福崎那由他×増子倭文江×タカイアキフミに聞く~TAAC『GOOD BOYS』は「作品の奥底に流れている温かい川を探し当てて欲しい」
(左から)福崎那由他、増子倭文江
2023年1月18日(水)~1月24日(火)新宿シアタートップスにて、TAAC(ターク)による新作公演『GOOD BOYS』が上演される。
TAACは2018年に旗揚げされたタカイアキフミが主宰・作・演出をつとめるソロプロデュースユニットで、日本社会が抱える問題を背景にして人々の「営み」を描き、現実にありながらも普段は感じることのない微かな希望や愛を掘り起こす作品を世に送り出している。
今作は、タカイがコロナ禍に入った2020年に読んだアゴタ・クリストフ『悪童日記』を下敷きに、舞台を現代の日本に置き換えて「生きる」ことについて描いたものになっている。
主演の双子役には、福崎那由他と佐久本宝という注目の若手俳優二人。そのほか双子の祖母役の増子倭文江をはじめ、実力派俳優が顔をそろえ、作品世界を舞台上にどのように立ち上げるのか期待が高まる。
今作について、作・演出のタカイ、双子のうちのひとりを演じる福崎、双子の祖母を演じる増子に話を聞いた。
TAAC『GOOD BOYS』
『悪童日記』を読んで「今必要な話だ」と思った
ーーまずはタカイさんにうかがいます。『悪童日記』を読んだときに「これは今の話だ」と思われたそうですが、具体的にどういったところが「今の話だ」と思ったのか教えてください。
タカイ:もう少し正確に言うと「今伝えるべき話だ」という気がしたんです。『悪童日記』の中に出てくる双子のような生き方、どんな環境にあっても誰かのせいにすることもなく、自分自身を高めて強くなることによって生き抜いていこうという姿勢は、現代を生きる人間にはなかなかないものだと思いました。コロナ禍で社会の機能が低下したり、様々なことが停止してしまって、それを誰かのせいや何かのせいにすることで、人々の間で分断が生まれてしまったと思うんです。そんな中で『悪童日記』を読んだとき、自分自身で生き抜く、という元々人間が動物として持っている強さみたいなものがどんな時代においても必要なんじゃないかな、と思ったので、「今必要な話だ」と思ったんです。
ーー『悪童日記』を読まれた2020年と今現在で「今必要な話だ」と思った感覚に何か変化はありましたか。
タカイ:コロナ禍に入ってすぐの頃は、僕自身もどこか孤独を感じていたり、「この先どう生きていこう」と考えたりして気持ち的に弱くなっていたところがありました。今はこの生活にも慣れてきて、これからどうやってこの世の中や社会を動かしていくかを考えたときに、この物語を通じて何か生き方のひとつのようなものを表現できたらいいなと思っていますし、あの頃よりは物事を俯瞰的に見られるようになった気がします。
ーー双子の年齢が10歳と設定されているのは、『悪童日記』の双子が大体10歳くらいと推定されるからこの年齢にしたのでしょうか。
タカイ:それもありますし、現代という設定で物語を紡いでいくときに、ある程度年齢を重ねて社会に触れすぎていると、強く生きていこうというピュアな気持ちが生まれにくいのかなと思いました。だんだん自我が芽生えてきてはいるけど、まだ自分の考えというかポリシーみたいなものが深くはできあがってない年齢、という意味で10歳に設定しました。
双子は隣にもうひとりいることが生きていく上での支え
ーー福崎さんは双子のひとりを演じるということで、10歳という自分の役に対してどういう思いを抱いていらっしゃいますか。
