特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』日本側監修者 河合望教授に訊く、初心者でも楽しめる「ミイラの謎」

インタビュー
イベント/レジャー
アート
2022.2.1

画像を全て表示(8件)

2月5日(土)から5月8日(日)までの81日間、兵庫・神戸市立博物館にて特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』が開催される。同展は、歴史の殿堂として、また古代エジプト文明の研究で世界を牽引してきたイギリスの大英博物館の収集品から、6体のミイラを厳選。最新のCTスキャン技術を用いた画像分析によって、外側からはうかがい知ることのできないミイラの謎を解き明かし、古代エジプト人の生活や文化を紹介するもの。東京・上野にある国立科学博物館での開催を経て、神戸に巡回することに。今回、SPICE編集部では、同展の日本側監修者の金沢大学 河合望教授に取材を敢行。日本での展示ならではの注目ポイントや初心者でも楽しめる「ミイラの謎」について話を訊いてみた。

金沢大学 河合望教授

金沢大学 河合望教授

――今回の展覧会では6体のミイラが展示されています。王家の所領を管理する役人、代々続く名家の神官、既婚女性、幼い子どもや青年。どれも年齢や性別、職業や暮らしていた時代も様々。東京の国立科学博物館での展示を拝見しましたが……すごく見応えのある内容ばかりでした。

ありがとうございます。東京の特別展では、時間をかけてじっくり観てらっしゃる方もいらっしゃるようで。

――一般的には2時間ほどで観終えるようですが、私は3時間以上たっぷり時間をかけて観ていました。観れば観るほどに興味深いものばかり。ミイラの内部をCTスキャンした映像、その鮮明さにとにかく驚きました。

過去にも日本でミイラと古代エジプトに関する特別展が開催されたことがあり、その時もCTスキャンでミイラの内部を見せるという展示があったのですが、当時の映像技術というのは今日ほど精度の高いものではありませんでした。

――たった数年で映像技術は大きく進化していきますよね。

今回、最新鋭のデュアルCTスキャンを使い、中に入っている装身具や護符などもすごくクリアにわかるようになっています。最新の技術を使った、最新のミイラ研究の成果をこの展覧会で観ることができます。

――河合教授は本展において日本側監修者として関わっていらっしゃいますが、どのような内容を監修されたのでしょうか。

展示する内容に関してはすべて大英博物館が用意したもので、日本は世界を巡回する展覧会のうちのひとつとなっています。これまでにカナダやオーストラリアなどを巡り、今回、日本では東京と神戸で開催されます。メインはミイラをCTスキャンした立体画像を映像で見せるものですが、世界中を巡っていても、展示する内容はすべて同じものが来ているわけではありません。CTスキャン映像とは別に、ミイラの内部に収められている装身具や護符を3Dプリンターでプリントアウトして展示しているのですが、日本での展覧会のユニークな特徴としてその数がなんと最大数。大英博物館がサービスしてくれたのでしょうか(笑)。

サッカラ遺跡、カタコンベ前での発掘調査 提供=河合望

サッカラ遺跡、カタコンベ前での発掘調査 提供=河合望

――ものすごく太っ腹なサービスですね。

当初予定していたものよりも多くの展示に協力いただいて、急遽展示の計画を変えたりもしています。また、日本ならではとなると、私たちがエジプトで発掘している「サッカラ遺跡のカタコンベ(地下集団墓地)」の実寸大模型を展示しています。ローマ支配時代(後1~後2世紀)のカタコンベなのですが、実在と同じサイズの模型が目玉となっています。

――普段は観ることができない、こういう場所で発掘しているんだとリアルさが伝わる展示ですよね。

そういったコレクションをただ展示しているだけでは、ミイラがどういう場所に埋葬されていたのかがわからない。今回の発掘現場の実寸大模型はクオリティが高く、臨場感のあるものを作っていただいています。その模型を観ていただくことによって「こんなところにミイラが納められていたんだ」と、生々しい発掘現場の様子をお伝えできるかと思います。

カタコンベの入口

カタコンベの入口

――大英博物館に収蔵されている古代エジプトのコレクションは膨大な数があると聞いています。その中から250点が厳選され、本展で展示されているんですよね。

今回の展示ではかなり良いものが選ばれています。私も研究の一環で大英博物館に行ったことがありますが、一般の人が観られる展示物というのはほんの一部。かなりの数のものがまだまだ地下の収蔵庫に保管されています。大英博物館でも有名な「ネスペルエンネブウのミイラ」を含む、選りすぐったミイラが6体。コロナ禍でイギリスに行くのはまだまだ難しいかと思いますし、こういった機会にぜひ多くの方に御覧になっていただいて、いつかイギリスやエジプトに行っていただきたいですね。

