小池博史が長編劇映画監督デビュー「50年後の世界はどのように変わるのか」~『銀河 2072』特別試写会レポート

動画
レポート
舞台
映画
2022.10.29
小池博史

小池博史

画像を全て表示(7件)


舞台演出家・小池博史の⾧編劇映画監督第一作目となる『銀河 2072』が、2022年11月18日(金)よりUPLINK吉祥寺にて公開されることが決定した。

小池は1982年から30年間、パフォーミングアーツグループ「パパ・タラフマラ」の主宰として作品を創作、2012年に「小池博史ブリッジプロジェクト」を発足させ、演劇・舞踊・美術・音楽等のジャンルを超えた空間芸術作品を国内外で制作・公演してきた。コロナ禍で舞台上演が制限されるなか、芸術活動を継続していく手段として2020年より映画制作を始動させ、初の長編作として今作が誕生した。

<ストーリー>
50年後。日本。
「死体に意識を残す」研究を行っていたウィは、恋人であるヨーコが死に瀕したことにより実験を行い成功させたが、国家権力に追われる身となった。
徹底して情報が隠蔽される中、小隕石落下が噂された。その影響ゆえか、ヨーコとの意思疎通が困難になってきたウィ。そこで昔、共に研究を行っていた男たちを呼び寄せ、その捜索に加担させる。
集まった男たちはヨーコへの思慕を抱く者や実験結果を横取りしようとする者たちであった。
一方のヨーコは死んでいるのに意識があることの違和感をウィに訴えるのだが…
ヨーコを取り巻く男たちの欲望や苦悩、苦渋を表現し、未知なる世界を描きながら、人間とはなにか? 生きるとはなにか?を問う。


公開に先立ち都内で行われた特別試写会に小池が登壇し、質疑応答を行った。その模様をレポートする。

■映画を撮るようになったのはコロナ禍がきっかけ

小池博史

小池博史

まず小池が冒頭に「昨年8月に舞台『完全版マハーバーラタ』を上演して、それが終わって10日後くらいにはもう今作の撮影を開始した。そもそも大学のときに映画を撮りたいと思っていたが、だんだんと空間の面白さにひかれて舞台を制作するようになった。舞台演出を手掛けるようになってから40年くらい経過して、こうして映画も撮るようになったのはコロナ禍という状況がきっかけだった。タイトルに入っている2072は、9月に上演した実験的な舞台新作公演『ふたつのE』という作品でも2072年に焦点を当てていたが、50年後になると相当世界全体が大きく変わっているだろうから、どのような方向に変わって行くのか、そのとき人も変わるのか、ということをテーマにしながら『銀河 2072』を制作した」と制作意図も含めて挨拶をした。

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

観客から「今作をなぜ舞台ではなく映画で制作しようと思ったのか」という質問が出ると、小池は「舞台と映画は全く別物なので、これを舞台でやるとなったら違ったアダプテーションが必要になってくる。映画であればそのままの形で芸術として残るが、舞台は映像記録として残すことはできても、劇場空間で見たものとは全く別物になる。それが舞台のよさでもあり難しさでもある。昨年の『完全版マハーバーラタ』は、コロナの影響で想定した観客動員数の約半数程度にとどまってしまった。コロナ禍のこの時代に何をやっていくかということを大きく問われた3年だったと思う」と述べた。

■映画制作は面白いが、舞台とは全く別物

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

映画制作の面白さについて問われると、小池は「映画制作は面白い。面白いけれどもやってみてつくづく思うのは、舞台とは全く別物であるということ。舞台は空間があって、なおかつ生身の人間がいて、すべてが生で行われるという難しさも非常にある。映画だとモンタージュの面白さや、光と影の使い方や、空間性をどのように見せるかといった、映画じゃないとできないような新しいことに挑戦できる。自分にとっては新しいメディアとしての面白さはとてもあると思う」と答えた。

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

「銀河 2072」 Photo by Hiroshi Koike

現在どういった危機感を抱いているか、という質問には「来年はほとんど海外で制作する予定だが、世界中がグローバリズムと言いながら断片化していて、大きなギャップが生まれているなと思う。円安の影響も自分たちの活動に直接つながってくるので、これから先どうなるのかということは深く考える。大学で教えていると、若い人たちがわかりやすいものに行ってしまう傾向があることを感じる。私の作品を「怖い」という生徒もいて、その怖さというのは自分の理解の範囲を超えているだけではなくて、自分の中にあるものには収まらない新たな別の「混沌」がからだに押し入ってくることが怖い、つまり予定調和を大幅には超えたくないという弱い意思が見えてくる。でも、その怖さは非常に大事だと思っているし、それを示して行かないと今後もっと危ないのではないかと思っている」と自身の経験からの危機感を語った。

小池博史

小池博史

次回作への抱負を問われると、「現在、次回作の映画の台本も書いていて、2時間は超える長いものになりそうだ。自分自身のこれまでの活動は、自分が見たことがない、あるいは体感したことがないものにしか向かっていない。今後も自分にとって新たな何かを見つけ出そうと思っている。映画以外のメディアでやることも可能性として含めて、様々な形でやっていきたい」と今後の展望を述べた。

「銀河 2072」予告映像80秒

『銀河 2072』は2022年11月18日(金)よりUPLINK吉祥寺にて公開。

取材・文・撮影=久田絢子

作品情報

『銀河 2072』
2022年11月18日(金)よりUPLINK吉祥寺にて公開
 
【監督・脚本】小池博史
【撮影】小林基己・白尾一博・澤平桂志
【編集】白尾一博
【音楽】太田豊
【美術】森聖一郎
【音響編集】太田豊・小池博史
【衣裳】kuuki
【写真】小池博史
【出演】徳久ウィリアム・伊藤健康・櫻井麻樹・瞳・キモトリエ・松島誠


2022 年/日本/68 分/モノクロ(パートカラー)/1:2.35 シネマ
スコープ/ステレオ
公式サイト:https://kikh.org/ginga/
シェア / 保存先を選択