EXiNAアルバム発売インタビュー「音が少ない、空気感を含んだロックのカッコよさにも気付いて欲しい――」
EXiNA
西沢幸奏のソロ・プロジェクトであるEXiNA、2019年に立ち上がった彼女の音楽が、今回ついに1st フルアルバム『SHiENA』という形でリリースされる。
アニメタイアップ作品となる既発曲 2 曲を含む全 12 曲入りのフルアルバムである今作の新録曲はすべて、ゲーム『グランツーリスモ』シリーズの音楽などを手掛けるサウンドプロデューサーの daiki kasho が担当。 アートワークはアパレルブランド guernika を展開し、様々なブランドや企業などとのコラボレーションを行うアーティスト・乾シンイチロウが担当するなど、意欲に満ちた一枚となっている。 90年代グランジ・ロックの空気感をたっぷりと含んだ今作は、DATテープで録音するなど、こだわりで作り上げられている。この一枚に込めたEXiNAの思いをじっくりと聞いてみた。
■チームで「カッコイイ」の認識が一致している感じがしている
――今回1stアルバム『SHiENA』は、正に自分の名前を冠したアルバム名になっていますね。
2019年のEXiNAとしてのデビューの時の「XiX」以来になりますね。フルアルバムは初です。
――アルバムが出ると聞いた時の気持ちをまず伺えれば。
単純に嬉しかったです。ライブがそんなに出来ていなかったんですけど、ライブで演奏する自分の曲がもっと欲しいと思っていたので、そういう点でも嬉しかったですね。
――今回12曲入りですが、アニメタイアップのシングル曲が2曲入っているにも関わらず、それが7曲目まで出てこないという。
全然そこは意識してなくて、確かに言われてみれば他の方のアルバムって、シングル曲を初めの方に持ってきたりしているんですけど、今回別にそれが知っている曲じゃなくても、良い曲であれば関係ないかなと思ったんですよね。
――自然な流れで並べていったらこうなったっていう感じですか。
曲の流れというか、これを聴いたら次はこれを聴きたい! っていうのを一番大事にして曲順を考えた感じですね。
――通して聴いてみて90年代から2000年代初頭のロック。ご自身もルーツと言っているフー・ファイターズ(アメリカのロックバンド)などの影響が強いのかなと思いました。
今日もフー・ファイターズのパーカーを着てきてるぐらい大好きなんですけど、やっぱり私ってギターロックが好きなんだなと思ったんです。今日は何聴こうかなって思う時に、今日はあのギターの音を聴きたいからフー・ファイターズ! とか、今日はマリリン・マンソン(アメリカのリード・ボーカリストの名前を冠したロックバンド)! とか選んじゃうんですよ。自分もアルバムを作るんだったらサウンドに統一性があるアルバムにしたいと思っていたので、ギターの音にこだわった曲をアルバム全曲通してやろうって思ったらこんな感じになりました。
――アルバムを聴いて、隙間がしっかりあるロックンロールをやっているなと思ったんです。ギターの隙間やリズムの隙間に空気感を含んでいるような。
そうなんです! そういった感想は凄い嬉しいですね。
――それは作曲のdaikiさんも含めて、セッションしていく中で作られたんでしょうか? それとも最初から狙ってそういう物を作ろうと思ったんですか?
どっちもあるんですけど、結構最初から狙った感はありますね。最初から思いをすり合わせておいた方が、目標に向かって行きやすいというのもあったし。daikiさんは私がこういう音が好きだっていうのも「ENDiNG MiRAGE」の時点で結構理解してくださっていたので、話は凄く早かったです。「好きなのやりたい」って一言だけで伝わる感じというか。
――好きなモノが共通認識としてあったわけですね。
何を持ってカッコイイかって、人それぞれだと思うんですけど、このチームって結構カッコイイの認識が一致している感じがしていて、盛り上がりながら作れましたね。
■好きな事をやるのが一番気持ちいいし、それが正しいと思う
――今回のアルバムを聴いて、EXiNAの持っていた攻撃性がちょっと消えてきたなっていう印象は凄くあるんです。「XiX」とかは怒りをぶちまけるような、西沢幸奏の怒りの化身のように感じたんですが、ご自身の中でコロナ禍も含めた心境の変化みたいなものはあったんでしょうか。
こういうのを丸くなったって言うんですかね(笑)。 確かに怒っていたんですよね……自分に何が表現できるんだろうって思った時に、怒りとのマッチングがいいかもと思ってた部分もあったんです。
――確かに推進力は凄かったですね、驚きもありましたし。
でも、このアルバムが完成して思ったのが、好きな事をやるのが一番気持ちいいし、それが正しい、というか、そういう風に思ったんですよね。今までやっていたものが好きじゃないという訳ではないんですけど、今よりもっと色んな事を考えて音楽をやっていたんです。そういう邪念みたいなものが全部取れて、この形に辿りついたっていう感じなんです。
――憤りだったり閉塞感みたいなものは気にならなくなった?
