劇作家・演出家の瀬戸山美咲率いる演劇ユニット・ミナモザが『イェルマ』始動 SCOTサマー・シーズン野外劇で上演
『イェルマ』 写真:永峰拓也
2021年9月3日(金)と9月4日(土)の2日間、利賀芸術公園 岩舞台(富山県南砺市)において、劇作家・演出家の瀬戸山美咲率いる演劇ユニットミナモザが『イェルマ』を上演する。
利賀村(富山県南砺市)で行われる演劇祭『SCOTサマー・シーズン2021』参加作品である今作は野外劇で、国内外で音楽活動を行うチェロ奏者・作編曲家五十嵐あさかの書き下ろしの楽曲と歌で紡ぐ音楽劇でもある。
『イェルマ』は『血の婚礼』で知られるスペインの詩人・劇作家のガルシーア・ロルカが1934年に書いた悲劇。妊娠・出産を望む妻・イェルマとその夫・ファンの姿を通して、スペインの村を舞台に繰り広げられる“子どもを産むことを”をめぐる物語。
2017年にロンドンのヤング・ヴィック劇場でサイモン・ストーン翻案・演出により上演、翌2018年に日本でもナショナル・シアター・ライブで上映された。現代版ではイェルマを子ども以外の全てを持っているキャリアウーマンとして描き、衝撃的なラストシーンが大きな話題を呼んだ。瀬戸山と安藤はこの現代版『イェルマ』を鑑賞し、「絶対にやりたい!」と意気投合し、実現に向けて動き出した。
企画と構想を進めていた2020年、コロナウィルスの感染が拡大。もともとあった人々の分断が表に見え始めた今、“人と人のわかり合えなさ”の本質を描いた原作のガルシーア・ロルカ版の『イェルマ』こそ上演する意味があるのではないかと考え始め、そんな折、「SCOTサマー・シーズン2021」への参加が決定。スペインの閉塞的な村を舞台にした本作は野外劇がふさわしいと考え、今回の上演に至った。
主人公は、妊娠と出産に情熱を燃やす女性=イェルマ。夫であるファンは全く「妊活」に協力的ではなく、仕事に邁進するばかり。イェルマは周囲の女性ばかりが次々に妊娠していくように感じ、自分だけ子どもを授からないことに焦りを募らせていく。筋書きは悲劇だが、村人とのやりとりや夫婦間のやりとりには笑いを誘うものも多く、どこか喜劇的な匂いもある作品となる。
主人公であるイェルマを演じるのは、松尾スズキとの二人芝居『命、ギガ長ス』(19/作・演出:松尾スズキ)や、上演時間10時間におよぶギリシャ悲劇KAAT・KUNIO共同製作『グリークス』(19/翻訳:小澤英実、演出・美術:杉原邦生)、KAAT『虹む街』(21/作・演出:タニノクロウ)など近年舞台での活躍めざましい、俳優の安藤玉恵。
『イェルマ』 写真:永峰拓也
ほか、細川洋平、鈴木彰紀、吉岡あきこ、浜野まどか、廣川真菜美、五嶋佑菜、浅野悠那が名前を連ねる。
今回は、利賀村という唯一無二の場所で上演される初演となるが、このミナモザ『イェルマ』は、今年の上演にとどまらず、今後の上演に向けて賛同・伴走するプロデューサーを募集している。
演出・瀬戸山美咲 コメント
『イェルマ』をやりたいねと安藤玉恵さんと話してから早3年。今回、野外というこれ以上ない環境で上演できることになりました。『イェルマ』は1934年に書かれた作品ですが、そこで描かれていることは今も変わっていません。この作品の面白さは、社会に負わされる女性の義務を描くにとどまらず、「身体」の違いから来る絶対的な「わかりあえなさ」を描いているところにあります。2021年の今、「多様性」という言葉を至るところで目にします。ただ、そこで言われる「多様性」とは、あくまでもマジョリティの立場から従来の価値観や社会構造から外れるものをそう表現しているに過ぎないように感じます。しかし、本来的に人間はひとりひとり違う生き物です。身体も流れる時間も異なります。そして、社会といわれるものは個体差のある生き物が “言葉”という共感も誤解も生む曖昧なものに頼りながら、なんとか共存しているだけです。その真実をこの戯曲は気づかせてくれます。
『イェルマ』は80年代以降、あまり日本で上演されてきていませんでした。それは、おそらく社会が一つの価値観に支配され過ぎていたため、『イェルマ』が描いていることの深刻さに目を向ける人が少なかったからではないかと思います。しかし、今、そういった旧来の社会のかたちに限界を感じる人が増えてきています。ガルシーア・ロルカが見ていた世界を今こそ解凍し、閉塞した現代に風穴を開けていきたいと思います。
出演:安藤玉恵 コメント
ビリー・パイパーさんの口元、私の口元(具体的には上の歯と歯茎の位置関係)似てない?というのが、ナショナルシアターライブで見た「イェルマ」の感想でした。というのは嘘ではないのですが、映画館からの帰り道、私これやってみたい!と思ったんです。絶対に開かないドアの前で、血が出るまで扉を叩き苦しみ叫び続ける女を、なんで演じたいと思うのだろう。答えはやりながら見つけます、何と言ってもあの瀬戸山さんと一緒にできるのだから。
『イェルマ』 写真:永峰拓也