バッハ・コレギウム・ジャパンが2022-2023ラインナップを発表、ヨーロッパのリベンジツアーも

レポート
クラシック
2022.3.16
(左から)株式会社グリーンハウス 田沼寛子/ バッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者 鈴木優人/バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督 鈴木雅明

(左から)株式会社グリーンハウス 田沼寛子/ バッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者 鈴木優人/バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督 鈴木雅明

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1992年の創設以来、古楽界の第一線を率いてきたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)。2022年3月14日にオンライン記者会見が行われ、音楽監督の鈴木雅明と主席指揮者の鈴木優人が登壇した。2022-2023シーズンのラインナップのほか、ヨーロッパツアーの開催や株式会社グリーンハウスとの提携など、新たな発表もいくつかあった。

バッハ・コレギウム・ジャパン  (c) Michiharu Okubo

バッハ・コレギウム・ジャパン (c) Michiharu Okubo


 

■カンタータ作品はBCJの原点

まずはラインナップについて発表。定期演奏会は東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルで6公演、神戸松蔭女子学院大学 チャペルで3公演を開催する。第148回定期演奏会では、例年のシーズン幕開け通り、バッハの『マタイ受難曲』(4月15日・16日)。「今年はイースターが4月17日で、その前の週に受難週があり、その時期に演奏します。毎年演奏していますが、やはり私たちにとって最も重要なレパートリーです」(雅明)。

昨年は招聘の難しかった海外ソリストについて、今年は無事迎えられるそうだ。BCJと初共演でエヴァンゲリストを務めるトマス・ホッブス(テノール)、十数年に渡って共演してきたハナ・ブラシコヴァ(ソプラノ)、そしてベンノ・シャハトナー(アルト)を迎える。

それに続いて、今シーズンではバッハのカンタータ作品を3回に渡って取り上げる。

『マタイ受難曲』に続く第149回定期演奏会(5月21日・22日)では、上演回数の少ないバッハの『昇天祭オラトリオ「神を讃えよ、その諸々の国において」』をメインとし、『プレリュードとフーガ イ短調』、カンタータ第37番「信じて洗礼(バプテスマ)を受ける者」第87番「今までは、あなたがたは私の名によっては何も願わなかった」を取り上げる。

「『昇天祭オラトリオ』はカンタータ第11番ともされていて、イエス・キリストが天に昇ったことを記念する『昇天祭』のための素晴らしい作品です。非常に華やかなトランペットと合唱がある一方で、ロ短調ミサの『アニュス・デイ』の原曲となるアルトのアリアも美しいです」(雅明)

第151回定期演奏会(10月30日)では、カンタータ第8番「愛する御神よ、いつ我は死なん」第47番「誰であれたかぶるものは低くせられ」第130番「主なる神よ、我ら皆あなたを讃えます」の3つをセレクト。特に、大天使ミカエルの祝日のために書かれた第130番は、雅明が「一番大好きなカンタータ」だという。

「大天使ミカエルは、注目を浴びることは少ないですが、『神の如きもの』と言われるほど、素晴らしく存在感のある天使です。天使というと女性的なイメージを抱かれるかもしれませんが、ミカエルは力強く神の手助けを行う存在なのです。第130番自体は長くはありませんが、華やかな作品です。同時期に書かれた第8番は、お葬式の鐘が聞こえる、しっとりとした作品。これらのように、普段演奏会数の少ない作品を取り上げているのもまた、今シーズンの特徴です」(雅明)

バッハ・コレギウム・ジャパン 音楽監督 鈴木雅明 (c)Marco Borggreve

バッハ・コレギウム・ジャパン 音楽監督 鈴木雅明 (c)Marco Borggreve

そして第153回定期演奏会(2023年2月25日・26日)では、カンタータ第18番「ちょうど雨雪が天から落ち」第35番「霊と魂は、惑い乱れます」第84番「我は己が定めに満ち足れり」第127番「主イエス・キリスト、真の人にして神」を演奏する。優人は、「BCJにとってカンタータ作品は原点だが、特に今回の4曲は演奏すればするほど味わい深くなる、素晴らしい作品たち」と話す。

「第127番は、『マタイ受難曲』にも出演されるブラシコヴァさんが登場します。今回彼女に歌っていただくアリアは、私が全カンタータの中でも最も好きなもので、歌詞の一節『魂の憩い』は公演タイトルにもなっています。アルトのダミアン・ギヨンさんがまた来日してくださることや、ベルリンで活躍中のテノール・吉田志門さんが出演されるのも楽しみです」(優人)

