高橋優 新曲「Piece」に描いたものとコロナ禍のライブに思うこと
高橋優 撮影=高田梓
2021年2作目の配信シングルは、JICA海外協力隊CMソングとして書き下ろした「Piece」。スケールの大きなストリングスが全編を彩る、これまでにないポップチューンに仕上がっている。大きな音像のなかで歌われるのは、出会うはずのなかった人と人、ピースとピースが予見しなかった日常を切り開く未来の予感だ。1曲入魂で新鮮なアレンジを構築した新曲について、そして久々の有観客ライブを終え、改めて実感したライブの価値について訊く。
――まず、もう3ヶ月前になりますが弾き語りツアーを実際に開催してみていかがでしたか?
お客さんが声を出せない状況下でのライブだったので、色々不便な思いをさせてしまうことになるのかなというのは覚悟していたんですけど。でも、会って同じ空間の中で音を共有していると、声以外でも伝えられるものはあるんだなっていうのをすごく実感できたし、それ相応の手応えも得ることができました。それで何より重要な、感染者が出るということもなかったので、やれてよかったのかなという気持ちにはなりましたね。
――セットリストは濃い曲もありつつ、代表曲が多くて。それらを弾き語りで演奏することで今、発見はありましたか?
メジャーデビューして10年、“自分の10年間やってきた曲と、最近配信でリリースした曲とかを織り交ぜてのセットリスト”っていうことは、自分の中で一つテーマとしてあったんです。弾き語りっていうのはそもそもの自分の音楽を始めた最初のスタイルだったりするので、やりながらどんどん原点に還っていったというか。弾き語りだからリズム感はそんなに意識しない方が言葉を言葉として届けられるなぁっていうことを思い出してきたり。最近は、できるだけ原曲に忠実に届けるっていうことを大切にすることで、自分の身体一つで歌うということからしばらく離れていたのかな。『ONE STROKE SHOW』という、弾き語りツアーをやらせてもらったことで、戻ってこれた感じがして。やればやるほどに自分をたらしめるものを見つけていく、みたいな(笑)、そういう時間でしたね。
――お客さん一人一人いろんな気持ちを抱えて来られたと想像しますが、どんな印象でしたか?
楽しみにきてる感じはありましたね。入場制限で客席を半分にして、昼公演と夜公演で2公演やらせてもらったんですけど、基本的にはみんな同じものに立ち向かいながらやっているライブみたいな認識はお互いにあるので。“絶対、楽しいって言って終わらせられる日にしようね”っていう、一つの共通意識みたいなものはあった気がしています。僕から見た景色ですけど、僕はそう思いました。
――この10年を振り返る機会でもあり、改めてライブってなんなんだということを考える機会でもあったと。
そうですね。あとやっぱり、ライブでしか味わえないものがあるっていうのは、僕はこれからも言っていきたいし、それを体現していきたいなっていうのはあります。これからどういう時代になっていくかわからないですけど、ライブの形自体を変えざるを得ないというか、人と人が会うこと自体が非常に、汚らわしい行為みたいに(苦笑)、そう感じちゃうときもあるんですけど、やっぱり根本的に人のパワーが漲る場所だと思うので、ライブ会場っていうのは。だから今、制限されているルールに則って、またこれからルールが変わるのかもしれないですけど、満たされるルールがあって、会えるのであれば、やっぱりその場で音が振動する感じとか、でっかいスピーカーから音がドン!て出て、それを身体いっぱいで感じないとわからない感覚って間違いなくあって。そこにまだ大きな価値が残ってる感じがしています。
――直近では配信でしたが、『風とロック芋煮会』が開催されました。
福島中央テレビさんのテレビ局内をスタジオとか玄関とか、いろんなところを会場として使って(笑)。トークするスタジオがあったり、歌を届けられるスタジオが2ヶ所以上あったかな? 用意されていて。楽屋も仕切られていましたね。
――皆さんには会えて話せました?
