いびつな男女関係に陥る男の「純粋」な衝動、演じる役の「温度」とは 渡邊圭祐『恋のいばら』インタビュー
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渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
1月6日(金)から公開中の映画『恋のいばら』(城定秀夫監督)で渡邊圭祐は、これまで演じたことのないような男……元カノ・今カノに見せる顔を絶妙に使い分け、翻弄したり・されたりという役どころを自然体でまっとうした。本作の主人公は24歳の桃(松本穂香)。恋人の健太朗(渡邊)にふられたが、どうしても納得がいかない。やがて、健太朗のInstagramをあさるうちに、今カノ・莉子(玉城ティナ)の存在に気付く。莉子に直接会いに行った桃は、健太朗がプライベートな写真を晒す“リベンジポルノ”の可能性を説き、健太朗のPCから一緒にデータを削除しようと莉子に共犯関係を持ちかける。いびつな三角関係のゆくえには、どんな結末が待っているのか。今回のインタビューでは、本作での役どころや取り組みから、俳優として伸び盛りの今挑戦したい役柄まで、渡邊に語ってもらった。
演じる役の「温度」
渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
――『恋のいばら』で渡邊さんが演じられた健太朗は、無邪気に女性に手を出してしまうような人物ですが、どのような準備をして臨まれたのでしょうか?
今回は、あえて何も準備していきませんでした。これまで演じてきたような、すごくピュアで好感度の高い役では、その役に「温度」を合わせるような作業がすごく必要だったんです。でも、健太朗という役に関しては、僕がもともと持っている「温度」と近いなあ、と台本を読んで感じました。
――「温度」とは、ご自身の性格などではなく、テンション、波長が近かったということですか?
そうですね。僕の中では、映画の序盤に出てくる莉子の誕生日を祝う周りの友達みたいなタイプが、温度やテンションが高い人たち。そういう役をやるときは、僕の持っている温度を上げて臨まなきゃいけないので、準備が必要になるんです。健太朗に関しては、何かが似ているわけじゃないんですけど、僕とベースの部分が一緒だと感じたので、そういった意味であえて何も準備せずに現場に臨みました。
映画『恋のいばら』 (C)2023「恋のいばら」製作委員会
――台本を読んでいく中で、健太朗をどんな人物と捉えていったんですか?
僕の中で健太朗は、すごくピュアな男でした。言葉のすべてに裏がないというか、純粋な部分から、すべてが衝動で出てきているだけ、という印象です。リベンジポルノ的なことをやってしまうのも、彼にとっては純粋に「美しいものが撮りたかった」ということであって。ただそれだけが、彼の中の衝動なんです。
――喜怒哀楽もストレートに出す人ですよね。
そういった意味でも、僕の持っているナチュラルさをそのまま入れ込んで、健太朗の中で波が起きたときに、あまり荒波にならないようにしたかったという狙いはあります。元の温度を高くしちゃうと、沈んだときと高くなったときの温度差が出来てしまう。高くなりすぎて、作品の中で浮くんじゃないかという不安もあったので、そこをなくしたいというのはなんとなくありました。
――ナチュラルに臨まれたとはいえ、どう形成していくかを考えられたんですね。
最初の脚本では、健太朗はオラオラしているというか、ぐいぐい女の子に声をかけて手を出すようなイメージではあったんです。でも、城定監督と初めて顔を合わせたときに、僕と話して健太朗のイメージをオラオラ系からやわらかくしたと聞きました。衣装も最初はすごくギラついていたというか、黒一色みたいな感じだったんですけど、わりとナチュラルな衣装に変わっていきました。監督の意図を汲んで、ぐいぐい女の子にちょっかいをかけにいくというより、「女の子にちょっかいをかけられる」ほうが表現としては正しくなるんだろうな、と思ったんです。(城定監督と)具体的に何か言葉を交わしたわけではないですけど、たぶん狙いはそっちなんだろうなと感じたので、そっちでいってみようと思いました。
渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
――今となっては、“オラオラバージョン”が想像できないですね。渡邊さんが演じられたからか、ナチュラルに健太朗のような人はいそうだな、と思いながら観ていました。
観に来てくださった人の中にも、きっとひとりはいると思います(笑)。
――桃役の松本穂香さん、莉子役の玉城ティナさん、それぞれとの共演シーンはいかがでしたか?
