土田英生の脚本・演出作品『でたらめな神話』を三重県・四日市で滞在制作、マキノノゾミも特別出演

インタビュー
舞台
2022.12.30
 『でたらめな神話』出演者と作・演出家。前列左から・渡辺啓太、岡島秀昭、作・演出・出演の土田英生 後列左から・松永渚、マキノノゾミ、中村栄美子、宮璃アリ、立川茜

『でたらめな神話』出演者と作・演出家。前列左から・渡辺啓太、岡島秀昭、作・演出・出演の土田英生 後列左から・松永渚、マキノノゾミ、中村栄美子、宮璃アリ、立川茜

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京都を拠点として30年余に及ぶ活動を続け、全国的な人気を誇る劇団〈MONO〉。その主宰者で、劇作家・演出家として劇団内外で数多の作品を手掛け、2020年にはテレビドラマ『半沢直樹』への出演で俳優としても注目を集めた土田英生が現在、三重県四日市市で演劇公演の滞在制作を行なっている。

2023年1月10日(火)・11日(水)の2日間に渡り「四日市市文化会館」(通称:よんぶん)で上演される『でたらめな神話』は、同館が企画する演劇シリーズ《Yonbun-Mihama 演劇コレクション》略して《よむこれ》の公演として実施されるものだ。《よむこれ》はもともと、平成27(2015)年に《Yonbun Dorama Colection》略して《よんドラ》として始動し、これまで演劇やダンスなどの公演、それらに関連したワークショップや講座、舞台美術展覧会などさまざまな企画を行ってきた。そのシリーズが、令和4(2022)年4月に《Yonbun-Mihama 演劇コレクション》と改称。「よんぶん」の関連施設である、同市内の「三浜文化会館」で制作する演劇作品の上演をはじめ、今後も引き続き多彩な試みを行なっていく予定だという。

今回上演される『でたらめな神話』は、作・演出を務める土田英生と「よんぶん」が共同制作を行うことで、四日市市の演劇文化のさらなる活性化を目指すと共に、2023年3月26日(日)に予定されている〈MONO〉四日市公演『なるべく派手な服を着る』のプレ企画として開催されるものだ。当初は2022年8月に上演予定だったが、公演関係者に新型コロナウイルス陽性が認められたため延期となり、その振替公演として実施される。

三浜文化会館演劇制作公演『でたらめな神話』チラシ表

三浜文化会館演劇制作公演『でたらめな神話』チラシ表

そんな本作のベースとなっているのは、土田が脚本を書き下ろし、2017年に「宮崎県立芸術劇場」のプロデュース公演として上演され好評を博した『板子乗降臨(いたこのりこうりん)』(演出:永山智行(劇団こふく劇場))である。地方都市の地元有力企業である製薬会社が新たに建設するという研究施設を巡り、賛成派と反対派が対立する小さなコミュニティの様相を描いた物語を、土田が“四日市版”としてリメイク。今回は自ら演出も手掛け、当地出身の俳優や〈MONO〉の劇団員らと共に、土田自身も出演する。さらに、劇作家・脚本家・演出家として多くの作品を手掛けるマキノノゾミが俳優として特別参加するのも見どころのひとつだ。

〈MONO〉の劇団公演としては2017年の第44回公演『ハテノウタ』以降、これまで3作で四日市公演を行なっており、それらの経験も踏まえて書かれたという『でたらめな神話』は、四日市出身の出演者の協力を得て、セリフの要所要所を当地の方言「北勢弁」に変換するなど、より地域色の濃い作品に仕上げられているようだ。そこで、約1ヶ月間に及ぶ滞在制作を行なっている「三浜文化会館」を訪ね、作品にまつわるエピソードや、どのような作品を目指しているかなど、土田英生に話を聞いた(インタビューは当初の滞在制作期間であった2022年7月に実施)。
 

── 今回創作される『でたらめな神話』は、2017年に宮崎で上演された『板子乗降臨』がベースになっているということですが、どういった経緯で誕生した作品なのでしょうか。

「メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)」で演劇作品を創るシリーズ(宮崎を舞台に“今を生きる”人々の営みを描き、日本の今を見つめた新しい物語を紡ぎ出す「新 かぼちゃといもがら物語」シリーズ)がありまして、その第1回目の時に名前を挙げていただいたんですね。作品提供だけだったんですけども、「宮崎を題材にした作品を書いてほしい」ということだったので宮崎に滞在して、取材をして書いたのが『板子乗降臨』です。