結構折り合いを付けられるようになったというか、そういう感情も時にはあるよねっていうか、その感情に支配されなくなったというか。
――なるほど。それは確かにある意味大人になったのかもしれないですね。
そうかもしれないです。成長の証です(笑)。
――アルバムの内容に戻りますが、1曲目の「MONOLOGUE」なんですけど、モノローグから始まるじゃないですか。これはご自身で作られたということですが。
そうですね、部屋で作ったまんまがアルバムに入っちゃったみたいな。
――自分の事を語っていますよね。
「How are you? I'm SHiENA」から入るんですけど、このアルバムのコンセプトみたいなところを最初に語って入れたら映画っぽくてカッコイイかなと思って。
――最新のアー写やジャケットも含めて僕らが好きだった頃のロックの情景が詰まっているんですよね。ザラついているというか。ジャリっとしているんですよ。よいオルタナだなと。
嬉しいです!
――僕らからするとオルタナティヴ・ロックって懐かしさを感じるんですけど、新しい感じを受けられるんでしょうか。
今でも写真をあえてインスタントカメラで撮ったりするじゃないですか。そういうのと一緒で、新しいっていう言い方もできるけど、懐かしさがいいっていう感じの感覚もあると思いますね。
――なるほど。
単純にこういう音が好きなんですよね。何故かは本当に分からないですけど、自然とそういう音に導かれてしまうんですよね。
――西沢幸奏が世に出た瞬間、それこそ「吹雪」を歌った時から見ていますが、アニソンシンガーとして現れて、ギターを持って歌って、EXiNAになって、デジロックで怒りをぶちまけて……そして今たどり着いたのがオルタナっていうのは、色々試してみてここに来たのか、好きなものを追求した結果がこれなのか。
これは私がずっと好きだったものですね。自分に何が合うかな? とか、何が喜んでもらえるんだろう? っていうのを、凄く考えながら音楽をやっていた部分があって。普段聴くのはフー・ファイターズだったりASIAN KUNG-FU GENERATIONだったり、ギターの音をたくさん感じられるような曲ばっかりを聴いていたんです。でも前は自分が歌うのは別っていう感じだったんです。
――そこは最初一致していなかった?
そもそもそういうジャンルに、私みたいな女の子のボーカルが合うのかなっていうのが分からなかったし、想像つかなかったんですよ。だから今こんなに好きな曲ばかりが出来るなんて! っていう感じですね。凄く今幸せです。
――それが許されるところまでチームが出来たり、EXiNAとして歩んできたって事なんでしょうね。
それが自分で頑張った成果かどうか分からないですけど、本当に周りの方が温かく見守って応援してくれたお陰で、今凄く伸び伸びと出来ていて、感謝しかないですね。
■デイヴ・グロールを怒らせよう!(笑)で生まれた「Monkey Wrench」
――曲の話を聞くとしたら、やはりどうしてもフー・ファイターズのカバーである「Monkey Wrench」のカバーの話は聞かなくちゃいけないと思っていて。
是非!(笑)
――「Monkey Wrench」のカバーがまさかのバラードアレンジで驚きました。
私もこうなるとは微塵も思ってなかったんですよね(笑)。フー・ファイターズがカバー出来ますよって聞いた時に、ただでさえ死ぬほど嬉しくて舞い上がってたんですけど、何の曲やる? っていう話になった時に「Monkey Wrench」にしようかなって。
――「Monkey Wrench」を選ぶ気持ちは分かりますね。それ以外だと「Everlong」か「The Pretender」になる(笑)。
そう、それでひとりでカラオケボックスにすぐ行って、どのキーがいいかなって原曲のまま歌い上げて。その音源を携帯で録ってスタッフさんみんなに送って、どれがいいですかね! って感じでやっていたのに、daikiさんからご提案いただいたのがこのアレンジで(笑)。最初私も凄いびっくりしたんですけど、リスペクトしてカバーをするっていう私の認識がちょっとズレてたかもなって今思っていて。
――それはどういう部分ででしょうか?
