「舞台は自分を一番表現できる場所」 魔法使いアキットが思いを込めた、舞台『魔法使いの頭の中〜雪の降る音〜』インタビュー

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2022.12.14
魔法使いアキット

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マジックやジャグリング、サンドアートやパントマイムなど幅広いパフォーマンスで観客を魅了する、魔法使いアキット。アキットによる単独公演『魔法使いの頭の中〜雪の降る音〜』が2022年12月24日(土)、25日(日)のまつもと市民芸術館での公演を皮切りに、東京、大阪で上演される。

どんな思いを込めた作品なのか。「第二章」を歩み始めたアキットに話を聞いた。

2度目のリメイクを経て、初めて地元・長野で公演へ

魔法使いアキット

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ーー『雪の降る音』は2015年に初演され、18年に再演。今回で3回目です。新しくブラッシュアップされるご予定などはありますか?

普通のマジシャンは、一つの演技(アクト)を作ると、ひたすらブラッシュアップし続けるんですよね。ですが、僕はひとつの舞台を作ると、そこに登場している人物や衣裳、道具も音楽も、その舞台用のためだけにしか使わなくなっちゃうんです。なので、舞台が終わると、もうそれをやる機会がなくなるんですよ。

ーー確かにマジシャンとしては、珍しいのかもしれません。

はい。ということは、お客様はもう見られないわけです。その数日しか、その世界がないので。そして、1年、2年と時が経って、「もう一度やろう」と思っても、結局リメイクになってしまう。再演と言っても全く同じようにはならなくて。やはりマジックにも、流行り廃りみたいなものがあって、僕が入れたいものも変わってくるので、内容が一気に全部変わっちゃうことはあるんです。その中でも本当に伝えたい、その物語の大切な部分は残しつつ、表現の仕方やマジックは変えていく……。それを突き詰める感じです。

ーー前回ご覧になった方も新しい気持ちで楽しめるし、初めてご覧なった方も楽しめるわけですね。

そうですね。実はこの『雪の降る音』は、僕が単独ライブを始めて、初めてやったストーリー性がある演目だったんです。依頼を受けてショーをやるときは、そのお客様が喜ぶことが前提なので、あまりにも分かりづらいものは避けたり、自分がやりたいものよりも喜んでもらえるものを選んだりするんですよね。

でも、制で、自分の舞台をやるとなったとき。最初、この主人公のホームレスとして、ぼろぼろの衣裳を着て、ルービックキューブを犬のように連れて散歩するように登場して、あまり喋らない物語としてやったんです。そこから中身も相当変わって、今回は2度目のリメイクとなります。マジックの部分はほとんど変わっています。2回のリメイクを経ているんですけど、僕の中で思い入れがある物語なんです。

魔法使いアキット

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ーー主人公は変わらないのですか?

そうですね。衣裳や雰囲気は変わるんですけど、彼自体は変わらないです。

ーー楽しみです。ご出身の長野から公演がスタートしますが、その点はいかがですか?

実は単独ライブの長野公演は初めてなんです。自分らしく演技をしているところを地元の人に見てもらいたいと思い、今回、晴れて実現しました。

しかも公演日はちょうどクリスマス。このお話は、僕が長野県出身でなかったら作れなかったと思っています。夜に雪が降って、朝、新雪が積もっていると、すごく静かなんです。雪が音を吸うから。そして、何も足跡がないところに、一歩踏み入れて、ぎゅっという音……本当につま先の感覚がなくなるような寒さ……ああいうものを知っているから、この作品を作れている感じがしますね。

トランスジェンダーをカミングアウトした今、思うこと

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ーー先日、アキットさんはYouTubeにてカミングアウトをされました。今、改めてどんな心境でいらっしゃるのですか。

自分でもびっくりしていますかね。こんな風にカミングアウトするとは思わなかったし、むしろ一生言わないと思っていたので。

(女性である)愛樹として過ごしている中で「もう無理!」と思って、カミングアウトしたわけではないんです。「もうこれ以上黙っていられない! つらい!」という訳ではなくて、カミングアウトした方がアキットとして表現がしやすくなると思ったから。むしろ一肌脱いだといいますか、大変な道を自分で選んだみたいな感じなんです。

カミングアウトを経て、世界は広がって、できるようになったことはたくさんあるんですけど、一方でこれから頑張っていかなきゃいけないぞという思いもあります。ワクワクと同時に、課題と可能性が一気に増えた感じです。女性として、何も隠さずにお買い物に行って、ご飯を食べに行って……アキットはアキットで何も変わらないのですが、愛樹を通して得るものがたくさんあるなと改めて思います。

