《連載》もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜 Vol.2 竹本織太夫(文楽太夫)

2022.11.22
インタビュー
舞台

「技芸員への3つの質問」

【その1】入門したての頃の忘れられないエピソード

初舞台のとき、『演劇界』の劇評に、文章は正確ではないですが、「咲甫太夫が初舞台を踏んだ」「幕が上がると知った顔をみつけたのか、ニコっと笑う大物ぶり、末頼もしい」みたいなことを書かれたんですよ。実際に笑ったのかは覚えていないのですが、当時はそんなこと書かなくていいのにと思いました。芸のことは書いていなかったですし。ただ、今思うと、私らしい。遠視で客席は結構見えるので、知り合いがいたら目が合うくらいは今もあるかもしれませんね(笑)。

【その2】初代国立劇場の思い出と、二代目の劇場に期待・妄想すること

国立劇場の小劇場は、文楽をやるための音響として、日本のどの劇場よりも良いんです。響き過ぎたり全く響かないからマイクで拾わなければならなかったりする劇場もあるけれど、ここは、舞台稽古でお客さんが入ってない時の音響は凄いですし、さらにそこにお客さんが入れば、共鳴している感覚とか、自分が息を放ったときの返りなどが、手に取るようにわかるんです。思い出と言ったら毎日が思い出になっているはずで、私は国立劇場で毎日舞台やるのは本当に幸せなんです。それが新しい劇場でも保たれ、あるいはさらに良くならなくてはいけない。

今、私は文楽座の理事も務めているので、日本芸術文化振興会側と文楽協会と文楽座の”三者連絡会”で、新劇場に関する要望などのやりとりしている最中です。例えば、肩衣をつけて廊下を歩いてもぶつからずに歩ける幅があるか、衣紋掛けに着物が掛かるか、洗濯機やトイレの数は……など、本当にたくさんありますね。建築家の方はお客様ファーストで、芝居を見る理想的な環境を作ってくださると思うけれども、芝居をやる側のための環境にもベストを尽くして欲しい。期待するのではなく、こちらからどんどん言っていく。私達は自分達で文楽の歴史も国立劇場の歴史も作っていかなきゃいけないんです。それがお客様のためになる。だから私は三方良しになるよう、劇場に対してある意味都合の悪い嫌な人にならなきゃいけないと考えています。

【その3】オフの過ごし方

移動日などのオフは色々なお参りをしています。神仏とか、先祖や先輩の墓参りとか。私はきっと、愛されたいから舞台をやっているんですよ。14歳の時の夢が「日本一愛される太夫になる」でした。ラジオやテレビだとお客さんのリアルな反応はわからないけれど、舞台では、拍手でも同情の拍手なのか、本当に良かったよの拍手なのか、もうわかりますから。そうやって神様仏様やご先祖にも愛されたいんでしょうね。お墓をきれいにしたりして心を整理し、汗だくになったら銭湯でサウナに入って、好きなものを食べる。そうやって心と体を整えています。

取材・文=高橋彩子(演劇・舞踊ライター)

公演情報

『令和4年12月文楽公演』
日程:2022年12月6日(火)~2022年12月19日(月)
会場:国立劇場小劇場
開演時間:午後2時・午後5時開演(午後5時35分・午後8時35分終演予定)
 
 
演目・主な出演者:
未来へつなぐ国立劇場プロジェクト
初代国立劇場さよなら公演
 
本朝廿四孝 (ほんちょうにじゅうしこう)
信玄館の段
村上義清上使の段
勝頼切腹の段
信玄物語の段
景勝上使の段
鉄砲渡しの段
十種香の段
奥庭狐火の段
道三最期の段
 
(字幕表示がございます)
 
主催=独立行政法人日本芸術文化振興会
 
 
等級別料金:
(各部・税込)
1等席  6,500円 (学生4,600円)
2等席  5,500円 (学生3,900円)
 
 

公演情報

『令和4年12月文楽鑑賞教室』 / 『社会人のための文楽鑑賞教室』
日程:2022年12月6日(火)~2022年12月19日(月)
会場: 国立劇場小劇場
 
開演時間:午前11時・午後2時・午後6時30分開演
(午後1時20分・午後4時20分・午後8時50分終演予定)
 
演目・主な出演者:
未来へつなぐ国立劇場プロジェクト
初代国立劇場さよなら公演
 
解説 文楽の魅力
 
絵本太功記(えほんたいこうき)
夕顔棚の段/尼ヶ崎の段
 
(字幕表示がございます)
 
 
等級別料金:
(税込)
学生1,800円 一般4,500円