役者としても、人としても魅力のある方たちだな、と思ってご一緒していました。一見タイプは違いそうなのに、ふたりとも本当にたくましくて、すごくサバサバしています。
映画『恋のいばら』 (C)2023「恋のいばら」製作委員会
――先ほどの温度感的なことで言えば、本質的にお三方は似ているようにも思いました。
確かに、そうかもしれないです。飛び抜けてテンションが高い人がいなかったというか、はしゃぐ人がいなかったので、現場はもしかしたら静かだったかもしれないです(笑)。それなりにみんなで会話はしていましたし、仲は良かったですが、“和気あいあい”という感じじゃなかったのかなと。撮影は、最初に僕と莉子、後日に桃と僕の順で、桃と莉子のシーンはその後だったんです。最後に3人のシーンを撮ったんですが、びっくりするくらい、ふたりはめちゃくちゃ仲良くなっていました。
――そうなんですね。
勝手に「ふたりの波長は合っているけど、仲良しとかにはならないのかも?」と思っていたんです。3人で撮るシーンになったら自分が間に入ろうかなと、ちょっと思っていたんですが、そんな心配は杞憂に終わりました。めちゃくちゃ仲良くなっていましたし、本当にふたりは劇中さながらで、僕は蚊帳の外でした(笑)。
渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
――本作では“リベンジポルノ”がひとつトリガーになっています。渡邊さんは、この問題についてどうご覧になりましたか?
リベンジポルノは10代、学生の子たちに特に大きくまとわりつく問題なんじゃないかな、と思いました。若いからノリでとか、勢いで頼まれたら断れなくて、みたいなことが起こりそうですよね。だからこそ、『恋のいばら』のような作品を、学生の皆さんに観て知っておいていただきたいです。大人の方たちも、これを観てより一層、兜の緒を締めていただけたらいいかなと思います。
――城定監督は本作を「女の怖さや男のダメさを笑いながら観ることができるエンターテイメントな映画にしたい」とおっしゃっていましたが、そうした要素もあると思いますか?
まさにそこだと思います。女性は女性に共感できるし、男性は男性に共感できる。異性側からとしては、「えー?」という見方ももちろんありますし。ただ、終わったときにはなぜかわからないけど、すごくすっきりした気持ちで劇場を出て行ってもらえるんじゃないかと思うんです。キャッチコピー(「恋人同士では 観ないでください」)から想像されるほどドロドロはしていなくて、さっぱりとした作品だと僕は思っています。ちょっとだけ、あったかいじゃないですか。キラキラしているところはちゃんとキラキラしているし、ベッドの描写もすごくアートな撮り方になっているので、僕は好きです。例えば、親子で一緒に観に行って「わっ……」となるまではないんじゃないかな、と。先ほどのリベンジポルノの話じゃないですけど、いい教育にもなると思います。
渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
――役者として、こんな作品に出演したい、こんな役をやりたいという願望はありますか?
『木更津キャッツアイ』がめちゃくちゃ好きで、小学校とか中学校のときにもリアルタイムで観ていたんです。『木更津』の3人(岡田義徳・佐藤隆太・塚本高史)が出演されている『THE3名様』もすごく好きで、ああいう男だけでワチャワチャしている感じの、すごくライトに笑える作品をやってみたいです。
――『木更津』だったら、どの役がいいですか?
うっちー(岡田義徳)です。楽しそう。学園ものでもないし、大人がちゃんと人生を楽しんでいる、みたいなドラマや映画を、最近観ていない気がします。僕自身が出演したいですし、そういう作品に関われたらと思います。
渡邊圭祐 撮影=ヨシダショーヘイ
『恋のいばら』は公開中。
取材・文:赤山恭子 撮影=ヨシダショーヘイ
スタイリスト=九(Yolken) ヘアメイク=小林正憲(SHIMA) 【衣装協力】YOHJI YAMAMOTO そのほかスタイリスト私物