第150回(7月16日)と第152回(10月30日)では、バッハ以外の作曲家も取り上げる。第150回は、ハイドンのオラトリオ『天地創造』。BCJで初めての披露となる。そして第152回では、モーツァルトの交響曲第39番および『レクイエム』を優人の指揮で取り上げる。後者作品は、ジュースマイヤーおよびアイブラーの補筆、さらには1960年に発見した「アーメン・フーガ」のスケッチを元にした音楽を加えた版を演奏予定だ。

また、優人がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、BCJがマネジメントを行う「調布国際音楽祭2022」についても触れた。同音楽祭は6月18日から26日まで開催を予定しており、BCJは6月26日に出演する。テーマは「バッハ超名曲選〜鈴木雅明が選んだ珠玉の名曲たち〜」。雅明がバッハのカンタータやシンフォニアを集めて構成した「合奏協奏曲」や「オルガン協奏曲」、そして管弦楽組曲第4番を披露予定だ。指揮は雅明、オルガンは優人、そしてソプラノの中江早希も出演する。

バッハ・コレギウム・ジャパン 首席指揮者 鈴木優人 (c)Marco Borggreve

バッハ・コレギウム・ジャパン 首席指揮者 鈴木優人 (c)Marco Borggreve


 

■2020年ぶりの念願のヨーロッパツアー

またラインナップに加えて、ヨーロッパツアーが開催されることも発表された。遡ること2020年3月、当時開催中だったツアーが途中で断念していたことから、BCJにとって2年ぶりの悲願の「リベンジツアー」となる。ツアーは10月30日にポーランド・ヴロツワフのポーランド国立音楽フォーラムにて始まり、11月中旬までケルン、デュッセルドルフ、ローザンヌ、アントワープ、マドリッド、バーグを回る予定だ。現在、ウィーンやパリの公演も計画中とのこと。プログラムは2種類用意されており、Aプログラムではバッハの『ロ短調ミサ』、Bプログラムでは管弦楽組曲第4番および3つのカンタータを予定している。

「これまでBCJは、現地の演奏家仲間や聴衆からたくさんの刺激を受けて成長してきました。以前新型コロナウイルス開催できなかった現地からお招きいただき、私たちが学んだ場所や優人が生まれたバーグなどを巡りながらツアーを再開できるのは、本当にうれしいことです」(雅明)

 

■株式会社グリーンハウスとのパートナーシップ提携

会見ではラインナップの他に、新たな発表も行われた。BCJは、フードやレストラン、宿泊事業などを営む株式会社グリーンハウスと、2020年4月1日付でパートナーシップを締結する。

グリーンハウスは、国内4カ所でバッハの名前を冠した「ホテルグランバッハ」を運営し、「食と音楽で癒しと感動を提供する」をコンセプトとして設けている。このホテルを通じてグリーンハウスは、BCJメンバーシップ会員への優待や、同社イベントへのBCJの出演、また両者の対外発信のコラボレーションなどの取り組みを行うという。「今後、バッハなどのクラシック音楽を愛する方々はもちろん、すべてのお客様に、ホテルグランバッハでした体験できない音楽イベントを楽しんでほしい」と同社担当者の田沼寛子は意気込んだ。

ホテルグランバッハ

ホテルグランバッハ


 

■辛い状況下だからこそ、音楽からより強いメッセージを受け取れる

最後は質疑応答が行われ、「新型コロナウイルスで2020年のツアーが中止になり2年、振り返ってみてどうだったか」という質問に対して、2人はこう答えた。

「この2年間、活動計画も個人的な旅行もなくなってしまい、確かに辛い思いはしました。でも、国内の演奏活動は曲がりなりにも続けられ、感謝しています。緊迫した状況下だからこそ、バッハの音楽からよりメッセージを強く受け取れるようになりました。海外ツアーも実現できるよう、国際的な協力が強まっていけるとうれしいです」(雅明)

「2021年11月、トッパンホールでバッハの平均律クラヴィーア曲集のレコーディングを行ったのですが、ベルリンからエンジニアが入国できずに、急遽リモートで録音を実施しました。新しい技術を用いるため試行錯誤が必要でしたが、さまざまな制約も新たなチャレンジ・チャンスになるのだなと。2020年ツアーで無観客の配信を行った際に多くの方に観ていただいたように、たくさんの方が私たちにコミットしてくださり、感謝しております」(優人)

ラインナップのみならず、新たな活動展開や悲願のヨーロッパツアーなど、未来を感じさせる発表が多くあったBCJの記者会見。国内外の感染状況や情勢が好転し、ますます希望の持てる活動が展開していくことを期待したい。

取材・文=桒田萌

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