福崎:難しい役だな、というのはすごく思います。21歳の自分が、自分の年齢の半分よりも下の年齢の役を演じるということもそうですし、僕自身がこの作中に出てくる双子みたいに、アクティブに挑戦し続けたり、自分で考える力をしっかり持っていたりという要素をあまり持っていないので、役との共通点をあまり感じられなくて、自分の経験を利用できないというか、もっと別の方法で双子を理解してトライしていかなければならないので、難しいなと思っています。
福崎那由他
ーー福崎さんが10歳の頃はどんな子どもでしたか。
福崎:すごく静かな子だったと思います。おとなしかったというか、「自分が自分が」というような動きをするよりも、流れに身を任せている子どもだったと思います。その頃はもう今の事務所に所属してレッスンを受けたりしていたので、それでいっぱいいっぱいだったところもありました(笑)。
ーー当時のご自分と、この作品の双子と比べてみて、どういうところが違うと感じていますか。
福崎:くじけそうになった時いつも隣にもうひとりいて、二人で頑張っていけるのは大きいと思います。そこが一番、生きていく上での支えだと思いますし、お互い何も言わなくても思っていることは同じというような、阿吽の呼吸でいられることがすごく支えになるし、考える原動力になっているのかなと思います。
ーー増子さんは双子のおばあちゃん役ということですが、台本上だと本当に良くも悪くもパワフルなすごいおばあちゃんだなという印象です。
増子:今作の台本は短いエピソードが繋がっていくという形式で「今までこういう作品を台本として読んだことがない」という書かれ方なんですよ。おばあちゃんは台本だけ読むと暴力的で妖怪のような感じなんです(笑)。ちょっと人間離れしていて、そんな人と自分のどこが重なるか最初読んだときは全然わからなかったんですけど、すごく闇を内に抱え込んで孤高に生きてきた人だと思うので、それはきっとしんどかっただろうし、寂しくもあっただろうし、いろんな悲しみもあっただろうし、弱さも甘さもいろんなものがある人なんだろうなと思いました。あと、このおばあちゃんは真っ当だと思うんです。
タカイ:筋が通っている人ですよね。
増子:ずるさがなくて裏切らない人で、それは多分双子にも伝わっていて、双子にとってすごく嫌なおばあちゃんなんだけど、真っ当さがあるから双子もおばあちゃんのことを認めていくというところは多分あるんだと思います。
(左から)福崎那由他、増子倭文江
この物語の根底にはおばあちゃんの存在が常にある
ーーお稽古が始まってみて、タカイさんから見た福崎さんと増子さんの印象を教えてください。
タカイ:福崎くんは、佐久本宝くんと二人で双子役なんですけど、数ヶ月前にワークショップをしたときにも思ったことですが、人間としても役者としても持っている素質みたいなものが二人は結構逆で、対照的な役者さんだなと思っています。そんな中、それぞれが補完し合ったり、触発されたりすることで、うまい具合に双子の姿が浮かび上がってくるといいなと思っています。あと、彼は僕より9歳下なんですが、それくらい下の方とやるのは初めてなんです。福崎くんは口数がすごく多い方ではないんですけど、でもしっかりと信念があるし、もの作りが好きなんだろうな、ということが伝わって来るので信頼できるなと思っています。
増子さんは圧倒的な存在感と素晴らしい声で、もうそこに居るだけで成立をしてくださっているというところがあってすごくありがたいです。僕はおばあちゃん子だったので、いずれは祖母との別れが来るということを考えながら今作を書いたところもありました。と言っても、僕の祖母はこの作品のおばあちゃんみたいな感じでは全然ないんですけど(笑)、でも僕の思い描いた作品の中で、増子さんにおばあちゃんを演じてもらえることは僕にとって宝物だなと思っています。
ーー福崎さんと佐久本さんは全然タイプが違うということですが、逆にここは似ているな、と感じる部分はありますか。
タカイ:似てる部分……何だろう? 増子さんから見て何かありますか?
