今年で10回を迎える『鈴木茂☆大瀧詠一を唄う』 愛と感謝とリスペクトを次世代へ伝え続けるレジェンドの未だ尽きせぬ情熱に迫る
鈴木茂
鈴木茂が大瀧詠一を唄う。それはただのコンサートではなく、愛と感謝とリスペクトを次世代へ伝える、伝説のレガシーだ。今年で開催10回目を迎える『鈴木茂☆大瀧詠一を唄う!! Vol.10』は、9月6日、ヒューリックホール東京にて。井上鑑(Key)をはじめお馴染みのメンバーに加え、スペシャルゲスト第一弾、渡辺満里奈の出演も発表された。最新ブルーレイ作品『Eiichi Ohtaki’s NIAGARA 50th Odyssey Live & 鈴木茂☆大滝詠一を唄う!! Vol.9』も、6月10日にリリースされる。表現したいことはまだまだある。未だ尽きせぬ情熱と共に歩む、レジェンドの最新語録に耳を傾けよう。
――振り返ると、「鈴木茂☆大瀧詠一を唄う!!」、初回公演は2019年11月でした。
そもそも、僕が1975年に初めてのソロアルバム『BAND WAGON』を出したあと、大瀧さんが荻窪LOFTというライブハウスで、『大瀧詠一、鈴木茂を唄う』というライブをやってくれたんですね。大瀧さんが亡くなったあと、「そういうライブをやってくれたことがあったよね」という話から、大瀧さんに感謝する意味でも、それのアンサーライブをやろうか、ということで始まりました。やってみると、お客さんもメンバーもとっても楽しそうだし、「これはいいね」ということで、いつのまにか10回まで続いたということですね。
――みんなの後押しを受けて。
初めて大瀧さんの曲を聴く人も、「懐かしさを感じる」と言う人が多くて、それは大瀧さんの曲作りの仕方が、そういった効果を出していると思うんですね。いろんな人がすんなり入れるというか、見えない輪がその場に作れるというか、コミュニケーションが取れるという意味でも、驚くくらいの効果があって、やっていてとっても楽しいです。
――大瀧さんは、茂さんにとって、どんな存在でしたか。
大瀧さんは、はっぴいえんどの頃から、とても付き合いやすい人というか、人間的にも好きだし、声の帯域も割と近いんです。大瀧さんのほうが、もうちょっと幅が広いけれども。で、「細野(晴臣)さんの曲は歌わないのか」と聞かれる時があるんだけど、何て言ったらいいのか、大瀧さんの曲はすんなり歌えるんだけど、細野さんとは声質も違っていて、なかなかうまく歌えないのと、あと、細野さんは生きてるから。頑張ってやっているから、トリビュートじゃなくて、一緒にまたやりたいという気持ちがあるんですね。
――はい。なるほど。
大瀧さんは、もういなくなってしまったので、トリビュートというか、大瀧さんを偲ぶライブという形になっているんだけれども、細野さんは、一緒にまたやりたいという思いがあるので。だから今のところ、『大瀧詠一を唄う』というライブしかやっていないけれども、人の曲をやるライブに関しては、とにかく面白いので、いい感じで続けていますね。
――実際、大瀧さんと茂さんは、節回しというか、ニュアンスというか、よく似ていると思います。
はっぴいえんどをやっている頃から、大瀧さんを横で見ていて、とっても参考になったし、あれほど表現力の豊かな歌手はなかなかいないと思うくらい素晴らしくて、メロディももちろん素晴らしいけれども、歌の表情が豊かなんですよ。とても真似はできないけれど、それを参考にして、特に裏声の出し方とかは、よく大瀧さんの真似をしていましたね。
――一番身近に、一番上手い人がいた。
そうなんですよ。あの人ほど表現力が豊かな人には出会ったことがないし、もしかしたら一番上手い人かもしれない。はっぴいえんどの頃からそうだったけれども、細かいところの配慮がすごいんです。例えば「がぎぐげご」を発音するときに、前に小さい「ん」を入れる。「んが」っていう、よく聴いてもらえるとわかりますよ。あの人なりのメソッドというか、スタイルがあるんでしょうね。
――言われてみれば。確かに。
そういう発想になったのは、音楽の聴き方が幅広かったからなのかな、と思うんです。クレージーキャッツが好きだったりとか、ね。ずっと「昭和の芸能の歴史を書いた本を作りたいんだ」と言っていて、それが完成する前に亡くなってしまって、あれはどうなったのか?と思うんだけど…。ともかく、音楽だけではなくて文化的なものの中から、いろんな情報なりテクニックなりを拾い上げているという、その幅の広さには驚きますよ。要するに資料マニアというか、なんでもかんでも残しています、データを。あの人の中にデータがあって、そこから色々作り上げていると思うんですね。
――そういう作り方をする人だったようですね。
