【子ども向け解説あり】夏休みの自由研究にもオススメの『わけあって絶滅しました。』展、著者の丸山貴史が語る絶滅動物から学ぶものとは
丸山貴史 撮影=黒田奈保子
【お子さまへ】
ひらがなを、たくさんつかっているところがあります。おうちの方といっしょに読んでみてくださいね。
シリーズ累計90万部を突破する大人気図鑑『わけあって絶滅しました。』(丸山貴史著)が今夏、初の大型展覧会『わけあって絶滅しました。展』として登場! 子どもたちの夏休み期間でもある、7月22日(金)~9月4日(日)、大阪の南港ATCホールにて開催される。今回の展示では絶滅動物の貴重な化石や標本が展示されるほか、生きたカブトガニを触れる体験コーナー、「絶滅しそうで、してない」貴重な動物の生体展示なども行う予定だ。今回は『わけあって絶滅しました。』の著書である丸山貴史にインタビュー。展覧会や著書についてはもちろん、「絶滅動物がなんで絶滅したか分かるの?」、「夏休みの自由研究にできる?」など、小学生(記者の甥っ子たち)からの質問にも答えてもらった。
ダイヤモンド社 刊 『わけあって絶滅しました。』シリーズ 監修 今泉忠明、著者 丸山貴史
――『わけあって絶滅しました。』シリーズは、累計90万部を超えるベストセラーの図鑑です。「無敵すぎて絶滅」「カビが生えて絶滅」など、思わず笑ってしまう理由で滅んだ生き物たちの生態について、読みやすいイラスト付きで紹介されています。その著者である丸山さんは図鑑制作者として、これまでに数多くの図鑑の執筆を手掛けてこられましたが、元々は編集のお仕事をされていたんですよね?
はい。図鑑に関していろんな仕事を手掛けるようになったので、最近は「図鑑制作者」と名乗っていますが、元々は編集者としてスタートしました。図鑑制作の現場では、編集者でもキャプション(写真の下などにつく説明文)などの文章を書くことは多いんですよ。その流れで、丸ごと一冊執筆してみないかという仕事が入るようになって。それが、高橋書店から出版した『ざんねんないきもの事典』シリーズの成功につながりました。
――前著も動物関連の図鑑ですが、丸山さんは昔から動物の本ばかり作っていたのですか?
そうですね。大学は文系ですが、学生のときからアルバイトで自然科学系の図鑑を制作する編集プロダクションで働いていたんです。そこから今の仕事に繋がっています。
――動物に関する知識は、その仕事を通して深まったのですね。
それまでも動物園や水族館が好きで、旅行先も小笠原諸島や八重山諸島に行く程度には生き物好きでした。でも、自分で本を作るようになると、出す情報以上にインプットしないといけない。働きはじめた30年ほど前は、まだインターネットも普及していなかった時代です。そして、僕が好きなツチブタやハイラックスはマイナーな動物で、どの図鑑を見ても同じような内容しか書かれていない。そうなると、自分で書く場合も同じようなことしか書けないんですよ。それなら、いっそ自分の目で見てやろうと思って現地に足を運んだんです。
丸山貴史
――分からないなら現地に赴いて、自分の目で確かめようということですか。
そうですね。イスラエルにあるダチョウ牧場で働いていたのですが、そこは砂漠の中にある村で、近くにハイラックスが生息していたんです。滞在先は衣食住がそろっている場所が良かった。旅行者として滞在すれば、何もない場所にテントを立てて過ごさないといけないですからね。お金もかかります。働いて生活をしながら動物を観察できる場所はないかなと探していたときに見つけたのが、イスラエルのネゲブ砂漠にあるダチョウ牧場だったんです。
――興味があったとはいえ、日本での仕事を捨てて裸一貫でイスラエルに向かう、その行動力に驚かされます。
若いときはみんな、そんなもんじゃないですかね。
――しかも、聞いたところによると、観察の合間にハイラックスに手をかまれたんですよね?
今も傷が残っていますよ(笑)。ハイラックスは崖の隙間なんかを巣にしているのですが、たまたま僕が崖を登っている途中にハイラックスがいて、敵が来たと思ったのでしょうね。思いきり手をかまれ、びっくりして崖から落ちてしまったんです。最初は傷が小さいので大丈夫だろうと油断していたら、数日後にものすごく腫れてしまって……。エルサレムの病院に入院する羽目になりました。
――今でこそ笑い話にできていますが、当時の状況は想像以上に大変だったのでしょうね。
現地の人に大きな病院に行けと言われるくらいだったから、よっぽどだったんでしょうね(笑)。受診したら即入院になってしまいましたしね。その後はイスラエルから近いこともあって、ついでにアフリカも回ってみたりしました。
――丸山さんの著書には生き物に関する図鑑が多くありますが、『わけあって絶滅しました。』を執筆することになるキッカケは何だったのでしょうか?