――本展では6つの物語にわけてミイラが展示されていますね。

そうですね。職業も性別も年齢も異なる彼らがどんな人生を送り、ミイラとして残ったのか。それぞれのミイラに沿って「食」や「健康」、「音楽」、「家族」などのテーマに沿った展示物を交えながら物語を展開しています。ミイラから古代エジプトの「生活」が見えて、何千年も前の人が今の我々と同じような生活をしていたことがわかる。例えばミイラの歯の状態とかもリアルに観ることができるので、子どもたちにも「ちゃんと歯磨きしないとこうなっちゃうよ」と言えたり。そういった教育効果も期待できるかと思います。

――変な言い方ですが、「同じ人間なんだな」とわかるのが面白くて。古代エジプト人が食べていたパンの化石が展示されていたことや、CTスキャンによって、ミイラの死因がわかることも衝撃でした。

昔はパンに砂利が混ざったまま食べていたから歯がすり減っていたというように、小さな子どもが観ても楽しめるような展示内容も用意しました。そういった病歴や健康状態に関する展示は私と同じく、本展を監修している坂上和弘​先生(国立科学博物館 人類研究部人類史研究グループ長)の専門で。CTスキャンによって、血管のプラークがわかったり、ガンの転移痕が見つかることもあるんですよ。

――動脈硬化が死因となっているミイラがありましたが、そんな昔からあった病気なの? と驚きました。それは骨だけではわからない、ミイラだからこそわかることですよね。

もちろんです。動脈硬化など、我々は現代病と言いますが、古代エジプトからそういった病気があったんです。6体のミイラは、貴族や神官など上流階級の人たちばかり。日頃から良いものを食べて、身の回りのことは召使いがする。運動することもあまりなかったかもしれません。

――自分たちも気をつけようと思っちゃいますね(笑)。

私もつい最近した健康診断で、ミイラと同じだなと反省しています(笑)。コロナ禍でエジプトの発掘現場に行けなくなってしまって。発掘現場は体力勝負。気温45度の夏、朝5時に起きて、7時から作業をして。斜面を上り下りしたり、ロープで竪穴を降りたり上がったり。

カタコンベの内部

カタコンベの内部

――発掘は想像以上に肉体労働なんですね。遺跡の模型もそうやって観ると面白いですね。本展の展示では、これまでミイラを壊すことでしかわからなかったことが最新の技術を使うことで非破壊でより詳しく知ることができる。しかも病気や死因まで特定することも可能に。古代エジプトや考古学が好きな人だけでなく、人類学や医学に興味を持っている人も楽しめる展示になっていますよね。

そう思って観ていただけるとうれしいですね。19世紀には、エジプトで発掘されたミイラがイギリスに運ばれると、ミイラ解体ショーなどが開かれていたんです。ミイラの内部を開いて、中に収められている金製品や装身具を観て楽しむ、ヨーロッパの貴族たちのエンターテインメントとしてミイラが扱われていました。そういう時代があったにも関わらず、大英博物館では将来科学技術が進歩して、ミイラの棺を開けずとも研究ができるかもしれないと完全な状態で保存されていたんです。そして今、21世紀の最先端技術を以て、ミイラの謎がわかるようになってきている。今回の展示は6体だけですが、世界中にはまだまだ未開封のミイラがたくさんあります。CTスキャンなどを用いた非破壊の研究、保存が行われることで、次世代に文化遺産を残すことができる。あと5、10年経つだけでも、さらに質の高いCTスキャン映像を撮ることもできるでしょうし、またそれによって明らかになる謎もあると思いますよ。

――まだまだこれからもミイラの謎が解けていくのですね。

病歴や健康状態、死亡年齢もより明確に分かっていくかと思います。また、ミイラが纏う包帯がどれくらいの長さ、厚さなのか。装身具や護符も配置に決まり事があったり。ミイラの中を透視するだけで、考古学的にも明らかになることも増える。今後に期待が高まりますね。

金沢大学 河合望教授 撮影=黒田奈保子

金沢大学 河合望教授 撮影=黒田奈保子

――本展では子どもでも楽しめるよう、人気児童書の『かいけつゾロリ』と特別コラボレーションもされています。描きおろしの特別イラストやグッズ販売があったり、展示物の説明にもキャラクターが登場したり。さらに、子供のミイラを展示しているブースでは、古代エジプト人が使っていたオモチャも展示されていますよね。何千年も前からこんなオモチャがあったんだと、世代を問わず興味を引く内容でした。

