『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』開催&特別番組『小早川秋聲 ~旅する画家の魅力!』放送記念

コラム
アート
2021.8.6
《長崎へ航く》1931年 個人蔵

《長崎へ航く》1931年 個人蔵

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2021年8月7日(土)より、展覧会『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』が京都文化博物館で開催されます。それを記念し、8月15日(日)には小早川秋聲を特集するスペシャル番組『小早川秋聲 ~旅する画家の魅力!』の放送が決定しました。

小早川秋聲は、大正・昭和初期に活躍した京都画壇を代表する画家でした。しかし、第二次大戦後すぐに大病を患い、戦時中に洋画家の藤田嗣治とならんで戦争画を多く描いたことなどもあって、戦後は画壇での活躍も控えめとなり、1974年の逝去とともにその存在が忘れられつつありました。この数年、戦争画の文脈の中でテレビや雑誌において、亡くなった将校を描いた《國之楯》が紹介されることが増え、画家としての小早川秋聲の再評価が行われるようになりました。

しかし、小早川秋聲は、《國之楯》のような戦争画にとどまらない、幅広い画風をもった画家でした。旅行狂人という異名をとるほどの旅好きで、世界中の風景を描きました。また、画材や表装にも美しく豪華なものを使用し、驚くべき効果を生み出しています。秋聲の人生と展示されている代表作をご紹介しましょう。

《國之楯》1944年 京都霊山護国神社(日南町美術館寄託)  天覧に供するために陸軍省の依頼で描かれたと伝わるが、完成作は同省に受け取りを拒まれた。絵の裏にはチョークで「返却」と記されている。

《國之楯》1944年 京都霊山護国神社(日南町美術館寄託) 天覧に供するために陸軍省の依頼で描かれたと伝わるが、完成作は同省に受け取りを拒まれた。絵の裏にはチョークで「返却」と記されている。

小早川秋聲は、1885年、鳥取県日野町の光徳寺住職小早川鐵僊と兵庫県三田の旧藩主九鬼家の一族「こう」の長男として生まれました。母の里・九鬼子爵邸内で育った秋聲は、父鐵僊が京都・東本願寺の要職についたことに伴い、京都で暮らし東本願寺の衆徒として僧籍に入ります。幼少期から絵を好み、中学卒業後、京都の日本画家で歴史画を得意とした谷口香嶠に師事しました。谷口香嶠は、竹内栖鳳とならぶ、京都画壇の重鎮です。この頃の秋聲は、平家物語に題材を求めた《小督》や那須与一を描いた《誉之的》のような、香嶠から学んだ時代考証の知識を活かして、歴史画を多く残しています。

1909年に京都市立絵画専門学校が開校すると、師である谷口香嶠が教授となり、秋聲も入学しました。ほどなく秋聲は学校を退学し、東洋美術研究のため中国へと渡りました。1913年にも再び中国へ向かい、一年半にわたって滞在し、東洋美術の研鑽と名所旧跡巡りをしました。「旅行狂人」と呼ばれた「旅する画家」秋聲の誕生です。

谷口香嶠が亡くなると、1916年11月、秋聲は京都画壇の風景画の巨匠・山元春挙に師事し、画塾早苗会に入会しました。写生旅行なども盛んな早苗会の影響もあったのでしょうか、秋聲の旅への意欲はますます旺盛になりました。1918年から20年にかけては、山陰、南紀、北海道を旅して画文集を出版。画文集とは、旅先の風物を描いた絵とエッセイを組み合わせた出版物です。《裏日本所見畫譜》では山陰旅行の成果として、余部鉄橋、大山の噴火口、松江の城下町など、旅情あふれる情景を描きました。北海道旅行の成果としては、秋聲は画文集『蝦夷地の旅から』を出版し、源義経とアイヌの娘の悲恋の伝説などを重ねた《追分物語》のような大作も、その旅から生まれました。

