宮藤官九郎、ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』2023年版に取り組む気持ちを語る
宮藤官九郎(撮影:三浦憲治)
宮藤官九郎が“今やりたいこと”に取り組む「ウーマンリブ」シリーズ。Vol.14として2020年に上演が予定されていた『もうがまんできない』は、コロナ禍で公演中止を余儀なくされ、無観客にて収録・放送された。この幻の作品が3年の時を経て甦る。解散目前のお笑いコンビ、煮詰まった不倫関係の二人、家族経営のデリヘルの親子等、訳ありの人々が偶然出会って織り成すワンシチュエーションの物語だ。作・出演・演出の宮藤に意気込みを聞いた。
■コロナ禍の収録で「お客さんがいないとだめだ」と再認識した
――作品の着想からお聞かせ願えますか。
無関係なように見える人たちの中からドラマが生まれたらおもしろいんじゃないか、というのが最初の発想でした。さらにその舞台を屋上にしたらどうだろうかと。初演は、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』という、スケールの大きな話を書き上げた後の最初の作品になる予定だったので、表現としても、ミニマムなところから話を始めたくて。日常生活の中で感じたことが、そのときの気分で一つの作品として形になった気がしますね。
作品を書いているとき、楽しかったことはすごく覚えています。ずっと会話が続いていて、クスクス笑えるところがいくつかあって、5分くらい前に言ったことが何となくじわじわ効いてくるとかっていうことがたぶん、おもしろかったんだと思います。大河ドラマのスケールの中では、たとえば日常会話の中のちょっとしたズレとか、細かな言い回し、言葉遣いの妙とか、「些末なことがおもしろい」っていう自分の一部を切り捨てていく必要もあった。それはそれなりにストレスがたまっていたので、そういうことをおもしろがるモードで書いた記憶がありますね。
――2020年に公演が中止になり、無観客収録・放送されましたが、そのときのお気持ちは?
やっている最中は一生懸命だし、普段の劇場中継とは違うイメージで収録しようと、ドラマみたいな撮り方で工夫して(※カメラを舞台上に上げて収録を行なった)今思えば貴重な映像になったとは思います。でもやっぱり、お客さんの前でやることを前提に作ったものだから。仕上がった映像を観て、役者はみんないいなとは思うけど、ちゃんと人前でやらなきゃ、お客さんがいないとだめだなと再確認しました。
僕は、たぶん、お客さんにウケることしか考えてないんですよ、こと舞台をやるときは。とにかく一生懸命やったのに(お客さんがいなくて)誰も笑っていなかったということのショックが大きくて。(収録で)聞こえない笑い声を聞こうとしたり、来ないのに笑い待ちしていたりする自分がいました。劇場とは違うロケーションで収録していたらまた違ったと思うんですが、やっぱりセットだし、本多劇場だし……と思うと。演劇ってホント、お客さんに笑って頂いて、楽しかったねって楽屋でクールダウンして帰るものだと思ってたので、物足りない気持ちでしたね。
あの作品を収録したこと自体にはすごく意義があったと思うけど、身体が何かこう違うところに向かっていっている感じっていうかな。そういう意味では珍しい経験でした。終わった後に、阿部(サダヲ)くんとか荒川(良々)くんが「これちゃんとお客さんの前でやりたいですね」と言っていて、そうだよなと。ここまでやったのに何も返ってきてない感じが、体感としてありました。それもあって、この作品はまだ、自分の中で点数をつけられないんです。
あれ以降、無観客配信や収録がいっぱい出てきましたが、それって全部、生で観に行かないとだめだということを再確認することになってるんじゃないかなと個人的には思っています。もちろん僕も配信をかなり利用していて、観るのが楽になっている気はするんですが、やっぱり、お客さんの笑い声、お客さんの反応で舞台って完成するんだよなと。
■キャストの変更によって変わる部分がある
宮藤官九郎(撮影:三浦憲治)
――その作品が今回、再演という形で初演されることになりました。
僕は再演って今まで機会がほとんどなくて。自分で書いて演出した作品で再演したのは「ウーマンリブ」の『熊沢パンキーズ03』以来じゃないかな。そのときもキャストを増やして書き直しているから、本当に再演ができないんですよね(笑)。
僕、「あれがだめだったからこう直そう」とか、自分を否定して前に進む部分があるんです。褒められたことって自分の中では印象に残らない。損な性格だなと思うんですが(苦笑)。だから、「よかったからもう一度」って感覚にはならないんです。
今回に関しても、振り返ると、変えたい、やめたい、いまいちだった、といった部分しか出てこない。それでもやろうと決めたのは、初演のときお客さんの前でやっていないことが大きい。ウケるかウケないかを試したいんです。……となると、あんまり積極的には変えたくはないけれど、3年経ってるしキャストも変わるし、絶対やってるうちに気持ち悪くなってきて変えなきゃいけなくなるだろうなと思っています。
――今想定している変更点は?
物語としてはできあがっているのでそこはいじらず、キャスト変更に合わせて書き変える作業になるかなと思います。冒頭、お笑いコンビの二人がネタ合わせをしているところなんかは、キャストが(仲野)太賀くんと(永山)絢斗くんになることと、今の時代、今のお客さんの気分を反映すれば、ネタの内容って変わると思うし、そこが変わるとお芝居全体にも影響があります。それから、皆川(猿時)くんが初演で松尾(スズキ)さんのやっていた役をやるので、そこも。固有名詞や台詞の変更、設定もいじらなきゃと思ってるところがいくつかあったりするので、(初演と)見比べると違いがはっきりわかるだろうなとは思います。でも、あのときこうやったからこれでいいだろうっていうのはないなと思うので。
今回のお客さんは、前回を買って観られなかった人もいるでしょうし、太賀くんや絢斗くんのファンの方、若い人でこういう演劇にふれたことのない人もいると思います。あのときは思いつかなかったことを考えついてもいるので、パワーアップはすると思います。ボリュームアップ&アップデートする部分はいくつか考えているので、稽古までにもちろん映像作品も観つつ、稽古場でいろいろいじって、最終的には、2023年にふさわしい『もうがまんできない』にできればと考えています。