市川猿之助らが公演の魅力を語る 『四月大歌舞伎』第一部『天一坊大岡政談』、猿之助と愉快な仲間たち 第2回公演『森の石松』取材会
(後列左から)市川猿之助、石橋正高、横内謙介(前列左から)松原海児、穴井豪、下川真矢、市瀬秀和
2022年4月2日(土)に歌舞伎座にて初日を迎える歌舞伎座『四月大歌舞伎』。第一部の演目『天一坊大岡政談』は、明治8年に初演された河竹黙阿弥の作品。小坊主・法澤がお三という老女を殺して将軍御落胤の証拠を奪ってなりすまし、天一坊と名乗るが、名奉行と謳われる大岡越前守と対峙するスリリングなドラマだ。初演では五代目尾上菊五郎が演じた天一坊に、今回市川猿之助が挑む。また、公演期間中である、4月13日(水)〜21日(木)には、六本木トリコロールシアターで市川猿之助がプロデュースを行う猿之助と愉快な仲間たち 第2回公演『森の石松』が上演される。
それに先駆け、市川猿之助、『森の石松』に出演する市瀬秀和、石橋正高、下川真矢、穴井豪、松原海児、脚本を手掛けた横内謙介による取材会が行われた。
ーーまずは今回の公演について一言ずつお願いします。
市川猿之助:『四月大歌舞伎』では久しぶりに(尾上)松緑さん、(片岡)愛之助さんたちと共演し、伯父の猿翁も勤めた天一坊を演じます。今年は1月、3月、4月と歌舞伎座に立たせていただきす。そして2月に朗読劇を行った猿之助と愉快な仲間たち、第2回はお芝居を行います。こちらは横内さんに脚本をお願いし、小劇場のノリで進めています。本来予定していた公演がコロナ禍で中止になってしまい、これは大変だということで出演予定だったメンバーを舞台に立たせられないかということで始まった企画。ぜひよろしくお願いします。
市川猿之助
横内謙介:去年の秋に猿之助さんから「『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』からの仲間と一緒に演劇をやりたい」とお話をいただいたんですが、その時点では劇場も決まっていませんでした。今は小劇場でも1年半前には埋まっているので無理だろうと思っていたら、たまたまいい劇場が空いていて。小さなお芝居の作り方みたいなところでお手伝いするつもりでいたのに、気付いたら完成したチラシに私の名前が脚本として書いてあって(笑)。急いで書きましたが、実は構想としては30年温めていたもの。その構想に、今回出演される石橋正次さん、正高さん親子がうまくハマるということもあって、『森の石松』が劇中劇で出てくる入れ子構造としました。詳しくは観ていただいてですが、小劇場的な作りになると思います。本当に芸達者な方々が集まったので個性が活きるように考えたつもりです。何よりこの“愉快な仲間たち”に入れるよう、クビにならないように頑張りました(笑)。
市瀬秀和:愉快な仲間たち第1回の朗読劇には出られず寂しい思いをしましたが、今回は参加させていただけるので非常に嬉しく思っています。現在、『新・三国志』で歌舞伎座に出演させていただいておりますが、まさか自分が歌舞伎座に立てるとは思っておらず、必死に毎日やっています。『森の石松』は、横内さんから台本をいただき、嘉島(典俊)さんに参加いただき、みんなで作っているところです。今回はクラウドファンディングを行なっており、お客様とも一緒に作品を作っていければと思っていますので、ぜひよろしくお願いいたします。
市瀬秀和
石橋正高:猿之助さんの側で毎日一緒にいろいろさせていただいていますが、お話ししたことが現実になっていくことがすごく多くて、猿之助さんの力やお芝居に対する追求心などを教えていただいている感じがします。『三月大歌舞伎』第一部『新・三国志』では歌舞伎座という素晴らしい舞台で父(石橋正次)と共演させていただき、すごく嬉しく思っています。それに続いて『森の石松』でも共演し、劇中で親子を演じることができるので楽しみです。本当に、いろいろな方に手伝っていただいて舞台ができていくという素晴らしい経験をさせていただいているので、いろいろな方に観ていただきたいと思っています。
石橋正高
下川真矢:『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』の時からご一緒させてもらっていて、普段はアクション担当をしています。そこからずっとお世話になっていて、みんなで集まるのが難しい中でも声をかけていただきました。今回もあれよあれよと話が進み、僕が普段よく立っている小劇場で、このメンバーとできるのですごく楽しみです。普段はお膳立てしていただいたものに役者として出演するだけですが、今回はイチから手作り。僕はグッズを担当しています。芝居の稽古との両立も大変ですし、何がうけるのかとすごく悩んで、みんなにも相談しながら作っています。たくさん応援していただかないと僕の家に在庫が山積みになりますので、これからも宣伝していきたいです(笑)。自分でもすごく楽しみですし、素晴らしい舞台になると思います。
