[連載企画] ウエストエンド・ミュージカルの名作『オリバー!』 PART 1/まずは歴史と映画版から

コラム
舞台
2021.7.27
『オリバー!』、イギリスからの来日公演プログラム(1968年)

『オリバー!』、イギリスからの来日公演プログラム(1968年)

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[連載企画] ウエストエンド・ミュージカルの名作『オリバー!』
PART 1/まずは歴史と映画版から

文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima


 日本では久々の上演となるミュージカル『オリバー!』が、2021年秋から冬にかけて東京・大阪で開催される。ウエストエンド・ミュージカルの歴史に、その名を刻む重要な一作だ。しかし翻訳上演は、1990年以来31年振り。今では、作品自体を知らない方も多いだろう。そこで、その魅力と見どころに迫る記事を3回に渡って連載する。PART 1は、基本編として簡単な歴史と、本作の知名度を高めた映画版(1968年)の特集だ。
 

■ビフォア・マッキントッシュ

 今回『オリバー!』のプロデュースを手掛けるのが、サー・キャメロン・マッキントッシュ。英国のみならず、世界的に成功した演劇プロデューサーだ。天才作曲家サー・アンドリュー・ロイド=ウェバーとのコンビで、『キャッツ』(1981年)や『オペラ座の怪人』(1986年)など、ロンドン初演後に世界中で続演を重ねた大作を連発。他にも、『レ・ミゼラブル』(1985年)に『ミス・サイゴン』(1989年)、『メリー・ポピンズ』(2004年)などのメガヒットで、1980年代から現在に至るまで、ウエストエンド・ミュージカルを牽引してきた。しかし、これら名作が誕生する以前の1960年代は、英国産ミュージカルと言えば『オリバー!』。実はマッキントッシュが、若き日の1977年にプロデュースした作品も、本作のロンドン再演だったのだ。
 

■貧しくも逞しく生きる人々を描く

 原作は、イギリスの国民的作家チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』(1838年)。粗筋を記しておこう。舞台は19世紀のイギリス。救貧院で暮らす孤児オリバーは、食事のお代わりを要求した事を睨まれ、葬儀屋に売り飛ばされる。ここでも酷い仕打ちを受けた彼は、逃亡しロンドンに辿り着いた。たまたま知り合ったスリの少年、アートフル・ドジャーの紹介で、親分フェイギンが仕切る窃盗集団の仲間入り。ところが初仕事の日、まごまごしている内に捕まってしまう。以降、フェイギンの仲間で凶暴な悪党ビル・サイクスや、彼の心優しき情婦ナンシーら大人たちに運命を翻弄されるも、最後には思いがけない幸運が待ち受けていた。

風刺画家ジョージ・クルックシャンクによる、「オリバー・ツイスト」初版本(1838年)の挿絵。右端がオリバー。中央がアートフル・ドジャーで、その左がフェイギン。

風刺画家ジョージ・クルックシャンクによる、「オリバー・ツイスト」初版本(1838年)の挿絵。右端がオリバー。中央がアートフル・ドジャーで、その左がフェイギン。

 ディケンズ(1817~70年)が生きたイギリスは、正に産業革命を経た頃。紡績機械や蒸気機関の発明で、貿易や工業は急速に発展した半面、女性や子供も含む労働者は、劣悪な環境で長時間の重労働を強いられた。本作には、幼い頃から貧困に苦しんだディケンズの、これら社会悪に対する痛烈な批判と怒りが込められている。また一方では、若き日は役者を志した事もある彼が、ユーモラスな筆致で活写する、フェイギンのような仇役が魅力的。個性豊かなキャラクター陣は、ミュージカル化によって一層光彩を放っているのだ。

『オリバー!』ウエストエンド初演(1960年)のオリジナル・キャストCD(輸入盤)

『オリバー!』ウエストエンド初演(1960年)のオリジナル・キャストCD(輸入盤)

 ミュージカル版『オリバー!』は、脚本と作詞作曲をライオネル・バートが担当(次号PART 2で特集)。初演は1960年6月に、ウエストエンドのニュー・シアター(現ノエル・カワード劇場)でオープンし、続演2,618回の大ロングランを記録している。ブロードウェイでの初演は、3年後の1963年1月にインペリアル劇場で幕を開け、続演774回のヒットとなった。

ブロードウェイ初演(1963年)のオリジナル・キャストCD(輸入盤)

ブロードウェイ初演(1963年)のオリジナル・キャストCD(輸入盤)


 