それは誰でもそうであって、いろんなものに触発されて、曲はできるわけなんだけれども、あの人の場合はかなり資料が多くて、しかもきちんと整理されているところに面白さがあるのかもしれない。そこで思い出すのはELOで、ジェフ・リンはビートルズであったり、オールディーズであったり、たくさんの素材をデータとして持っていて、それを彼の中でリニューアルして曲を作っている印象があって、大瀧さんとやり方が似ているなと思ったことがあります。
鈴木茂
――茂さんご自身は、どういう曲の作り方をしているんですか。
僕は、例えばYouTubeなんかで聴いていて、いいなと思った曲があるとしますよね。そうすると、その中で一番いいなと思う、引っかかった部分が頭に残るんですよ。それ以外を全部忘れて、引っかかった部分だけを残して、そのあとは自分で作り上げていく。それは一か所のメロディの場合もあるし、コード進行の場合もあるし、雰囲気的なものだけを取り上げる時もあるんだけど、そこからふくらませていくというやり方です。最初にビジョンがあるというよりは、一つの点から線になって繋げていく、という作り方が多いですね。
――はい。なるほど。
例えば映画音楽を作る時に、映画って割と具体的に「こういう感じの曲を作ってくれ」と言われる時があるんだけど、それは苦手ですね。こだわればこだわるほど似てきちゃうし、盗作みたいになっちゃうから。でも大瀧さんの場合は、「自分の曲には全部元ネタがある」なんて自分でも言っているけど、それは裏を返せば、仮にそうであっても盗作にはならない、自分の創作だという自信があるというか、裏付けがあるからそういうことを言えると思うんだけれどもね。
――そうでしょうね。
どんな人でも、刺激になるものは必ずあるはずなんですよ。純粋に100パーセントオリジナルの曲なんて、僕はないと思っています。何にも音楽の教育を受けていない人が、無人島に行って曲を作ったら、それは100パーセントオリジナルだと思うけど、みんなどこかしらで聴いたメロディが体に残っていて、それが元の曲とは違った形になって出てきているというのが、ほとんどだと思いますよ。僕もそうで、今YouTubeなんかで聴いていても、「この曲いいな」と思うものがいっぱいあるし、そういう曲から刺激を受けて、「でも自分だったらこういう作り方をする」というような作り方をしていますね。
――『鈴木茂☆大瀧詠一を唄う!! 』に話を戻すと。過去9回のうち、途中からメンバーを増やして、ボーカルを分担するようになりましたね。
それはね、僕が大瀧さんの曲を10何曲、いっぺんに覚えられないから(笑)。そればっかり歌っている人は別として、自分の曲がちゃんとあって、片手間に歌うには、大瀧さんの曲はとっても覚えづらいんです。例えば「君は天然色」という曲、あれは1番、2番、3番でメロディは大体同じなんだけど、譜割りが全然違うんです。それを全部覚えるのはかなりきついので、途中から3人ぐらいのボーカリストで分担して、「一人4、5曲歌おう」という形でやっています。大瀧さんは歌い方も幅広くて、「びんぼう」みたいなファンク的な歌い方もあるし、綺麗なバラードもあるし、声を張り上げる曲、ボソっと歌う曲とか、とっても幅が広いので、それを一人でカバーするのはなかなか難しいんですよ。
――『A LONG VACATION』を、全曲演奏した年もありましたね。『Vol.7』と『Vol.8』でしたか。
やりましたね。あのアルバムは大瀧さんの傑作だと言う人が多いし、実際、いい曲がいっぱい並んでいるので、「ロンバケコンプリート」をやってみようかということだったんですけど、そのあと、『EACH TIME』の40周年の年になって、今度は『EACH TIME』特集をやろうと思ったんだけど、これがまたね、すごく凝った曲ばかりで、さらに歌いづらい(笑)。聴いた感じでは、とっても心地よく聴けるんだけど、いざ自分が歌おうと思った時に、覚える作業がもう大変で。はっきりしたことはわからないんだけど、『A LONG VACATION』は人のために作った曲が多いらしくて、でも『EACH TIME』は全く純粋に、自分のために作ったような感じだったらしいんですね。
――ああー。なるほど。
コンサートが終わったあと、僕はいつもグッズの売り場に行って、サイン会をやっているから、お客さんと話す機会が多いんだけど、ある時お客さんが「茂さん、「ロンバケ」が大瀧さんの傑作だと思ってるでしょう」って。「そうじゃないの? みんなそういうふうに言ってるよ」と言ったら、「僕たちマニアの間では『EACH TIME』が最高傑作なんです」って言うわけ。確かにね、『EACH TIME』は本当に良くできていて、細かいところまで色々と作り込まれている。で、この間その話を、ある作詞家の方としたんです。するとその方は、「あれは凝りすぎだ」と。
――うわぁ(笑)。それは、その方にしか言えないです。