下川真矢
穴井豪:私はこの歳までダンス一筋でやってきて、ダンスにしか興味がありませんでした。猿之助さんと知り合ったのも舞踊公演のとき。そこからスーパー歌舞伎に携わらせていただくようになりました。俳優や歌手になりたいと思ったことはなく、ダンス一筋でやっていこうとずっと思っていたんですが、猿之助さんや皆さんと一緒に仕事をさせていただく中で、声を使った表現の面白さに気付き、考え方が変わってきたところがありました。そんなタイミングで(猿之助と愉快な仲間たち第1回公演)朗読劇『天切り松 闇がたり』のお話をいただいて。そこで声や表情を使った表現の面白さが自分の中に芽生えました。次もお芝居の舞台なので、どんな表現手段を見付けられるのかなとワクワクしております。皆さんから勉強させていただきたいと考えています。
穴井豪
松原海児:僕は今回脚本を手がけている横内さんが主催する扉座の劇団員で、猿之助さんとはスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』『新版 オグリ』で共演させていただきました。コロナ禍になって皆さんと会えない時期があったんですが、そんな時にTwitterで「猿之助と愉快な仲間たちの朗読劇をやっている」と知って、僕は愉快な仲間たちじゃなかったのかと少し落ち込みました(笑)。でも、扉座公演の初日に突然猿之助さんから「横内さんとこの稽古場って使える?」と電話がかかってきて。横内さんと顔を見合わせて「こんな話をしてたけど実現は難しいだろう」と話していましたが、こうやって参加させていただけることになり、本当に幸運だと思っています。今回のトリコロールシアターは小劇場ですから、僕にとっては主戦場。自分ができることを全てして、この豪華なメンバーに埋もれないように頑張りたいと思っています。
松原海児
『四月大歌舞伎』で演じる天一坊についての考えを尋ねられた猿之助は「それはもう、顔合わせの妙でしょうね」と即答。松緑、愛之助とは意外と一緒にやっていないと語り、役者同士のぶつかり合いをみてほしいと意気込んだ。さらに、「悪役は面白いですよ、悪に魅力がないと大岡の善も引き立ちません。芸の力を持って、負けないように立ち向かっていきたい」と、悪役のやりがいに意欲を見せる。
自身がプロデュースする猿之助と愉快な仲間たち 第2回公演『森の石松』に関しては「とにかく、演劇を作るということをみんなでやっています。もちろん僕がやらなきゃいけないんだけど、若手たちにはそろそろ自分たちで判断してやってみてほしいという気持ちがありますね」という厳しくも温かい言葉を口にし、「私たちは役者ですから役を習うのは当たり前で、そこにプラスして舞台の作り方、人の動かし方を学んでほしいですね」と、自らが伯父をはじめとする先人たちから学んだことを次世代にも身につけてほしいと語った。
(左から)市川猿之助、横内謙介
こちらはクラウドファンディングも実施しており、「地方の方など、応援する気持ちはあるけど行けないからとクラウドファンディングに参加くださる方も多くいます。大劇場に立っていると忘れがちですが、お客様のおかげで舞台ができているということを、キャストには噛み締めてほしいと思っています」と、ファンの思いあっての自分達だと改めて実感していると話した。また、目標金額200万円のところ現在600万円が集まっているが、猿之助としては1000万円を目指したいとのこと。「皆さんは意外に思うかもしれませんが、舞台美術や衣裳、カツラ、照明などを考えるとまだ足りないんです。時代物はお金がかかるので、いい芝居なのに商業演劇からも消えていっている」と、芝居を取り巻く厳しい現状も語る。
また、30年構想を温めていたという横内。詳細を聞かれ、「ハリウッドから訴えられたら困るからやんわりで」と笑いを誘いつつ、「神の声を聞いて農場を野球場に変えたら、そこに往年の名選手たちの魂が集まってくるという映画作品をオマージュしています」と話す。その理由として、「猿之助さんがお話をくれた時、コロナ禍で芝居をする場所が失われているという話をしたんです。構想の元となった作品も、野球界を追われた選手たちの話。また、親子の話でもある。石橋正次さん、正高さんがいらっしゃるというのもあって、30年来の構想を使うのはここだと思いました」と、タイミングやキャストがうまく噛み合ったことを明かした。
横内謙介
猿之助とキャスト陣は「構想を聞いてすごく面白そうだと感じましたね」、「面白おかしく書いてあるけど、ほろっとするところもある」と絶賛。横内が語った通り親子の物語も大きなウェイトを占めるということで、石橋親子をどう活かすかそれぞれが考えていると話した。