そこも大きなポイントです。6体のミイラのうち、役人が1人、神官が2人、女性と子ども、青年。それぞれの生活を感じられる展示がされていて、オモチャの展示にはコマやボードゲームなどもあり、今の時代の我々と変わらないものがすでに何千年も前からある。女性のミイラの展示ではオシャレや見繕いに関するアイテムが展示されています。

――すごく細かい装飾が施されたアクセサリーなど、今でも素敵だなと思えるものもありました。多くの女性が興味深く眺めていて、時代が変わっても考えることは一緒ですね。

そうかもしれないですね。音楽を奏でていた女性のミイラなど、古代エジプト人のなかで女性がどういう暮らしをしていたのか。子どもが何をしていたのか。そういうことを知っていただくのも、この展覧会の意味があるかと思います。

――東京の方では最後に、ミイラの匂いを嗅げるコーナーがありました。ものすごくドキドキしちゃいました。

あの展示は坂上先生からの提案で。僕はミイラの匂いはもう何百回と嗅いでるんですよ。

――何百回!? 現地で発掘作業をしているだけあって、ものすごい数ですね。

私がこれまで嗅いできたミイラの匂いというのはちょっと……。まさかあの匂いを特別展に来てくれた人に嗅がせるなんて、坂上先生は何を考えているんだろうと思いましたが(笑)。今回の展示で嗅いでもらうのは、ミイラを作った直後の匂いなんです。「ミルラ」という香木の香りなんですが、ミイラ作りに使われていた天然の防腐剤。ミイラの言葉の語源にもなっているものなんです。古代エジプトでは死者を神様として埋葬していた。古代エジプトではお香という単語は「セネチェル」といい、「神聖化する」という意味なんです。お香をつけるということは神聖化するという意味もあるんです。

ミイラの調査

ミイラの調査

――なるほど。そう思って匂いを嗅ぐと、ミイラのイメージもまた変わってきそうですね。ちなみに、昨年から日本ではミイラに関する展覧会が数多く開催されていますよね。ミイラづいているというか……。何か理由があるんでしょうか?

2022年はツタンカーメン王墓発掘100周年、ヒエログリフ解読200周年と、古代エジプト文明の研究にとって、とても重要な年です。エジプトでは大エジプト博物館もオープンするかもしれません。私もこの大エジプト博物館の合同保存修復プロジェクトに関わっているのですが、すごい博物館が建設されています。

――これからもミイラに関する興味深い展示が増えそうですね。その前に、まずは2月から開催される特別展『大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語』でミイラの謎に迫ってもらって。

そうですね。本展は大英博物館でも大ヒットした展覧会です。それが日本でも観られるのはまたとない機会。6体のミイラそれぞれに興味深く、面白い情報が備わっています。神官など社会的な立場や子ども、女性など、古代エジプト人の生活について非常にわかりやすく、選りすぐりの250点の展示物とともに説明されています。この機会を逃さないようにと、言い切ってもいいくらいです!

取材・文・撮影=黒田奈保子

イベント情報

特別展 大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語
会場:神戸市立博物館
会期:2022年2月5日(土)~5月8日(日)81日間
開館時間:9:30~17:30 ※展示室への入場は閉館の30分前まで
※金曜日、土曜日は19:30まで
休館日:月曜日、3月22日(火)
※ただし、3月21日(月・祝)、5月2日(月)は開館
主催:神戸市立博物館、大英博物館、朝日新聞社、関西テレビ放送
後援:神戸市教育委員会、Kiss FM KOBE
協賛:鹿島建設、DNP大日本印刷、三菱商事、公益財団法人 日本教育公務員弘済会 兵庫支部
協力:日本航空
 
入場料金(前売券発売中):    
一般 2,000円(1,700円)
大学生 1,000円(900円)
高校生以下無料
※料金は全て税込。()は前売・団体券
※神戸市在住で満65歳以上の方は当日一般料金の半額。(要証明書
※団体は20名以上。
※障がいのある方は障がい者手帳等の提示で無料。(要証明書
※前売券は2022年2月4日(金)23:59まで販売
 
販売場所:イープラス    https://eplus.jp
ファミリーマート店内「Famiポート」
 
本展は予約優先制です。予約なしでご来場されますと入場をお待ちいただく場合があります。
の購入や予約は公式HPをご覧ください。
をお持ちの方もご予約をおすすめします。
問い合せ:神戸市立博物館 078-391-0035
公式HP:https://daiei-miira.exhibit.jp/
シェア / 保存先を選択