『ざんねんないきもの事典』を企画した編集者の金井弓子さんが、ダイヤモンド社に転職されたんです。そして金井さんが転職一発目に企画したのが、この『わけあって絶滅しました。』というわけです。監修も『ざんねんないきもの事典』と同じ今泉忠明先生なんですよ。
丸山貴史
――丸山さん、金井さん、今泉先生のチームがあってこその大ヒットだったのですね。
そうです。金井さんと雑談をしている時、「絶滅した生き物にはどれくらい(絶滅理由の)パターンがありますか?」と聞かれて。16世紀以降だと、人間による狩りや、人間の持ち込んだ家畜が原因で絶滅した生き物がものすごく多いんですね。モーリシャス島にいたドードーという鳥は、島内には敵がいないことから体が大きくなって、空も飛べなくなりました。そんな島に船乗りたちがやってきたため、簡単に狩り尽くされてしまったのです。でも、これを「人間に狩り尽くされて絶滅」にすると、絶滅理由が同じものばかりになってしまう。だから「(人間に簡単に捕まるくらい)のろますぎて絶滅」など、人間がなぜ狩りやすかったのか、そこにフォーカスしました。ほかにも、人間に狩り尽くされて絶滅してしまった動物には、大型化したジュゴンの仲間のステラーカイギュウがいます。かれらは仲間が殺されると、集まってきて助けようとしたことから、絶滅理由を「やさしすぎて絶滅」としました。でも、観察例の少ない250年も前に絶滅した動物の話なので、本当に仲間を助けようとする習性があったのか、定かではないのですが。
――そうなんですか!?
ステラーカイギュウの発見者でもある、ドイツ人の博物学者で医師のステラーさんという人がいます。かれは「ステラーカイギュウは仲間が殺されると、それを助けるように集まってくる習性があった」という記録を残しています。でも、「仲間に突き刺さった銛やロープをはずそうとする姿は、実にあわれを誘った」のように、脚色が強めの記述もあるので、どこまで本当なのか分かりませんね。でも、それを否定するような研究もないわけですし、「やさしすぎて絶滅」といっても、間違いではないと思います。
ギガントピテクス わけあって絶滅しました。展 (c)サトウマサノリ
――今回の『わけあって絶滅しました。展』は夏休み期間中の開催ということもあって、生き物好きな子どもたちも数多く来場するかと思います。今回、小学生から丸山さんへ質問が届いています。
「ぜつめつしたどうぶつは、もうちきゅうにはいないのに、どうやっていなくなった「わけ」がわかるんですか?」
せいかくな「わけ」を知ることはできません。ただし、手がかりをもとに、推理することはできます。たとえば、化石が見つかれば、「この時代にこういう形の生き物がいた」ということはわかりますよね。でも、次の時代の地層からその生き物が見つからないのなら、その時代のその場所でどんな環境の変化があったのかを調べます。さらに、ぜつめつした生き物の体のとくちょうを調べると、環境の変化とぜつめつに関係のあることが、わかる場合もあるんです。
たとえば、「ギガントピテクス」という、身長3mをこえる大きなサルがいました。かれらはサルのなかまで一番大きく、中国やベトナムの、あたたかいちいきに住んでいました。おそらく、森でくだものなどを食べて、くらしていたのでしょう。でも、30万年前に、ちきゅう全体がとても寒くなってしまったんです。
すると、くだものが育たなくなり、ギガントピテクスは森を出て、ササなどのはっぱを食べるようになったと考えられています。でも、ちょうどそのとき、ジャイアントパンダも、同じちいきでくらしていました。パンダもササを食べていましたが、パンダはげんざいも生きのこっており、ギガントピテクスはぜつめつしています。そこで、「パンダに負けてぜつめつ」としょうかいしました。3mもある大きなサルが、パンダに負けたというのはおもしろいですよね。本にするばあいには、ぜつめつした理由を、どんなふうにひょうげんするかも大切です。
【おうちの方へ】
化石で知られる大昔の生き物は観察できないので、はっきりした絶滅理由は分かりません。でも、研究者たちは、いろいろな証拠を積み重ねて、絶滅理由を明らかにしています。たとえば、その時代の地層からわかる環境の変化や、生き物の形の特徴から推理するわけですが、研究者によって意見が分かれることも少なくありません。
ーー絶滅理由について、この本ではどんなところに注意していますか?
