストの“最後の手を振るよ”で北川が視聴者に向かって手を振るシーンも印象的だった。さらに北川の弾き語りから始まる「レストラン」(アルバム『FURUSATO』収録/2009年)では、ファンから「レア!」という声(コメント)が多数。東京の街のなかで繰り広げられる切ないストーリーをじっくりと味わうことができた。
セットリストの中心はもちろん、アルバム『YUZUTOWN』の楽曲。「まだまだ」のピアノのイントロに導かれ、“まだまだ 行こうぜ”という二人のボーカルが響いた瞬間、心のなかに強い気持ちが生まれるのがわかる。「誰かが言った 夜明けは近いと」「あきらめないで 立ち向かえ」というフレーズは、まだまだ先が見えない状況を生きる全ての人々に大きな勇気を与えてくれるはずだ。
「チャイナタウン」は、シアトリカルな演出が施されていた。飲茶を食べにお店に入った北川は、チャイニーズドレスを着た女性の店員とダンス。店にいた無頼漢ともみ合いになり、椅子に縛られてしまうが、先ほどの店員がカンフーさながらのバトルで男たちを撃退し、再び楽しくダンスを繰り広げる。続く「公園通り」では、北川が街を歩き、すれ違う女の子たちと写真を撮ったり、サインをしたり。最後は楽器屋でアコギを手に取り、演奏に加わる。そう、楽曲のイメージを楽しく増幅してくれるステージもまた、ゆずのライブの大きなポイントだろう。
華やかなエンタメ性から一転、強いメッセージによってライブ中盤のハイライトを演出したのは、名曲「栄光の架橋」(シングル「栄光の架橋」収録/2004年)。壮大なマーティング・バンドの音色からはじまるアレンジ、そして、世界各国の国旗がはためく映像とともに、ダイナミックな旋律を響かせた。エンディングでは過去のライブ映像、オーディエンスの合唱を加え、心地よい一体感を生み出した。さらに「SEIMEI」では、神聖な雰囲気の巨大な樹木、自然界に存在する野生動物の映像を交えながら、美しく、壮大な生命の源を描いた歌を際立たせる。ラテン、アフリカ、アジアのリズムを融合させたアレンジも素晴らしい。
岩沢「あんなに練習したのに、どんどん終わっていく(笑)」
北川「同じ気持ちです(笑)。1曲1曲、泣きそうになりながらやってます」
そんなやり取りを挟んで披露されたのは、嵐に提供した「夏疾風」。前のめりで疾走するビート、強いエモーショナルに満ちたボーカルからは、ロックアーティストとしてのゆずの表情をしっかりと感じ取ることができた。
この日、もっとも強烈で、クセの強いステージが繰り広げられたのは、サイケデリックな雰囲気のアッパーチューン「イマサラ」だった。インドの王子様(?)に扮した北川は、タオルを回し、踊りまくりながら「踊れ!叫べ!」と視聴者にアピール。さらに象の絵があしらわれた椅子に坐り、パフォーマーたちに担がれながら花道へ。的確な演奏を続ける岩沢とのバランスも絶妙だ。
デビュー曲にして、ゆずを象徴する名曲「夏色」(シングル「夏色」収録/1998年)によって、ライブは終盤へ。バンドメンバーの演奏、パフォーマーのステージングもさらに高揚感を増し、「カモン! もっともっと!」と視聴者を煽る北川もめちゃくちゃ楽しそうだ。楽曲途中のブレイクでは、「長野の善光寺、行きたかった! 三重のお伊勢参りもしたかった! さいたまスーパーアリーナで走り周りたかった!」と、本来、ツアーを回りはずだった土地に思いをはせる。さらに「コロナのバカ野郎! でも、そんなことばかりも言ってられません。みんなと一緒に前に進みましょう!」と語り掛け、「夏色」のサビを高らかに歌い上げた。
「この1年間、ただじっと待っていただけではなく、オンラインライブをやったり、新曲も作ってました。出来たばかりの新曲、聴いてください」(北川)と紹介されたのは、「NATSUMONOGATARI」。北川いわく「過去と今の僕達、そして未来を思いながら、2004年の『桜木町』のアフターストーリーのようなつもりで作った」という楽曲だ。ネオソウル、フォーク、ボカロ系など幅広い要素がハイブリッドされたこの曲は、ゆずの新しいスタイルを示唆していると言っていいだろう。ラストは「花咲ク街」。叙情的なメロディと大らかなスケール感をたたえたサウンドが広がるなか、初日公演「DAY1 YUZUTOWN」は幕を閉じた。
■2日目公演「DAY2 ALWAYS YUZUTOWN」
「DAY2 ALWAYS YUZUTOWN」とタイトルされた2日目の配信は、ゆずの原点である弾き語りのライブと、アルバム『YUZUTOWN』に即したパフォーマンスをハイブリッドさせた内容となった。
