特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』最新CTスキャンを駆使して暴かれる謎、現代人との共通点に抱く親近感

レポート
アート
2022.2.10
特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』

特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』

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『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』2022.2.5(SAT)〜5.8(SUN)神戸市立博物館

2月5日(土)から5月8日(日)まで兵庫の神戸市立博物館にて、特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』が開催されている。同展では、歴史の殿堂として、また古代エジプト文明の研究でも世界を牽引してきたイギリスの大英博物館の収蔵品から厳選した6体のミイラを展示。最新のCTスキャン技術を用いた画像分析により、外側からはうかがい知ることのできないミイラの謎を解き明かし、古代エジプト人の生活や文化を紹介するもの。年齢や性別、職業や暮らしていた時代も様々な彼らが、どんな人生を送ったのちにミイラとして残ったのか。CTスキャン画像をもとにした高精度の映像や、「食」や「健康」などのテーマに沿った250点もの豊富な展示物を交え、ミイラごとに6つの物語にわけて展示。前回は本展の日本側監修を務めた河合望教授のインタビューをお届けしたが、今回は特別展の模様や見どころの一部をご紹介したい。

展示1

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6つのミイラ、6つの物語から知る古代エジプトの生活や文化

展示2

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今回の展示では、紀元前800年から紀元後100年までの間に生きた、6人の古代エジプト人にフォーカスしている。まず1つめの物語に登場するのは、「アメンイリイレト」、エジプト南部の都市・テーベの役人のミイラだ。王の娘の所領を管理していた役人で、その地域の名士だったというこのミイラ。細かい装飾が施された3重の棺、体全体にかけられた豪華なビーズネットなどの副葬品から、彼の地位や財力を知ることができる。同展日本側監修を務めた金沢大学の河合望教授いわく、このミイラは極めて保存状態が良く、ミイラの製作技術は最高レベルなのだとか。

ここでは、「ミイラ作りに込めた想い」についての展示物を展開。美しく装飾された棺からは葬祭にまつわる古代エジプト人の信仰を知ることができる。心臓を天秤にかけ、罪の重さを調べる「天秤皿」や、ミイラを作るときに取り出した臓器を保存するための「カノポス壺」など、どれも手の込んだ造形物ばかり。これから続く6つのミイラに共通する、死後の世界や復活を信じた古代エジプト人の思いを随所から知ることができるだろう。

展示3

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2つめの物語は「ネスペルエンネブウ」、代々続く名家の神官のミイラだ。今回の展示では一番古く、古代エジプトのミイラ製作技術が最盛期を迎えていたころのミイラになる。CTスキャン分析から、ミイラの脳がキレイに取り出されていることや、内臓を取り出した際の脇腹の切開部の確認ができる。ほかにも、ミイラの体の周りには動物の形をした護符や義眼、切開部には保護板が設置されていることがわかるだけでなく、今回の展示では、外からは見えないミイラの内側に納められた装飾品を3Dプリンターで再現。CTスキャン映像で観た小さな護符などが実寸大で再現されているので、その高い再現性にぜひ注目してほしい。

展示4

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そして実はこのミイラ、一度日本に来日しているが、その時は今ほどCTスキャン技術が発達していなかったので、このようなミイラ内部の装飾品の詳細まではっきりと知ることはできなかったらしい。以前の展示を観ている人にとっては、ミイラ研究のさらなる進化を知ることもできるだろう。

展示5

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3つ目の物語は「ペンアメンネブネスウトタウイ」、下エジプトの神官だ。彼は旅行中に他界したとみられるミイラで、他界した地でミイラとなっていることから棺のデザインがほかとは少し異なっていることに注目してほしい。ここではミイラのほかに、「神官の暮らしと古代エジプトの食」に関する展示を展開。古代エジプトの医学や飲食用の器や食べ物など、現代の私たちにとっても身近なテーマに焦点をあてている。

