タクティカートオーケストラ特別公演、若きソリストを迎え華やかに Cocomi(Fl.)&高松亜衣(Vn.)&角野未来(Pf.)が三者三様の演奏で魅了
タクティカートオーケストラ特別公演『RISING STAR CLASSICS』
2020年2月以降、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で多くのコンサートが中止・延期を余儀なくされた。そのなかで、同年10月に設立されたタクティカートオーケストラは、メンバーの平均年齢は23歳。国内外のコンクールで優勝・上位入賞を重ねているメンバーも少なくない。志の高いアーティストが集っており、彼らの活動はさまざまな方面から注目されている。
2022年5月21日(土)、タクティカートオーケストラ特別公演『RISING STAR CLASSICS』(次世代の若手音楽家達によるガラ・コンサート)はBunkamuraオーチャードホールで開催された。
このコンサートには、フルートのCocomi、ヴァイオリンの高松亜衣、そしてピアノの角野未来がソリストとして出演し、彩り豊かなプログラムが披露された。幅広い年代の聴衆が会場を訪れ、特に若い人たちが多く見られた。
オーケストラのメンバーが舞台にそろったのち、司会の松田龍も登場。親しみやすいトークで、プログラム冒頭のラヴェル《ボレロ》の物語の背景を紐解いていく。
その後、颯爽と現われたのは指揮の榊真由。榊は、桐朋学園大学時代に梅田俊明のもとで指揮を学んだ。さらに、昨年までNHK交響楽団で首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィのアシスタントを務めるなど、着実に成長を続けている。
スネアドラムのリズムに導かれ、メロディが囁くような弱奏で示される。そのメロディは、ひとすじの長いクレッシェンドに乗ってさまざまな楽器によって受け継がれていく。精巧なこの作品を、榊は慎重に築き上げる。メロディを奏でるメンバーの一人ひとりの思い入れが聴く者にも伝わってきた。
続いて、3人のソリストがそれぞれの独奏楽器とオーケストラのための作品を演奏した。
Cocomi
まず、フルートのCocomiが2曲を披露。彼女は、桐朋女子高校音楽科を卒業後、桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ―コースに在籍。先ごろCDをリリースし、話題となっている。
最初に演奏されたのは、モーツァルト《フルートと管弦楽のためのアンダンテ》K.315。丸みを帯びたしっとりとした独奏フルートの響きが印象的である。呼吸に力みがなく、その優美な表現は作品の魅力をいやましに高めてくれる。
続くサン=サーンス《ロマンス》作品37では、独奏フルートは低音域をたっぷりと歌い上げていく。オーケストラの創出する繊細なハーモニーの変化を巧みに捉え、独奏フルートは気品のある音を通して情趣豊かに音楽を表現した。カデンツァでは、彼女の尊敬するエマニュエル・パユによるものをとり上げた。
弾き終えた後、Cocomiはホールの響きの美しさに触れたのち、「同年代の知り合いも出演しているオーケストラなので、心強かったです」と語った。
高松亜衣
次に登場したのは、ヴァイオリンの高松亜衣。昨春、東京藝術大学を卒業したばかりではあるが、すでにCDを2枚リリースするなど積極的に演奏活動を行なっている。また、タクティカートオーケストラの一員でもある。
このコンサートでは、チャイコフスキー《ヴァイオリン協奏曲》作品35から第1楽章を選曲した。オーケストラの問いかけるような表現に応えて、独奏ヴァイオリンはじっくりと奏で始める。今どきのさらりとした表現ではなく、高松は熱い語り口で音楽へ深く没入していく。オーケストラを牽引するかのような思い切りのよい、強い推進力も彼女の魅力である。ポロネーズリズムが躍動する部分へ向かっていく時のエネルギーの凝縮度の高さは、実に見事である。パッションほとばしるチャイコフスキーであった。
演奏を終えた高松は、「見たことのない景色、こんなにたくさんの方に聴いていただけたのは初めてです」と感想を述べていた。
角野未来
後半では、まずガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》が披露された。ピアノは、東京藝術大学大学院2年に在学中の角野未来。昨年、このオーケストラとラフマニノフの《ピアノ協奏曲第1番》を共演。この夏のデビューリサイタルも決まっている。
角野の演奏には無駄な動きがなく、身体の使い方も自然である。硬質で透き通るような音で、弱音もホールの隅々まで浸透していく。即興的な表現も見られ、カデンツァにはラヴェルの「道化師の朝の歌」(《鏡》より第4曲)を取り入れる。しなやかな音楽の流れのなかで、音の遠近や質感、色合いを細やかに変化させる。さらに、リズムも鋭敏に刻み込み、弾むような躍動感とともに陰影豊かな音楽を生み出していた。
演奏後、角野は「こんなにたくさんの人がいらしているとは……ありがとうございます」と感謝の気持ちを表わした。
そしてプログラムの最後を飾ったのは、1950年生まれのメキシコの作曲家マルケスが1993年に書き上げた《ダンソン第2番》。榊のタクトは、滑らかな歌を感じさせる。多様なリズムやエキゾティックな音調の鮮やかな音楽で、コンサートを華やかに結んだ。
アンコールにはソリスト3人と司会の松田も加わり、バーンスタイン「マンボー」(『ウェスト・サイド・ストーリー』より)を全員で演奏。ステージと客席とが一体となって、大いに盛り上がった。
本公演は、2022年5月25日(水)よりイープラス「Streaming+」にてアーカイブ配信が決定した。配信は5月31日(火)23:59まで(視聴券購入は5月31日(火)21:00まで)。若き音楽家たちの演奏をお聴き逃しなく!(編集部)
『-タクティカートオーケストラ 特別公演- RISING STAR CLASSICS』告知動画到着!
取材・文=道下京子
公演情報
配信予定時間:150分間(変更となる場合があります)