兵動大樹&桂吉弥のダブル主演舞台第3弾『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』の台本読み合わせの現場に潜入
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
9月4日(土)に大阪・ABCホールで公演初日を迎える舞台『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』。9月7日(火)まで7公演を駆け抜け、10月3日(日)にはアクリエひめじ中ホールで初の姫路公演を開催する同作は、おしゃべり芸の達人であるお笑い芸人・兵動大樹と落語家・桂吉弥がダブル主演をつとめる人気シリーズ第3弾。今作では、再開発が進む町を舞台に、寂れたスナックが建つその土地が目当ての不動産営業マン・菅谷(兵動)、店を営む林田(吉弥)たちが巻き起こす混乱模様が描かれる。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
公演を約1ヶ月後に控えた7月下旬、スタッフとキャストの初顔合わせと台本の読み合わせがおこなわれ、兵動、吉弥、そして共演の佐藤太一郎、施鐘泰(JONTE)、近藤頌利(劇団Patch)、堀くるみ、安藤夢叶、未知やすえの出演陣、演出家の木村淳らが一堂に会した。
『はい!丸尾不動産です。〜本日、家で再会します〜』
顔合わせをはじめる前に各自が実施したのは、PCR検査など入念な新型コロナ対策だ。そのすべてクリアしなければ、稽古を進めていくことはできない。検査を早めに終えた出演者は待ち時間、台本に目を落として早くも舞台モードに。兵動は黙って内容を読み込み、太一郎も眼光鋭く台本とにらめっこ。一方の吉弥は、情報番組『ちちんぷいぷい』(毎日放送)で共演してきたやすえのPCR検査の手続きをサポートしていた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
予定の開始時刻を15分ほど過ぎて、演出の木村は自分の紹介もそこそこに、まず「大阪も、おそらくまた緊急事態宣言が出ると思われます(その後、8月2日(月)に発令)。そんななか、安全にお客様に舞台を観ていただくためにも、常日頃からの対策をお願いします」と言い、ガイドラインを説明。本来であれば2020年夏に開かれるはずだった同公演。約1年の延期を経験したこともあり、細心の注意を払った船出となった。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
つづいて、それぞれが挨拶。木村から「では座長から」と促され、兵動が「座長というあだ名です。責任は持ちません。今回の座長はやすえ姉さんなので」と笑わせれば、吉弥も「私も、自分が座長やとは思っていません。全員でやっていきましょう!」とワンチームを強調。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
ふたりのあと、まず挨拶に立ったのがやすえ。兵動から大役をふられたこともあり「座長の未知やすえです」と自己紹介すると、大きな拍手が起こった。長年、吉本新喜劇の板の上で芝居をしてきたやすえだが、今回は外部の舞台とあって「はっきり言って台詞は覚えられません」と謙遜した。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
2019年上演の前作『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます~』から続投となる太一郎が「いろいろ盛り上げていけるように、まわしていきたい」と力強く語れば、歌手としても活動する施鐘泰も「しっかりがんばっていきたい」と殊勝な口ぶりで意気込んだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
『マインド・リマインド~I am…~』(2020年)など今や木村演出作には欠かせない存在でもある劇団Patchからは今回、近藤頌利が参加。近藤は「久しぶりの関西で、関西弁の舞台なのでがんばりたい。ちなみに阪神タイガースが大好きです」とアピール。アイドルグループ、たこやきレインボーを5月に卒業したばかりの堀は「舞台は初めてなので、みなさんに支えられながらがんばりたい」と緊張気味。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
一方、安藤は「アンディーと呼んでください」と気さくに自己紹介。やすえから「なんやて? あんみん!?」と珍ツッコミが入って、場の緊張がやわらぐ一幕も。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
小休憩をはさんで、早速読み合わせがスタート。ちなみに各自の今回の役どころは、兵動は前2作と変わらず、行く先々でトラブルに遭遇してしまう菅谷。吉弥は、過去2作と同じく林田という役名ではあるが設定は毎回違い、今作では20年前に妻子が出て行って以降、孤独にスナックを営む50歳。やすえは、林田に疑惑の目を向ける初老の女性。太一郎は店を開業したいオカマ。施鐘泰はある夢に破れた警察官。近藤は林田の息子を名乗る青年。堀は潰れかけのスナックであえてバイトしたい!と張り切る風変わりな女。安藤は町を調査にやって来た高校生ユーチューバー。クセのあるキャラクターばかりが登場する。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
木村から冒頭「メタフィクションになるのは良いのですが、あくまで創作のラインを越えるのはお客さんに失礼だと考えています。素を見せるのではなく、虚構の世界に生きている人物であることを踏まえた上でやってほしい。そして稽古が始まったら、どんどんアイデアもください」と意図が語られたが、2時間に及んだ読み合わせのなかでリクエストがあったのはこの言葉だけ。この日は、各出演者が自分の役の台詞、物語の流れを確認する形だった。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
読み合わせを取材するなかで、特に気になったのは未知やすえの役どころとポジショニングだ。吉本新喜劇の一員として40年以上にわたって活躍してきた、誰もがよく知るコメディエンヌ。ブチギレたかと思ったらいきなりしおらしくなる、テンションの落差で関西人を笑わせてきた。わたしたちのなかには、未知やすえ像のイメージができあがっているのだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
ただ読み合わせの段階では、やすえの今回の役は意外なほど真っ当なキャラクター。ある意味で淡々としており、ぐいぐいと引っ張っていくタイプではない感じがした。まだまだ読み合わせとはいえ、兵動がアドリブを振ったり、やすえがいつものキャラ性を差し込んだりする隙間は現状、どう考えても見当たらないのだ。フラットな人物像だからこそ「どうとでも遊べる」と捉えるべきか、それともカチッと固められたなかにネジこんでいくオモロさに期待するべきか。キャラクターの転がり方がまさに未知数なのだ。ひとつ言えることは、吉本新喜劇では見せてこなかった一面が浮き上がるのは間違いないこと。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家で再会します~』は、8月に入って本格的に稽古へ突入。各キャラクターの導線と立ち位置を固めていった上で、芝居をつけていくという。身振り手振りや感情を乗せた上で、各登場人物がどんな性質を持っていくのか。これからもその動向を追いかけていく。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン