A.B.C-Z橋本良亮主演の音楽朗読劇『ブンとフン』がまもなく開幕――脚本・演出のG2に見どころを聞く
G2
NHKで1925年から放送し続けているラジオドラマをもとにした朗読音楽劇『NHKラジオドラマ よみステージ 音楽劇「ブンとフン」』が2021年8月25日(水)からよみうり大手町ホールなどで開幕する。
本作は、井上ひさしの小説家デビュー作となった記念碑的作品『ブンとフン』。井上がNHKラジオのために書き下ろしたのち、書籍化もされた伝説の作品が、脚本・演出のG2により、NHKラジオドラマ版と小説版を合わせた、令和版として甦る。SPICE編集部はG2に単独インタビューを実施。どんな作品になるのか、たっぷりと語ってもらった。
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――お稽古がまだ始まったばかりと伺いました。
はい。本日稽古3日目です。ほとんど歌稽古で、1回だけ読み合わせしたぐらいですね。
――読み合わせの手応えとしてはどうですか?
ブンとフンの2人(浅川梨奈、橋本良亮( A.B.C-Z ))は、僕は初めてご一緒するのですが、それ以外の方はご一緒することが多い人たちだから、お2人以外は予想通りという感じで。大丈夫かなと。あとは2人に関して、ここからどういう風にまとめていこうかなと。そんな感触です。
――『ブンとフン』は大変な名著ですが、今回脚本を書かれた上で、どんな点を気をつけられたのでしょうか?
もともとがラジオドラマで、今回はラジオドラマを朗読劇にするという企画。井上ひさしさんのラジオドラマは、「ラジオドラマをぶっ潰す」という感じのアナーキーさがありつつ、ファミリーでも楽しめる面白い作品なんですね。
「ラジオドラマをぶっ潰す」という構造が朗読劇になると、理解しにくい部分が出てくるだろう、と。それに、もともとラジオドラマとして放送されていた作品なので、その時代に即したフィーリングというか、即時性を持って、ラジオのリスナーの方に身近に感じていただける作品として提供されていたもの。それを、今そのままやるということになると、だったら「ラジオを聴いて」と思ってしまう。なので、今の俳優の肉体を通して何かやるとすると、井上さんが書いた物語を、現代に翻訳する必要があると考えました。
それから、朗読劇もラジオも音が中心ではあるんですけど、ラジオは絶対に見えないという保証があり、朗読劇は演じている人が見える。嘘がつきにくいところがあるので、そういう意味での訂正や翻訳をしていきました。結構、原作を触ってしまっているのですが、井上ひさしさんの精神みたいなものは、壊さないように気をつけたつもりです。
――「肉体性」のお話もありましたが、演出面では、結構動く予定なのですか?
座って読むことが基本なんですけど、位置関係がずっと一緒では伝わらないものがあると思うので、場面場面によって、位置関係は変わります。誰と誰が隣になって、誰の後ろに誰が来て……みたいな。そういうことを一番適した方法でやるという意味で動きます。立って演技するということではなくて、あくまで朗読劇という枠組みの中でやるつもりです。
朗読劇をやってみて思うのは、役者がセリフを覚えるのは、本当に大変なのだということ。僕は役者じゃないのでその苦しみを直接味うことはないですし、いつも平然と「セリフを覚えてきてよ」と言ってしまうタイプなんですけど、みんな大変なことをしてるんだなと、改めて思います。セリフを覚えるという作業がないだけで、みんな、少し楽に、負担なくやっている。
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――なるほど。主演のお2人について伺います。まずフン役の橋本良亮さんにはどんなことを期待されていますか。
彼がやっていた朗読劇を拝見して、とても素養のある人だなと思っております。
ただ、初めての本読みでは、何かを探っている感じだったので、どんどんガシガシしてやってもらいたいなと思います。キャラクター的には、ドロドロして、野心に燃えているタイプの人ではないので、今回どれだけのめり込んでもらえるか。それが、僕の仕事かな。
ブンは本来おっさんの役なんですが(笑)、今回は若者にしました。その点、キャラクターとしては合ってますし、(本読みの段階で)ラストシーンはすごく良くやってくれてたので、そこに向かってどうアプローチしてくれるか。短い時間ですけど、彼に寄り添って一緒に創っていきたいなと思ってます。
――ブン役の浅川梨奈さんに関してはどうでしょうか?
