原点回帰の先にあるもの、自主レーベル設立でmol-74が追い求めた”らしさ”を紐解く【インタビュー】

インタビュー
音楽
2023.1.18
mol-74

mol-74

――『越冬のマーチ』には「赤い頬」が収録されていて、mol-74が風景とか景色を意識して曲を作るようになったきっかけの一曲だったと思うんですけど、その作品を聴き直したうえで「花言葉」がいい曲だと思えたっていうのは、「花言葉」……というか、今はもう「花瓶」ですけど(笑)、「花瓶」もやっぱり風景が見える曲で、自分たちの原点を見つめ直すような一曲だったということかなと。

武市:そうですね。やっぱりそういう曲が好きだし、昔からそこが自分たちの軸だったので。風景描写や季節感があって、そのうえで各々の演奏や僕の歌がある。その軸がぶれちゃうと、おかしなことになっちゃうと思うんです。もちろん、『OOORDER』を作って得たものは本当に大きくて、2人(井上と髙橋)が曲を作ってくれて、そこに歌詞を乗せるっていうのは初めての経験で、それによって見えた景色や表現方法もありました。そういったものも踏まえたうえで、もう一回自分たちの軸に戻ることによって、バンドをさらにビルドアップできるんじゃないかと思ったんです。

――いわゆる螺旋階段的な感じですよね。一周回って、原点回帰したように見えて、もう一段階上のところにいるっていう。坂東くんは「花瓶」という曲をどう捉えていますか?

坂東:もともと1コーラスだけのときは打ち込みで終わってて、武市はその後に生ドラムが来るイメージだったみたいなんですけど、自分的にはそのイメージが湧かなかったんですよね。なので、最後まで打ち込みでいくことに決めていました。打ち込みではパソコンで好き放題できるけど、前まではライブで自分が叩けるイメージの範囲で作ってたんです。でも今回は曲がよくなるなら自分が叩けるかどうかは一回置いておいて、とにかく自分が気持ちいいと思うフレーズを入れて。なので、すごくチャレンジでもあったんですけど、仕上がりに対してはすごく満足してます。

――間違いなく、ビートに関してはかなり挑戦の一曲ですよね。井上くんはどうですか?

井上:原点回帰の感覚はすごくあります。最初に「ライブで前に出るようになった」っていう話をして、それもパフォーマンスのひとつとしてすごく楽しいんですけど、やっぱりこの手のタイプの曲がもともと好きなんですよね(笑)。

――ギターが前に出るというよりも、後ろで背景を作るタイプの曲というか。

井上:そうですね。だから、すごく素直に作ってはいるんですけど、ほとんど打ち込みで完成されてるので、自分がそれをどう彩るかはすごく考えました。それを「楽しい」と思えたのは、やっぱり『OOORDER』を作ったからだと思います。さっきの螺旋階段の話の通り、アッパーな曲を作ったり、自分で曲を作ったりして、そのうえでもう一度こういう曲と向き合うと、新たな見方ができるようになったなって。

――プリズマイザー的なボーカルエフェクト含め、音像にもかなりこだわってますよね。

髙橋:僕がそういうの大好きなので(笑)。もともと生ピアノで録るっていう話もあったんですけど、サウンドはいろいろ細かく調整したくて、鍵盤も7種類くらいレイヤーして、展開によって変えたり、細かいFXの音を入れたりもして。そこにがっつり耳が行くわけではないと思うけど、でもそれがあるかないかで曲を聴いたときの満足度が大きく変わる、そういう部分にすごくこだわりました。

髙橋涼馬

髙橋涼馬

――『OOORDER』でいうと「鱗」が髙橋くんの曲だったし、やはりサウンドメイクへのこだわりは人一倍強いですよね。

武市:mol-74の頭脳なので(笑)。

――今回ミックスは南石聡巳さんに依頼したそうですね。

髙橋:神様でした。

――どんなところが?

髙橋:……優しい(笑)。

――バンドの頭脳の発言とは思えないなあ(笑)。でも正直ちょっと意外だったんですよね。南石さんはどちらかというとバンドサウンドのイメージが強かったので。

髙橋:そうですよね。でもいざ作業が始まったら、質感がものすごくよくて、圧倒されちゃいました。「冬のこの時間帯で、このくらいの日差しで」みたいな抽象的な景色を伝えたときに、思い浮かべるのは人それぞれ違って、それが面白いときもあれば、方向性がバラバラになっちゃうこともあると思うんです。南石さんはそこもちゃんとくみ取ってくれて、曲の空気感もすごく意識してくださって。