最初は原曲をそのままやる方がいいかなって思ったんです。でもリスペクトしているからこそ、そのままやるのはむしろ失礼なんじゃないかなと今は思っていて、私が出来る全力で私にしか出来ない「Monkey Wrench」をフー・ファイターズのメンバーに聴いて欲しいなと思ったんです。その方がリスペクトしてる感じがするんですよね。それでこのアレンジで行く事に決めました。
――アルバムのコンセプト的にはフー・ファイターズのカバーソングが入ってますっていうのは、コンセプトどんぴしゃなのに、音的にはアルバムの中では異質ですよね。
最初ピアノでワンコーラス終わっちゃいますからね。
――ギター思いっきり弾く準備はしていたんですか?
めちゃめちゃロックに歌う準備をしていましたね。でもオアシス(イギリスのロックバンド)とかブラー(イギリスのロックバンド)とかも好きなんで、その気持ちもここにぶつけることも出来るとは思いました。daikiさんって常に「面白い事しましょうよ!」っていう感じのスタンスなんです。この「Monkey Wrench」も「これでデイヴ(・グロール フー・ファイターズのボーカル・ギターを担当。ニルヴァーナの元ドラマー)を怒らせてやりましょうよ!」っていう感じでおっしゃっていて(笑)。
――それはやばい!
もちろん冗談ですけど(笑)。それぐらいしないと結局フー・ファイターズの元々の「Monkey Wrench」には何をしても敵わない。一番あれがカッコいいんだから、それを超えようとするのはとても愚かな事なのでっていうのもありましたね。
――2曲目の「DONUT」も気になりました。これもEXiNAさんが作詞作曲。
全部作っています。これは私の好きな感じのギターのフレーズをまず沢山入れてやろうというところから始まって、曲が先に出来て歌詞を付けた感じなんです。最終的に97年生まれの私のエッセンスと、90年代のエッセンスが上手い具合に融合出来て、凄く面白い曲に仕上がったなって思っています。
――僕ら世代も含めて90年代ロック好きな人は、「このフレーズ、あれ意識しているんじゃない?」って思えたりしましたし、でもボーカルがEXiNAさんなので、どう聴いてもEXiNAでしかない一曲になっているのは面白かったですね。
自分でも私の声が乗ると、いい意味で全然違う曲の雰囲気になっていて、それは確かに今回面白い発見でしたね。
――ボーカリゼーション的なところで言うと、自分の歌ってどう捉えられてますか? 自己分析する歌い手としての自分の進化というか。
私ってたぶん小器用なんですよね、歌う時に色んな事が出来てしまうタイプ。でもそれって良い点でもあり悪い点でもあると思っていて。音楽って何でも器用に出来るからって良いってなる訳ではないじゃないですか。
――そうかもしれませんね。
色々出来るなって思った時に、どこを選択して行くのか。ちょっと肩の力を抜いて、今何をやっていきたいのかを考えながら録っていった感は、今思えばありますね。
――確かに全体的に凄く肩の力が抜けて、凄く気持ちよく歌っているなと感じました。伸び伸びと自分の事を表現している曲があって、「Monkey Wrench」でちょっと緊張もあって、その次にやっとシングルの「ENDiNG MiRAGE」が来て、ここで自分のエネルギーをドンとぶつける。温度感がぐっと変わるから飽きないんですよね。
曲順はみんなで1曲1曲流しながら決めたのでそう言ってもらえると嬉しいですね。