浅川さんは自分の中のプランを持ってきてくれていて。それがあのブンというキャラクターにぴったりで、申し分なしかなと思います。ただ奔放なだけではなくて、フンとブンの繋がりという点で、そんなに臭くないやり方で表現していくことが大事かな。とてもキュートなブンになっていて、僕は大好きになりました。
――今回はブンとフンの2人の掛け合いがフレッシュな感じになりそうですね!
そうですね。何度も言いますけど、もともとおじさん作家の話なので(笑)。ラジオドラマは熊倉一雄さんと黒柳徹子さんがやられていて、それはそれで丁々発止というか、手練れた2人がやりあっているんですね。
今回の令和版に関しては、そういうテクニックということではなくて、人と人との繋がりを見せたい。ブンは、実際には存在しない人なんですけど、実際には存在しない人との愛が、まるで存在してるかのように見える。この不確かな時代において、存在しない人との心の繋がりを描くという物語でもあるんです。
確かに楽しい喜劇であるんだけれども、そういう一面も、井上さんの戯曲の中に隠れていた。それを今回はクローズアップしてやるつもりです。そこが、この若い2人が演じるときの楽しみというか、見どころになるのではないでしょうか。
――かみむら周平さんの楽曲に関しては、どんな仕上がりなのでしょうか。
もう曲としてはできています。あとはみんな練習するだけ(笑)。
リニューアルにあたり、作曲者がご存命ではないこともあって、新たに作曲者を入れてやりたいと願い出ました。それにOKをいただいたので、かみむらさんにお願いしたんです。かみむらさんが予想していたのは原作のテイストでしたが、僕はジャズ系な香りは一切取り去ってもらって、「J-POPで作って」とオーダーしました。「おしゃれなJ-POPの雰囲気でまとめて欲しい」と。
井上さんの詞もちょっと修正させてもらいながら、かみむらさんに委ねたんですけども、すごくいい曲が上がってきました。橋本くんも曲を聞いて俄然やる気が出ましたと言っていたな(笑)。
特に今回ラブストーリーを浮き彫りにするということでいうと、言葉では伝えきれない部分を音楽が伝えてくれるような曲になっていると思います。本当にいい曲が多いので、聞き応えがあるかと思います。……あとはみんなちゃんと練習すればね!(笑)
――朗読劇そのものについても伺いたいのですが、朗読劇は制限がある分、別の意味での表現の広がりがあるように思います。G2さん自身としては、朗読劇のどういうところが難しく、面白いと感じていらっしゃいますか?
僕はもともと朗読劇あまりやりたくない人で(笑)。去年、黒柳徹子さんの熱意に押されて、初めて朗読劇に取り組みました(※『ハロルドとモード』)。その時に、元の本の権利がとれなくて、原作をもとに僕が本を書くことになった。逆にそれが幸いして、朗読劇用に特化した台本を書くことができたんです。
朗読劇は、もともとある本を演劇ではなく朗読劇でやってみようとすると、ト書きを読まないと意味が伝わらないとか、本当は動いた方が分かるんだろうなとか、そういう部分がどうしても出てくる。だから前回も今回も朗読劇として書き直すことができたのは幸運で。ト書きを読まなくても意味が分かるように、やや過剰にセリフで説明するという作業を付け加えることによって、聞いてる側に分かりやすくしました。俳優たちには朗読劇であることをあまり意識せず、普通のお芝居だと演劇だと思ってほしい。「本を読みながらやる」という演出がついたというぐらいに考えてもらえれば、一番いい感じになるんじゃないかな。
僕が朗読劇をやるときに頼りにしているのは、落語なんですよ。落語は、ある程度上半身は動くけど、下半身は動かない。その点、朗読劇と共通してるところがある。それに、落語もお客さんの想像力を使うでしょう。
昔、落語家さんに聞いた話で、「落語はお年寄りのものだと言われるけど、ある程度年齢を重ねてしまうと、落語を聞けなくなる」と。つまり、想像力をちゃんと持っている年代でないといけない。なるほどなぁ、と思いましたね。
いかに想像力を引き出すか。昨今のお芝居でも、映像で説明していくものが増えてはいますけど、やっぱり映像作品に勝つときがある。なぜ勝てるかっていうと、お客さんの想像力だと思うんです。そういう意味で今回、なるだけお客さんに引き出してもらうものにしようと思ってます。
――井上ひさしという作家については、改めてどんな作家だと思われますか?