■マーク・レスター主演の映画版

 その後1968年の5~7月に、東宝がイギリスからのカンパニーを招聘し、帝国劇場で来日公演を開催した(ただしオリバー役を含む子役は、アメリカでのオーディションで選抜された英米混成キャスト)。そして同年10月に公開されたのが、映画版『オリバー!』(英米合作)。当時は私を含め、この映画で初めてウエストエンド・ミュージカルに接した人が多かったはずだ。現在は、DVDやブルーレイで簡単に入手可。久々に鑑賞したら、色々と面白かった。

DVDとブルーレイは、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントよりリリース。Amazonのprime video等でも視聴可。

DVDとブルーレイは、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントよりリリース。Amazonのprime video等でも視聴可。

 監督は、「第三の男」(1949年)や「フォロー・ミー」(1972年)などで知られる、イギリスの名匠キャロル・リード。広大なスタジオに建てられた19世紀ロンドンのセットが壮観で、くすんだような渋い色調も相まって、見事にディケンズの世界を再現した。

 オリバー役は、2,000人の応募者から選ばれたマーク・レスターが演じている。1971年には、少年少女のピュアな恋愛を描いた秀作「小さな恋のメロディ」に主演し、日本では大変な人気だった(この映画には、本作でアートフル・ドジャーに扮したジャック・ワイルドも出演)。レスター君、やや線は細いものの健気なオリバー少年を好演しており、愛情に飢えた彼が歌うバラード〈愛はどこにあるの?〉は感涙モノだ。ただし歌は吹替え。後述する音楽監督ジョン・グリーンの娘で、レスターと似た声質のキャシィ・グリーンが、歌のパートを受け持った。

日本公開時(1968年)のプログラム表紙。オリバー役のマーク・レスター(右)と、ジャック・ワイルド(アートフル・ドジャー)

日本公開時(1968年)のプログラム表紙。オリバー役のマーク・レスター(右)と、ジャック・ワイルド(アートフル・ドジャー)

 フェイギン役で、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたロン・ムーディは、ウエストエンド初演のオリジナル・キャスト。細部まで凝りに凝った役作りで、狡猾な憎まれ役を嬉々として演じており、オリバーにスリの心得を伝授する〈一丁すってやれ〉などコミカルなナンバーで、したたかな実力を十二分に発揮している。

フェイギン役のロン・ムーディ

フェイギン役のロン・ムーディ


 

■TVから流れてきたミュージカル・ナンバー

 特筆すべきは楽曲だ。ライオネル・バート作詞作曲の耳に馴染み易いナンバーが、ともすれば陰惨になりがちなストーリーを大いに盛り上げる。アートフル・ドジャーがオリバーに、「気兼ねなくやってくれ、我が家だと思って」と窃盗団に勧誘する〈気楽にやれよ〉を始め、ナンシーと酒場の男たちが陽気に唱和する〈ウンパッパ〉、彼女が恋人への熱い想いを歌い上げる〈あの人が私を必要とする限り〉など素晴らしい曲が揃う。実は〈気楽にやれよ〉と〈ウンパッパ〉は、映画公開の数年前に、NHK「みんなのうた」で取り上げられており(前者は〈オリバーのマーチ〉のタイトル)、子供を中心に広く親しまれていた。当時は今よりもはるかに、ミュージカル・ナンバーが身近にあったのだ(もちろん日本語詞で歌われた)。

サントラCDは、荘厳なサウンドに魅せられる(輸入盤)。

サントラCDは、荘厳なサウンドに魅せられる(輸入盤)。

 ステージングと振付は、『ザ・ミュージックマン』(1957年)や『メイム』(1966年)で高い評価を得た、ブロードウェイの振付師オンナ・ホワイト。キレの良い群舞を得意とした彼女は、〈気楽にやれよ〉では、アートフル・ドジャーとオリバーの歌に、ロンドンの街中で働く精肉業や新聞配達ら、市井の労働者たちのパワフルな踊りをたっぷり絡め、見応えあるナンバーに仕上げた。加えて、音楽監督・編曲のジョン・グリーンによるバラエティーに富んだアレンジも申し分なし。ホワイトの闊達な振付を、存分に引き立てている。

 1960年代は「ウエスト・サイド物語」(1961年)を始め、舞台ミュージカルの大作映画化が盛んだった。本作もその一本。改めて観ると、ドラマ性を強調して実に手堅く創られており、翻訳上演を観劇する前の予習に、最適な映画となっている(上映時間=153分)。

(次回PART2に続く)

[連載企画] ウエストエンド・ミュージカルの名作『オリバー!』(全3回)

■PART 1/まずは歴史と映画版から https://spice.eplus.jp/articles/289743
■PART 2/ライオネル・バートって誰? https://spice.eplus.jp/articles/290361
■PART 3/オリバー・トリビア https://spice.eplus.jp/articles/290921