はい。ご挨拶はさせていただきました。『風とロック』は僕にとって特別な場所なので。その『風とロック』のメンバー、怒髪天の増子(直純)さんなんかは“親戚の集まりだ”って毎年言うんですけど(笑)、ほんとにその親戚とここ2年近く会えていなかったのもあるので。みんなで集まって、集まってと言っても時間時間でね、ちょっとニアミスだったり、すれ違いもありましたけど。会えた人とは大体同じような話題なんですけど、“元気にしてた?”とか“あれ見てたよ”とか“あの曲聴いたよ”とか、そういう話をいっぱいしたりして、すごくいい時間だったと思います。
地球の裏側のことを歌おう、みたいな気持ちは全然なくて。あくまでも自分の半径1メートル、2メートル以内のことの中から言葉は探してました。
――そして今回のシングル「Piece」なんですか、すでにJICAのCMで春からO.A.されていますね。海外協力隊のCMって聞いたときにどういう曲にしようと思いました?
僕自身がその活動を海外に直接見に行くことはなかったんですけど、その人達の活動を端的に表現された動画をいくつか見させてもらいました。もちろんやられていることはそう簡単に自分が真似できるようなことではないので、尊敬の気持ちはありつつ、ただ身近なところで言うと、会ったことのない人に対して、道を聞かれて答えてあげるとか、小さなところですけど、協力し合うっていうのは日常的に自分の生活にもあって。今でもあるはずなんですけど、どんどんそういうのって減っていってるような気もしていて。人と人の距離はどんどんとっていった方がいいような世の中になってますから。そういう中で、出会うはずがなかったけど出会ってる人たちとか、そういうテーマみたいなのはどんどん見えてきましたね。
――学生とか、1回働いてみたけど海外で役に立ちたいっていう人が行くんだと思うんですけど。高橋さん個人としては、どう思いますか? ご自分のハイティーンとか20代前半を思い起こすと。
海外協力隊っていうことだけに限定して考えなければ、そういうところに行ってみようとか、自分の身体をどこかへ委ねて出発したりとか、行動力のある人たちのことは共感できる部分はありますね。しない人の方が断然多いと思うので。旅行にしても、そういう活動とかにしても、何にしても、自分の身体ひとつで、まずやってみよう、みたいな。やってみないとわからないこともあるよな、みたいなことで、行動を起こせない人たちに対して、時に音楽が奏でられたり、時に誰か有名な人の言葉が響いたりすることってあると思うんですけど。そういう意味では、自分のこの曲も書こうと思ったのは海外協力隊の人たちに対してというよりも、こういうふうに活動している人たちもいるけど、俺らどうする?っていう感じにしたいなっていうのはありました。
――自分なりのやり方っていうことでしょうか。
そうですね。この曲の中の2コーラス目のところで歌っている、やらない理由を探すとめちゃくちゃ見つかるっていう。ま、なんでもね、仕事でもダイエットでも、健康とかでも、“そんな、普通やんないっしょ”みたいな話をしていたら、結構きれいに“普通”みたいな殻のなかに収まることはできると思うんですけど、そこからじゃあ自分らしさってあるんだろうか?って考えていった時に、どこでどうはみ出すかっていうことになっていったりしていて。別にはみ出せばいいってものでもないけど、そういう中で、JICAの海外協力隊に行く人たちもいれば、まず就職しようと思って頑張る人もいれば、昨日まで学校に行けてなかったけど、こうやって頑張ってる人がいるんだったらまずは登校してみようかなって、不登校だった子が1日学校に行ってみるとか。