オールナイトニッポンが55周年、記念公演『あの夜を覚えてる』への熱い思いを石井玄(プロデューサー)×小御門優一郎(脚本・演出)に聞く
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(左から)石井玄、小御門優一郎
人気深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン(ANN)」(ニッポン放送)が10月に放送開始55周年を迎えることを記念したオンライン演劇『あの夜を覚えてる』が2022年3月20日(日)・27日(日)に、ニッポン放送の社屋から生配信される。過去に自身が企画・構成をしたラジオに出演した経験を持つ俳優の千葉雄大と、「オールナイトニッポン0(ZERO)」、「オールナイトニッポンX(クロス)」でパーソナリティーを務めた女優の髙橋ひかるがW主演。ともにラジオが大好きという。ニッポン放送のエンターテインメント開発部に所属するプロデューサーの石井玄と、脚本・演出を任されているストーリーレーベル ノーミーツの小御門優一郎に、熱いやり取りが繰り広げられている稽古場で見どころを聞いた。
ーー『あの夜を覚えてる』は、「オールナイトニッポン」放送開始55年を記念したオンライン演劇ですね。舞台は劇場ではなく、番組が放送されているニッポン放送本社と聞きました。
石井:企画について最初に聞いたのは昨年の2月でした。「面白いからできるんじゃない」と企画書を通しましたが、あちこちで「大丈夫か?」と言われています……。誰もやったことがないものなので、予測が難しいですが基本的には面白いものに賛同してくれる人が多い会社なので、皆さん協力してくれると思っています。実際どんどん協力してくれる人が増えてます。
石井玄
小御門:ニッポン放送の中には、イマジンスタジオという広い多目的スタジオがあって、そこに舞台を立て込んでの配信すると思っている人もいるみたいですね。
石井:そうなんです。でもイマジンスタジオではなくて、普段、オールナイトニッポンが放送されているブースを使います。カフボックス(オンオフの切り替えを行う)やマイクなどさまざまな機材も本物。リスナーの方々はラジオ局の中はもちろん、ラジオを放送するブースを見る機会なんて、ほとんどないですよね。いつも聴いているラジオ番組が生まれている現場を、この節目に楽しんでもらえたらと思っています。
ーー事前に台本を読ませていただいたのですが、稽古場で中身を書き換えられていると聞き、驚きました。良い作品を作るために、日々ブラッシュアップされているのですね。
小御門:そうですね。実際に役者を動かしてみて、修正をしている部分もあります。このシーンはこう展開したかったけれど、全員が瞬間移動できないと無理だな……と気が付いたりして。
石井:いまは稽古場で練習をしていますが、これがまた社屋に入って動いてみると様子が変わる部分もあるでしょうね。ニッポン放送は、365日24時間常に誰かが働いている放送局なので、関係者が映り込んでしまう場面もあるかもしれません。そんな事態にも動じないように、社員には「当日社屋にいる全員が役者です」という通達もしようと思ってます。
ーー役者を動かしてみて、予想と違ったなと思われた部分はどんなところですか。
小御門:映画などであれば編集をして、次のシーンに行くことができますがそれができないところですね。
石井:会社の各フロア、ロビーなどにも展開していくので、台本のように人を動かしたければ、先ほど小御門さんもおっしゃっていましたが、瞬間移動するしかない……。ほかにもエレベーターを待つシーンでは、社員が乗ってきてしまうなど、様々なことを想定しておかなければいけない。どんなことが起きても対応できるよう、アドリブ力も求められるかなと思います。
(左から)石井玄、小御門優一郎
ーー物語は、ANNでパーソナリティーを務めている俳優の藤尾涼太(千葉雄大)を軸に展開していきます。放送100回を迎える人気番組ですが、藤尾から思わぬ告白がありますね。「ラジオを聴きながら上京したあの日」「ちょっといいことがあった日の夜」「朝まで起きて勉強」など、誰でも1度は経験したことがあるようなことが、登場人物のセリフに散りばめられています。
石井:台本にはスタッフなどに取材をして集めたエピソードが盛り込まれています。僕自身も、分かると思うことがあります。藤尾が感じていることは、誰しも一度は感じたことがあるひとこと。観ている人に響く言葉があるのではないかと思います。
ーーある場面で「居場所」について触れられているシーンが印象的でした。居場所が見つかったけれど、友だちはできない……。不安や孤独を抱えていた過去の自分自身の姿が浮かびました。演劇ではW主演を務める女優の髙橋ひかるさん扮するADの植村杏奈が「インナーラジオ(心の中で自分がパーソナリティーとなり語る世界)」として思いを吐露していきますね。
小御門:そうですね。髙橋さんが演じる植村は、人と対話することにある種の恐怖心を抱えている女性。言えなかった本音を「インナーラジオ」の中で告白しています。でも架空の世界なので、リアクションが返ってくることはなくて、状況は変わらないまま。実は藤尾も植村も同じ問題を抱えているんですよね。