絶滅した理由を、どう表現するかが大事ですね。たとえば、ギガントピテクスであれば、研究者によって「同じ場所や時代に生息していたジャイアントパンダと、食べものをめぐって競合していた可能性がある」という推測がなされています。それを、この本では「パンダに負けて絶滅」と端的に表現しています。ほかにも、ターリーモンスターという古生代の石炭紀の地層から見つかる、未だ正体不明の生き物がいます。実は、復元にもいろいろな説があり、本当に図鑑で紹介したような形をしていたのかすら分かっていません。しかも、かれらに似たような姿をした生き物は、次の時代から見つかっていない。石炭紀の短い期間に、今のアメリカの一部だけで繁栄していた生き物なんです。おそらく、特殊な環境に適応していたのだと思いますが、そうした生き物は環境の変化にとても弱い。なので、それをおもしろい言葉で紹介できたら良いなと思い、「独特すぎて絶滅」と紹介しています。
――発想の転換ですね。それでも、絶滅してしまった生き物は無数にいるので、続編はいくらでも作れそうですよね。
『わけあって絶滅しました。』シリーズは、3冊目で終了となっています。その理由としては、表紙をかざれるようなスター性のある生き物があまりいないからです。有名だったり、めちゃくちゃ大きかったり、形がおもしろかったり、ほかとは一線を画す生き物。そういったものがもうあまり残っていないので、このシリーズは一旦終わりかなと。
――この本では、絶滅した生き物自身が絶滅した理由を語っています。こうした一人称での紹介の仕方も、ほかの図鑑にはない、おもしろい特徴ですよね。ちょっと自虐的な感じですが、思わずくすっと笑ってしまう。子どもにとっても、感情移入がしやすいと思います。イラストもマンガっぽくて、カラーのタッチも印象的です。
この紹介方法も、編集者の金井さんの発案です。動物の色については、近代に絶滅したもの以外はまったく分からないので、系統の近い生き物を参考に、不自然にならないようにお願いしています。たとえば、哺乳類の毛には、茶色と黒の色素しかないとか。
カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図鑑 全5種 (c)海洋堂
――今回の展示では海洋堂が制作した、フィギュア付き当日券やカプセルトイの販売も展開される予定です。もう実物はチェックされましたか?(海洋堂インタビューはこちら)
制作段階で何度かチェックさせてもらいました。以前に『わけあって絶滅しました。』のフィギュア入りバスボールが販売されたのですが、今回はそれよりもかなりサイズが大きいので、羽の一枚一枚まで丁寧に作りこんでもらっています。さすが動物を専門に作られている方々ですね。
――今回のイベントでは、時代(地質年代)ごとに様々な生き物に関する展示が展開されます。子どもたちが大好きな恐竜の化石から、迫力満点のロボットまで。子どもはもちろん、大人も興味深いものばかりです。
ぜつめつした生き物といえば、きょうりゅうが有名ですよね。でも、ぜつめつしたのは、きょうりゅうだけではありません。ほかにもたくさんの生き物たちがいたということを、たしかめにきてください。また、動物のなかではきょうりゅうがいちばん大きいと言われることがあります。でも実は、最大のきょうりゅうといわれるアルゼンチノサウルスよりも、シロナガスクジラのほうが体重はずっと重いんです。
【おうちの方へ】
絶滅動物として恐竜は有名なので、たくさんの名前を知っている子も多いと思います。でも、恐竜が生息していたのは、中生代のみです。そのあとの新生代は哺乳類の時代なので、こんな生き物たちがいたんだよということを知ってほしいですね。また、体はアルゼンチノサウルスのほうが長いけど、シロナガスクジラのほうがずっと重いんだよという展示もあります。僕は哺乳類が好きなので、哺乳類をとくに観てほしい(笑)。
――絶滅した哺乳類といわれても、あまり名前が思い浮かびません。
大手の図鑑でも、絶滅哺乳類だけを紹介する本はほとんどありませんからね。絶滅した哺乳類の本というと、ステラーカイギュウやクアッガなど「人間に滅ぼされたかわいそうな生き物」という切り口が多かった。『わけあって絶滅しました。』では「かわいそうな生き物」という切り口を排除したところ、おかげさまで大ヒットし、このような展覧会まで開催されています。これは哺乳類にかぎりませんが、大勢の子どもたちに絶滅した生き物を知ってもらえる機会がいただけたことは、すごくうれしいですね。
サトウマサノリ著、今泉忠明・丸山貴史監修 『わけあって絶滅したけど、すごいんです。』ダイヤモンド社 刊