そういうちっちゃな行動のきっかけになるものっていろいろあると思うんですよね。その、活動している人たちはもう活動しているから、それは素敵なことだと思うし、そういう人たちを応援できたらいいと思うけど、いまいち自分はどうやって生きていこうか?みたいなことで路頭に迷っている人が意外に多いことを考えると、架け橋とは言わないけど、めぐり合わせの一つのきっかけとして、音楽が奏でられたりしているといいのかなっていうことは、このJICAのお話頂いたときに僕の中で感じてたことですかね。
――歌い出しの歌詞のように《なんのため》の話を始めると何も始められないというか。
うん。自分にしかわからないというか、そこは思いますね。最終的にね、ライブやりました、“で?”って話になると、なんにもね。それとか、“生まれました”って赤ちゃんを見て、“で?”みたいな。“結局、死ぬために生まれてきたんでしょ”みたいな話をし始めたら意味ないけど、ただ、生きている人たちの一人ひとりの中に隠れているものがあるから。そこを、僕もこのコロナ禍にあったりとか、コロナじゃなくてもこの混沌としていた時代はきっとこの1~2年で始まったことじゃないって考えると、“なんのために?”っていうのを僕はずーっと考え続けているので。それをネガティブな意味合いではなくて、ちゃんちゃら笑われるかもしれないけど“夢を叶えるためでしょ”とか“幸せになるためでしょ”っていうことになっていくのかもしれないけど。でも、そこに何かグッとくるものが隠れているんじゃないかな? っていうのはずっと思ってますね。だから、自分としてはそんなにでかいテーマのことというよりは、A.I.を引き合いに出したのも、今、みんなの手元にあるじゃないですか。みんなの手元にあって、誰でも問いかけることができるもの。で、こうやって話しているときにApple Watchをつけている人がいると、勝手にA.I.が読みとって“すみません、よく分かりません”って、急に話し出すことがあるじゃないですか(笑)。結構、A.I.あるあるとして。なんか日常生活のひとつ面白い瞬間みたいなことだったりするかなと思って。
――現実的に今っぽい情景として?
ええ。だからそこに、フォーカスの当て方として、受け取り方はそれぞれの方に思ってほしいので残しておきたいと思っていますけど。僕としては、そんなに急に地球の裏側のことを歌おう、みたいな気持ちは全然なくって。あくまでも自分の半径1メートル、2メートル以内に起こっていることの中から言葉は探してました。
――今回、アレンジがすごいですね。オーケストラのスコアか!? というぐらいに。このアレンジはどういうところから生まれてきたんですか?
今回のこのサウンドメイキングをしてくれた人がha-j(ハージェイ)さんという人なんですけど、僕と同じ秋田出身の人で。普段、ほんとに多岐にわたる、嵐さんとか関ジャニ∞さんとかKinki Kidsさんとか、普通にロックバンドだったり、ソロシンガーの方、ありとあらゆるJ-POPの方のアレンジをされている方なので、たぶんリクエストしたらどんなふうにもなるなと思いました。で、今回僕がリクエストさせてもらったのが、ポップチューン、メルヘンと思えるぐらい、明るくて爽やかなサウンドにしたいですって話をして。バンドサウンドにこだわることもなくていいです、くらいの気持ちでリクエストさせてもらったので。あのイントロの感じとか、それこそオーケストラみたいな感じの音とかも、割と僕のイメージ通りに考えてもらいました。
――最近はアレンジを、より曲ごとにフォーカスしていく感じですか?
