連日満員だったタイのヤンキー映画『四天王』や奇才アピチャッポン監督作など、今しか観られないタイ関連映画3選ーー『レオレオ、タイタメ』Vol.10

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2022.3.15

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タイで最も暑い「暑季」に入った3月、春の気配が濃くなりつつある日本ではふたつのタイのエンタメ=タイタメを楽しむことができる。ひとつ目は3月10日(木)から大阪梅田にて開催中の『第17回大阪アジアン映画祭』。そしてもうひとつは3月4日(金)から全国の劇場にて公開された、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンによる『第74回カンヌ国際映画祭』審査員賞受賞作『MEMORIA メモリア』。なんとタイ関連の映画が1ヶ月のうちに3本も上映されるまたとない機会がやってきた。そこで今回の『レオレオ、タイタメ』では、『大阪アジアン映画祭』にて上映中でタイでは連日満員だった『四天王』など3本の上映作品について紹介。また「ガパオもんじゃ焼き」なるオリジナルメニューを提供している、会場近くのアジア料理屋もピックアップしているので、映画鑑賞の前後にでもぜひ味わってみてほしい。

『第17回大阪アジアン映画祭』

『第17回大阪アジアン映画祭』

●「タイは毎年クオリティの高い映画を生み出す」●

3月10日(木)から3月20日(日)まで、梅田ブルク7やABCホール、シネ・リーブル梅田、国立国際美術館の4箇所にて『第17回大阪アジアン映画祭』が開催されている。今回で17回目を迎える同イベントは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマにした映画祭。2020年には、この連載でも第3回に紹介したタイの映画『ハッピー・オールド・イヤー』がグランプリ(最優秀作品賞)を受賞。その後、全国の劇場で上映され、今では各サービスにて動画配信されるなど、一度限りではない広がりを見せている。今回は全76作品のうちタイの新作映画として『理想の国』と『四天王』の2作品が選出。過去作をオンラインで配信する『大阪アジアン・オンライン座』も3月21日(月)まで開催され、タイ企業が製作に関わっている『3泊4日、5時の鐘』と『浜辺のゲーム』も公開中だ。

そんな同映画祭を通して「アジア映画のゲイトウェイ大阪」を世界にアピールしていくという。「この映画祭は、大阪映像文化振興事業実行委員会の主催で行っている。大阪市をはじめとする実行委員会の構成団体とともに、ここ大阪が、アジアと関係のある映画と映画人のプラットフォームとなり、交流を深め、世界へ発信していく場になることを目指している」と暉峻創三プログラミング・ディレクターは語る。

では、数あるアジア映画の中でタイ映画はどのような立ち位置にあるのだろうか。全ての作品を選定した暉峻ディレクターにタイ映画への印象を聞いたところ「製作本数こそ多くないものの、毎年クオリティの高い映画を生み出している注目の国」と言う。それはいち視聴者としても感じるところで、『ハッピー・オールド・イヤー』だけでなく、これまで連載で紹介してきた作品たちはどれも映像、脚本ともにクオリティが高く、「何度でも繰り返し観たい」と思わせてくれるほどの魅力があるのだ。

●女性ふたりが政治を語る『理想の国』●

中央が『理想の国』ポスター

中央が『理想の国』ポスター

まず紹介したいのは3月12日(土)に、シネ・リーブル梅田4にて世界初上映された短編映画『理想の国』。タイの有名寺院で偶然出逢った、元恋人同士の女性ふたりが物語を繰り広げていく。何気なく別れようとした時、取材の暇つぶしに来ていた記者の女性(中央ポスター左)が、結婚間近の恋人との仲を願掛けに来た元恋人の女性に「今でも保守派なの?」と声を掛けるところから、違う信念を持つふたりの会話が始まる。

ふたりは終始、それぞれの真逆の信念について語っており、その話題のほとんどが政治について。タイの政党党首のスピーチライターとしても活動する、エムアイ・ポンピタックが監督を務めているということもあり、登場人物が流れるようにリアルな政治意見を語っている。しかし、それだけではないセリフを超える説得力があったように思う。タイでは何年もの間、王制改革を求めて大規模デモが行われている。俳優やアーティストたちも自身の意見をSNSで果敢に発信しており、政治への関心の高さを目の当たりにすることがしばしばある。久しぶりに会った友人と自国の政治を語り合うだなんて少なくとも筆者は経験したことがないので話題の展開に違和感を覚えるが、もしかするとタイでは当たり前のことなのかもしれないと思わされる現実味のある作品となっている。