最初に映し出されたのは、録画機材をセッティングする北川の姿。立ち位置に戻り、岩沢と横並びになった北川は「みなさん、こんばんは、ゆずです! 今はなき松坂屋さんの前からお届けします!」と弾き語りのライブを始めた。旧・横浜松坂屋(2008年閉店)は、ゆずが結成直後から路上ライブを行っていた思い出深い場所。松坂屋を再現したセットの前で二人はまず、新曲「春疾風」(「夏疾風」をベースに再構築された楽曲)を披露。さらに「当時やっていたこの曲をお届けします」(北川)と「値札」((シングル「表裏一体」収録/2013年)を歌い上げ、コメント欄には「懐かしい!」「松坂屋の再現ぶりがすごい」といった声が並んだ。「『値札』歌ってて思い出したんだけど、まだぜんぜんお客さんがいない頃、花火大会帰りの人がいっぱい集まってきてくれたことあったよね」(北川)と思い出話に花を咲かせる二人の姿も印象的だ。
続いて、事前に募っていたリクエスト(“北川曲”“岩沢曲”各3曲から1曲に投票)で1位となった「幸せの扉」(アルバム『トビラ』収録/2000年)、「方程式2」(アルバム『ゆずえん』収録/1999年)を演奏。レアな楽曲を弾き語りで味わえたことも、この日の配信ライブの大きな収穫だった。
弾き語りコーナーの最後は、「今はない松坂屋さんの前でどうしてもこの曲を歌いたかった」(北川)と紹介された「GOING HOME」(ベストアルバム『Going』収録/2005年)。15年以上前に発表された曲だが、「すべてなくしてもまた始めればいい」と言うフレーズは、まだまだ先が見えない状況のなか、ゆずの配信ライブを楽しんでいるすべての人の心に届いたはずだ。楽曲の終盤でカメラが引き、ぴあアリーナMMの全景が映し出された。松坂屋のセットの前で歌う二人の背後には、バンドメンバーと数多くのパフォーマー。大胆な演出に圧倒されていると、衣装を変えた北川、岩沢がアリーナのステージに立ち、巨大な木をモチーフにしたセットとともに「SEIMEI」(アルバム『YUZUTOWN』収録/2020年)を熱唱。さらに「ALWAYS YUZUTOWNへようこそ! 最後まで思い切り楽しんでくれ! 一緒に歌おう!」(北川)と「うたエール」(アルバム『BIG YELL』収録/2018年)を放ち、視聴者との一体感を生み出した。
「先週は、もともとやろうとしていた『YUZUTOWN』の世界観を見てもらったんですが、今日は、こので成長した僕たちのライブを観てもらえればと思います」(北川)というコメントの後は、アルバム『YUZUTOWN』の楽曲をさらにアップデートさせたステージを展開。
疾走感に溢れたビート、華やかなホーンセクションを交えたサウンドと、とりあえず過ぎてしまう日々を綴った歌詞のコントラストが楽しい「フラフラ」に続いては、初日でも披露された「チャイナタウン」。中華料理店の店員になった北川が無頼漢にボコられると(ここで映像に切り替わる)カンフーの師匠に扮した岩沢と出会い、まるで『酔拳』か『カラテキッド』のように修行。強くなった北川は再び店に戻り、悪い奴らをやっつける。小芝居混じりの楽しい演出も、ゆずのライブの魅力だ。
“2人組・零型フォークデュオ”MIZUが「ゆずさんの盛り上げ役としてやってきました!」と登場した後は、「GreenGreen」。スクリーンには広島、北海道、神奈川、三重など、本来ツアーで行くはずだった土地の名所がアニメ—ションで映し出され、切なくて爽やかな曲調とともに、心地よい感動へと結びつけた。コメント欄にも「背景の絵が泣ける」「次のツアーでは私が住んでるところにも来てほしい」といった切実な言葉が。ゆずとファンの強い絆が感じられるシーンだったと思う。
インドっぽさ全開のアッパーチューン「イマサラ」では、インドの王様に変身した北川がなんとフライングを披露。「公私混同」(配信シングル/2020年)では北川、岩沢が巨大な人型ロボットに乗って、<臆病者それぐらいがきっとちょうどいい/これでいいのだ>というフレーズを響かせ、ライブのテンションは最高潮へ。オーディエンスに喜んでもらうために、あらゆるアイデアと機材をできる限り注ぎ込む姿勢に圧倒されてしまった。
「みんないろんな思いをしてきたし、いろんな気づきもあったと思います。今までの生活ペースが変わって、空を見ることが増えました。ときどき、とてもきれいな空に出会うと、“ファンのみんなはどうしているかな、元気でやってるかな”とすごく思いました」「この1年間のいろんな思いを新曲にしました。応援してくれるみんなに聴いてほしい曲です」という北川の言葉に導かれたのは、新曲「ALWAYS」。美しくも切ないピアノを軸にしたアレンジ(磯貝サイモンの演奏が素晴らしかった!)、ドラマティックな旋律とともに、ファンに対する愛情に満ちた歌が広がるなか、ライブは幕を閉じた。
観客に向けられた真摯な思い、豊かさと幅広さを増し続ける音楽性、そして、二人の歌を中心にしながら、圧巻のエンターテインメントを体現するステージ。ゆずのライブの奥深い魅力体感できる、きわめて有意義な配信ライブだった。
今年8月から9月にかけては、神奈川、愛知、大阪で約2年ぶりの全国ツアー『YUZU TOUR 2021 謳おう』の開催も決定。コロナ禍のなかで培われ、鍛えられたゆずの音楽が舞台の上でどんなふうに響くのか、ぜひ現場で確かめてほしいと思う。
取材・文=森朋之 撮影=太田好治、立脇卓、徳重裕二郎