意思の力の強い人で、コツコツやることを厭わない。それから、大きな枠組みについて、いつも考えていらっしゃる。「これ、書くの大変だよね」というのをいつも感じるんですよ。出来上がった作品もさることながら、執筆に対する志も尊敬しています。井上作品は初日がなかなか開かないということがかつてありましたけど、それはそうだろうなって(笑)。なかなか書けるものじゃないものを書いていらっしゃるなと思います。
僕が井上作品で好きなのは、やっぱり時代物。『薮原検校』とか『天保十二年のシェイクスピア』とか。それはもう時代物だから、今の言葉に置き換える必要はなくて、そのままやれる魅力がある。対して今回やる作品は、井上さんもまだ戯曲の世界にも行きかけたかどうかという頃の作品だし、まさしく『ブンとフン』を小説化することによって、小説家になられたわけで。だから、若くて、何もかもぶち壊してやろうというエネルギーを感じるんです。
今回は井上さんの取り組みを大事に本を書いたつもりなんですけど、井上さん自身、他の言語に翻訳されることを意識して本を書いていると伺ったことがあって。翻訳ではどうしても言葉の壁が出てきてしまうんだけど、言葉以外の劇構造や趣向に関しては言葉を超えていくものであるから、劇作家は、やっぱりそういうところに力を入れなくてはいけないということを仰っていました。
だから、逆に言うと、それを仰っていただけたから、今回ちょっと細かい言葉は触らせていただいても、井上さんの精神は生きるんじゃないかなと思ってます。僕はご本人とは面識がなくて、お仕事もご一緒したことないんですけど、一方的にもちろん作品をずっと見てますし、本も有名な作品はほとんど読んでいますから、大変リスペクトしております。
G2
――G2さんご本人についてもお話しを伺いたいんですけど、本当にG2さんって、いつお休みするんだろうというくらい、たくさんのプロジェクトに関わっていらっしゃいますよね。そのモチベーションはどこにあるんですか?
僕は、煮詰まるのが駄目なんです。今も実は、来年の台本を書きながら、この作品をやっているんですよ。来年の台本をやりながらだと、どちらかが進んで、どちらかが停滞しても、その進んでる方を励ましとしてやれる。だから僕の場合は、並列してやってる方が、生き生きとやれる。
二つの稽古場を掛け持ちとか、二つの台本を掛け持ちというのは無理なんですが、稽古しながら、先々の本を書くとか、次のプランを練るのは、逆に楽しい。その代わり、趣味が全然なくて! 無趣味人間で、ちょっとどうかなと思ってますけどね(笑)。
――お仕事が趣味というか、お仕事がすごくお好きなんですね。
そうですね。結局、その世界だけ、つまりお芝居の世界だけに浸っていたのでは、作品は作れない。例えば、今年は博多座で造船所の話を書いたんですけど、そのために造船所見学に行ったり、造船の街に1週間住んでみたり。そういうことをしないと、やっぱり書けなかったし、様々な体験を積んだ方が演出が生き生きしたりする。
だから他の人たちが普通に旅行する代わりに、仕事の一環で旅行するんです。それが趣味といえば、趣味なんですけど……本当の意味で、仕事を趣味にするのは情けないので、辞めたいと思ってます、できるだけ(笑)。
――最後に、楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします。
何か難しいこと言いましたけど、井上ひさしさんなので、面白い話になっています。それを現代風にしているから、より身近にも見れますし、単純に楽しめます。
音楽もすごく素敵ですし、まずは単純に楽しんでいただいて、その後、井上さんが仕込んだ「このままでいいのか、世界」という裏にあるところを考えてもらえたら。夏休みなので、親子で来ていただいても楽しめるものになるのではないかなと思います。ぜひ楽しんでいただきたいと思います。
取材・文=五月女菜穂