1920年末、30代半ばになって、秋聲は憧れのヨーロッパへと向かいます。中国の大連で年を越したあと上海を出港し、インド、エジプトを経由して、ヨーロッパにたどりつき、なんと北極圏のグリーンランドにまで足をのばしました。17か国にものぼる、この遊学の旅は、小品ながらもたくさんの風景画を生みました。香港の100万ドルの夜景、インドのタージマハル、イタリアのベニスの運河、果てはグリーンランドの氷山と実に多くの場所を描いています。夕方から夜にかけての時間帯、それもことさら月明かりの下の景色にこだわりがあったようで、美しい夕景や夜景ばかりです。

《印度 ダジ・マハールの満月》ほか、世界の月景色シリーズ 1923~24年頃 個人蔵

《印度 ダジ・マハールの満月》ほか、世界の月景色シリーズ 1923~24年頃 個人蔵

第1次世界大戦が終了すると、アメリカの対日感情を好転させたいという思いが、日本の外務省や企業にありました。サンフランシスコ航路を背負った日本郵船が中心となって、1926年日本美術の紹介や文化交流を通して、日米の関係改善のために、秋聲はアメリカへと派遣されました。現地では、日本画についての講演や展覧会も行いました。月明かりの下のグランドキャニオンを描いた作品も残っています。

《未来》は、その頃の秋聲が、帝展に主品した作品です。このころには、秋聲は各種展覧会に大作を発表するようになっていました。

《未来》1926年 個人蔵

《未来》1926年 個人蔵

次いで、第十一回帝展に出品したのが《愷陣》です。陸軍騎兵将校として馬に精通していた秋聲が、馬具や軍馬を改めて調べ直して制作にとりかかった力作です。戦地から故郷に戻った兵士は讃えられるのに、ともに戦火を潜り抜けた軍馬は埃まみれのままでいる、村人がそんな軍馬を花で飾って労をねぎらった、というエピソードをうたった「漢詩」に着想を得て描かれた作品です。この作品から、秋聲は、帝展の推薦・永久無鑑査となりました。日本画壇でゆるぎない評価を得たのです。

《愷陣》1930年 個人蔵

《愷陣》1930年 個人蔵

しかし、時代は徐々に戦争の色が濃厚となっていきました。従軍画家として、何度も戦地に足を運び、《國之楯》に代表される、多くの戦争画を描きました。

秋聲は、兵士や銃後の家族の眠る姿をしばしば描いています。1938年の《虫の音》は、今回新しく発見された作品ですが、異色の戦争画と言えるでしょう。戦いを忘れて寝入る兵士の姿は、戦争画であるにもかかわらず、人間味を帯びた穏やかな印象を与えます。秋聲は、戦争を描きながら、そこに生きている人間の等身大の姿を描こうとしました。

《虫の音》1938年 個人蔵   新発見作品。戦場で仮眠をとる疲れ果てた兵士たちの姿を描く。

《虫の音》1938年 個人蔵  新発見作品。戦場で仮眠をとる疲れ果てた兵士たちの姿を描く。

戦後、秋聲は日展の審査員選考委員もつとめましたが、戦地での無理がたたり体調を崩したこともあり、大規模な展覧会への出品はほとんどしなくなり、仏画や、干支をテーマにした小品などを多く描くようになりました。

1964年に日本で開催された初めてのオリンピック。秋聲も、この世界的な祭典に心動かされ、聖火ランナーの姿を描きました。題材は現代的なものですが、金砂子で描かれた聖火が日本画であることに気づかせてくれます。戦争の時代を従軍画家として過ごし、様々な戦争画を描いた秋聲は、平和の祭典をどんな思いで見たのでしょうか?