ーー藤尾と植村は「言葉」をとても大切にしています。石井さんと小御門さんは、ラジオを通して受け止めた言葉で印象に残っていることはありますか。
石井:僕は高校が男子校だったのですが、進学した大学が共学で苦労しました。大学や社会に溶け込めないなと思っていた時に、寄り添ってくれたのがラジオでした。中でも好きだったのはJUNK(TBSラジオ)。伊集院光さんや、爆笑問題の太田光さんが、大人なのにダメなエピソードを話されているのを聴くと、「生きていてもいいんだな」と救われました。日本の社会は、いい学校に行って一流会社に就職して。こうして生きることが正解というようなものがあって、そこから外れてしまうともう終わりというか……。でもドロップアウトしても生きていていいと、当時の僕に希望をくれました。
小御門:ラジオはパーソナリティーがありのままをさらして、言葉を届けていると感じます。言いよどみがあったり、言葉を探すためのプロセスも(電波に)乗っているのがラジオ。だからより言葉が伝わってくるのだと思います。洗練されたコピーとは違う生の言葉は心に及ぼす作用が違うなと思います。
小御門優一郎
ーー公演のタイトルは『あの夜を覚えてる』ですが、石井さんと小御門さんは、ラジオとの忘れられない思い出の夜はありましたか。
石井:僕は初めての子どもが生まれた、昨年11月の夜です。産気付いた妻に病院に送り届けたのですが、コロナ禍で(本人以外は)病院に残ることが出来なくて。頭を冷まそうと、自宅まで30分歩いて帰ったのですが、まだ落ち着かない。妻に連絡をしたら「何もできないんだから、寝なさい」と叱られて。家の中で右往左往していた深夜の1時過ぎに、「あ、今日は火曜日だから、星野(源)さんのラジオ(ANN)やってるな」と思って放送を聴き始めたんです。元々担当をしていたこともあったので、源さんの声を聴いたら落ち着いて、思わず笑ってしまったんです。笑ったら張りつめていたものが解けて、放送の途中に眠ってしまいました。人の声を聴くと安心するって、本当にそうだなとしみじみしました。子どもも次の日に無事に生まれて、星野さんには、生まれたお知らせと一緒に、ラジオを聴いていた話も報告しました。
小御門:僕は学生時代に一緒に演劇をしていたサブカル好きの友だちに、「オードリーのオールナイトニッポン」をすすめられた夜ですね。いかに面白いかを布教活動をするように語られて、一緒にラジオを聴きました。石井さんはこの時、(この番組の)ディレクターかADを務められていたと聞きました。一緒にお仕事をする日が来るとは感慨深いです。
ーー本番まであと少しですね。ANNリスナーや演劇ファンに向けてメッセージをお願いします。
石井:カメラで撮影をしながら音も録って、照明やネット回線などにも気を付けなくてはいけない……。課題は山積みですが、ほかでは観られないものを観ることができると思います。生放送がひとつしかない日曜日の夜にしか、社屋での稽古ができないのでまだ手探り状態ですが。全ての準備が整ったら、ニッポン放送で展開される生放送の演劇を僕も楽しみたいと思っています。観ているみなさんはSNSやチャット、メールでラジオのように参加も出来るので、一緒にハラハラドキドキしながら楽しんで欲しいです。トラブルも起きるかもしれないので、応援してください!
(左から)石井玄、小御門優一郎
取材・文=翡翠 撮影=荒川 潤
公演情報
『あの夜を覚えてる』
配信プラットフォーム:オンライン劇場「ZA」(https://za.theater/)
公演時間:120分
総合演出:佐久間宣行
プロデュース:石井玄
脚本・演出:小御門優一郎
キャスト::千葉雄大、髙橋ひかる、吉田悟郎、山口森広、工藤遥、入江甚儀、鳴海唯、山川ありそ、相田周二(三四郎)
発売期間:2022年3月2日(水)18:00~各公演終了後約一週間
配信視聴
スペシャル特典付き配信視聴
購入受付締め切り:●3月20日公演:2022年3月27日(日)16:00 ●3月27日公演:2022年4月3日(日)21:00
スペシャル特典付き配信視聴
①「佐久間宣行と石井玄のOJISANS RADIO」
あの夜を覚えてるの公式解説。総合演出の佐久間宣行とプロデューサーの石井玄が公演の見所や裏話をたっぷり語る解説動画です。これを見れば「あの夜を覚えてる」が120%たのしめる。
※3月13日(日)23:59までに
②「あの夜を覚えてるができるまで~スペシャルメイキング~」
「あの夜を覚えてる」の公演の裏側を追った舞台裏映像を収録。 打ち合わせ、稽古、リハーサル、オフショットなどキャストとスタッフのここだけでしか見られない秘蔵映像です。
※3月23日(水)23:59までに
※また、3月13日(日)23:59までに
各公演上演終了後約一週間のアーカイブを予定しています。
●3月20日公演アーカイブ期間:2022年3月20日(日)24:00~3月27日(日)19:00
●3月27日公演アーカイブ期間:2022年3月27日(日)24:00~4月3日(日)23:59
制作:ノーミーツ
主催:ニッポン放送
公式SNS:https://twitter.com/ann55_anoyoru
公式サイト:https://no.meets.ltd/ann55th_anoyoru/