ひとことで終わった(笑)。確かに、どっちも言えるんですね。凝りすぎだと思う時もあるし、でも素晴らしいというのもわかる。
鈴木茂
――そして9月6日、ヒューリックホール東京、『鈴木茂☆大瀧詠一を唄う!! Vol.10』。まず第一弾ゲストが発表されていて、渡辺満里奈さんの出演が決まりました。
井上鑑くんが音楽監督を務めた「ナイアガラ50周年」のライブで、満里奈さんも出演されていたんですね。それがすごく楽しかったので、ぜひ出ていただきたいと思ってお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。そして、このインタビューが掲載される頃には、先日の『MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE A Tribute to EIICHI OHTAKI』でも一緒だった佐野史郎くん、若手で頑張っているバンド・GOOD BYE APRILの倉品翔くん、シンガーソングライターの南壽あさ子さんの出演も決まっています。佐野くんは、そのライブで大瀧さんへの愛情が伝わってくる素晴らしい司会をしてくれていてね。それを見て、「今度はぜひ歌ってもらいたいな」と思ったんです。倉品くんや南壽さんも大瀧さんの音楽へのリスペクトが深くて、それぞれの魅力で歌ってくれると思います。大瀧さんの曲を好きな人は、ミュージシャンの中にも本当に多いんですね。そういう意味では声をかけると「ぜひ出たい」と言ってくれる方も多くて、とてもやりやすいです。世代を超えて大瀧さんの音楽が受け継がれていく、そんなライブになればいいなと思っています。
――その、ナイアガラ50周年記念ライブと、昨年の「Vol.9」をカップリングしたブルーレイ作品『Eiichi Ohtaki’s NIAGARA 50th Odyssey Live & 鈴木茂☆大滝詠一を唄う!! Vol.9』が、6月10日にリリースされます。そちらを楽しみつつ、「Vol.10」を待ちたいと思います。10回目は区切りがいいですけど、何か特別なことをする予定は?
たぶん、ブルーレイをまた作ると思います。今、内容を考えているところで、『A LONG VACATION』の曲も、『EACH TIME』の曲もやりますけど、もうちょっと前の、例えば「びんぼう」とか、あんまり今まで歌ってこなかった曲も入れたいので。割とバランスよく、それぞれの時代の曲をピックアップしてみようかなと思っています。
――楽しみです。そして、茂さん個人の活動についても、今年は活発に活動されていますね。
今年は1月に「NEW YEAR LIVE」をやって、3月にファンクラブのライブをやって、つい最近、せたおん(せたがや文化財団に音楽事業部)の主催の「BAND WAGONライブ」があって、どれも楽しかったですね。そのあと、9月まで大瀧さん関連のイベントがいくつかあって、去年は『BAND WAGON』50周年ということで、東京と大阪のビルボードでライブをやったんですが、今年はその次の年に出た『LAGOON』50周年ということで、11月にまたビルボードでやります。
――そして、これはちょっと聞きにくいんですが、ハックルバックの盟友・田中章弘さんが5月にお亡くなりになりました。思い出話をお聞きしたいです。
奥さんから電話があって、突然のことにびっくりしちゃって、「そうですか…」という答えしかできなくて。その後、Xにコメントを上げて、出会った時の話をちらっと書いたんですけどね。最近は元気いっぱいの状態ではなかったから、しょうがないのかな、としか言えないです。
――やはりハックルバックは、茂さんにとって大切なバンドでしたか。
そうですね。『BAND WAGON』を作った後に、この曲をライブでやりたいけど、ティン・パン・アレーのメンバーだと、自分の曲だけを全部やってもらうわけにもいかないから、新しくバンドを探そうということで、「大阪にいいバンドがいる」と聞いて、わざわざ押しかけていって。加川良さんのレコーディングをしているというから、強引に入っていって、一緒にやったらすごくいいバンドで。東京に呼んで、狭山に住んでもらって、そのあともずっと続けたという感じでしたね。
――素晴らしいバンドでした。
とってもパワフルでした。佐藤博さんにしても、田中にしても、トン(林敏明)にしても、周りに同じようなタイプの人がいないんですよ。特に佐藤博さんみたいなピアノを弾く人は、未だに一人もいないと思っています。田中もそうですね。みんな、パワーがあるんですよ。
――ハックルバックは、何らかの形で、レガシーを残してほしいなと思います。
