ついに現地取材敢行! ナノンやScrubbらが出演したタイの野外フェス『CAT EXPO』をFM802 DJ土井コマキがレポート
●ナノン・コーラパット(Nanon Korapat)
ナノン・コーラパット
まずは初日のナノン・コーラパット。彼は、子供の頃から俳優として活動し、最近は音楽にも挑戦している22歳。今年の夏に横浜で開催された大型イベント『GMMTV FAN FEST 2022』で来日し、ステージでのギタープレイもカッコ良かったのですが、本人にギターについて尋ねると「もっと長くプレイできるように練習中です」との謙虚な返答。『CAT EXPO』には過去に遊びに来たことがあるということで、初出演できて嬉しいと話してくれました。
ファンからバナナの木をもらうナノン
そんな、かつて観客として観ていたステージに、バンドと一緒に立つ彼は、生き生きしていて楽しそう。甘い歌声が夕方の少し涼しくなってきた空気に似合います。突然ファンからバナナの木のプレゼントされるという、本人も戸惑うサプライズもあり! 日本でも大人気になったドラマ『2gether』のエンディングテーマ「Kan Goo」をワンコーラスカバーしたところで、何と本人登場! 『2gether』のサラワット役を演じ、同じ事務所の俳優で音楽活動もしている、ブライト・ワチラウィットがシークレットゲストとしてギターを弾きながらステージに。
ブライト・ワチラウィット
もう1曲、ブライトの「Sad Movie」も一緒に演奏し、ナノンはラップも披露! ラストの『Bad Buddy series』挿入歌の「Just Friend?」では少し涙目になっているようにも見えたのは気のせい? この日はギタープレイは観れなかったけど、バンドやブライトとの演奏をリラックスして楽しんでいる姿が眩しく、ミュージシャンとしての今後を期待してしまうパフォーマンスでした。普段アーティストもののTシャツをよく着ているし『CAT EXPO』に来たこともあると言うし、本当にミュージックラバーなんだなと、嬉しくなりました。ライブ写真は次のページにもあります。
●ミリ(MILLI)
ミリ
一番大きいステージ1に18:00前に登場したのが、ミリ。今年4月にアメリカで開催された『コーチェラ・フェスティバル』に88risingのアーティストとして出演したフィメールラッパー兼シンガーです。実際にバックステージで会った彼女は、想像通り、早口で元気いっぱい。でも『コーチェラ』への出演オファーは最初は断ろうと思ったんだとか。まだ自分はその段階ではなく自信もないし、まさか自分が出演するなんて憧れさえ持たないほど、別世界のことだったそうです。とはいえ、世界中が配信で観て「あの子は誰?」となったことは間違いないし、生で観たミリのパフォーマンスは、さすが『コーチェラ』の大きなステージを経験しただけあって圧巻でした! ど迫力で歌い上げ、セクシーに踊り、カッコ良くて可愛くて、そしてユーモアもある。
ケーキで誕生日をお祝い!
11月10日(木)にリリースされた1stアルバム『BABB BUM BUM』には、
ミリ
そんなミリに『CAT EXPO』はどんなフェス? と聞くと「有名ではなかったり、トレンドの中にいるわけではないインディーズグループに、彼らがいかに最高かということを見せることができるチャンスを与えるフェスティバルです。彼らがパフォーマンスできる機会は多くはないのかもしれないけど、ここがその場所です」とキッパリ。噂によるとミリは出来るだけ国内デザイナーの洋服を身につけるようにしているのだとか。注目されるアーティストになったからこそ、何をどう発信するべきなのか、それをしっかりと自覚している、リーダーなのではないかと感じました。
LUCKY TAPES
タイ国内アーティストがメインの『CAT EXPO』ですが、海外アーティストとして、日本のLUCKY TAPESとThe fin.が出演。先のトゥックさん曰く、多くのタイの人にとって、日本や日本の音楽は興味の対象で、コロナ以降の最初の海外旅行は日本という人も多いとのこと。どちらのアーティストもタイインディーファンにとって親しみがある存在で、過去のタイでのライブの評判から、リスナーが求めているだろうということでブッキングされたそう。LUCKY TAPESのステージでは、ステージの前ヘリにメンバーが腰掛けて演奏する「MOOD」に、オーディエンスがスマホライトを揺らして応えるという、日本と同じロマンチックなムードに。一緒に日本語で歌う声も聞こえて驚きました。