ーー今まで愛樹さんとして過ごすことに、どこか後ろめたさを感じていらっしゃったけれど、そこから景色が晴れてきたような。

そうですね。「もう飲み込むのをやめよう」と思ったというより、「飲み込まないで生きていくことが発信になる」と思ったんです。自分のためなんです。アキットも、最初はそうだったんですよ。自分が女性だということが言えない。だから自分を生きさせるために、アキットを作って、自分の喜びや生きる力を見つけるためにショーをやっていた。お客さんを喜ばせたり、笑顔や触れ合いを得るためのお仕事のようで、自分のためにやっていたんですよね。

愛樹​としても、そう。発信することで、何かを感じてもらえるのではないかなと思ったんです。LGBTQ関係なく、例えば、買い物ひとつとってもなかなか買い物に行けない人もいると思うんです。僕の体験を知って、ご自分と重ねて考えて、いろいろ感じてくださる方がいたとしたら。自分の栄養にもなるし、誰かの何かになるかもしれないと思ったんです。

アキットは自身のYouTubeでカミングアウトをした。

ーーもう魔法使いアキットとしても第2章といいますか、さらにまた一歩ステージが上がったのですね。

そうですね。僕自身は変わらないんです。でも、やはり根本にある「隠さなくては」と思っていたものが弾けた。今は、それをベースに創作ができると感じています。

やっぱり「隠す」部分がこれまではあったんです。アキットとして、男性の役も女性の役もあったわけですが、女性の仕草をするときに上手すぎないようにしたりしていました。ちょっとオーバーにリアクションをとっていたんですよね。

「失敗も寄り道も今に生きている」

魔法使いアキット

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ーーアキットさんは4歳の頃からパフォーマンスを独学で学ばれたそうですね。何かきっかけはあったのですか?

保育園の先生が見せてくれたマジックは不思議すぎて、興味が湧いたんです。その魔法を覚えたいというより、やり方が知りたい、からくりが知りたいという思いが強くて。本当の魔法ではないことに対する感動というんでしょうか。

ーー「自分もできる!」と。

そう。それもあるし、このマジックを考えた人、すごいなって。魔法を実現させるためのバックヤード、見えていない部分が衝撃だったんです。いわゆる仕掛けをたくさん知って、感動したい。自分がそれをできるようになったら、こんなすごいがことできるよという自信になる。そう思ったんです。

魔法使いアキットも筆者も1988年生まれなので、小学生の頃に流行った文房具の話で盛り上がった。

魔法使いアキットも筆者も1988年生まれなので、小学生の頃に流行った文房具の話で盛り上がった。

ーー今は本当にいろいろなことをされていますよね。どうやってパフォーマンスの幅を広げていかれたのですか。

最初はもう興味のままです。とにかく不思議なことができるようになりたいので、小学生になったら大道芸を見るようになって、ジャグリングを覚えて、ひたすらやりました。腹話術を覚えて、南京玉簾をやって、パントマイムを覚えて……。途中からはパフォーマンスに必要になったものを会得するようになりました。

例えばひとりの人生をパントマイムで表現するという作品があります。でもそれはマジックで表現してもよかったわけです。子どものカードが出てきて、それが消えるとか、育つとか。それでもよかったんですけど、体で表現したいと思って。ないものが見えてくるという意味では、パントマイムもマジックの一種だと思うし、パントマイムという手法を選んだんです。

ーー独学というのがすごいですよね。個人的には師匠について、下積みをして、パフォーマンスを磨いていく……そんな鍛え方をされるのかなと思っていました。

今はマジックの基本を学ぶのに、とても学びやすい環境ですよね。ネットの情報も映像も充実しているので、勉強しやすい。でも、僕の頃はそういうのがなかった。「こんなマジシャンになりたい」という人が近くにいたわけでもないし、ただ僕は「魔法が使いたい。人と違うことがしたい」という思いだけだったので、目に入ったものからやっていました。

本を買って、「基本」と書いてあったら、その技をやってみて、そこから自分で発見していく感じ。人との対話もショーの組み立て方も、誰も教えてくれないので、独学でやっていくしかなかったんです。いっぱい失敗して、寄り道もいっぱいしてきました。きっと普通なら師匠に30分で教えてもらえるようなことを、僕は1年かけて身につけてきたんだと思います。