――mol-74にとってそこは一番大事なところですよね。

武市:ミックスかマスタリングのときに、「もうちょっと冬の空気をまとったような感じで」みたいなことを南石さんに伝えて、返ってきたら、確かに澄んだ空気感に、白い息が見えるような感じになってて、ちゃんと伝わってるんだなって。

井上:自分たちが大切にしていることをすごくわかろうとしてくれて、ちゃんと理解してくれたので、それはすごくうれしかったですね。

――歌詞には直接冬を連想させるワードが出てくるわけじゃないけど、楽曲全体から冬の空気感が伝わってくるし、景色や時間を積み重ねていくことの尊さと儚さを同時に感じさせる歌詞は、やはりmol-74ならではのものだと感じました。

武市:「花が咲いて、枯れる」っていう歌詞だから、やっぱり自分の中では冬っぽいイメージだったんですよね。直接「雪」とか「マフラー」みたいな言葉が出てくるわけじゃないけど、メンバー全員のサウンドでその空気感をちゃんと表現できたんじゃないかと思います。

井上雄斗

井上雄斗

――〈ばらの花言葉を咲かせて〉という印象的なフレーズはどこから生まれたのでしょうか?

武市:急に出てきました。サビを弾き語ってるときにパッと出てきて、花言葉を咲かせたり枯らせたりするっていう表現は誰もしてないと思うから、これはすごくいいなって。もともと僕は歌詞に対して「響きでよくない?」みたいな感じだったんですけど、2020年の冬くらいに当時のスタッフの人に「もっと歌詞を大事にした方がいいんじゃないか」というような助言を貰って、相当悩んだ時期があって。何か上手く言わないと、共感を得ないと、誰も言ってないことを言わないと、みたいなこととずっと戦ってたんです。でも〈ばらの花言葉を咲かせて〉は、自分的にスッと入ってきたし、なおかつ誰もしてない表現だと思ったんですよね。

――もともと武市くんの中ではどんな風景が見えていたんですか?

武市:最初に曲ができたときの情景は、ほぼほぼ夜に近い夕方に、何もない部屋で一人男の人がスマホを見ていて、まだ消せてない昔付き合ってた恋人との写真なのか、そういうものを見返してるっていう。一サビで急に声だけになるのは、フッと放り出された感覚になるというか、何もない広い部屋にいる今と、いろんなことがあった昔の思い出と、そのコントラストを表現したかったんです。あと今回今一度自分たちの持ち味を見つめ直したいと思ったときに、やっぱり僕の声は人の背中を押すタイプの声ではないと思ったんですよね。僕は自分の声がすごく好きというわけではないんですけど、でもこの声をいいと言ってくれる人たちがいるから、「じゃあ、この声をどういう方向で使えばいいのか」って考ええると、やっぱり切なさとか、喪失感とか、そういう表現がしっくりくると思ったんです。

髙橋:武市さんが作詞において色々と試行錯誤していく中で、レトリックな方にフォーカスし過ぎているように見えてた時期もあったんです。でも「花瓶」はスッと入ってきて、じんわり染みわたるような言葉選びをしていて、やっぱりこれがいい形なんじゃないかと思いました。

――自主レーベルを設立して、冬の空気を感じさせる曲を出して、冬をテーマにしたコンセプトライブ『ICERIUM』を開催するというのは、mol-74が何を大切にしたいのかということを、活動そのものでメッセージとして表しているような、そんな印象も受けます。

武市:『ICERIUM』はずっとやってなくて、いつかまたやりたいと思ってたんですけど、もともと髙橋が加入して初めての自主企画が『ICERIUM』だったんです。なので、加入日を冠した「11.7」というレーベルを立ち上げて、『ICERIUM』がすぐできるっていうのも、すごくいいなと思ってます。いろんなことを一回整理したくて、曲作りから離れてた時期もあったんですけど、これからまた曲を作って、その曲を連れてまたツアーにも行きたいし、2023年で結成13年目なんですけど、今の自分たちが一番かっこいいと思っているので、ここからまた飛躍していけるような年にしたいと思っています。


取材・文=金子厚武 撮影=大橋祐希

mol-74

mol-74


 

リリース情報

mol-74「花瓶」
2023年1月18日(水)Digital Release

ライブ情報

mol-74『ICERIUM』
2023年2月18日(土) 京都府・京都FAN J
2023年2月26日(日) 東京都・大手町三井ホール
 
mol-74 two-man tour『harunohibiki』
2023年3月4日(土) 大阪府・心斎橋MUSIC Club JANUS
ゲスト:Homecomings
2023年3月17日(金) 愛知県・名古屋3STAR IMAIKE
ゲスト:オレンジスパイニクラブ
2023年3月31日(金)東京都・渋谷WWW
ゲスト:yonige
シェア / 保存先を選択