[Alexandros]川上洋平、ジョーダン・ピールによる新時代のサスペンス・スリラー『NOPE/ノープ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

2022.9.22
インタビュー
音楽
映画

撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、『ゲット・アウト』や『アス』で知られるジョーダン・ピール監督の新時代のサスペンス・スリラー『NOPE/ノープ』について語ります。
 

『NOPE/ノープ』

――『NOPE』どうでした?

いや~、もう傑作でした! 大好物中の大好物! ジョーダン監督は『ゲット・アウト』も『アス』も大好物だったのでもちろん楽しみにしてたんですけど、私の中で今回の作品はジョーダン作品1位に躍り出ました。

──おお。前2作品と同様、人種差別をテーマにしている部分もありつつ、方向性が大きく違いますけど。

そうですね。これまでに比べて説教臭さが抑え気味というか。問題提起ものは少々疲れる感もあるじゃないですか。でも今作はストーリー展開に集中できました。

――確かに、これまでは「考えろ!」っていう圧が結構ありましたけど。

そうそう。端的に言うと見やすかった。今回はエンタメにおける見る側/見られる側というテーマが一番大きかったじゃないですか。そういった問題提起はありつつも、そのテーマ自体、万国共通の誰しもが入り込めるものだから僕としてはとても良かった。

――確かに伸び伸びと考えられたところはありました。

あとは何より理知的なSFとも呼べる雰囲気がすごく好きでしたね。ジョーダン監督がこんな作品撮るなんてちょっと驚きました。『コンタクト』とか『メッセージ』とか、キアヌ・リーブス主演でリメイクした『地球が静止する日』みたいなちょっと哲学的なSF好きにはたまらないんじゃないかな。あとは謎の存在の描き方の素晴らしさ。いかにもな世俗的な宇宙人として描かない感じも好きでした。個人的にはこういうポイントってSF映画における結構な分かれ道だと思っています。宇宙人をどれだけ地球人のフォルムの概念から離せるか。手足とか頭とかの概念さえも覆すようなね。息をするという行為さえないかもしれないわけだし。今回はどちらかというとUFOの方だったかもしれませんが……ちょっとネタバレになるのでこれ以上は控えます。あと「エヴァっぽかった」って感想もよく見ますね。

――謎の物体は使徒のフォルムでしたね。

そうみたいですね。あと音も興味深かった。目線っていうのがキーワードだからなのか、カメラのシャッター音みたいな「パシャッ」みたいな音がその物体から聞こえるってのも斬新だったし不気味だったな。IMAXカメラで撮った作品だからIMAXで観るべきなんでしょうけど……実は僕はIMAXで観れてなくて、終わった瞬間に「これはもう1回IMAXで観よう」って思いました。

――撮影監督が『TENET』とか『ダンケルク』を撮ってるホイテ・ヴァン・ホイテマですし。

口に出したくなる名前の!

――(笑)この人が撮る意義がめちゃくちゃありましたよね。

ほんとそう思う。重厚感のある映像でしたね。IMAX抜きにしても、もう1回観たくなる映画ですね。癖になる。ゾクゾクする。

『NOPE/ノープ』より

■タイトルからしていろんな意味に捉えられる

バンドのメンバーやスタッフに「絶対観て」って薦めたんですよ。

――へえ。

数年前ツアー移動の機内で「何の映画がおすすめ?」ってメンバーに訊かれて、「『アス』を絶対観た方がいい。でもその前に『ゲット・アウト』観て」って言って。そしたら着陸してから「めっちゃ良かった! ありがとう!」みたいなことを言われるっていう経緯があったので。ただ、「どんな映画なの?」って訊かれたんだけど、すごく説明しづらかったな。「SFっぽいけど、サスペンスでもありホラーでもあり……」っていう風に言ったら、「何それ……おもしろくなさそうじゃん」って言われて。