《聖火は走る》1963年 個人蔵

《聖火は走る》1963年 個人蔵

今回の展覧会の開催を記念して、8月15日のひる1時30分にBSフジで放送される、小早川秋聲のテレビ特別番組のナレーションを担当し、京都展の音声ガイドも担当したヴォーカル・グループLE VELVETSの佐賀龍彦さんにお話を聞きました。佐賀さんは、京都市立芸術大学の出身、ジャンルは違うとはいえ秋聲の後輩で、三年前に《國之楯》をはじめとした秋聲の作品を実際にご覧になられたそうです。小早川秋聲への想いを語ってくれました。

佐賀:以前、私がナレーションを担当していた、BSフジの『アートな夜』でも秋聲のことを取り上げたことがありましたが、あの時には駆け足でご紹介したこともあって、日本画の比較的最近の画家という印象ぐらいでした。今回あらためて、番組も担当させてもらって、本当に幅広い画風の人だなあと感動しました。その人生を見直してみると、恵まれた環境に育った人だなあと、でもその恵まれた環境を最大限に活かして、自分の絵画に活かした人だと思いましたね。でも、苦労をしてないかと思いきや、従軍画家として兵士と同じような環境に身を置いて絵を描いていたり、兵士の死にも寄り添って虚しさや疑問を感じていた人ではないかと絵から伝わってきました。だから、戦争画であるにもかかわらず、多くの人の心をとらえるのではないかという気がします。絵とはすごいなあと、それを通してたくさんの人がつながって、泣いたり感動したりできるのが改めて絵のパワーだと思いました。

--以前、《國之楯》を生でご覧になったそうですが。

佐賀:はい、まずはその大きさに驚きましたね。黒々とした背景の大きな画面の中に、ほぼ等身大の人が描かれていて、ギャラリーの奥で特別な存在感がありましたね。

--特別番組のナレーションを担当されて、あらためて興味をもった作品はありましたか?

佐賀:全部の作品を改めてしっかり見たいと思いましたが、特に世界中の月景色を描いた作品群は是非見てみたいと思いました。

--今回の展覧会では、初めて音声ガイドにもトライされたそうですね。

佐賀:本当にずっとやってみたかったのです、音声ガイド! 本当に嬉しかった。最近、歌に加えてずいぶんお芝居をやらせていただいたおかげで、声で想いや気持ちを伝えることを考える機会が多くありました。今回も色々と自分なりにトライ出来た気がしていますから、是非楽しみにしていてください。


文=神山 薫

展覧会情報

小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌(レクイエム)
開催期間:2021年8月7日(土)― 9月26日(日) 
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館) 
会場:京都文化博物館 4階・3階展示室(京都市中京区三条高倉) 
開室時間:午前10時 ― 午後6時(金曜日は午後7時30分まで)※入場は閉室の30分前まで 
入場料:一般1,400円(1,200円)/ 大高生1,100円(900円)/中小生500円(300円) 
※( )内は前売り、団体(20名以上)の料金 
※入場券1枚につき展覧会入場はいずれか1日1名様1回限り有効。 
※未就学児は無料。(ただし、保護者同伴) 
※学生料金で入場の際には学生証をご提示ください。
※障がい者手帳等をご提示の方と付き添い1名は無料。 
※上記料金で2階総合展示室と3階フィルムシアターもご覧いただけます。 (催事により有料の場合あり) 
※新型コロナウィルス感染症の今後の状況により、予定を変更する場合もご ざいますのでご了承ください。 
主催:京都府、京都文化博物館、京都新聞、BSフジ、ライブエグザム 
特別協力:京料理 濱登久 
協力:日南町美術館 
オフィシャルロジスティクスパートナー:TERRADA ART ASSIST 株式会社 
後援:(公社)京都府観光連盟、(公社)京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都 
お問合せ:075−222−0888(代表)

放送情報

番組名:『小早川秋聲 ~旅する画家の魅力!』
放送局:BSフジ放送
放送日:2021年8月15日(日) 13:30~13:55
出演:ナビゲーター:LE VELVETS佐賀龍彦(歌手)
植田彩芳子(京都文化博物館学芸員) ほか
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