でも、その失敗や寄り道が今は役に立っていますけどね。「こういうパターンの失敗があるんだな」と身を持って知ったり、寄り道をしたら、意外なところにお花が咲いていることに気がついたりね。

「幸せって何だろう」という大きなテーマを感じてもらえたら

魔法使いアキット

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ーーアキットさんにとって、舞台とはどんな場所ですか。

なかなか一言で表現しづらいんですけれど、自分を一番表現できる場所です。いろいろなショーの形態があるんですよね。イベントで呼ばれることもあるし、生配信でアプローチすることもある。でも舞台は、本当に真っ白なキャンバスに絵を描いている感じがするんです。呼ばれていくイベントは、キャンバスにある程度何か描かれていて、自分の描く場所も決められている。そのエリアをいかにプロとして描くか、ご満足していただけるかを考えるんですが、舞台は真っ白なので、自分が何を描いてもいいんです。

もちろんお客さんに喜んでもらえることが前提なんですけど、今の自分を表現できる場所ですね。だからこそ自分が伝えたいことが一番込められる場所です。

ーー改めて今後の活動の意気込みやこの公演にかける思いをお願いします!

前回の作品は、仮面職人が出てくる『最初に笑った日』という作品だったんです。もうすでにカミングアウトすることを心に決めていたので、複雑な心境の中作った作品です。……仮面をかぶると、その仮面の表情になってしまうという物語でした。どの顔が本物なのか? 何が本当の自分か? 怖さもありつつ、でもどこか魅力もある。自分がカミングアウトするにあたって、自分が誰なんだろうと、本当にわからない時期があったんです。僕は僕なんですが、舞台に出てる僕と、家で過している愛樹があまりにも違って。

そうやって舞台って、タイムリーな今の自分が出てくるんです。僕のカミングアウトを聞いてくれた方も「だから仮面のシーンがあったんだな」と伏線が繋がると思います。自分の人生と舞台が繋がっていく過程を見てもらえたんだと思います。

今回の『雪の降る音』も、主人公のホームレスさんと僕はすごく似ている。なんていうのかな、自分が周りに迷惑をかけているというか、みんなの迷惑にならないように生きようとしている感じが似ているんです。やっぱり女性として言えない部分があったから、自分は生きる価値がないんじゃないかと思っていたんです。僕の胸の奥の方に刻み込まれちゃった、あの感じ。それが自然と表現されている舞台だと思うんです。

ホームレスさんのボロボロの衣裳を着ていると、すごく居心地が良くて、安心してね。自分をそんな卑下しなくていいんじゃないかとも思うんですけど、自分と一番似てると思った作品なんですね。今一番伝えたいことが込められているからこそ、この作品を選んだので、ぜひマジックショーで驚きたい、笑いたい、楽しい、不思議なことに出会いたいという方も大歓迎なんですけど、その先にある「幸せって何だろう」という大きなテーマを感じてもらえたら、すごく嬉しいなと思ってます。

取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報

STORY MAGIC LIVE『魔法使いの頭の中〜雪の降る音〜』
 
【脚本・演出・出演】
魔法使いアキット
 
【日時/会場】
●長野公演
2022年12月24日(土)18:00★
2022年12月25日(日)14:00
★初回特典プレゼントあり
会場:まつもと市民芸術館 小ホール(長野県松本市深志3-10-1)

●東京公演
2023年1月7日(土)18:00★
2023年1月8日(日)13:00・17:00
2023年1月9日(月・祝)13:00・17:00
2023年1月10日(火)19:00
2023年1月11日(水)19:00
★初回特典プレゼントあり
会場:シアター・アルファ東京(東京都渋谷区東3-24-7)

●大阪公演
2023年1月28日(土)18:00★
2023年1月29日(日)12:00・16:00
★初回特典プレゼントあり
会場:世界館(大阪府大阪市港区波除6-5-15)
 
 
料金:
前売 大人4,600円/子ども2,600円
当日 大人4,800円/子ども2,800円
※全席指定・税込の料金です
※「子ども」は中学生以下対象、3歳以下の乳幼児は入場できません。
※当日券の販売は未定です。
 
主催:トゥインクル・コーポレーション
後援:TBSラジオ
 
お問い合わせ:
TBSラジオイベントダイアル
03-5570-5151(平日10:00~12:00/13:00~17:00)
 
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