――あははは。

「俺、説明するの下手だな……」って思ったんですけど。いやー、配給会社さんに申し訳ない。

――でも確かにパッと説明するのは難しいかも。

ですよね! これは流石に結構難しいと思う。下手したら即ネタバレに繋がるし。ジャンル分けがとにかく難しいですよね。でもそこがいいところなんですけど。ちなみにタイトルの『NOPE』は「違うよん」とか「無理っす」ぐらいのニュアンスだとは思うんですが。実際『NOPE』の主人公のOJも使ったりしてました。監督自身の説明によると、周りの人がホラー映画を観た時のリアクションをそのままタイトルにしたらしいです。「全然怖くないじゃん」っていうニュアンスにも、「いや無理無理、怖すぎ」っていうニュアンスにも取れる。それは皮肉だったり、ギャグだったりもするのかもしれないけど……いろんな意味に捉えられますよね。

――終わり方も「どっちなんだろう?」って感じでしたからね。

ね。考察が考察を呼びますな。一番謎だったのが、血のついた靴が立ってたシーン。不思議過ぎて色んな考察サイト見たんですけど(笑)、正直どれもいまいちしっくりこなかったなー。

――監督はThe New York Timesのインタビューで「靴のシーンについての質問を一番多く受けるけど、明確な答えを示す気にはなれない。少なくとも今の時点では。しかし、キャラクターの視点で言えば、このシーンはキャラクターの心理が解離するスイッチが入った瞬間を描いている」という風に答えたそうです。

へぇー! いつか明かされるのを待ちたいですね。

――現時点では想像してくれってことですからね。チンパンジーが人を襲った時に子役だったジュープが助かった理由もいろんな説がありますよね。視線がチンパンジーから逸れてたからという説もあれば。

僕はジュープがアジア人で、猿はアジア人の差別用語でもあるから、共感を覚えて襲わなかったのかなって思いました。これまでジョーダン・ピールは自身が当事者である黒人差別を描いてきたわけだけど、今回はアジア人の差別も描いてるのかな?と思いました。さっき言ったエヴァへのオマージュもあるし、あと『AKIRA』のオマージュもあったから、色々とアジア人の要素高めな印象もあって。

『NOPE/ノープ』より

――確かに。

それにしても、ジュープを演じた『ミナリ』に出てたスティーヴン・ユアンがすごく好きでした。子役から見世物小屋のオーナーになったわけで、見る側から見せる側になった人という意味合いのキャラクターでしたよね。この含みがこの映画のテーマそのものでしたね。

――立場の逆転という。

あと、コメディアンは笑わせるのが仕事なわけだけど、それで傷ついたりもしてるのかなとか考えさせられる。

――笑わせるのって一番難しかったりしますからね。

僕もライブのMCでみんなが一番笑う箇所って若干自虐するところだから。あれだけかっこつけていた人が、ふと失敗談を語ったりするとドッて笑う。それは僕も意図してるところだから、笑わせてる自覚もあるし、お客さんも安心して笑うんだけど。でもよく考えると「人の失敗を笑うなんてひどい」って世間的には言われるじゃないですか。当人がよくても、見てる人は不快だったり。難しいなと思います。コメディアンはそれを生業にしてるわけで、ちょっと精神病むこともあるのかな?と。誰かをネタにすることにも繋がったりするわけだし。

――人を貶める笑いで傷つく人もいますからね。

例えば「何してんねん!」って言ってバンッて叩くのも「叩かれてかわいそう」っていう反応する人がいるけど、ボケる方としてはそれが生業なわけだから。叩かれないと仕事にならないし、笑われないと仕事にならない。熱湯風呂とかも「かわいそう」って言われたら、芸を披露できなくなっちゃうわけだから。

――いかに良いリアクションをするかという。

だからコメディの中に真理って結構ありますよね。東京03のコントがすごく好きなんですけど、人間のかわいらしさもありつつ、いやしさや醜さがテーマになってることが多くて。笑いながらも「これ自分にも当てはまるこな」って凹みながら観ることが結構あるんですよね。

――ぎくっとしますよね。

そう。笑いの中に人間の物哀しさや醜さがあるんだなって。コメディアン出身のジョーダン・ピールの作品はすごく毒があって生々しいけど、どこか可笑しい部分もありますよね。

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