編曲って……なんていえばいいのかな。例えば4人組のロックバンドだったら、その人達が持っている楽器で表現しなければいけないじゃないですか。だから僕がソロシンガーで、僕の色を探し続ければ、高橋優一人の色になると思うんです。僕のありがたい強みというか、いいところは出会いも大事にできて、いろんな人とやることができるっていうところだと思うんですね。で、そういう意味で前回の『PERSONALITY』ってアルバムでは実験的といっていいぐらいに色んな人たちと色んなサウンド作らせてもらって。それでも僕の中では、結局、自分が歌うと高橋優の曲って感じになっちゃうな、という。それはきっといい意味だと思うんですよね。それでいうと、どれぐらい振り幅を利かせてやったとしても、自分の曲に聴こえる、自分の歌声があれば自分の曲、というふうになるんじゃないかと思った時に、そんなに怖くなくなったっていう感じですかね。
――確かに、この曲も弾き語りアレンジも想像できますもんね。
基本、弾き語りで最初に作るので。その弾き語りをha-jさんと共有して、どんどんha-jさんのサウンドになっていくんですけど、なっていく最中もすごくワクワクして。“これはやりすぎかな?”とか“これはどうだろう?”って提案してくれるアイデアも、自分なりにも冷静に考えながらも、“これもやりましょう、これも入れましょう”って、楽しいサウンドメイキングに自分も参加させてもらっている感じで面白かったです。
コロナ禍において、どういうライブを見せることができるのかという、楽しみと、ちょっと引き締まる思いでリハに臨んでます。
――ところで、今年は中止になりましたが『秋田CARAVAN MUSIC FES2021』開催地の北秋田市の映像の中に「優柔不断じゃなくて、優柔決断なんだ」っていう言葉が出てきて。
あれは県民性についての言葉で、編集してくれている人と話した中で出てきたんですけど。今って、一つの行動とか、いっぱい喋った中の一言を切り取って、“この人はこれを発言した人だ”っていうことで袋叩きにしたり、その人の全体を見ようともせずに、決断していくほうがかっこいいとか、でかい声を上げてる人が影響力があって、みたいな風潮を感じることがあるんですけど。秋田の人たちって――全員じゃないですけど、秋田の人たちは善悪だけじゃなくて、その中間地点を探すから、マタギっていう人たちがいたり。熊は危ないから殺せとか、人がダメだから退去しろとかじゃなくて、その中間でどっちも共存できる空間を作ってきた人たちなんですよ。今ってなかなかそんな発想はないじゃないですか。だから、“いや、どっちなのよ? 殺すのか、殺さないのか”みたいなことが優柔不断の逆なんだとしたら、秋田の人たちは優しくて柔らかいことを決断してる人たちなんだっていうことを思ったので。それがまぁ、善とされない時代がどんどん押し寄せてきているけど、いろんな長い文章があるなら、それを全部読むような人たちがきっと秋田の人たちだと思うんですよね。だから、そこで汲み取るものは人それぞれだけど、今は誰かが汲み取ったあとのデカい言葉だけを読まれる。そのことに対して、北秋田市の人のマインドをたくさん感じて言った言葉ですね。
――そして、10月からは1年後しの『PERSONALITY』のツアーがやっと始まります。
楽しむっていうことは絶対に根底にあって、そして、今開催するってことで気をつけなければいけないことはもちろん同じく根底にあって。その下地を敷いた上で今一番楽しんでいただける方法を、バンドメンバーやスタッフと一丸となって意見を交わし合いながら、“じゃあこうしていこう”っていうのを見つけながらやっています。とはいえ蓋を開けてみないとわからないこともあると思うので、だからこのコロナ禍において、どういうワンマンライブ、どういうバンドでのライブを見せることができるのかという、楽しみと、ちょっと引き締まる思いっていうか、そういう思いでリハに臨んでます。
――これまで、ユニークな演出や大きなセットとかいろいろありましたが、今回のツアーはどうなるのか、ヒントをいただければ。
ヒントでいうと、今回は『PERSONALITY』っていうアルバムを引っさげて、ツアーも『THIS IS MY PERSONALITY』っていうタイトルにしているので、自分の人柄とか、自分の曲を書いている生活、自分のライフワークみたいなことが、ひとつヒントになると思います。
取材・文=石角友香 撮影=高田梓
スタイリスト=上井大輔
ヘアメイク・メイク=眞弓秀明
<衣装>
ジャケット¥91,300、パンツ¥63,800/共にmeagratia(Sian PR)
カットソー¥17,600/FACTOTUM(FACTOTUM LAB STORE)
ベルト¥12,100/DELUXE
ブレスレット¥24,200/Antidote Buyers Club(COOTIE FLAGSHIP STORE)
リング¥26,400/FANTASTIC MAN(FANTASTIC MAN TOKYO) その他/スタイリスト私物
※価格は全て税込みです
■お問い合わせ先
・COOTIE FLAGSHIP STORE TEL 03-6809-0090
・DELUXE URL https://deluxe2003.com
・FACTOTUM LAB STORE TEL 03-5428-3434
・FANTASTIC MAN TOKYO URL https://fantasticman.jp
・Sian PR TEL 03-6662-5525
リリース情報
7thアルバム『PERSONALITY』