今回は歌舞伎やアクション、ダンスなど各分野のプロフェッショナルが集い、小劇場での芝居に挑戦するという意欲作。脚本の書きやすさを聞かれた横内は「そもそも“愉快な仲間たち”って誰ですかという状態だったので」と笑いながらも「猿之助さんのお弟子さんたちのことも知っているので、皆が活きたらいいなと思いながら書いた」と話す。「現代劇の部分もあるので、そこに歌舞伎の皆さんにも出ていただきたいなという思いがあります。一緒にやっていると分かるんですが、同じ「演劇」というジャンルでも、考え方や習ったことが全部違う。すごくいい文化交流なので、お互いに色々なことを学べるといいなと思っています」と、さまざまなジャンルのメンバーが揃っているからこその面白さと学びが生まれるのではと期待を見せた。
市川猿之助
続いて本作の見どころを聞かれると、猿之助は「今回は嘉島さんがスーパーバイザーで入ってくださっています。チラシの写真撮影では着付けもしてくれました。そのメイクや写真は僕が担当し、全部手作り。そして、ようやく石橋正次さんに『夜明けの停車場』を歌っていただけます。それに合わせて大衆演劇の座長として私が踊るというのもひとつの見どころ。あとは毎回日替わりゲストがいらっしゃいます。人脈はあるので(笑)、あっと驚く人にも交渉しているので楽しみにしていただけたら」と笑顔。
こうした“演出家・市川猿之助”の印象を聞かれると、一同は口々に「非常に分かりやすく的確な指導をしてくれる」と評する。自身も役者だからこそ演じて見せてくれるそうで、石橋は「なんでも教えてくれます。教えの次元が高すぎて、やるのは大変ですが……」と語り、穴井は「自分の部分をやってくれないかなと期待します」と話す。アクションを担当する下川からは「アイデアを見せたときに、面白がってくれているかいないかすごく分かる。どっちなんだろう? というのがないので、そういう意味でも分かりやすい」と、クリエイターとしてのやりとりもスムーズだという声が。横内も「芝居はもちろん、ビジュアルや音楽についてもすごく意識されているんです。空間を分かって演出をされますし、例えば『新・三国志』では1000曲近い音源を全て確認していました。ここまでやる俳優兼演出家はなかなかいないんじゃないかと思います。最新のテクノロジーについても詳しく、そばにいて勉強になりますね」と頷いていた。
(左から)松原海児、穴井豪、下川真矢、石橋正高、市瀬秀和、市川猿之助、横内謙介
精力的に活動を続ける猿之助のもと、芝居への熱い思いを持ち、打算抜きで付き合えるメンバーが集ったという“愉快な仲間たち”。『四月大歌舞伎』はもちろん、新たな挑戦にも期待が高まる。
取材・文=吉田沙奈
公演情報
■会場:歌舞伎座
【第一部】午前11時~
奈河彰輔 補綴
通し狂言天一坊大岡政談(てんいちぼうおおおかせいだん)
紀州平野村お三住居の場より大岡役宅奥殿の場まで
山内伊賀亮:片岡愛之助
池田大助:坂東亀蔵
平石治右衛門:中村歌昇
下男久助:坂東巳之助
下女お霜:坂東新悟
近習金吾:市川男寅
同 新蔵:中村鷹之資
嫡子忠右衛門:尾上左近
藤井左京:市川青虎
名主甚右衛門:市川寿猿
お三:市川笑三郎
伊賀亮女房おさみ:市川笑也
赤川大膳:市川猿弥
僧天忠:市川男女蔵
吉田三五郎:中村松江
大岡妻小沢:市川門之助
天一坊:市川猿之助
【第二部】午後2時40分~
真山青果 作
真山美保 演出
齋藤雅文 補綴・演出
江戸絵両国八景
一、荒川の佐吉(あらかわのさきち)
丸総の女房お新:中村魁春
お八重:片岡孝太郎
極楽徳兵衛:中村亀鶴
大工辰五郎:尾上右近
櫓下の源次:大谷廣太郎
あごの権六:中村吉之丞
茶屋女房おかつ:中村歌女之丞
白熊の忠助:嵐橘三郎
鍾馗の仁兵衛:松本錦吾
隅田の清五郎:市川高麗蔵
成川郷右衛門:中村梅玉
相模屋政五郎:松本白鸚
二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
所作事 時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)
鷲尾三郎:中村鴈治郎
白拍子園原:中村壱太郎
同 帚木:中村種之助
同 伏屋:中村米吉
同 雲井:中村虎之介
白拍子三芳野:中村扇雀
傀儡師輝吉:中村又五郎
【第三部】午後6時20分~
宇野信夫 作・演出
一、ぢいさんばあさん
下嶋甚右衛門:中村歌六
宮重久右衛門:中村隼人
宮重久弥:中村橋之助
久弥妻きく:片岡千之助
戸谷主税:片岡松之助
石井民之進:片岡亀蔵
山田恵助:河原崎権十郎
柳原小兵衛:坂東秀調
伊織妻るん:坂東玉三郎
若い者:中村福之助
同:中村歌之助
公演情報
会場:六本木トリコロールシアター
価格:8,000円
★全公演終演後、愉快な仲間たちによる日替わりアフタートーク付
脚本:横内謙介
演出:市川猿之助
市瀬秀和
石橋正高
下川真矢
穴井豪
松原海児
(以上誕生日順)
市川猿之助
石橋正次
他
@yukainaen
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