『理想の国』

『理想の国』

同作品は数あるプログラム部門のうち、「特集企画「ニューアクション! サウスイースト」」として分類されている。同部門はこれまでも東南アジア映画界に現れた新しい動きを、娯楽映画も含めて積極的に紹介してきた歴史があり、「同作はそれにふさわしいものだった」(暉峻ディレクター、以下同)ことから選出されたようだ。見どころとしては「極めて限定された登場人物と時間だけで、一つのドラマを作り出しているところ」とコメント。筆者も初日に鑑賞したが、彼女らの会話を聞くうちに映画では描かれていない過去のふたりを思い描くことができ、視聴者の想像力で補完される映像も含めてひとつの作品として成り立つおもしろさに感動した。

同作の次回上映は17日(木)16:20から。47分と短編のため、新進気鋭の監督としてピックアップされている東かほりの『暮らしの残像』、アメリカと中国の合作『エンクローズド』との併映となる。タイ映画への入り口として鑑賞してみてはいかがだろうか。

●1990年代のヤンキーを描く『四天王』●

『四天王』

『四天王』

同じく特集企画として選定されたのは、昨年末にタイ国内で公開され、今回が海外初上映となる長編映画『四天王』。シネ・リーブル梅田4にて3月16日(水)、ABCホールにて20日(日)に上映される。

舞台は渋滞のバンコクの道路。娘を学校近くまで送り届けた父親は渋滞にはまってしまう。ふと視線を前に向けると、手に金属の棒を持ち喧嘩している、職業訓練校の制服を着た男子生徒たちが。やがて小さな爆発音も聞こえ始め、やっとの思いで娘を助けに行くと、娘は血まみれで大けがをしていた。この光景をキッカケに、父親は1990年代に経験したことを振り返っていく。

4KINGS (2021) - Official Trailer

同作はプティポン・ナークトーン監督の実体験をもとに制作されている。タイでは昔から工業校など職業訓練校生は、違う学校の生徒に出会うとケンカするそうで、青春のワンシーンとして共感される場面もあるとのこと。社会問題を反映していることもあり、タイでは公開後4日間で5,000万バーツ(約1.76億円)の興行収入を獲得する話題作となっている。

見どころは「丁寧な演出と秀逸なシナリオで、青春娯楽映画ジャンルに独自の輝きをもたらしている」ところだそう。タイ国内での上映時から度々評判を目にしていた同作が、ようやく日本でも観られるなんて、本当に楽しみで仕方がない。「配給会社が買い付けた場合は、劇場公開やDVD、配信などの形で観ることができるが、そうでない場合は、今回だけの上映になってしまう」とのことなので、この機会にぜひお見逃しなく。

●全国上映中の『MEMORIA メモリア』●

『MEMORIA メモリア』

『MEMORIA メモリア』

最後に現在全国上映中で、『カンヌ国際映画祭』受賞作の『ブリスフリー・ユアーズ』や『トロピカル・マラディ』、『ブンミおじさんの森』で知られるタイの映画監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンによる最新作『MEMORIA メモリア』を紹介しよう。同作はアピッチャポンが初めてタイ国外で撮影したもので、コロンビアのボゴタとピハオの2都市を舞台としている。『2021年カンヌ国際映画祭』審査員賞受賞や『アカデミー賞』国際長編映画賞コロンビア代表に選出されるなど注目の作品で、日本においては昨年の『東京国際映画祭』で初上映された。

ある明け方、地球の核が震えるような重たい「音」に驚き目を覚ますジェシカ(ジャンヌ・バリバール)。入院中の妹を見舞うために首都ボゴタを訪ねた彼女は、病院で考古学者のアニエスと知り合い、彼女が研究している人骨の発掘現場に足を運ぶことに。舞台をボゴタから発掘現場のピハオに移し、やがて小さな村にたどり着く。そして川沿いで魚の鱗取りをしている男、エルナンに出会い、記憶について語り合ううちに不思議な経験を体験していく。

3/4(金)公開『MEMORIA メモリア』予告編

同作の魅力はなんと言っても音。画面は広角の定点カメラで大きな変化がなく、ほとんど音楽がない環境音のみで物語が進んでいくため、静寂な展開が繰り広げられる。あまりに静かな場面が多く、劇場内で誰かが立ててしまう布の擦れた音や、水を飲む喉の音までもが作品の一部になったかのような感覚に陥る。それまで都会の喧騒から耳を塞ぐように生きてきた私たちひとりひとりが、映画を観ていくうちにその静けさから全ての音を拾うようになっていく中、突然現れる爆発音に思わず鼓動が速くなる。大阪では『理想の国』、『四天王』を上映したシネ・リーブル梅田4にて公開中。映画館でしか味わえないこの不思議な感覚を、上映中にぜひとも体感してほしい。