この作品は宮崎でだけ上演して終わったんですが、わりとどこの地方にも共通する話だなぁと思いながら、そのまま置いてあったんですね。それで今回、「三浜文化会館」でも同じように滞在型で芝居を創ることが出来る、というお話をいただいて。公演で四日市に伺った時に、劇場スタッフとして関わっていただいた宮璃(アリ)さんと「一緒に芝居やりたいね」という話から、あ、いいホンありますよ、みたいな話になり、今回の上演が実現しました。

─ 『板子乗降臨』から『でたらめな神話』と、タイトルがずいぶん変わりましたね。

宮崎には“天孫降臨の地”とされる高千穂があって、そこから後の神武天皇が奈良の方に旅立った「神武東征」(現在の大分、福岡、岡山、大阪などを経由して大和(奈良)を平定、橿原宮で初代天皇に即位した)の神話があるので、それを基にして書いたんです。それとサーファー…まだ日本にサーフィンが伝来する前、江戸時代くらいから木の板で波に乗る遊びがあったらしくて、それが「板子乗り」と言われていたらしいんですよ。その板子乗りが降臨して東征していく話にしたので、『板子乗降臨』というタイトルになったんです。三重にあるのは伊勢神宮で、天照大神のお告げで「この地にしよう」と鎮座されたという神話が残っているので、四日市版にリメイクするにあたってこのタイトルにしました。

── 物語の大筋としては、『板子乗降臨』と一緒なんですね。

一緒です。

── そうしてリメイクされた脚本のセリフを、出演者で四日市出身の宮璃アリさんが「北勢弁」(四日市を含む三重県北部の方言)に変換されたとか。

はい、変換してもらいました。僕もちょっと出るんですけど、四日市の人間の設定なので、北勢弁で喋らないといけないのが思いのほか厄介で(笑)。

── 四日市は名古屋と距離的には近いですが、言葉としては関西寄りでイントネーションも複雑ですし、台本を拝見したらあまり聞き慣れない単語もあったので、初めて使う人は難しそうだなと。

そうなんです。そういうのがあったんで、作者権限で変えてやろうかな、と思ってるんですけど(笑)。

2022年12月、読み合わせ稽古の様子

2022年12月、読み合わせ稽古の様子

── 初演の宮崎弁ともかなり違うと思うので、物語の大筋は同じでも全く違う見え方の作品になりそうですね。

宮崎で上演された時は、自分で書いた脚本ですけど、宮崎弁になると何を喋っているのか本番を観てわからなかったですもん。以前、韓国で自分の作品を上演してもらった時に、韓国の俳優さん達がやたら「クロッチェ」「クロッチェ」って言うんですよ。そんなに「クロッチェ」書いたかな?と思っていたんですけど、これは日本語で「あ、そう」とか「そうなんだ」「へぇ~」っていう意味だとわかって、これは使い過ぎだなって意識したぐらい(笑)。宮崎でも具体的な方言は忘れましたけど、なんかこればっかり言ってるな、と思いながら観てました。

── 言語や方言が変わると、ご自身の脚本の傾向や癖が見えてくるという発見もあるんですね。

そうなんです。共通語にしてるとわからないのが、方言にするとこの表現が多いっていうのがわかりますね。

── 同じ意味合いの言葉でも、方言によって微妙にニュアンスが変わったりしそうなので、その辺りの調整も必要そうですね。

ただこれは不思議なもので、方言の本当の意味はわからなくても、やっぱり聞いていると、これはちょっと強いんじゃないかなとか、なんとなくそこはわかるので、「ここはそんなに強く見せたくないんですけど、この言い方でいいですか?」とか、地元の方に確認は取りながら進めています。でも、案外わかる気がするというか、方言と関係なくやっぱりこの言い方は変えた方がいいだろうなとか、そういう感じはなんか伝わりますね。

2022年12月、稽古風景より

2022年12月、稽古風景より

── リメイクするにあたって、四日市の取材などはされたんでしょうか?