増子:芝居に対しては二人とも意地がある感じがしますね。タイプは違うんだけど、すごく真摯だし、お芝居に対しては二人とも気が強いんだと思います。
福崎:自分自身ではよくわからないですけど……ありがとうございます。
タカイ:どちらかがしんどそうなときは、もうひとりが手を差し伸べたりしているので、二人で合わせようという意識は日に日に濃くなっているのかなという気はしますね。違いはちゃんと認めつつも、その違いを埋めていくというよりは、その違いを持ちながら歩幅を合わせようとしているというんでしょうか。たまに稽古中に、歩くときの二人の歩幅がぴったり合っていたりするんですよ。
増子:やっぱり合って来てるんだね。
増子倭文江
ーー福崎さんから見た増子さんはどういう印象ですか。
福崎:一緒にお稽古していて、すごく勉強になります。この物語の根底にはおばあちゃんの存在というのが常にあって、おばあちゃんがいなかったら絶対に成立しないんだ、というパワフルさを増子さんからすごく感じます。増子さんがおばあちゃんとして存在してくださることで、僕たち双子も作品の中に引き込んでもらっているところがあります。
ーー増子さんから見た福崎さんはいかがでしょう。
増子:私からすると、年齢的には孫と言ってもおかしくないくらい離れてるんですよ。だけど、それはタカイくんがやろうとしていることでもあると思うんですけど、全然年齢を気にせずにみんなが同じスタートラインに立っている感じがするんです。それは芝居を作る上での面白さだと思うし、だから年齢差を感じずに福崎くんのことを見られるし、役者としての自覚はこの若さにしてきちんとあるので、普通に頼ってますよ。
タカイ:今回は、僕が「こういう絵を描きたいんです」と皆さんに伝えながらやっていくというよりは、皆さんにこの台本を読んでもらったうえで、いろんな素材とか画材を持ってきてもらって、一緒に絵を描いているという感じがあります。もちろん「演出家」という役割と「役者」という役割はそれぞれにあるんですけど、役割による上下もなく、年齢による上下もなく、みんなで同じレベルに立って作っていこうという気持ちを全員が持っているカンパニーだなと思います。
ーー最後にお客様へのメッセージをお願いします。
福崎:きっと見終わった後に思うことや抱く感想が人によって全然違うお芝居になると思います。僕たちが伝えたいことが伝わったらいいなという思いはもちろんありますが、それを見て受け取ったお客様がどう思うかは自由ですし、これまで僕が経験してきたお芝居とまたちょっと違った作り方をしていて、恐らく新感覚なものになっていると思うので、その感覚を楽しんでいただけたら嬉しいです。
増子:今はまだ稽古中で混沌としていますが、私がこれまでやったことがない作品だなという感じがしています。きっと、予定調和がなくて、どこか不安定で、闇が深くて、ちょっと危険な香りがする、そんな舞台になるのかなと思います。私は逆に観てくださった方々にどうだったか聞いてみたいので、観劇後は是非SNSなどで感想を発信してください!
タカイ:今作は、確かに今までのTAACの中でもかなり独特な構成をしている物語ですが、今僕ができる最大限のことをまずやろうと思ってますし、そこにカンパニーのキャスト・スタッフの皆さんがしっかりと並走してくれているので、良い作品ができるという自信を持っています。表層的な部分で言うと、暴力的なシーンだったり、強い言葉が出てきたりしますが、僕が伝えたいのはそこではなくて、その根底にある温かい部分を見てほしいと思います。世の中的に表層的な部分ばかりが評価されてしまう傾向にある気がするんですけど、奥底に流れている温かい川を探し当てて欲しいなと僕は思っていますし、そういう作品をやりますので、ぜひお越しください。
(左から)福崎那由他、増子倭文江
取材・文=久田絢子 撮影=池上夢貢
公演情報
■日程:2023年1月18日(水)~1月24日(火)
■会場:新宿シアタートップス
■出演:福崎那由他 佐久本宝 / 堀口紗奈 用松亮 西川康太郎 川田希 緒方晋 / 増子倭文江
■料金<全席指定・税込>
イベント割 一般前売 5,040円
イベント割 一般前売+パンフレット付 6,400円
一般前売 6,300円
一般前売+パンフレット付 8,000円
U-18 1,500円 (当日指定引換券/枚数限定・要証明書)
■特設サイト:https://www.taac.co/goodboys-e