――今回のイベントを機に、『わけあって絶滅しました。』シリーズ初の絵本『わけあって絶滅したけど、すごいんです。』も出版されます。
この絵本の著者は『わけあって絶滅しました。』シリーズでメインイラストを担当してくれたサトウマサノリさんです。僕はストーリーの段階からかかわり、小さい子ども向けの絵本だけど、『わけあって絶滅しました。』シリーズのひとつとしてしっかり監修しました。
――『わけあって絶滅しました。展』で展示、紹介される絶滅生物は、先カンブリア時代から現代まで生きた時代も様々。化石や生体、実際に触れられるものまで、一度の展示で観られる内容としてはかなり充実しているとか。
絶滅した生き物だけでなく、本でも紹介している「わけあって絶滅しそう」な生き物も展示しています。古い時代から順番に紹介して、最後に人間によって絶滅させられた生き物や、今まさに絶滅しそうな生き物が登場する。そして「絶滅させないために、できること」という問いかけで終わっています。ただし、決して堅苦しいものではなく、カブトガニに触れる体験コーナーなど参加型の展示もあるので、小さいお子さんでも楽しめると思いますよ。
――実はもうひとつ、小学生からの質問が届いています。
「ぜつめつどうぶつをかんさつして、なつやすみのじゆうけんきゅうにもできますか?」
『わけあって絶滅しました。展』では、入り口で紙がくばられます。その紙に、自分がみて、感じたものを自由に書いてみてください。「カブトガニにさわったよ」とか、「〇〇っていう絶滅動物がカッコいい」とかでいいんです。そのまま自由研究の宿題として、学校に出せるそうですよ。
【おうちの方へ】
会場では、自由研究にそのまま使えるという、専用用紙も配布されます。そこに自分が観て感じたものをメモすれば、そのまま自由研究として学校に提出できるそうです。
――今年の夏、関西圏の小学校の自由研究のテーマが「絶滅動物」ばかりになりそうですね。
どんどん使ってほしいですね。低学年なら「カブトガニに触ったよ」とか「〇〇っていう絶滅動物がカッコ良い」とかでも良いと思います。高学年なら、さらに自分で調べたことを別の紙にまとめて、自分なりの考察をしたり、絵を描いたりしても良いでしょうね。ぜひ、自由な発想で研究してください。
『わけあって絶滅しました。展』
――『わけあって絶滅しました。展』をキッカケに、絶滅しそうな生き物のために「なにかしなくちゃ」と思ってくれたならうれしいですね!
小さな子どもは、たいてい生き物が大好きだと思うんです。動物園が嫌いな子はあんまりいないですよね。でも、中学生くらいになると、他のことに対する興味がふくらんで、動物園なんて見向きもしなくなる子が多い。それはそれで自然なことだと思います。今回の展示では、今までにたくさんの生き物が絶滅していて、今も絶滅しそうな生き物がいるということだけでも知ってもらえたら、それだけで充分です。「絶滅させないために何をすれば良いか」なんて、大人にだって分かりませんからね。ただ、こうした展覧会が、生き物や環境に配慮するキッカケのひとつになれば良いなとは思います。
――『わけあって絶滅しました。』シリーズや今回の展覧会には、楽しさのなかに学びがきちんとあるんですね。
たとえば、ステラーカイギュウは人間が滅ぼした動物です。それなのに、本のなかでおもしろおかしく紹介しているのを、不快だと感じる人もいます。でも、ステラーカイギュウを狩り尽くしたのは、我々とは常識の違う250年も前の外国の漁師です。それを今の日本の子どもたちに、「ほら、人間はこんなにも醜悪なんだよ」と教える必要があるのでしょうか。それよりも、楽しみながら過去の絶滅について知り、今絶滅しそうな生き物についてできることを考えるほうが建設的だと思います。
ーー大人も一緒に観ることで、より学びが増えそうですね。
動物園とは違って、大人でも聞いたことがない、知らない生き物がたくさんいると思います。でも、何かを学ぼうと意気込んでくるのではなく、夏休みの一日を楽しく過ごしてもらいたい。そのうえで、何か心に残ることがあれば良いなと思います。ぜひ楽しみに来てください。
取材・文・撮影=黒田奈保子
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イベント情報
■会期 2022年7月22日(金)~9月4日(日) ※45日間 ※会期中無休
チケット特典の色違いメガテリウム (c)海洋堂 ※実際の商品とイメージが異なる場合あり。
※実際の商品とイメージが異なる場合がございます。あらかじめご了承ください。
【特典】
・海洋堂の限定フィギュア
料金:2,300円
販売期間:8月1日(月)10:00~ 無くなり次第終了
※商品は会場でのお渡しとなります。