公演情報

ミュージカル『オリバー!』
 
[東京公演]
■会場:東急シアターオーブ
■日程:
プレビュー公演:2021年9月30日(木)~10月6日(水)
本公演:2021年10月7日(木)~11月7日(日)

■料金(全席指定・税込)
S席14,000円/A席10,000円/B席4,500円
プレビュー:S席12,500円/9,000円/B席4,000円
■一般前売り:2021年7月15日(木)

販売:eplus.jp/oliver 他
 
■主催:ホリプロ 東宝 TBS 博報堂DYメディアパートナーズ WOWOW
■特別協賛:大和ハウス工業
■後援:ブリティッシュ・カウンシル

[大阪公演]
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■日程:2021年12月4日(土)~12月14日(火)
■料金(全席指定・税込)
S席14,000円/A席10,000円/B席4,500円
■一般前売り:2021年10月2日(土)
販売:eplus.jp/oliver 他
 
■主催:『オリバー!』製作委員会
■特別協賛:大和ハウス工業
■後援:ブリティッシュ・カウンシル
 
※4歳以上観劇可(入場券が必要になります)
※膝上観劇不可
※本公演の入場券は主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。
※やむを得えない事情により、出演者並びにスケジュールが変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
※公演中止の場合を除き、払い戻し、他公演へのお振替はいたしかねます。ご了承のうえ、お申込みください。
 
<キャスト>
フェイギン:市村正親/武田真治(Wキャスト)
ナンシー:濱田めぐみ/ソニン(Wキャスト)
ビル・サイクス:spi/原慎一郎(Wキャスト)
 
オリバー・ツイスト:エバンズ隼仁/越永健太郎/小林佑玖/高畑遼大(クワトロキャスト)
アートフル・ドジャー:大矢 臣/川口 調/酒井禅功/本田伊織(クワトロキャスト)
 
ミスター・バンブル:コング桑田/小浦一優(芋洗坂係長)(Wキャスト)
ミセス・コー二―:浦嶋りんこ/鈴木ほのか(Wキャスト)
ミスター・サワベリー/ミスター・グリムウィグ:鈴木壮麻/KENTARO(Wキャスト)
ミセス・サワベリー/ミセス・ベドウィン:北村岳子/伊東えり(Wキャスト)
ミスター・ブラウンロウ:小野寺昭/目黒祐樹(Wキャスト)
 
ベット:植村理乃
ノア・クレイポール:斎藤准一郎
シャーロット:北川理恵
サリー婆さん:河合篤子
ローズセラー:青山郁代
ミルクメイド:元榮菜摘
ストロベリーセラー:飯田恵理香
ナイフグラインダ―:森山大輔
 
荒井小夜子、家塚敦子、石川剛、大久保徹哉、小原和彦、金子桃子、菊地まさはる、小林遼介、今野晶乃、白山博基、鈴木満梨奈、高瀬育海、髙田実那、照井裕隆、宮野怜雄奈、吉田玲菜、蘆川晶祥(五十音順)
 
フェイギンのギャング団(Wキャスト):
【子役キャストグループ:ハックニー】
チャーリー・ベイツ:中村海琉
ディッパー:河井慈杏
ハンドウォーカー:山口俊乃介
スネイク:市村優汰
キング:入内島悠平
キャプテン:髙橋唯人
スティッチム:瀧澤拓未
スパイダー:田中琉己
キッパー:田中誠人
ニッパー:髙橋維束
【子役キャストグループ:ペッカム】
チャーリー・ベイツ:日暮誠志朗
ディッパー:福田学人
ハンドウォーカー:山下光琉
スネイク:河内奏人
キング:花井 凛
キャプテン:佐野航太郎
スティッチム:杉本大樹
スパイダー:高田夏都
キッパー:平澤朔太朗
ニッパー:渡邉隼人

 
救貧院の子どもたち(Wキャスト/五十音順):
【子役キャストグループ:メイフェア】
小川竜明 西口青翔 井上綾子 木村律花 久住星空 佐藤 凌 土岐田 育 仲西 奏 廣瀬健也 松浦歩夢 森田みなも 涌澤昊生 涌澤摩央
【子役キャストグループ:ベルグレヴィア】
磯田虎太郎 市川裕貴 石倉 雫 木村 心 黒川明美 河本雪華 鐘 美由希 高澤悠斗 土屋飛鳥 寺﨑柚空 平賀 晴 弘山真菜 矢田陽輝

ほか
 
<スタッフ>
■原作:チャールズ・ディケンズ
■脚本・作詞・作曲:ライオネル・バート
 
■オフィシャルサイト:https://www.oliver-jp.com/
■公式Twitter: @OliverMusicalJP https://twitter.com/OliverMusicalJP
■公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCH2fF5Bmcu54JLnunmkD_Yw
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