Ryu Matsuyama×LIVE HOUSE FEVER“hands”、ワンマンとなった第三夜は華々しいサウンドスケープと最高の一体感を作り上げた

Ryu Matsuyama×LIVE HOUSE FEVER“hands” 2022.7.18 新代田FEVER

「『hands』には“仲間”だったりとか、いろんな意味を込めました。“（誰かを）助ける手”でもあるし、Ryu Matsuyamaの音楽も言ってみれば“ハンドメイド”。僕らの手で作った音楽をこれからも全力で投げていきますので、ぜひみなさんの手で、耳で、心で受け止めていただけたら嬉しいです」

ライブ後半、今回の試みにあらためて触れつつ、確かな自信を覗かせたRyu（Vo＆Pf）。そのナチュラルな言葉の一つひとつからも手のような温もり、彼らの音楽に対する良心的な姿勢をじんわりと感じ取った観客が多かったのではないかと思う。

Ryu Matsuyama×新代田FEVERによる3ヵ月連続のツーマンライブ企画『hands』が、7月18日（月・祝）の第3回公演でファイナルを迎えた。

初回はNakamuraEmiを、第2回はBialystocksを招き、好評を博してきた本イベント。そのラストを飾る対バンは、ひさびさの共演となるPolaris……のはずだったのだが、なんと開催直前でオオヤユウスケが新型コロナウイルスに感染してしまい、残念ながらこのたびの出演はキャンセルに。急遽、Ryu Matsuyamaのワンマンライブとして実施される運びとなった。

思わぬアクシデントを受け、予定変更を余儀なくされたRyu Matsuyama。しかしそれでも、彼らのホームグラウンドであるFEVERにはたくさんのお客さんが集まり、開演前から温かな空気感で満ちていたのがグッときた。ドラマ『オールドファッションカップケーキ』の主題歌「blue blur feat. mabanua」でリュウマツの存在を知って、初めて観に来た人も多いのかもしれない。3連休の最終日、海の日。過去2回に続き、今回も外は好天に恵まれ、会場内はMOND And PLANTSによる植物の装飾で素敵に彩られている。

この日は初期のナンバー「Gently」でライブがスタート。オートチューンの効果と淡いシンセの音色を活かした、文字通りやさしい響きをもって、まずはRyuがソロでホーリーなムードを醸し出す。ステージいっぱいに飾られた植物の緑と照明のブルーが溶け合うさま、オーディエンスの胸に深く染みわたっていく伸びやかな歌声もたまらない。ワンマンになったぶん、よりいっそう気持ちの入っている演奏がのっけから見て取れた。

前回の『hands』同様、またしても被りの少ない攻めたセットリストとなっており、続いては新曲の「yet」。以降はTsuru（Ba＆Cho）とJackson（Dr＆Cho）も加わって、ピアノの切ない旋律に呼応するように低音やビート、コーラスが積み重ねられ、Ryu Matsuyamaの崇高な世界観がじわじわと伝わる展開に。「Roots, trunk, crown」では、Tsuruが先のシンセベースから5弦ベースに替え、メロディアスなフレーズを存分に放出。Jacksonのパキッとした鳴りのドラム、ポストロックを感じさせるスネア捌きなども冴え、Ryuのボーカルはさらにノッてくる。「From the Ground」までを一気に駆け抜けた序盤にして、3人の芳醇なアンサンブルにすっかり骨抜きにされてしまう。

「Ryu Matsuyamaです、今日はよろしくお願いします！ ツーマンライブの予定でしたが、こういう事態はしょうがないですよね。僕たちも本当に楽しみにしていた対バンですけど……」と悔しさを覗かせる一方、約4年前にPolarisとの対バンで札幌へ行った際の良き思い出を嬉しそうに話すRyu。Jacksonも「ワンマンなのにこんなに集まっていただき、ありがとうございます！」とポジティブな気持ちを伝えた。