●プム・ヴィプリット(Phum Viphurit)
プム・ヴィプリット
そのあとステージ1に登場したのは、プム・ヴィプリット。今や世界中にファンがいるビッグアーティストですが、デビュー当初から出演しているそうです。余裕のあるステージングに、完全に身も心も任せてしまう。小気味よいギターとメロウなグルーヴ、甘い歌声。
プム・ヴィプリット
バンコクに来ているんだという気持ちも相まって、夢見心地であっという間にラストの「Adore」へ。定番なのだそうですが、突然のパートチェンジでひっちゃかめっちゃかに! プムのドラムとベーシストのボイスパーカッションでビート合戦! ブリッジをしてひっくり返ってるメンバーもいる! 何なの!? 楽しすぎる。完全にノックアウトです。終わってから、LUCKY TAPESの海君(高橋海、Vo.Key)がプム君に紹介してくれたのですが、プム君はとても暖かくてジェントルマンでした。そして彼も、ファンに会うために当然のこととしてMARKETのブースへと急ぐのでした。
●スタンプ(STAMP)
以前コラボしたAwesome City ClubのボーカルPORINのTシャツを着て登場したSTAMP
2日目のSTAMPも、ずっと出演を続けているアーティストのひとり。彼は、日本が大好き。『ファイナルファンタジー』のTシャツでインタビュー収録に現れました。そのサービス精神が嬉しい。初めて自分の曲を放送してくれたのがCAT RADIOの前身、FAT RADIOなのだそう。大学生の頃からずっと、曲をリリースするたびに出演しているとのことですがFAT RADIOができる前は、タイではインディーズの音楽が放送されたり、ラジオに出演したりするチャンスがなかったそうです。だからインディーアーティストにとってFAT RADIOやCAT RADIOは大切なラジオ局とのことでした。そして最近のアーティストなら、ラス(LUSS)やアッタ(AUTTA)もオススメだよと教えてくれました。
STAMP
STAMPはタイではスタジアムを埋めるアーティスト。でも、どんな小さなライブ会場でも、スタジアムと同じビッグスケールのライブを繰り広げるんだよと聞いていたのですが、この日も確かにフルセットだし、200%のパフォーマンスでお客さんを煽る煽る。彼にとっては、そうすることがCAT RADIOや『CAT EXPO』への恩返しで、次の世代への貢献だと、きっと思っているんじゃないかな。日本でも今年上映された映画『One For The Road(邦題:プアン)』の主題歌「Nobody Knows」をタイ語バージョンで披露し、会場がシンガロング。実はそのデュエット相手で、映画では主要人物を演じていたヴィオーレット・ウォーティア(Violette Wautier)も前日に出演。同じ曲を歌って会場がひとつになっていました。
●ハイブス(HYBS)
HYBS
夕闇が迫ってくる時間に見たHYBSもオシャレでロマンチックで印象的でした。ステージに向かって右側にハイウェイを走る車がみえ、アーバンなHYBSのサウンドとなんとマッチすること! 後ろの方で観ていた私の周りには、気づけば肩に手を回したり、寄り添うカップルたち……。そうなる気持ち、よく分かります! ライブ前に挨拶できたのですが、夏に取材した私のことも覚えてくれていた、とってもいい人たち。次は大阪でねと言ってくれたので楽しみに待ちましょう。実はHYBSは、前日にロンドンのバンドのプレップ(PREP)のタイ公演でゲストアクトを務めていました。一緒に演奏もしたそうです。要注目です。
●ザ・トイズ(The TOYS)
ザ・トイズ
ナノン・コーラパットがインタビューの中で、憧れの存在として名前をあげてくれたザ・トイズも、CAT RADIOに音源を送り、チャンスを掴んでビッグになったアーティストのひとり。全てをひとりでこなすマルチプレイヤーで、今は他のアーティストへの楽曲提供やプロデュースもしています。次々に演奏されるメロディックなバンドサウンドに合わせて、ステージ1の会場全体が歌う! 歌う! 歌う! 無責任に言うと、イメージとしてはASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブで皆が歌う、あの感じ? 初期の曲「ก่อนฤดูฝน(Before rain)」でなんと急に雨が降り出して、いっそうドラマチックに盛り上がる、フェスあるある!