まだ何とも言えないけど、ハックルバックのライブ音源が、いくつか見つけられると思うので、CDか何かにして出したいな、という気はあるんです。みんなに聴いてもらいたい、ということもあるし、いろんな意味で役に立ててもらいたい気持ちがあるので、作品を作ってみたいなという計画はあります。正式なレコーディングはしていないので、いわゆるカセットで会場で録ったやつですね。だから、音源としてのクオリティは悪いと思うけど、演奏に馬力があるというか、若いバリバリの頃だったので、聴く価値はあると思います。
鈴木茂
――もう一つ、これもちょっと聞きづらいんですが、長年在籍されたバンド・SKYEを、5月に脱退されましたね。そのへんの心境も、聞かせてほしいです。
えっとね、細野さんとも話したんだけど、「この年になるとバンドはきついよね」と。要するに、自分の作った曲は自分の好きなように作りたい、というのがあるんだけど、バンドになるとどうしても、そうはいかない部分があって。だからSKYEも、SKYEのために何曲か作ったんだけど、レコーディングする前に僕が自宅で作り上げちゃっていた、ということもあるかもしれないけど、それをバンドに持っていって、譜面を渡して音を出しても、自分が思っている形とは違ってきちゃう時があったんですね。曲って、言ってみれば自分にとって一番大切な部分だから、それが思った通りに仕上がらない時のフラストレーションは、結構すごいんです。マンタ(松任谷正隆)なんかは、自分がどういうふうに作るかはもう自分で見えているから、「それ以外の形に持っていってもらったほうが自分は楽しいんだ」って言うの。その考え方もとてもよくわかるし、だけど、それと正反対のこともあるんですよ。
――わかる気がします。
あとは、自分のソロ活動というものが、やっぱり自分にとって一番大切で、言ってみればSKYEというのは、人によって考え方は違うかもしれないけど、余暇を楽しむ的なもので、もちろん楽しいんだけど、色々やっていくうちに、どっちかを選ばないとダメだという時があって。スケジュール的なことと、さっき話した音の方向性のこともあって、そこでちょっと苦しくなってきて、「申し訳ないけど、自分にはこれ以上続けられない」ということを、何年か前からお願いしていたんだけど、いよいよ、もうはっきりさせないとまずいよなと思って、辞めるという決断をして、3人に了解を得た、という形です。
――つまり、これからを見据えた、前向きな選択だった。
そうです。SKYEのサウンドはとってもいいと思うし、このまま続けてもらいたいと思っています。僕は今、新しいアルバムを作ろうと思って頑張っているんだけど、SKYEと両方やることになると、自分のソロアルバムのほうがおろそかになるから、自分の作品に集中させてもらいたいということですね。今、ようやく5曲ぐらい揃ってきたので、なんとか10曲集めて、アルバムとして出したいなと思っているところです。
――それはすごく嬉しいです。どんなアルバムになりそうですか。ヒントだけでもぜひ。
どうだろう? なんかね、さっきも言っていた若いミュージシャンの、いいところを吸収して作る世界観というものがあって、そっちはちょっと地味なんだけど、それをちゃんと形にしたいのと、あとは、大瀧さんのようにはできないかもしれないけれど、なるべく多くの人とコミュニケーションが取れるような曲が作れれば、と思っていますね。例えば、もうライブでやっている「青空のBirthday」という曲があったり、クリスマスの曲も作りたいと思っていたり、子供も歌えるような曲を作ってみたいという気もあるし。僕が今「いいな」と思える曲と、なるべく多くの人とコミュニケーション取れるような曲とが、合わさったようなアルバムにしたいなと思っています。
――今日は、ありがとうございました。最後にあらためて、9月6日の『鈴木茂☆大瀧詠一を唄う!! Vol.10』を楽しみに待っているリスナーへ、呼びかけの言葉をもらえますか。
大瀧さんの曲は、音頭からバラードまで、本当に幅が広いので、誰でもどこかで必ず楽しんでもらえるような構成にしようと思っているので、いろんなファンの方に集まっていただけると嬉しいですね。僕の曲も、もしかしたら何曲かやるので、それも含めて、できるだけいろんな人に楽しんでもらえるようなライブを考えます。若い人も、同じ世代の人も、来ていただけると嬉しいです。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
鈴木茂
ライブ情報
2026年9月6日(日)ヒューリックホール東京
開場/開演 15時:00/16:00
全席指定 ¥10,000
鈴木茂(Vo&Gt)
井上鑑(Key)
上原“ユカリ”裕(Dr)
長岡道夫(Bass)
外崎銀河(Key)
鈴木雄大(Vo&Gt)
田中拡邦(Vo&Gt)
笹倉慎介(Vo&Gt)