髭・須藤寿が20周年を前に語った現在地と自らの核心とは
――僕自身、髭の音楽を聴き続けて20年近くになるわけですけど、これだけ表現が多様化しても、音楽的な面においても、バンドが持つ磁場においても、「髭っぽいバンド」って結局出てきてないですよね。改めて、唯一無二のバンドなんだなあと。
いいバンドって、必ずみんなそういう要素はあると思うんで。もちろん、この20年くらいの間にたくさんの音楽を吸収してはきたんですけど、結局辿り着くのは、「自分の畑を掘っていくしかないんだな」っていう。そういうところに辿り着いた上で、唯一無二だって言っていただけるのであれば、嬉しいことだなと思います。
――途中、アイゴン(會田茂一)さんが加わった時期があったり、奥田民生さんをはじめ複数のゲストが参加した『サンシャイン』があったり、その時その時で異なるモードやフォーメーションを見せつつも、「ああ、髭の核心ってここだよな」っていうところに今の髭はいますよね。シンプルでポップなんだけど、常に謎めいてる感覚があるというか。
確かに。ここ最近のSNSって、便利なツールだなと思うんですけど、一点だけちょっともったいないなと思うのは――“対・人”の謎感が全部、つまびらかにされてしまって、みんな距離感がものすごく近いものになったじゃないですか。それだけは「本当によかったのかな?」って今でも懐疑的なところはありますね。別に、アイドルと距離感が近いのがいいとか悪いとかじゃなくて、対・友人においても、SNSで近すぎるくらいに――何時に起きて、何を考えてそいつが寝たのかさえ、Twitterとかインスタとか見ればわかるじゃないですか。「ああ、意外と暗いこと考えてるんだこいつ」って。そういうことがたまに起こるぐらいだったら別によかったと思うんですけど、今はそれが日常になったじゃないですか。人同士って、“わからない”方がいいような気がするという想いみたいなものが、きっと自分の根底にあって。だから髭って、「歌詞がわかりにくいよね」とか言われても、「わからせよう」とかじゃなくて、そもそもわからないから、自分も自分が(笑)。そういったものが根底にあるので、自分の歌詞とか楽曲には、さっき智樹さんに言ってもらったような、ミステリアスな部分が隠れてるんだと思うんですよね。そういう部分を大事にしてるというか、わからないことを“是”としてる感覚が、今も昔もずっとあるのかもしれないですよね。
――腹の中をすべて見せ合うのがコミュニケーションかというと――っていうことですよね。
そう。セクシーじゃない感じがするというか。わからないことがあるから、より興味が湧くというか。自分で想像ができるし。たとえ間違えていたとしても、何かのアートに触れた時に、自分なりに解釈ができることが、僕は素晴らしいと思っていて。それが今は、すべての意図を把握することができるじゃないですか。それをどんどんつまびらかにする方向にすべてが動いてるっていうことは、世の中が僕のロマンとは違う方向に行ったんだな、って思います。“謎めいてる”って、結構好きなんですよね。「あいつ何考えてるか全然わかんない」っていうやつの方が、今だに好きな気がするんですよ(笑)。でも、「だからみんな、ミステリアスでいこうぜ!」っていうことでもなくて、単純に「自分の想いの丈を全部詰め込んだら、何言ってるか全然わかんなかったりしない?」みたいな(笑)。「全然まとまってないな」みたいなことの方が、本当のような気がして。結果、僕が好きになるものって、何言ってるか全然わかんないんです(笑)。でも、それがわかる気がするっていうか。
――そういう髭の楽曲だからこそ、いろんな人の“動いていたい”のイメージを喚起されるもので。メッセージソングでもアジテーションでもないんだけど、気分にはリンクしてきて。「これは確かに髭だな」って改めて感じる曲で、嬉しくなりましたね。
ありがとうございます。僕も今、智樹さんとしゃべって、しっくりきました。
―― よかったです(笑)。さっきも言った通り、メンバーチェンジも含め髭にはいろんなフェーズがありましたけど。まさかMO'SOME TONEBENDERの藤田勇さんが髭のドラムを叩くことになるとは、2003年当時には思っていませんでした。
本当ですよね(笑)。僕もまったく思ってなかったです。すげえいいドラムだし、個人的にはものすごくしっくりきてるというか。忙しいでしょうけどね、モーサムやったり、ART-SCHOOLやったり。でも、それだけのことはあるドラマーなんだなと思いますけどね。
――藤田さん独特のドラミングのカラーはあるんだけど、それは特定のスタイルや型ではないというか。それも不思議なところで。2007年頃に、楽器取材で藤田さんのドラムセットについて取材したことがあるんですけど。その時点でも「自分はドラマーとはあまり思ってない」っていう話をしてたのを思い出しました。