僕が愛知県大府市出身で、四日市はそんなに知らない土地でもなかったので細かく取材したわけではないです。菰野町(四日市に隣接し、鈴鹿山脈の東山麓に位置する)の辺りをイメージして書いたので、1日だけ車でぐるっと回っていただいたりはしたんですけど、それもホンが出来た後ですから。あとは公演でも何回か四日市には来させていただいてるので、商店街の雰囲気とか、みんながどこで飲んでいるか、というようなこともなんとなくわかっていたので。

── キャスティングはどのように決められたんでしょうか。

もちろん、この役はこの人に合うんじゃないかな、という想定でお願いはしていますけれど多少役とのズレが出てくると思うので、そのズレはホンの方を直していくというか、こちらが歩み寄る形にしようかなとは思っています。いつもわりと稽古中にセリフは変わっていって、気に入らないと「そこいらないね」とか、「やっぱりここに何か付けてくれる?」とか、そういう形でホンが変わっていきます。

── 役者さんの個性によって、その言い回しが合う、合わないとかもありますものね。

そうですね。でも、どうしてもこれは、という時があるんですよ。役者が言いにくそうだったとしても、ここは外したくない、という場合はそのままいきますけど、それ以外はわりと柔軟に変えます。

── 今回はご自身で演出もされるということで、何かポイントにされている点などはありますか?

いつもこれで悩むんですけど、自分の脚本を別の方が演出される場合は、その演出家の方の解釈っていうところもあるので、それを自分自身で演出するのは、楽曲を他の歌手に提供したミュージシャンがセルフカバーするのと一緒だと思うんですよ。あれは別に否定でもなんでもなく、俺はこういうつもりで作ったよ、みたいな。だからやっぱり、オリジナルの歌い手の良さ、みたいなものを今回は出したいなと思っています。僕は具象から抽象を見せたい、という方なのでその方向で。

2022年12月、稽古風景より

2022年12月、稽古風景より

── 四日市には劇団公演として3回ほど来られていますが、客観的にご覧になって、四日市の演劇環境や観客の反応などはどのように感じていらっしゃいますか?

まだ発展途上ではあるな、と思っています。良い意味でも悪い意味でも。ただ、今は地方の様子もだいぶ変わってきていて、四日市市は演劇に力を入れてすごく頑張っているし、三重は津市もすごく頑張っていらっしゃると思います。演劇振興を頑張り続けていると演劇界なんて案外狭いので、「あ、なんか四日市でやるんだね」という感じになってくるんですよ。最初は「え、どこ行ってるの?」って言わたのが、「今度、四日市でやるんだ」「うちもやるよ」みたいなことになってきて、そうするとたぶん四日市のお客さんもだんだん小劇場とか演劇に馴染んでいく。それが今、育ちつつある時期だな、という風には感じています。だから最終的には、四日市に行くともう演劇ファンが山のようにいる、みんな四日市に行きたい、みたいになるのが理想ですよね。そうなるといいな、と思ってやらせてもらっています。

── 最初に四日市へ公演でいらした2017年頃から、客席の反応が変わってきている感じはありますか?

そうですね。最初の頃はたぶん、小劇場の情報を知ってる人…まぁ〈MONO〉の公演があるからといってそんなにワッとお客さんが動くわけじゃないんですけど、そういう人だけが観に来ていたのが、むしろちょっと反応の無い人とかいるんですよ、最近は。それは演劇が浸透している証拠ですよね。演劇を見慣れていなくて反応の仕方がわからなかったり、〈MONO〉をよく知らない人が観に来るっていうのは。そういう意味では今、そういった変化は感じていますね。

── この公演で最終的に目指すところというのは?

遊びでやっているようには絶対思われたくないので、四日市で2日間だけ上演した公演が、結果としてですけど、いろんなところで「ちょっと評判いいから、ウチの地域でもやってよ」ぐらいの拡がり方をさせたいな、とは思っています。四日市で創って発信する、ということが企画のひとつの柱だとすれば、地元の方だけでなく、出来たら別の土地の人にも観てほしいですね。少なくとも名古屋圏からは観に来てほしいですし、「面白かったよ」という声が拡まるようにしたいな、とは思っています。

取材・文=望月勝美

公演情報

Yonbun-Mihama 演劇コレクション
三浜文化会館演劇制作公演『でたらめな神話』

 
■作・演出:土田英生(MONO)
■出演:岡嶋秀昭、立川茜、土田英生、中村栄美子、松永渚、宮璃アリ、渡辺啓太、マキノノゾミ

■日時:2023年1月10日(火)19:00、11日(水)19:00
■会場:四日市市文化会館 第1ホール 舞台上舞台(三重県四日市市安島2-5-3)
■料金:一般2,750円 U22 1,100円 ※
U22席は公演当日、受付で年齢を確認できる証明書を提示。また、ライブ配信もあり。配信2,000円は下記公式サイトより購入可
■アクセス:近鉄「四日市」駅から西へ徒歩約10分
■問い合わせ:四日市市文化会館 059-354-4501(9:00~19:00 第2を除く月曜休館、祝日の場合は翌平日)
■公式サイト:https://yonbun.com
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