宮藤官九郎、ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』2023年版に取り組む気持ちを語る
■ひりひりする演劇体験に
宮藤官九郎(撮影:三浦憲治)
――初演時のちらしに「5年前より生きにくい社会になってしまった」との文言がありました。そんな思いが『もうがまんできない』というタイトルにもこめられていたかと思うのですが、それからの3年は宮藤さんにとってはどんな時間でしたか。
例えばコロナや戦争等、共通の”敵”の認識があるから、僕がこの作品を書いたときよりも世の中に連帯感が生まれている気がします。
演劇のことだけで言うなら、この3年で、「最後まで公演できてよかったね」っていう会話が当たり前のように交わされるようになったじゃないですか。やれただけですごいっていうのがベースになって。それがいいことか悪いことかはわからないですけど、みんながダメージを受けているから、あんまりギスギスしない。初演時の方がいろんなことにイライラしてたかもしれないです。今はもう、「もうがまんできない」とか言ってられないですよね。みんなでがまんした。この3年で、強くなったんじゃないかなとは思いたいです。
それと、今までテレビ業界の中だけだった表現のコンプライアンスとかが社会全体に広がっていますよね。公の電波だけではなく、普段の会話でも言っちゃいけない。演劇ももう自由じゃないんだな、と思ったりします。発信できるようになったからこそ、その流れになっていて、自由にしようと思って不自由になっているような気が……そういう3年だなと漠然と思ってます。
――3年前に書いたときの気持ちと変化した部分もあるかと思いますが、そのあたりはどう向き合っていかれますか。
今はまだあんまりピントを合わせてないんです。今考えても、稽古始めにはまた変わっているかもしれないし。ただ、3年前のことでなんとなく記憶しているのは、特別な理由はないけどみんなどこかギスギスしてるよねっていうムード。当時はみんなに共通したコロナという問題があった。今も渦中ではありますが、当時から変わってきているものっておのずと出てくると思うので、今一度向き合って、一つ一つ検証していくことになるかなと。そこから見える違いを更新していくだけで、だいぶ変わると思います。
――改めて今作についてお聞かせください。
こと「ウーマンリブ」に関しては、本当はあんまり代も上げたくなくて、カジュアルに観に行けるものでありたいと思っています。ここで試したことが後々映像作品で生かされることもありますし、逆もしかり。役者さんも同じで、そうやって循環する。もちろん興行だからちゃんとやらなきゃいけないんだけど、それプラス、自分にとっていろんなことを試す場所。お客さんの反応で、あ、こういうのウケるんだとか、自分を客観的に見る機会でもあるんです。
つらい現実を忘れるためにフィクションの世界を楽しむ演劇もありますが、今作は割と、「あなたたちってこういうところありますよ」「こう見えてますよ」ってことを突きつけるつもりで書いていたので、そういう意味ではひりひりする演劇体験になってほしいなと思っています。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報
会場:本多劇場
会場:サンケイホールブリーゼ