ああ、でもそんな感じがするんですよ、すごく自由で。モーサムでも、一時期ギターを弾いてたじゃないですか。リハーサルをこの2年ぐらい一緒にやってきて、「ああ、そういう発想が自然に出てくるんだ」みたいな。あれだけのドラマーなのに、「いや、絶対こっちの方がいいでしょ?」ってあっさりSPD(サンプリングパッド)とか叩いたりするし。考えがすごく柔らかいというか、奇を衒ってる感じがまったくなくて。とりあえず、ドラマーとして出てきた人だから始めにドラムを叩いてるだけで、曲を聴いて「あ、違うんだな」と思えば、まったく違う楽器の話とかもしてるから。アレンジャーとしても結構信頼してるところがあって。ただドラムのパターンだけを聴いてるというよりは、全体のイメージとかも「どう思います?」って単純に訊くこともあって。サポートメンバーっていう立ち位置ではあるんですけど、みんなで編曲してる空間はもう、極めてバンドだなあって。
――個人的に髭もモーサムもずっと好きですけど、「その発想はなかった!」と思いました。
そうですよね(笑)。コロナの名前が出てくる前の、2019年くらいに、久しぶりにバーかどこかで飲んで。そこら辺から近くなっていったんですよね。「あれ? 兄やん、髭のドラムってありかな?」って思って、兄やんのスタジオに行って、その時にあった髭の新曲をセッションしてみたら「すげえいい!」ってなって。それがちょうど、コロナの名前をニュースで聞くようになってた頃で。それで、新しく始まろうと思ったら、一気に世界がストップして――っていうタイミングだったんですよね。
――そんな状況下でも髭は、着実に制作もライブも続けてきましたよね。
他にやることもないか……っていう感じなんですけどね(笑)。あとシンプルに、コロナで言うところの「おうち時間」みたいなものがあったじゃないですか。あの時に俺、真正面から音楽を勉強しちゃって。勉強してて、ひとつわかるようになると、面白くなることってあるじゃないですか。今さらで恐縮なんですけど、20年目にして今、ちょっとその状態に入っちゃってるんですよね。「やべえ、面白い!」みたいな(笑)。ひとつ数式を覚えると、こっちにも応用が効くんだ、みたいな面白さがあって。そのロジックを新曲に応用したり、昔の曲に転用したりして――だから、再現ライブとかもすごく面白い時間で。基本的には、来場してくれるファンが聴きたいのは、当時からめちゃめちゃアレンジされたものじゃない、っていうのはわかってるんですけど。みんながわからないようにちょっと、気付かずに半音ぶつかってたところを「ああ、ここはこっちの音だったんだ」みたいなことをやったりして。そういう面でも成長が見えて面白いし、それを新曲の制作にフィードバックするのもめちゃくちゃ面白くて。今さらながらに「音楽が面白い」っていう感覚があって。それが偶然、2020年から2022年の間に起こったんですよね。2020年、メンバーにも会わなかったあの時間、別に「勉強しよう」と思ったわけでもなかったんですけど、しょうがないから何かやるじゃないですか(笑)。それが自分の場合、本当にいい方向に回ったなって思うんですよね。
――別に20周年に向けてギアをチューンナップしようとしたわけではないけども、ひとつひとつ歯車が合ってきて、気持ちいい推進力が生まれてるっていう状況はすごくいいですね。
そうですね。そこに加えて、藤田勇っていう推進力のあるエンジンもあるし。世の中の停滞ムードとは別に、バンドとしては「俺はもっと勢いよく噴かしたいんだけどな」っていう感じもナチュラルにあって。わりとシンプルに楽しんじゃってるところはありますね。呑気なもんだなと思うんですけど(笑)。
取材・文=高橋智樹 撮影=大橋祐希
リリース情報
2022 9/21(水)0:00配信開始
Apple Music
Spotify
LINE MUSIC
Amazon Music Prime
AWA
等
ライブ情報
9/24(土)
京都磔磔公演
配信代: 2,500円(税込)
e+販売期間: 9/10(土)10:00 ~ 10/2(日)21:00
アーカイブ期間: 9/24(土)終演後 ~ 10/2(日)23:59
https://eplus.jp/sf/word/0000002894
アイタイシタイ
2022年9月8日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
w/the pillows
w/BROTHER SUN SISTER MOON
w/MONO NO AWARE
2022年11月30日(水)東京都 新代田FEVER
w/paionia
2022年12月22日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
w/後日アナウンス