展示6

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ここでの展示での注目はパン。古代エジプトではパンとビールが重要な栄養源としての役割を担っていたらしい。「パンとビールが栄養源なんて最高では?」と思ってしまうが、パンは製粉技術が発達していないことから、砂利や小石などが多く含まれていたため、多くの古代エジプト人の歯は摩耗していたらしい。しかも古代のビールは今よりずっと濃厚で、飲むよりも食べるに近い感覚だったそう。

ほかにも注目すべきは今回展示している6人のミイラの死因だ。6人のミイラはどれも上流階級だった人間ばかり。「ミイラになれる=お金持ち」ということなのだが、彼らは普段の生活から身の回りのことは他人任せだったようで、食べるものも肉やワインなど庶民が羨む良いものばかり。そのため動脈硬化など、現代でいう「生活習慣病」で亡くなることが多かったようだ。最新のCTスキャン技術によって、血管内のプラークやガンの転移痕、歯科疾患なども判明でき、今の時代とあまり変わらない病や死因で悩んでいたのかと思うと、古代エジプト人の生活をより身近に感じることができそうだ。

今と変わらない!? 女性やミイラの子どもから知る、古代エジプト人の暮らし

展示7

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物語はまだまだ続く。4つ目の物語は「タケネメト」、テーベの既婚女性のミイラだ。ここでは3重の木棺すべてが展示され、色鮮やかな装飾を間近に観ることができる。木棺には神々の前で楽器を奏でる姿が描かれていること、そして女性のミイラであることから、ここでは「高い美意識と音楽」にまつわる展示品を展開。弓型のハープや拍子木など、今にも音が聴こえそうなほど丁寧に作られた楽器がずらりと並んでいる。

展示8

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「身づくろい」に関する展示では、首飾りや襟飾り、腕輪など細かな装飾が施されたアクセサリーを展示。どれも今の時代でもオシャレに見えるアクセサリーばかりで、金や銀製、ビーズや貴重な石でできていて、思わずうっとりと魅入ってしまう。

展示9

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5つ目の物語は「ハワラの子ども」、子どものミイラだ。上半身は覆い布でくるまれ、頭部には大きな目をした男児の肖像が描かれている。時代はローマ支配時代、前の4つのミイラとは時代がぐっと進んでいることから、ミイラの作り方や肖像画のタッチにも変化がみられる。

展示10

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さらに、ここでは「子どもの暮らし」にまつわる展示品をみることができる。古代エジプトの子どもたちが興じていたと思われるウマやネズミの形をしたオモチャ、ボードゲーム、毬やコマなどのさまざまな玩具は今の時代にも通じるものばかり。ボードゲームにいたっては、ルールさえわかれば今でも楽しめるんじゃないかと思えるほど精巧な造りで、時代が変わっても子どもはみんなオモチャに夢中だったのだなとほっこりとした気分になってくる。

展示11

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最後、6つ目の物語は「グレコ・ローマン時代の若い男性」のミイラだ。時代はさらにぐっと進んで、紀元前100~後100年頃のミイラで、推定死亡年齢は17~18歳。ローマ支配時代の影響を受け、ミイラ作りは習慣的に継続されていても、ミイラの外見が重視されていくなどの変化がみられることが特徴だ。ミイラマスクにはピンク色の顔料が塗装されていたり、ガラスがはめ込まれていたりと、他にはない装飾にも注目してほしい。こちらも、最新CTスキャン技術で、ミイラの骨格から包帯姿などを映像で観ることができるのだが、このミイラは頭蓋骨のなかに10センチを超える木片が発見されている。ミイラ作りのための道具とみられているが、ミイラ製作の過程で「うっかり」忘れられていたのだとか。当のミイラ本人も、ミイラ発見者も外観だけではわからない、まさかの発見ができたのも最新技術あってこそ。

展示12

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ほかにも、ギリシャ・ローマの様式とエジプトの様式の混交がもたらした、明瞭に描かれた肖像画も必見。死者の顔立ちが写実的に描かれていて、よりミイラを身近に感じることができるはずだ。