●スクラブ(Scrubb)
Scrubb
結構な雨の中、続くアーティストはScrubb。御多分に洩れずドラマ『2gether』に心酔した2年を過ごした身としては、ドラマの中で観ていたScrubbのライブに、今自分が来ているという、架空と現実の境界線が混じるような不思議な感動。改めてタイに来てしまったのだという実感。タイ語は分からなくても、音色で歌詞の感情が伝わるという、忘れかけていたポップスの良さを改めて気づかせてくれました。そのサウンドをタイの人たちと一緒に今楽しんでいる。言葉の壁はハートが乗り越えていく。会場中がScrubbのポップなギターロックに跳ねたり、両手を左右にふったり、ステップ踏んじゃったり、もちろん歌ったり! 途中で雨も上がり、大団円。
scrubb
ちなみに、前身のFAT RADIOの時から数えて、CAT RADIOとは20年もの関係があるというScrubbはインタビューの中で、ラジオと一緒に成長してきたようなものだと語ってくれました。「日本でライブしませんか」とお誘いもあるそうで、日本でドラマが流行し自分たちの音楽も聴かれていると知りながらも、言葉の壁があるから大丈夫かなぁと思っているそうです。実現すると良いのに。
●ビルキン(Billkin)
ビルキン
続いて登場したのはビルキン。今年の『SUMMER SONIC 2022』東京公演にBIlkin & PP Krit名義で来日し、ワンマン公演も即SOLD OUT。あの時は生で観ることが出来なかったのですが、実際に聞いて驚く歌のうまさ! のびやかな歌声! 気持ち良すぎる。実は体調が万全ではなかったらしいのですが、いつもならあれ以上の歌が歌えるなんて! 俳優よりも先にアーティストになる夢があったというビルキン(よければSPICEのインタビューも読んでください)。さらなる音楽活動を楽しみにしたいです。
雨上がりのThe fin.は湿度とともにドリーミー。なんて言ってもジワリジワリとヒートアップして、気づけば踊らされている、という演奏力。やはり言葉を超えていくのだなと思いました。
●ヨンラパ(YONLAPA)やキキ(KIKI)など次世代インディーバンドが集う
YONLAPA
最後にステージ4のことを。インディーファンにとって刺激的なこれからの才能が、特にこのステージに集中していたような印象。今年、来日ツアーも大好評だった、YONLAPAやKIKIを現地で観る感動。注目度もきっと高いんだと思う。ステージのサイズが合ってないんじゃない? と思うようなダイナミックな演奏に、タイのファンに混じって一緒に好きなように揺れました。
アレック・オラチ
私がこのステージ4で楽しみにしていたのアレック・オラチ(Alec Orachi)。音源を聴いてMVを観て、何者なんだろうと気になっていました。陰気だけど何だか落ち着くサウンドで、中毒性が高いんです。すっかり日が暮れて青い照明の中、線の細いアレック・オラチが浮かび上がる。怪しげで最高。実際のライブはスリーピースで、もう少し心のドアが開いている感じがあり、一度観ただけでは余計に謎が深まったような。D.A.N.の櫻木君(櫻木大悟、Gt.Vo.Syn)がリミックスを手がけたこともあるので、今後の更なるコライトなど期待。覚えていて欲しい名前です。
2日合わせて約15,000人が来場したという『CAT EXPO 9』。残念ながら来場者数はいつもよりずいぶん少なかったということ。他のイベントもそんな感じとのことで、日本と状況が似ています。一気にエンタメが復活して、お客さんが割れているのですよね。でも今後のために厳しくても続けなくてはいけないし、続けるのだという覚悟。もちろん再開できた喜びも。ラジオ局や、音楽イベントが向き合っている課題も、そこに対する思いも似ていると感じました。
プムがステージから投げたハットをキャッチした観客
バックヤードでLUCKY TAPESがタイのアーティストから声をかけられて写真を求められいるシーンにも出くわしました。コロナ禍、ネットで触れていた海外のアーティストと実際に交流できる、それは日本国内で私たちが感じるのと同じ喜びなのだと思いました。『CAT EXPO』の後も毎週末、タイのあちこちで野外フェスが開催されています。その中で、SIRUPがシンガーポールのバンドbrb.のゲストとしてサプライズ出演、そこにHYBSもゲストで出演、という私にとっては事件のようなドキドキすることがあったんです。オンラインで繋がった人同士が、こんなふうに一気にリアルに交わりだしているんだと思うと、これからますますアジアの音楽シーンが混ざり合っておもしろくなっていくのは、間違い無いだろうなと、とてもドキドキしています。そして日本国内と同じように、どこにもミュージックラバーがたくさんいます。希望しかない!
11月でも最高気温35度くらい、最低気温25度くらい、午前9時には既に30度になるような、まさに常夏。最後は傘も役に立たないほどの季節外れの大雨に遭ったのだけど、それでも、本当に快適で、大阪の猛暑の夏フェスに比べると、私にとっては過ごしやすいタイの野外フェスでした!
今シーズンは無理でも来年は11月~のタイのフェスシーズンに、一緒に渡航してみませんか?
取材・文=土井コマキ 撮影=Yoko Sakamoto
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