「一時は“どうしようか？”となったんですけど、Tsuruちゃんが急遽セットリストを考えてくれました。第1回と第2回の『hands』に来られなかった方もいると思うので、そこで演奏した曲を交えつつ、新しい曲を含めていろいろやっていきます。なんか逆にテンション上がっちゃったりしてね。MCでできるだけ気持ちを抑えてる感じです（笑）」（Ryu）、「いやいや、今日はワンマンだし。なんならここで30分しゃべってもいいですよ？」（Tsuru）、「叫んでもいいですよ？」（Jackson）

そんな和気あいあいとした流れを経て、ひさしぶりに演奏するという「Taiyo」から再び引き締まったモードに戻る3人。日本語詞も登場し、サウンドもシューゲイザー調の歪んだギター、次の「Domus」ではストリングスの同期を大胆に取り入れるなど、カラフルかつドラマティックなアプローチで3ヵ月の集大成を見せていった。「Deep, blue」、そして第2回の『hands』でも披露された新曲「snow」と聴くにつれ、美しいファルセットや熱を帯びたグルーヴ、贅沢なハーモニー……そのどれもが圧倒的な存在感を誇る、ライブならではのRyu Matsuyamaの凄みが再確認できたし、彼らの壮大な音にどっぷり浸れた幸せを思えば、対バン企画がワンマンに変わったことも決して悪くはない。

中盤のMCでは、ラッパーのBIMを客演に迎えた新曲「ordinary people feat. BIM」を7月27日にデジタルリリースするという嬉しい発表も！ Ryu曰く「むっちゃテンションが高くてアロハシャツが似合う、この暑い夏にぴったりな曲」だそうなので、彼らの新機軸に期待しよう。すでに撮影済みのMVは、「Under the Sea feat. Max Jenmana」「Snail feat. Daichi Yamamoto」「From the Ground」のリリックビデオ3部作に続いて、監督はRay Wakui。8月10日（水）にはそのRayの所属バンド、THE SIXTH LIEとRyu Matsuyamaによるライブが渋谷eggmanで行なわれる。

告知のあとは、ドラマ『オールドファッションカップケーキ』とのコラボMVが話題を呼んでいる現時点での最新曲「blue blur」。「この曲をやる前がいちばん緊張する！」と笑うメンバーのドキドキもいいテンションに繋がり、何かが始まりそうな予感を纏った、爽やかでスウィートなラブソングがフロアを心地よく包み込む。思い思いに身体を揺らして踊るオーディエンス。ハッピーな気分が高まったところで、さらに新曲「kepler-452b」へ。跳ねるピアノや間奏のハッとさせられるキメなど、聴きどころが多いこういったポップなナンバーも音源化が楽しみだ。

“震えるその声で命を削れ”“生きてる意味はなんだい？”という歌詞が清らかに響いてきた「愛して、愛され」、まるでオーケストラといっしょに演奏しているかのようなパワフルなアンサンブルやボーカルの切ない揺らぎが感動的だった「Afterglow」と、その後もキレのあるパフォーマンスを届けたRyu Matsuyama。

そして、コロナ禍でしんどいときに配信ライブの誘いをすぐに受けてくれたNakamuraEmi、才能の塊みたいなバンドで大発見だったというBialystocks、またの機会に共演したいと願うPolarisについて語りながら『hands』を振り返った彼らは、この3ヵ月を総括するように代表曲と言える「Go Through, Grow Through」「Footsteps」を投下。温かいハンドクラップもフロアにあふれる中、華々しいサウンドスケープと最高の一体感を作り上げて本編を盛大に終えた。

「『hands』には初めての方もたくさん来てくださったらしくて、こうして僕らの音楽を届けられて本当に嬉しかったです。もしかしたらライブがやれないかもしれないっていうようなご時世でしたけど、このタイミングで無事に開催できてよかったなと思ってます。今日はどうもありがとうございました！」

本稿冒頭の言葉とともに、最後にそう伝えたRyu。アンコールは公演タイトルを冠した新曲「hands」を、この特別な時間と空間を噛み締めつつ、万感の想いを込めて披露し、バンドにとっても大きな財産となった同志たちとのイベントに幕を下ろした。

取材・文＝田山雄士　撮影＝Takeyoshi Maruyama