エジプトの発掘現場を再現! 日本独自の展示にも注目 

世界中で高い人気を集めてきた同展だが、今回は日本独自の展示も展開。それが「サッカラ遺跡のカタコンベ(地下集団墓地)の実寸大の部分模型」だ。同展日本側監修を務めた河合教授らが率いる日本エジプト合同調査隊が2019年に発見し、今もなお調査が続いている遺跡を再現したもので、実際の発掘現場の模様を知ることもできる貴重な空間となっている。ちなみに今回の展示について、河合教授は「神戸市立博物館がリニューアルしたことで、より見やすく、落ち着いて観られる展開になっている。小さな子ども見やすくて、世代を問わず楽しめそうです」とのこと。

ミイラにまつわる6つの物語を楽しんだあとは、ぜひともグッズ売り場に足を運んでほしい。特別展オリジナルの図録やグッズのほか、大英博物館のグッズや人気児童書『かいけつゾロリ』とのコラボレーションアイテムなども販売されている。

音声ガイド

音声ガイド

なお、より詳しい展示説明が欲しいときはぜひとも音声ガイドを利用してほしい。今回ナビゲーターは『呪術廻戦』や『さんかく窓の外側は夜』などで活躍する、人気声優の島﨑信長が担当。展示の内容により深く触れることができるはずだ。ほかにも、会期中には河合教授による記念講演会『大英博物館ミイラ展の見どころー古代エジプトの埋葬習慣と来世観ー』や子供向けのミュージアム講座、学芸員による展示解説会などの特別公演や関連企画イベントも開催予定なので、詳しくは神戸市立博物館の公式サイトをチェックしよう。

内観

内観

最新技術を用いた映像により解明されたミイラの謎、大英博物館厳選の貴重な展示品の数々など、これまで以上に深く古代エジプトの魅力に触れることができる『大英博物館ミイラ展』、ぜひその目で体感してほしい。

取材・文・撮影=黒田奈保子

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特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』日本側監修者 河合望教授に訊く、初心者でも楽しめる「ミイラの謎」
<内容>
2月5日(土)から5月8日(日)までの81日間、兵庫・神戸市立博物館にて特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』が開催される。同展は、歴史の殿堂として、また古代エジプト文明の研究で世界を牽引してきたイギリスの大英博物館の収集品から、6体のミイラを厳選。最新のCTスキャン技術を用いた画像分析によって、外側からはうかがい知ることのできないミイラの謎を解き明かし、古代エジプト人の生活や文化を紹介するもの。東京・上野にある国立科学博物館での開催を経て、神戸に巡回することに。今回、SPICE編集部では、同展の日本側監修者の金沢大学 河合望教授に取材を敢行。日本での展示ならではの注目ポイントや初心者でも楽しめる「ミイラの謎」について話を訊いてみた。

イベント情報

特別展 大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語
会場:神戸市立博物館
会期:2022年2月5日(土)~5月8日(日)81日間
開館時間:9:30~17:30 ※展示室への入場は閉館の30分前まで
※金曜日、土曜日は19:30まで
休館日:月曜日、3月22日(火)
※ただし、3月21日(月・祝)、5月2日(月)は開館
主催:神戸市立博物館、大英博物館、朝日新聞社、関西テレビ放送
後援:神戸市教育委員会、Kiss FM KOBE
協賛:鹿島建設、DNP大日本印刷、三菱商事、公益財団法人 日本教育公務員弘済会 兵庫支部
協力:日本航空
 
入場料金:    
一般 2,000円(1,700円)
大学生 1,000円(900円)
高校生以下無料
※料金は全て税込。()は団体券
※神戸市在住で満65歳以上の方は当日一般料金の半額。(要証明書
※団体は20名以上。
※障がいのある方は障がい者手帳等の提示で無料。(要証明書
 
販売場所:イープラス    https://eplus.jp
ファミリーマート店内「Famiポート」
 
本展は予約優先制です。予約なしでご来場されますと入場をお待ちいただく場合があります。
の購入や予約は公式HPをご覧ください。
をお持ちの方もご予約をおすすめします。
問い合せ:神戸市立博物館 078-391-0035
公式HP:https://daiei-miira.exhibit.jp/
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