◇タイ風もんじゃが食べられるアジア料理屋◇

いずれの映画も少し梅田から外れた場所で上映されている。普段は西梅田や堂島まで行かないということであれば、これを機に一度、その足で向かって欲しいアジア料理屋があるので紹介したい。

アジアン天国 堂島店
バル・バール、タイ料理、ベトナム料理
大阪府大阪市北区堂島2-2-34 クリエ堂島 1F
06-6345-6680
12:00~14:30(ラスト オーダー 14:00)、17:00~21:00(ラストオーダー 20:00)

アジアン天国はタイ料理のカオマンガイやパッタイ、馴染みのある中華料理など、アジアンメニューをリーズナブルな価格と小皿スタイルで提供しているアジア料理屋。黄色いテント看板が目印の店内に入ると、象のオブジェが出迎えてくれる。この象が乗っているのはポップコーンマシーン。お通しとして醤油バターやガーリック、たこやきなど好きなフレーバーをかけて好きなだけポップコーンが食べられる。筆者は映画鑑賞後に足を運んだので、映画の余韻にピッタリのお通しだった。

メニューをみてみると、ヤムウンセン(タイ風春巻き)やガイヤーン(タイ風焼き鳥)、カオマンガイ(タイ風チキンライス)、パッタイ(タイ風焼きそば)などがあり、タイ料理はカッコ書きでどういうものかを書いてくれているので非常にわかりやすい。さらに目を引くのは、オススメメニューのアジアンもんじゃ。同店オリジナルのもんじゃでグリーンカレーとトムヤム、ガパオの三種類が用意されている。今回はガパオを注文し、タイ産のワインをベースにしたワインクーラーのSPYとともにいただいた。

ガイヤーン、ガパオライス、ヤムウンセン、青菜の炒め物、ポップコーンフレーバー

ガイヤーン、ガパオライス、ヤムウンセン、青菜の炒め物、ポップコーンフレーバー

どれも日本人好みにアレンジされており、辛すぎないけれどもパクチーがふんだんに使われているのでタイらしさを感じるという、とても食べやすい味付けだった。濃いめの味付けにどんどん箸が進んでいく。そして終盤に、ガパオもんじゃが登場。スタッフがその場でひとつひとつ丁寧に焼いてくれ、小さなコテですくって食べるスタイルのため、日本らしさを感じつつも味はタイという不思議な感覚に陥る。ゴロゴロと具が入っているので生地もパリッと焼けやすく、おやつ感覚で食べられる。ここまで思い出しながら書いているだけでもお腹が空いてくるほど美味しかったので、本格派のタイ料理は少し苦手という人にもオススメだ。

これまで「いつでも楽しめる」タイタメを紹介してきたが、連載も10回目ということで「今しか楽しめないかもしれない」映画を紹介してみた。『理想の国』、『四天王』、『メモリア』が今後、日本で上映や配信などがされるかどうかは、今回の反響の大きさによって決まるかもしれない。だからこそ貴重な上映期間中に、一人でも多くのタイタメファンに足を運んでもらいたいし、作品のハッシュタグをつけてSNSで感想を発信してほしいと切に願う。そして、もしこの記事がキッカケで関心を持った、鑑賞してきたなどがあれば、「レオタイ×映画」のタグも忘れずに、ぜひ!

◇ひとことタイ語講座◇

เอเชีย(eechia、エーチア)=アジア

文=川井美波

『レオレオ、タイタメ』

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イベント情報

『第17回大阪アジアン映画祭』
期間:3月10日(木)〜20日(日)
料金:一般:1300 円(前売り、当日ともに同料金)、青春22切符:500 円(22歳までの方対象・上映当日窓口販売のみ)
発売:3月7日(月)以降、順次発売
大阪アジアン・オンライン座:3月3日(木)〜3月21日(祝・月)
国別作品リスト:https://spice.eplus.jp/articles/299575

公式ホームページ:http://www.oaff.jp

上映情報

『MEMORIA メモリア』
監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジェンヌ・バリバール
2021/コロンビア、タイ、イギリス、メキシコ、フランス、ドイツ、カタール/カラー/スペイン語、英語/136分/原題:Memoria
後援:駐日コロンビア共和国大使館
配給:ファインフィルムズ
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